「お、お久しぶり、織斑君」
ダウト。今朝一夏が部屋を出るまで一緒にいました。朝食とか一緒でした。
「二人って知り合いだったんですね」
私とシャルロットを見ながら一夏が言った。
「う、うん。前にいろいろあってね。ね?ナナコさん?」
「え、ええ」
シャルロットには一夏がナナコの正体を知らないことはあらかじめ伝えてある。それを話したときにはシャルロットも苦笑いを浮かべていた。
「あれ?でもシャルロットは今日は航平とじゃなかったっけ?昨日航平が言ってたけど?」
「「っ!」」
そうだった。私……というか俺が昨日準備してる時に言っちゃったんだった。
「えーっと……そう!そうだったんだけど、なんか航平が書かなきゃいけない書類があったらしくて、急遽それを片付けることになったの!」
「そうそう。で、どうしようか迷ってたシャルロットにたまたま通りかかった私と出かけることになったの。私も買いたいものがあったからちょうどよかったから」
「へー。航平も大変だな」
一夏は怪しむ様子もなく納得しているようだ。
一夏の背後では他人事だと思ってか、セシリアと鈴は笑いをこらえるように肩を震わせている。
「おい、一夏。この人は誰だ?」
ラウラだけは首を傾げている。
「ああ、ラウラはあったことなかったか。と言っても俺も今日が合うのは二回目だけどな。この人は――」
「IS学園二年の渡辺ナナコです。よろしく」
ラウラに向けてにっこりとほほ笑みながら自己紹介をする。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。………あなたは〝渡辺〟というのか?」
「ええ、そうですけど?」
「ふむ……」
私の返答にラウラが首を傾げる。
「あの……なにか?」
「いや、あなたの顔がお兄ちゃんにどことなく似ていたものでな。もしかしたら関係者かと思ったのだが……」
「うっ」
流石は軍人。鋭い。
「そ、それは…私もたまに言われるわ。実際会ってみて、自分ではよくわからなかったけど」
「ほ、ほら!よく言うじゃない!世の中には自分にそっくりな人が三人いる、って!それなんだよきっと!」
「ふむ……そうか」
シャルロットの援護射撃にラウラも一応は納得したようだ。
「あれ?ナナコさんってラウラが航平のことをお兄ちゃんって呼んでるって知ってたんですか?」
「えっ!?あー……それはほら!シャルロットに聞いたの!」
「そうそう!」
一夏は普段鈍感な癖にこういうときだけ鋭い。
「と、ところで、織斑君たちも臨海学校の買い物?」
私は無理矢理話題を変えるべく訊く。
「ええ。セシリアや鈴に誘われて。俺もちょうど必要なものあったんで、ついでにラウラも誘ったんです」
「本当は二人っきりがよかったんですが……」
「あたしだって……」
「嫁と買い物に行くのは当然だ」
セシリアと鈴は何かぶつぶつと言い、ラウラは胸を張って言う。
察するにセシリアと鈴はそれぞれ別々に誘おうとしたんだろうが、いろいろ偶然と一夏の鈍感が重なったのだろう。ご愁傷様です。
「あ、よかったらナナコさんたちも一緒にどうですか?」
「えっ?」
……どうしよう。これを断るのは不自然だ。ここは頷いておいた方がいいだろう。
「え、ええ。私はいいけど……」
「僕も問題ないかな」
「よし、じゃあ一緒に見て回ろうぜ」
○
「ふぅ……」
私は水着売り場の前のベンチに座り、肺の中の空気を吐き出す。
あれからシャルロットの水着選びを手伝い、一夏がセシリアと鈴の水着を選んでいるうちに店から出た。このままいたら私の水着に話が及びそうだったので、一声かけてから出てきたのだ。
ちなみにラウラは一夏に選んでもらうのが恥ずかしかったらしく、シャルロットが選ぶのを手伝っている。あの時のシャルロットはとてもいい笑顔だった。
「あー、疲れた」
一夏と一緒にいると女装の秘密がばれてしまわないように気を使うので精神的に疲れる。
「………あれ?」
そこで私はふと考える。
「なんで私……一夏にナナコの正体隠してるんだろう」
一夏は航平が女装が特技なことを知っている。ということは今更ナナコの正体が俺だと知っても特に大きな問題はないんじゃないだろうか?
「そもそもなんで隠すことになったんだっけ?」
確かあの時私をナナコとして紹介したのは……
「千冬さんだ」
つまり事の始まりは千冬さんの悪ふざけであり、私はいまだにそのことで律儀に一夏に隠している、というわけだ。
「はあ~~~」
自分を悩ませている現状があまりにもバカらしい状況に知らず知らずに大きなため息が漏れてしまう。
現状を理解したことでいっきにさきっまでの倍は疲れた気がした。座ったままベンチの背もたれに体を預け、顔を上に向ける。
「ねえねえ、カーノジョ♪」
「今ヒマ?てか随分と疲れてるね~」
ベンチに腰かけていた私に声をかけて来た二人組がいた。見るからにチャラチャラとした二人だった。
「へー、君IS学園の子じゃん」
「エリートだね~」
私の制服で気づいたらしく二人のチャラ男が言う。
「俺たちいい店知ってんだけど、そこで一緒にお茶でもどう?」
「いい店だよ~。疲れてる君もゆっくりできるよ~」
正直めんどくさい。男から口説かれるとか気持ち悪い。
「すみません、連れがいるもので」
と、当たりさわりのないように断るのだが
「えー、君の連れってどんな子?やっぱ君みたいにキレイなの?それともかわいい系?」
「どっちにしろ、その子も一緒でもいいんだぜ?みんなで楽しんじゃおうよ」
どうやら私は相当このふたりに気に入られたらしく、ふたりはぐいぐい来る。てか、私は連れとしか言っていないのになぜそれが女である前提で話が進んでいくのか。
(はあ、どうしたもんか……)
頭の中でため息をつきながら思案する。が、
「ほらほら、絶対楽しいからさ~」
「ちょっと付き合ってよ」
強引に私の腕を引きながら言うチャラ男ふたりにうんざりしながらもう一度断ろうとした私の横から誰かが口を開いた。
「ほほう。うちの生徒をナンパとは。しかも嫌がる相手に無理矢理というのは、黙って見過ごせんな」
聞き覚えのある声に顔を向けると、腕を組んで仁王立ちの千冬さんと少し遅れてパタパタと山田先生がやって来た。
「ああ?なんだよアンタらは」
「俺らはこの子と話してるんだけど?」
突然の千冬さんの登場にチャラ男も困惑するものの、強気な態度で言い返す。
「女性への強引な勧誘は禁止されているそうだぞ。なんなら警備員でも呼んで事情を説明してもいいが?」
「「っ!」」
すごみながらの千冬さんの言葉にチャラ男ふたりは少し怯えたようにビクッと震えた後
「ちっ」
舌打ちとともに去って行った。
「あ、ありがとうございます」
「ふん。あれくらいのこと、一人で何とかして見せろ」
礼を言った俺から顔を逸らして千冬さんが言った。
「とか何とか言って、ナナコさんが絡まれたら慌てて飛び出していったのは織斑先生じゃないですか」
「っ!」
真耶さんの言葉に千冬さんが顔を赤く染める。
「べ、別に私は慌ててなど……」
そうつぶやく千冬さんはものすごく説得力がなかった。
「千冬さん。ありがとうございました」
改めて礼を言った私に千冬さんは照れ臭そうに頷いた。
それはともかく、このふたりはいつからいたのだろうか。知りたいところではあったが、なんとなく聞いてはいけない気がしたので聞けなかった。
キャー千冬さんのツンデレ。