IS~無い物だらけの物語~(休載中)   作:大同爽

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難産だった。


第65話 銀の福音

「…………………」

 

 海上200メートル。そこにまるで胎児のように膝を抱え、頭部から伸びる翼が『銀の福音』を包んでいる。

 

「――っ!」

 

 まるで眠っているようにただ浮かんでいるだけだった福音が何かに気付いたように顔を上げる。

 それと同時に、飛来した砲弾が頭部に直撃。大爆発を引き起こした。

 

「初弾命中。続けて砲撃を行う!」

 

 五キロ離れた場所に浮かぶIS『シュヴァルツェア・レーゲン』とラウラ。福音が反撃に入る前に次弾を発射。

 その姿はいつもの見慣れたものではなかった。八〇口径レールカノン《ブリッツ》を二門左右それぞれの肩に装備し、さらに、遠距離からの砲撃・狙撃に対する備えとして、四枚の物理シールドが左右と正面を守っていた。

 これらが砲戦パッケージ『パンツァー・カノニーア』らしい。

 ラウラの砲撃を皮切りに福音の注意がラウラへと向く。

 次弾を放とうとするラウラの予想を超える速度で福音が接近する。

 福音が近づいて来ると同時に福音への砲撃を続けるが福音の翼から放たれるエネルギー弾によって半数以上を撃ち落とされる。

 

「ちぃっ!」

 

砲撃仕様はその反動相殺のために機動との両立が大変難しい。

対して機動力に特化した福音は三〇〇メートルの地点からさらに急加速し、ラウラへと手を伸ばす。

そんな危機的状況の中でラウラはにやりと口元をゆがめた。

 

「――セシリア!!」

 

 伸ばした腕が突如上空から垂直に降りてきた機体――ブルー・ティアーズによって弾かれる。

 ステルスモードのブルー・ティアーズによる強襲。その姿は通常の姿とは異なり、そのすべてがスカート状に腰部に接続されている。しかも砲口はふさがれ、スラスターとして用いられている。

 また、ビットを機動力に回している分の火力を補う全長二メートルを超す大型BTレーザーライフル《スターダスト・シュータ―》を装備している。

 

『敵機Bを確認。排除行動へと移る』

 

「遅いよ」

 

 セシリアの射撃を避ける福音の背後から別の機体からの攻撃が襲う。

 それは先ほどの突撃時、セシリアの背中に乗っていたステルスモードのシャルロットだった。

 二丁のショットガンによる背後からの近接射撃を受け、福音は姿勢を崩す。

 しかしそれも一瞬のこと。すぐに三機目のシャルロットに対して《銀の鐘》による反撃を開始した。

 

「おっと。悪いけど、この『ガーデン・カーテン』は、その位じゃ落ちないよ」

 

 シャルロットはリヴァイヴ専用防御パッケージの実態シールドとエネルギーシールドの両方を使って福音の弾雨を防ぐ。

 そして防御の間もシャルロットは得意の『高速切替』によってアサルトカノンを呼び出し、タイミングを計って反撃を開始する。

 加えて高速機動射撃を行うセシリア、距離を置きながら砲撃を再開するラウラ。三方からの射撃攻撃に消耗し始める。

 

『ラウラ、セシリア、シャルロット。タイミング5秒で行くぞ。5,4,3,2,1――』

 

 プライベートチャネルによる男の声での通信。そのカウントに合わせて三人の射撃が止む。と、同時に福音の背後で水しぶきが上がり、海中から四機目の機体が飛び出す。

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

 意識外からの新たな登場に福音は一瞬反応が遅れる。その一瞬のすきに福音の背中に男――打鉄を纏った航平の拳が叩き込まれる。

 拳で殴られた反動で吹き飛びそうな福音の翼を掴み、その場にとどまらせる航平。そこからさらに翼を掴んだまま背中に両足による蹴りを入れ、上へと蹴り上げる。

 

「せいっ!」

 

 落下して来た福音に向けて展開した近接ブレードで野球のスイングのように切り付ける。

 

『箒!鈴!行ったぞ!』

 

『おう!』

 

『任せろ!』

 

 航平のプライベートチャネルでの呼びかけに返事があると同時にさらに水面から飛び出す影。

 その影――赤椿を纏った箒とその背に乗った甲龍を纏った鈴は航平の一撃によって吹き飛んだ福音へと接近する。

 紅椿が福音に突撃する中、その背中から飛び降りた鈴は、機能増幅パッケージである『崩山』を戦闘状態に移行させる。

 そのパッケージにはセシリア達と同様、今までの装備とは違い、両肩にある衝撃砲の砲口が二つ増設されて計四門ある。その四門の衝撃砲が一斉に火を噴いた。

 福音に激突する寸前に箒が離脱。その後ろから衝撃砲による弾丸のシャワーが一斉に降り注いだ。しかもソレはいつもの不可視の衝撃砲ではなく、赤い炎を纏っていた。

 

「やったか!?」

 

「――まだよ!」

 

 拡散衝撃砲の直撃を受けても福音は昨日を停止させてはいなかった。

 

『《銀の鐘》最大稼働――開始』

 

 両腕を左右いっぱいに広げ、さらに翼も自信から見て外側へと向ける。その瞬間、まばゆいほどの光が爆ぜ、エネルギー弾の一斉射撃が始まった。

 

「みんな!防御態勢!シャルロットは箒を!」

 

「任せて!箒!僕の後ろに!」

 

 航平の言葉とともに全員が防御態勢に、箒はシャルロットのシールドに裏へと逃げる。

 前回の失敗を踏まえて箒の赤椿はエネルギーの消費を抑えるべく機能限定状態にある。そのため、現在は防御時にも自発作動しないように設定されている。

 それも防御をシャルロットに任せられるからこそである。が――

 

「………これはちょっと、きついね」

 

 福音の攻撃が予想以上に激しく、その異常な連射を立て続けに受けることは危うかった。

 そうこうしている間に物理シールドが一枚、完全に破壊される。

 

「ラウラ!セシリア!」

 

「言われずとも!」

 

「お任せになって!」

 

 航平の声に、後退するシャルロットと入れ替わりにラウラとセシリアが左右から射撃を始める。

 

「足が止まった!」

 

「ならこっちのもんよ!」

 

 直下からの鈴の突撃。双天牙月による斬撃。そして直上からの航平の近接ブレードによる斬撃。そこからさらに鈴の拡散衝撃砲を至近距離から浴びせる。また、航平の斬撃、打撃も止むことはない。――狙いは頭部に接続されたマルチスラスター《銀の鐘》。

 

「そこおおおっ!!」

 

「もらったあああっ!!」

 

 エネルギー弾を浴びながら、それでも鈴と航平の斬撃は止まることはない。

 同じく拡散衝撃砲を降らせ、斬撃を浴びせる二人。双方が深いダメージを受けながら、最後に同時に上下からくわえられた航平と鈴の斬撃が福音から片翼を奪った。

 

「はっ、はっ……!」

 

「ど、どうだ――がっ!?」

 

 片翼だけになった福音は一度崩した姿勢をすぐに立て直し、航平へと回し蹴りを叩きこみ、そのまま足に航平をひっかけたまま回転し、鈴へと回し蹴りを叩きこむ。

 一塊となった鈴と航平が海面へと吹き飛ぶ。

 

「航平!鈴!おのれっ――!!」

 

 箒は両手に刀を握り、福音へと斬りかかった。

 その急加速に一瞬反応が遅れた福音のその右肩に刃が食い込んだ。

 誰もが勝利を確信した一撃、その刹那、信じられないことに左右両方の刃を掌で握りしめる福音。

 

「なっ!?」

 

 刀身から放出されるエネルギーに装甲が焼き切れても、それでもお構いなしに福音は両腕を最大にまで広げる。

 刀に引っ張られ、両腕を強制的に広げさせられ無防備な状態を晒す箒。そこには残っていたもう一つの翼が砲口を広げて待っていた。

 

「箒!武器を捨てて緊急回避しろ!」

 

叫ぶラウラの言葉も箒は聞かず、その両手の武器を手放すことはない。

 その間にも福音の翼にエネルギー弾がチャージされ、光が溢れる。

 

「飛べ!箒!!」

 

 エネルギー弾放たれる寸前足元から聞こえた声に、咄嗟に飛び、ぐるんと一回転する箒。それと同時に海面から現れた航平が近接ブレードを投擲する。

 金属同士のぶつかる甲高い音ともに近接ブレードが福音の翼に当たり、放たれるエネルギー弾の向きがそれ、箒に当たることはなかった。

 一回転し、上に掲げられた爪先の展開装甲がエネルギーの刃を発生させる。

 

「たあああああっ!!」

 

 かかと落としの要領でエネルギーの斬撃が福音に残されていた最後の翼に叩き込まれる。

 とうとう両方の翼を失った福音が崩れるように海面へと落下していった。

 

「はっ、はぁっ、はぁっ……!」

 

「無事か!?」

 

 珍しく慌てた声でラウラが訊くのを箒は呼吸を整えながら頷く。

 

「私は……大丈夫だ。それより福音は――」

 

 海面から上がり、近接ブレードを回収した航平が「俺たちの勝ちだ」と答えようとした時、海面が強烈な光の玉によって吹き飛んだ。

 

『!?』

 

 全員が驚愕の表情で見つめる先。それは異様な光景だった。まるでそこだけ時間が止まったように球状に蒸発した海。その中心に青い雷を纏い、自らの体を抱くように蹲る『銀の福音』がいた。

 

「これは……!?」

 

「いったい何が起きてるんだ!?」

 

「!?まずい!これは――『二次形態移行』だ!」

 

ラウラが叫んだ瞬間、まるでその声に反応したかのように福音が顔を向ける。

 無機質なバイザーに覆われた顔からは何も読み取ることはできないが、そこに明確な敵意を感じ取った各ISは主たちへと警鐘を鳴らす。

 しかし――

 

『キアアアアアアア……!!』

 

 まるで獣のような咆哮とともに、福音はラウラへと飛びかかった。

 

「なにっ!?」

 

 あまりに速いその動きに反応できず、ラウラは足を掴まれる。

 そして、切断された頭部からゆっくりとエネルギーの翼が新たに生えた。

 

「ラウラを!」

 

「離せぇっ!」

 

 左右からシャルロットと航平が近接ブレードを構えて突撃を行う。

 が、シャルロットの攻撃は空いた腕によって受け止められ、航平の攻撃はラウラをおのれの武器のように振るった福音の攻撃により、航平は吹き飛ばされる。

 

「よせ!逃げろ!こいつは――」

 

 掴まれたままのシャルロットへの言葉は最後まで続くことはなかった。

 ラウラはその眩い光りを放つ翼に抱かれる。

 

「このっ!」

 

 その状況に危機を感じた航平は近接ブレードを福音に向けて投げる。が、まばゆい光翼に弾かれる。

 その瞬間、あのエネルギー弾をゼロ距離で食らい、全身をズタズタにされたラウラが海へと落ちていく。

 

「ラウラ!よくもっ……!」

 

 ブレードを捨て、ショットガンを展開したシャルロットは福音へと銃口を向けて引き金を引いた。

 

 ドンッ!!

 

 しかし、その音はショットガンの銃声ではなかった。

 胸部から、腹部から、背部から、装甲が卵の殻のようにひび割れ、小型のエネルギー浴が生えてくる。それによって放たれたエネルギー弾の迎撃がショットガンを吹き飛ばし、シャルロットの体をも吹き飛ばした。

 

「な、何ですの!?この性能……軍用とはいえ、あまりにも異常な――」

 

 再び高機動による射撃を行おうとしたセシリアだったが、その眼前に福音が迫る。両手両足の計四か所同時着火による爆発的な加速度の『瞬間加速』だった。

 

「くっ!?」

 

 長大な銃の弱点である接近戦。距離を置いて銃口を上げようとするがその砲身を真横に蹴られる。

 次の瞬間には両翼からの一斉射撃をうけ、反撃もできずに海へと落ちていくセシリア。

 

「この!」

 

「私たちの仲間を――よくも!」

 

 急加速と『瞬間加速』によって接近した箒と航平は斬撃を加える。

 展開装甲を使ってのアクロバティックな箒の回避と、機動力の無い分福音の注意を自分に向け、箒のための隙を作る航平。

 連携し放たれる斬撃。それを避けながらふたりへと攻撃を加える福音。それぞれが回避と攻撃を繰り返しながら紅椿は徐々に加速していく。

 必殺の確信を持って、雨月の打突を放つ。が――

 

 キュゥゥゥン……。

 

 「なっ!また、エネルギーが切れただと!?――っ!」

 

 エネルギーが切れたことに焦る箒。が、そんな箒の思考を現実に戻したのは横からの衝撃だった。それはトンッとただただ押されただけ。でも、今この瞬間には大きな意味を持っていた。

 箒を押しのけ、先ほどまで箒がいた場所にいる人物――航平は福音に首を掴まれゆっくりとその翼に包み込まれていった。

 




いや~、難産でした。
しかもまだバトルが終わっていないという地獄。
が、頑張ります( ノД`)
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