IS~無い物だらけの物語~(休載中)   作:大同爽

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第61話 買収

夕食後の自由時間。セシリアは夕食時に一夏に部屋を呼ばれたので、一夏と航平の部屋へと向かう。

 

『…………』

 

 しかし、そこには二人の先客がいた。

 

「鈴さん?それに箒さんまで。いったいそこで何を――」

 

「シッ!!」

 

 鈴がそう言いながらセシリアの口をふさぐ。

 首を傾げるセシリアに箒と鈴がドアを指さす。示されたドアに耳を当てると部屋の中から声が聞こえてくる。

 

『千冬姉、久しぶりだからちょっと緊張してる?』

 

『そんな訳あるか、馬鹿者。しかし、お前にしてもらうのは久々だが、腕を上げたんじゃないか?』

 

『そうかな?』

 

『ああ。その証拠に先にされた航平はあまりの気持ちよさに半ば気絶するように寝てしまったぞ。――んっ!す、少しは加減をしろ……』

 

『はいはい。んじゃあ、ここは……と』

 

『くあっ! そ、そこは……やめっ、つぅっ!!』

 

『すぐに良くなるって。だいぶ溜まってたみたいだし、ね』

 

『あぁぁっ!』

 

 ………。

 

「こ、こ、これは、いったい、何ですの……?い、一夏さんは航平さんと……?」

 

『……………』

 

 セシリアの質問に答えられるものはいない。その場の全員が暗い表情をしている。そこにあるのはただただ沈黙のみ。まるで通夜か葬式のようだった。

 

『じゃあ次は――』

 

『一夏、少し待て』

 

 あれ?と三人が思いながらドアにさらに耳を押し付けると――

 

 バンッ

 

『へぶっ!!』

 

 勢いよくドアが開けられ、ドアに殴られる三人。

 

「何をしているか、馬鹿者どもが」

 

 ドアの向こうに立っていたのは呆れ顔の千冬と少し離れた場所できょとんとした表情の一夏だった。

 

「は、はは……」

 

「こ、こんばんは、織斑先生……」

 

「さ……さようなら、織斑先生っ!!」

 

 脱兎のごとく逃走を開始した三人――が、逃げられなかった。鈴と箒は千冬に首根っこを取られ、セシリア浴衣の裾を踏まれて終了。

 

「盗み聞きとは感心しないが、ちょうどいい。入っていけ」

 

「「「えっ?」」」

 

 千冬の予想外の言葉に目を丸くする三人。

 

「ああ、そうだ。篠ノ之と凰、お前たちは他の二人……いや、三人か。ボーデヴィッヒとデュノアと布仏も呼んでこい」

 

「「は、はいっ!」」

 

 

  ○

 

 箒、鈴、ラウラ、シャルロット、本音がやって来た時、五人を出迎えたのは、部屋から漏れ聞こえるセシリアの喘ぎ声だった。

 

『……………』

 

 一瞬でアイコンタクトを交わし、数分前の箒、鈴、セシリアのように聞き耳を立てる。

 が、聞き耳を立てていたその先で変化が生じる。

 

『!?!?!?』

 

 ドアの向こうからセシリアの驚愕が伝わってくる。

 

『おー、マセガキめ』

 

 そう言う千冬の声は、まるで悪戯の成功した子供のような声だった。

 

『しかし、歳不相応の下着だな。そのうえ黒か』

 

『え……きゃあああっ!?』

 

 ドアの向こうで何があったのかはわからないがセシリアの驚愕具合からただ事ではないことが分かる。

 

『せ、せっ、先生!離してください!』

 

『やれやれ。教師の前で淫行を期待するなよ、十五歳』

 

『い、い、いっ、インコっ……!?』

 

『冗談だ。――おい、聞き耳を立ててる五人。そろそろ入ってきたらどうだ?』

 

 ぎくっぎくっぎくっぎくっぎくっ。

 

 千冬の言葉に五人はしらばっくれることは無理と考え、ドアを開く。

 

「一夏、マッサージはもういいだろう。ほれ、全員好きな所に座れ」

 

 千冬に示され、五人はおずおずと部屋に入り、それぞれ好きなところに座る。

 

「ふー。さすがに三人連続ですると汗掻くな」

 

「手を抜かないからだ。少しは要領よくやればいい」

 

「いや、そりゃせっかく時間を割いてくれてる相手に失礼だって」

 

「愚直だな」

 

「千冬姉、たまには褒めてくれても罰は当たらないって」

 

「どうだかな」

 

楽しそうに話す二人の会話に全員が状況を把握する。

 

「は、はは……はぁ」

 

「ま、まぁ、あたしはわかってたけどね」

 

 脱力する箒と強がる鈴。

 

「「………………」」

 

 この中で一番具体的に想像していたであろうラウラとシャルロットは顔を赤く染めて俯く。

 

「なんだ~。私はてっきりおりむーは両刀使いなのかと思ったよ~」

 

 一人のほほ~んと笑う本音。

 

「両刀使い?俺は雪片弐型の一本しか使わないけど?」

 

「そう意味じゃないよ~。両刀使いって言うのは――」

 

「言わなくていいから!」

 

 本音の口を鈴が塞ぎながら言う。

 

「実に興味深い。詳しく教えてもらえるか?」

 

「ラウラも興味持たなくていいから!」

 

 意味を知っているシャルロットも顔を赤く染めて言う。

 

「はあ。とりあえず、一夏はもう一度風呂にでも行ってこい。部屋を汗臭くされては困る」

 

「ん。そうする」

 

 千冬の言葉に頷いた一夏はタオルと着替えを持って部屋を出て行った。

 

『……………』

 

 取り残された六人は座ったままの姿勢でじっとしている。

 

「おいおい、葬式か通夜か?いつものバカ騒ぎはどうした」

 

「い、いえ、その……」

 

「お、織斑先生こうして話すのは、ええと……」

 

「は、初めてですし……」

 

「まったく、しょうがないな。私が飲み物を奢ってやろう。篠ノ之、何がいい?」

 

 いきなり名前を呼ばれた箒はびくっと肩をすくませる。突然のことに言葉が出ず、困っている。

 

「なんだ、すっと言え。布仏、お前は何がいい?」

 

「コーラで~」

 

「このくらいふてぶてしくいけ」

 

 ニヤリと笑いながら備え付けの冷蔵庫からコーラとその他に五本の缶ジュースを取り出す。

 

「ほら、コーラだ。他はラムネとオレンジとスポーツドリンクにコーヒー、紅茶だ。それぞれ他のがいい奴は各人で交換しろ」

 

 そう言われながらも、順番に箒、シャルロット、鈴、ラウラ、セシリアが受け取ったもので満足したらしく、交換は行われなかった。

 

「いただきま~す」

 

『い、いただきます』

 

 布仏はいつも通りののほほ~んとした雰囲気のまま、他五人は少しびくつきながら言って、飲み物に口を付ける。

 全員の喉がごくりと動いたのを見て千冬はニヤリと笑う。

 

「飲んだな?」

 

「は、はい?」

 

「そ、そりゃ飲みましたけど……」

 

「おいしいですよ~」

 

「な、何か入っていましたの!?」

 

「失礼なことを言うなバカめ。なに、ちょっとした口封じだ」

 

 そう言って千冬が新たに冷蔵庫から取り出したのは星のマークが輝く缶ビールだった。

 プシュッ!といい音を出しながら飛沫と泡が飛び出す。それを唇で受け止めてそのままゴクゴクと喉を鳴らして飲む千冬。

 

『……………』

 

 唖然とする五人と

 

「いい飲みっぷりですね、織斑センセ~」

 

 本音だけは変わらぬ雰囲気で拍手とともに言う。

 

「ふふん」

 

 本音の拍手に気を良くしながら千冬は唖然とする五人に視線を向ける。

 

「おかしな顔をするなよ。私だって人間だ。酒くらいは飲むさ。それとも、私は作業オイルを飲む物体に見えるか?」

 

「い、いえ、そういうわけでは……」

 

「ないですけど……」

 

「でもその、今は……」

 

「仕事中なんじゃ……?」

 

「堅いことを言うな。それに、口止め料はもう払ったぞ」

 

 そう言ってニヤリと笑う千冬は、全員の手元を見る。そこでやっと女子一同が飲み物の意味に気付いて「あっ」と声を漏らす。

 

「さて、前座はこのくらいでいいだろう。そろそろ肝心の話をするか」

 

 二本目のビールをラウラに取らせ、同じく音を立てながら開けた千冬が続ける。

 

「お前らはあいつやこいつのどこがいいんだ?」

 

 あいつ、とは言っているが一夏のことだと全員が理解し、こいつ、と千冬が指す先にはこんもりと丸く膨らんだ布団があり、そこから長い金髪が覗いていた。布団に深く潜り込んでいるらしく髪の毛以外見えない。

 

「まずは一夏の方からだな」

 

 そう言って視線を向けられた四人は

 

「わ、私は別に……以前より腕が落ちているのが腹立たしいだけですので」

 

 と、ラムネを傾けながら呟く箒。

 

「あたしは、腐れ縁なだけだし……」

 

 スポーツドリンクのフチをなぞりながらもごもごと呟く鈴。

 

「わ、わたくしはクラス代表としてしっかりしてほしいだけです」

 

 先ほどの一件のせいかツンとした態度で言うセシリア。

 

「ふむ、そうか。ではそう一夏に伝えておこう」

 

「「「言わなくていいです!」」」

 

 千冬の言葉にぎょっとしながら詰め寄る三人。

 千冬はその様子をはっはっはっと笑い飛ばしながら缶ビールに口を付け、ラウラへと視線を向ける。

 

「で、お前は?」

 

「つ、強いところが、でしょうか……」

 

「いや弱いだろ」

 

「つ、強いです。少なくとも、私よりも」

 

 珍しく食ってかかったラウラに、そうかねぇ……と言いながら二本目のビールを空ける千冬。

 

「まあ、強いかどうかは別にしてだ。あいつは役に立つぞ。家事も料理もなかなかだし、マッサージもうまい。付き合える女は得だな。だが――」

 

 そう言いながら、今度はシャルロットと本音に視線を向ける。

 

「こいつは本当に何もないぞ」

 

 膨らんだ布団を親指で指しながら言う。

 

「ある程度私や山田先生がしごいたとはいえ、記憶もない、知識もない、常識もない。あるのは女装という特技だけだぞ?あと、妙にしぶとい。いくら厳しくしごいてもゴキブリ並にしぶとく食らいついてくる。しかも見ろ」

 

 そう言いながら千冬は航平の眠る布団をめくる。

 

『お、おお……!』

 

 六人の口から感嘆の声が漏れる。

 そこには性別を知らなければ美少女と見間違うほどの寝顔を見せて丸くなって眠る航平の姿だった。

 

「こ、これは……」

 

「写メりたいほどの寝顔ね」

 

「航平さんってときどき女性にしか見えないときがありますわね」

 

「お兄ちゃんではなくお姉ちゃんと呼ぶべきか?」

 

 箒、鈴、セシリア、ラウラの四人は各々言葉を漏らし、同室で見慣れていた本音はニコニコと笑顔を浮かべながら航平の頬をつつく。そんな中航平の寝顔を見つめるシャルロットは

 

「でも……何もないってわけじゃないと思います」

 

「ほほう?」

 

 ぽつりと呟かれたシャルロットの言葉に千冬が興味深そうにする。

 

「その……先生は何もないって言いますけど、航平には優しさがあると思います。僕は――あの、私は……航平のそういうところが……」

 

「だが、こいつの優しさには特別なものはないぞ?一夏と同じだ。誰にでも優しい」

 

「そ、そうですね……。そこが悔しいですけど、でも、とても温かかったから……」

 

 そう言って、ごまかすように照れ臭そうに笑うシャルロット。

 

「まあ確かにこいつには優しさという利点はあるな」

 

 そう言いながら冷蔵庫から三本目のビールを取り出す千冬の顔はとてもうれしそうだった。それはまるで自分の子供がほめられた時の親のような顔だった。

 

「んんっ!それで?お前はどうなんだ、布仏」

 

 咳払いとともに顔を上げた千冬の視線の先には

 

「織斑先生、布仏さん寝てます」

 

 航平に抱き着くように眠る本音の姿だった。

 

「起きろ!」

 

 スコン!

 

「むぎゃっ!」

 

 

 

 ○

 

 

 

「まあ、つまりだ。あいつもこいつも確かにそれぞれにいいところはある」

 

 三本目のビールに口を付けながら目の前に座る六人(うち一人は涙目で後頭部をさすっている)を見渡しながら千冬が言う。

 

「家事やら何やらをやらせれば役に立つ一夏。記憶も何もないが男のくせに女子力が高い上にゴキブリ並にしぶとい航平。どちらも退屈はしないだろう。――どうだ、欲しいか?」

 

 えっ!?と全員が顔を上げる。それからおずおずと、ラウラと本音が尋ねる。

 

「「一夏(航平)を、く、くれるんですか?」」

 

「やるかバカ」

 

 ええ~……と心の中でつっこむ女子たち(本音だけは口に出していた)。

 

「女ならな、奪うくらいの気持ちで行かなくてどうする。自分を磨けよ、ガキども」

 

 そう言って三本目のビールを空けて笑う千冬の顔はとても楽しそうだった。

 




う~む、思ったよりなかなか進みませんな。
でも頑張ります!

……ちょっとのほほんさんがマイペースすぎたかな?
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