IS~無い物だらけの物語~(休載中)   作:大同爽

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まさか一ヶ月以上更新していないとは……
無い物を読んでくださっているみなさんすみません。
ちゃんとこっちも更新しますんで……(;^ω^)


第63話 膨らむ不安

「ふむふむふむ……なるほどなるほど……」

 

 あれから体のいたるところに電極を張られ、なんの数値かわからないものを記録され、終いには全裸にひんむかれそうになったところで(上半身は脱がされた)、やっと止めに入ってくれた千冬さんのおかげで、現在俺は解放され、自由となっている。

 砂浜にへたり込む俺の横では空中に投影されたディスプレイを見ながらぶつぶつ呟く篠ノ之博士とその横で結果を待つ千冬さんがいる。――ちなみにほかのみんなは興味を持ちつつも関わらないように離れたところから見ている。

 

「で?何かわかったのか?」

 

「ん~………ぶっちゃけ今ここにある設備じゃまったくわかんないやっ!」

 

 千冬さんの言葉に満面の笑みで答える篠ノ之博士。

 

「とりあえず持ち帰って調べないと詳しいことはなんとも言えないな~。今言えるのは、この子の記憶喪失の原因はやっぱりこのでっかい傷じゃないかな、ってことくらいかな」

 

 そう言いながら、篠ノ之博士はディスプレイ上に表示された、いつの間に撮ったのかわからない俺のお腹から上の写真に写る傷をなぞる。

 俺の肩から脇腹にかけて斜めにバッサリと走る傷跡。上に来ていたISスーツを脱がされた瞬間この傷を見たことのなかった他の同学年の女子たちが息をのむ気配がした。普段は隠していたので初めて見ればそういう反応にもなるだろうが……。

 

「そうか………。引き続き詳しく調べてくれ。何かわかれば連絡をくれ」

 

「アイアイサ~!さてっ!この件はいったん置いておいて――」

 

「あ、あのっ!篠ノ之博士のご高名はかねがね承っておりますっ。もしよろしければ私のISを見ていただけないでしょうか!?」

 

 と、千冬さんと篠ノ之博士の会話がひと段落したところで、ずっと後ろで控えていたらしいセシリアが声をかける。が――

 

「はあ?だれだよ君。金髪は私の知り合いにはいないんだよ。そもそも今は箒ちゃんとちーちゃんといっくんと数年ぶりの再開なんだよ。ちーちゃんからの頼まれごともしないといけないし、箒ちゃんの専用機の方もしなきゃいけない。それをどういう了見で君はしゃしゃり出てくんの?理解不能だよ。って言うか誰だよ君は」

 

 浴びせられたのは容赦のない言葉だった。先ほどまでの笑みは消え、その視線はひとかけらの感情の見えない冷たい視線だった。

 

「え、あの……」

 

「うるさいなあ。あっちいきなよ」

 

「う……」

 

 その言動はまるで、セシリアを人間として認識していないようだった。

 そのまま篠ノ之博士はスタスタと箒と紅椿の方へと去って行った。

 

「………その……あんまり気にするなよ、セシリア。多分あの人はああいう人なんだよ」

 

「え、ええ。そうですわね。きっとそうなんでしょうね……」

 

 若干泣きそうな顔になりながら、それでも俺に心配させないためかぎこちなく笑みを浮かべたセシリアをかわいそうに思っている間に、箒の専用機である紅椿のフィッティングが終わったようだった。

 箒は試運転のために集中するように目を閉じた。その瞬間、紅椿はすごいスピードで飛び立っていた。

 

「うわっ!」

 

 思わず驚きの声が漏れる。急加速の余韻で発生した衝撃波で舞い上がった砂の中で打鉄のハイパーセンサーを使いながら紅椿を追うと、二百メートルほど上空を滑空していた。

 

「どうどう? 箒ちゃんが思った以上に動くでしょ?」

 

「え、ええ、まぁ……」

 

 ISのオープンチャネルを使っての会話らしく、離れたところにいる俺やセシリアにもふたりの会話は聞こえてくる。

 

「じゃあ刀使ってみてよー。右のが『雨月』で左のが『空裂』ね。武器特性のデータを送るよん」

 

 そう言いながら空中に指を躍らせる篠ノ之博士。

 

「親切丁寧なおねーちゃんの解説つき~♪雨月は――」

 

 篠ノ之博士の解説に合わせて……なのかわからないが、箒が試しとばかりに、右腕を左肩まで持って行って構えて突きを放った。詳しくはないけど、見た感じ剣術を使っての防御型の突きのようだった。

 突きが放たれると同時に、周囲の空間に赤色のレーザーがいくつか球体として現れ、そして順番に光の弾丸となり、漂っていた雲が散る。

 

「次は空裂ねー。こっちは――」

 

 解説の後、博士はいきなり十六連装ミサイルポッドを呼び出す。光の粒子が集まって形を成すと同時に一斉射撃が行われる。

 

「箒!」

 

「――やれる!この紅椿なら!」

 

 心配げな一夏。が、自信に満ちた声で答えた箒の言葉通り、もう一本の刀、『空裂』を振るう。今度は帯状となったレーザーが、十六発のミサイルを全て撃墜した。

 

「すごい……」

 

 爆煙がゆっくりと収まっていく中、その真紅のISと箒が姿を現す。

 その圧倒的なスペックに、その場の全員が息を呑み、驚愕し、そして魅了された。その光景を満足げに眺める篠ノ之博士と――

 

「………………」

 

 そんな篠ノ之博士を厳しく見つめる織斑先生。

 

(なんであんな顔を……?)

 

「たっ、た、大変です!お、おお、織斑先生っ!!」

 

 疑問に思いながらもいきなりの山田先生の声に俺の注意はそちらに向く。

 

「どうした?」

 

「こ、こっ、これをっ!」

 

 渡された小型端末の画面を見た瞬間織斑先生の表情が曇る。

 そこから何事か数回山田先生と会話を交わした後

 

「現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと写る。今日のテスト稼動は中止。各班、ISを片付けて旅館に戻れ。連絡があるまで各自室内待機する事。以上だ!」 

 

「え……?」

 

「ちゅ、中止?なんで?特殊任務行動って……」

 

「状況が全然わかんないんだけど……」

 

 突然のことに周りがざわつくが

 

「とっとと戻れ!以後、許可無く室外に出たものは我々で身柄を拘束する!いいな!!」

 

「「「はっ、はいっ!」」」

 

 織斑先生の一喝に全員が慌てて動き始める。

 俺もその後に着いて行こうとしたところで――

 

「専用機持ちは全員集合しろ!織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰!――それと、篠ノ之と梨野も来い」

 

「はい!」

 

 妙に気合の入った返事をしたのは少し離れた位置にいた箒だった。――そっか、箒も一応専用機持ちか。俺も一応打鉄があるし。

 

(でも……何だろうこの不安感は……)

 

 

 

 ○

 

 

 

「では、現状を説明する」

 

 旅館にある宴会用の大座敷、風花の間に、一夏達専用機持ち全員と教師陣+俺が集められた。

 

「あの……」

 

「なんだ?」

 

 会議の前に部屋の中を見渡し、一つ浮かんだ疑問を口にする。

 

「専用機持ち全員って……四組の更識さんがいませんが……」

 

「更識は今回の臨海学校を欠席している。そのため今集まれる専用機持ちは全員揃っている。質問は以上か?」

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

「では、改めて説明を始める」

 

 照明の落とされた薄暗い部屋の中空中投影ディスプレイが浮かび上がる。

 

「二時間前、ハワイ沖で試験稼動にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用ISである『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が制御下を離れて暴走。そして監視空域より離脱したとの連絡があった」

 

 突然の言葉に俺の思考が一瞬追いつかない。……軍用IS?……暴走?……それをどうして一生徒の俺たちに?

 

『………………』

 

 が、そうやって混乱しているのは俺と一夏だけらしく、その場の全員が厳しい顔つきになっていた。

 

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから二キロ先の空域を通過する事が分かった。時間にして五十分後だ。学園上層部からの通達によって、我々がこの事態に対処する事になった」

 

 対処………ってまさかっ!?

 

「教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ち、そして梨野に担当してもらう」

 

 淡々と言い放つ千冬さんの言葉に驚愕しながらも姿勢を正し、顔を引き締める。

 

「それでは作戦会議をはじめる。意見があるものは挙手するように」

 

「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

 

「わかった。ただし、これらは二ヵ国の最重要軍事機密だ。けして口外はするな。情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判と最低でも二年の監視がつけられる」

 

「了解しました」

 

 開示されたISの情報を元に専用機持ち組と教員たちは相談を始める。今だに状況の飲み込めない一夏は呆然とする。俺も会話に参加しようとするが……

 

「広域殲滅を目的とした――」

 

「攻撃と機動の両方を――」

 

「この特殊武装が――」

 

「しかも、このデータでは格闘性能が――」

 

 ダメだ。半分くらいしか理解できない。

 

「えっと……すみません。よくわからないんで、わかりやすくお願いします」

 

「えっとね、わかりやすく言うと――セシリアと同じ全方位への攻撃のできる特殊射撃型で、鈴の甲龍のスペックよりも上の攻撃と機動に特化している。しかも特殊武装が曲者。格闘性能も未知数。超音速飛行を続けてるから偵察もできない。アプローチをかけられるのも一回だけ、ってわけだよ」

 

「なるほど………」

 

 シャルの解説を自分の中で噛み砕き、理解する。

 

「つまり……その一度しかないチャンスで確実に落とせるような、一撃必殺の攻撃力を持ったやつじゃないとダメってことか……」

 

「そうなるね……」

 

 俺の言葉に頷きながらその場の全員の視線が一人の人間に向く。

 

「……えっ!?俺っ!?」

 

『うん』

 

 驚いて訊く一夏に対して全員が頷く。

 

「一夏、あんたの零落白夜で落とすのよ」

 

「それしかありませんわね。ですが問題は――」

 

「どうやって一夏をそこまで運ぶか、だね。エネルギーは全部攻撃に使わないといけないから、肝心の移動をどうするか」

 

「しかも目標に追いつける速度が出せるISでなければいけない。超高感度ハイパーセンサーも必要だな」

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれ!お、俺が行くのか!?」

 

『当然』

 

 四人の声が重なる。

 

「織斑、これは訓練ではない。実戦だ。もし覚悟がないなら、無理強いはしない」

 

 織斑先生の諭すような言葉に一夏が一瞬の間を空けて口を開く。

 

「やります。俺が、やってみせます」

 

「よし。それでは作戦の具体的な内容に入る。現在、この専用機持ちの中で最高速度が出せる機体はどれだ?」

 

 千冬さんの問いに立候補したのはセシリアだった。

 セシリアのIS、ブルー・ティアーズにはちょうどイギリスから強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』と言う換装装備が送られており、それには超高感度ハイパーセンサーも付いているらしい。

 セシリアの超音速下での戦闘訓練も二〇時間。この中で一番の適任だろう。織斑先生もそれで決定を下そうとしたとき

 

「待った待ーった。その作戦はちょっと待ったなんだよ~!」

 

 突如天井から合われたウサミミアリスの天災、篠ノ之束博士が現れた。

 

「……山田先生、室外への強制退去を」

 

「えっ!?は、はいっ。あの、篠ノ之博士、とりあえず降りてきてください……」

 

「とうっ★」

 

 くるりと空中で一回転して着地。唖然とするほどの軽やかな身のこなしだった。

 

「ちーちゃん、ちーちゃん。もっといい作戦が私の頭の中にナウ・プリンティングー!」

 

「……出て行け」

 

 頭を抑える織斑先生。織斑先生に篠ノ之博士を室外へ退出させることを言われた山田先生は実行しようとするが、どこ吹く風にするりするりと逃げ回る篠ノ之博士。

 

「聞いて聞いて!ここは断・然!紅椿の出番なんだよっ!」

 

「なに?」

 

「紅椿のスペックデータ見て見て!パッケージなんかなくても超高速機動が出来るんだよ!」

 

 篠ノ之博士の言葉に答えるように数枚のディスプレイが出現し、織斑先生を囲む。

 

「紅椿の展開装甲を調整して、ほいほいほいほいっと。ホラね!これでスピードはばっちりだよ!」

 

 展開装甲……って何?

 俺は首を傾げながら隣にいたシャルに顔を向けるがシャルを含め、その場の専用機持ちのみんなも分かっていないようだった。

 そんな疑問に答えるようにいつの間に乗っ取ったのか、先ほどまで福音のデータが表示されていたメインディスプレイが切り替わり、紅椿のデータが表示されていた。

 

「説明しましょ~そうしましょ~。展開装甲というのはだね、この天才の束さんが作った第四世代型ISの装備なんだよー」

 

第……四?あれ?今の最新ISって第三世代型じゃなかったっけ?

 

「はーい、ここで心優しい束さんの解説開始~。いっくんのためにね。へへん、嬉しいかな? まず、第一世代というのは――」

 

 篠ノ之博士の解説を聞きながら俺は唖然としてしまった。

 各国が躍起になって開発し、やっと第三世代型の一号試験機ができた段階だというのに、この博士はいとも簡単にそのさらに先のISを開発したということらしい。『天災』と呼ばれる所以を垣間見た気がした。

 

「具体的には白式の《雪片弐型》に使用されてま~す。試しに私が突っ込んだ~」

 

『え!?』

 

 専用機持ちのみんなや俺、一夏が驚きの声をあげる。

 つまり、零落白夜発動で開く《雪片弐型》の構想がまさにそれ。言葉通りにとらえるなら、一夏の『白式』は第四世代型相当ということになる。

 

「それで、上手く行ったのでなんとなんと紅椿は全身のアーマーを展開装甲にしてありまーす。システム最大稼動時にはスペックデータは更に倍プッシュだよ★」

 

「ちょっ、ちょっと、ちょっと待って下さい。え?全身?全身が、雪片弐型と同じ?それってひょっとして……」

 

「うん、無茶苦茶強いね。一言で言うと最強だね」

 

 本日何度目かもわからない唖然ポイント。俺を含め織斑先生以外の全員がぽかんとした顔をしていた。

 

「ちなみに紅椿の展開装甲はより発展したタイプだから、攻撃・防御・機動と用途に応じて切り替えが可能。これぞ第四世代型の目標、即時万能対応機ってやつだね。にゃはは、私が早くも作っちゃったよ。ぶいぶぃ」

 

 作っちゃったって……。

 その場の全員何も言えず静まり返っている。

 

「はにゃ?あれ?何でみんなお通夜みたいな顔してるの?誰か死んだ?変なの」

 

 変どころの話ではない。

 この人は各国が多額の資金と膨大な時間と優秀な人材のすべてを投じて競い合って開発している第三世代型開発を、それをまるで無意味なことだとでも言わんばかりの行為。

 一夏を含め、誰も何も言えない。

 

「……束、言った筈だぞ。やり過ぎるな、と」

 

「そうだっけ?えへへ、ついつい熱中しちゃったんだよ~」

 

 織斑先生に言われてやっと現状を理解したようだ。――が、その顔は悪びれている様子はない。

 

「あ、でもほら、紅椿はまだ完全体じゃないから、そんな顔しないでよ、いっくん。いっくんが暗いと束さんは思わずイタズラしたくなっちゃうよん」

 

 そう言いながらウインクをする篠ノ之博士。が、一夏はなんとも言えない顔をしている。

 

「まー、あれだね。今の話は紅椿のスペックをフルに引き出したら、って話しだし。でもまあ、今回の作戦をこなすくらいは夕食前だよ!」

 

 夕飯前って……。

 

「それにしてもアレだね~。海で暴走っていうと、十年前の白騎士事件を思い出すねー」

 

 ニコニコと笑顔のまま話し出し博士。その横で織斑先生が『しまった』というような顔をする。

――『白騎士事件』

 その事件があったあたりは本来なら俺は生まれているはずなので知っていてもおかしくないが、記憶喪失のせいでそのことも憶えていない俺。結果俺が知っているのは教科書に載っているレベルの知識としてのことしか知らない。

 

 

 十年前、篠ノ之束によってISの存在が発表されてから1ヵ月後に起きた事件。

日本を射程距離内とするミサイルの配備されたすべての軍事基地のコンピュータが一斉にハッキングされ、2341発以上のミサイルが日本へ向けて発射されたが、その約半数を搭乗者不明のIS「白騎士」が物の見事に迎撃。

その後、それを見た各国は「白騎士」を捕獲もしくは撃破しようと大量の戦闘機や戦闘艦などの軍事兵器を送り込んだが、その大半を無力化した事件。

また、この事件関連での死者がゼロ、というのもISのすさまじさを表すエピソードだろう。この事件以降、ISとその驚異的な戦闘能力に関心が高まることとなった。

この事件を期にISは世界中から注目され、現在の世界を作り出す結果となったのだろう。

 

 

 

「しかし、それにしても~ウフフフ。一体白騎士って誰だったんだろうね~?ね?ね、ちーちゃん?」

 

「知らん」

 

「うむん。私の予想ではバスト八八センチの――」

 

 ごすっ、と鈍い音がした。織斑先生の情報端末アタックが炸裂していた、篠ノ之博士の頭に。

 

「ひ、ひどい、ちーちゃん。束さんの脳は左右に割れたよ!?」

 

「そうか、よかったな。これからは左右で交代に考え事が出来るぞ」

 

「おお!そっかぁ!ちーちゃん、頭良い~!」

 

 ………馬鹿と天才――天災は紙一重という言葉の見本みたいな人だな、この人。

 あれ?でも、この人なら白騎士の正体知ってるんじゃないの?IS作ったのこの人なんだから渡したのもこの人なんじゃ……?

 

「それはそうとさぁ、あの事件では凄い活躍だったね、ちーちゃん!」

 

「そうだな。白騎士が、活躍したな」

 

 ホント誰なんだろう。

 

「話を戻すぞ。……束、紅椿の調整にはどれくらいの時間がかかる?」

 

「お、織斑先生!?」

 

 織斑先生の言葉にセシリアが声をあげる。

 

「わ、わたくしとブルー・ティアーズなら必ず成功して見せますわ!」

 

「そのパッケージは量子変換してあるのか?」

 

「そ、それは……まだですが……」

 

 痛いところを突かれたらしく、勢いを失ってもごもごと喋るセシリア。それと入れ替わるように満面の笑みで口を開く篠ノ之博士。

 

「ちなみに紅椿の調整時間は七分あれば余裕だね★」

 

「よし。では本作戦では織斑・篠ノ之の両名による目標の追跡及び撃墜を目的とする。作戦開始は三〇分後。各員、ただちに準備にかかれ」

 

 

 

 ○

 

 

 それから三〇分間はあっという間であった。

 篠ノ之博士は楽しげによくわからない歌なんて歌いながら箒とともに紅椿のセッティング。

 一夏は超音速下での戦闘訓練経験者のセシリア、その他専用機持ちからのレクチャー。

 俺もこれから必要になることを考え、一緒になって聞いておいた。

 その後山田先生も交えての作戦会議。

 順調だった。順調に準備が進み、作戦もしっかりと練られていった。きっとこれ以上ないほどしっかりと準備されていることだろう。

 きっとうまくいく。誰もがそう思っていた。

 

 

――だが、なぜか俺の中に膨らむ不安感は小さくなることはなかった……。

 

 

 

 

準備開始から三〇分後。

予定通りすべての準備を終え、先ほどの会議で使われた大座敷、風花の間には一夏と箒以外のメンバーがそろっていた。

では、一夏と箒はどこにいるのかというと――

 

「織斑、篠ノ之、聞こえるか?」

 

 織斑先生が目の前のメインディスプレイに映る映像を見ながらオープンチャネルを通して呼びかける。

 そこに映っているのは浜辺に立つそれぞれ『白式』と『紅椿』を纏った一夏と箒の姿だった。

 織斑先生の呼びかけに答える二人。

 

「今回の作戦の要は一撃必殺だ。短時間での決着を心がけろ」

 

『了解』

 

『織斑先生、私は状況に応じて一夏のサポートをすればよろしいですか?』

 

「そうだな。だが、無理はするな。お前はその専用機を使い始めてからの実戦経験は皆無だ。突然、何かしらの問題が出るとも限らない」

 

『分かりました。出来る範囲で支援します』

 

 箒のその声は冷静なものだった。しかし、どこか喜色に弾んでいる、浮ついているようにも聞こえた。そのことが、なぜだか言い表せないけど、俺の中の不安感が膨らむのを加速させていった。

 

「あの、千冬さん……」

 

「織斑先生と………どうかしたか?」

 

 俺の声、表情から何かを読み取ったのか、千冬さんが訊く。

 

「その……なんて言っていいかわからないんですけど……大丈夫なんでしょうか、箒は。その……」

 

「浮かれている……か?」

 

「……千冬さんも気づいてましたか」

 

 千冬さんの言葉に頷きながら俺は口を開く。

 

「紅椿のデータを見ていると成功しそうにも思えます。――でも、なんか俺、嫌な感じがするんです。なんというか、不安が消えないというか……」

 

「……………――織斑」

 

 俺の言葉に千冬さんは答えず、一夏に通信を繋ぐ。

 

『は、はい』

 

 今までオープンチャネルで行われていた通信をプライベートチャネルに切り替えてのものになり、一夏の動揺が伝わってくる。

 

「どうも篠ノ之は浮かれている。あんな状態ではなにかを仕損じるやもしれん。いざと言う時はサポートしてやれ」

 

『分かりました。ちゃんと意識しておきます』

 

「頼むぞ」

 

 そう言いながら一旦通信を切る千冬さん。

 

「今できるのこれくらいだ。我々はあの二人を信じて見守るしかない」

 

「………はい」

 

 納得はできないながらもとりあえず頷く俺。

 俺が頷いたのを見届け、千冬さんは通信をオープンチャネルに繋ぐ。

 

「では、はじめ!」

 

 作戦開始。

 目標、『銀の福音』に向かって飛び立つ二基のIS。その後ろ姿は頼もしく見えたが――

 

 

 

 

 

 

 

俺の不安が最悪なことに的中したのはそれから数分後――一夏と箒が福音と接触したときであった。

作戦は大失敗。しかもただの失敗ではない。この作戦の失敗、そして、福音への接触に伴う代償は福音の攻撃から箒を庇ったことによる一夏の負傷。

 

箒に連れられ帰投した一夏。治療はすんだものの、作戦から三時間近くたった現在、いまだ一夏は目覚めぬままであった。

 




どうも。
無い物の更新を待っていてくださったみなさんすみません。
もう一個の方ばっか更新してすみません。
これからはこっちもちゃんと更新しますんで。
ただどうにもスランプ気味なので、面白いものを書けるように頑張ります。
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