「殺しちゃうぞ♡」
銃口が俺の方に向けられる。おそらく狙いは俺が福音の操縦者を抱えているせいだろう。
「貴様……何者だ……!?この海域は現在IS学園の教員が閉鎖していたはずだ!」
ラウラが左右それぞれの二門のレールカノンの銃口を謎のピンクISに向けながら訊く。
ピンクISの搭乗者は黙ったまま口元に笑みを浮かべ、同時にレーザーライフルの側面を見せるように横を向ける。
そこにはまるで歯車のような、その歯車の中に八本の針のようなマーク描かれていた。
「その歯車と八本柱の国旗。……貴様、〝ザイエス〟だな」
「ザイ……エス……?」
ラウラの言葉に俺は首を傾げる。
「貴様らがザイエス所属の人間だというならおかしい。ザイエスはIS委員会や国連にも籍を置いていたはずだ。我々はIS委員会の指令を受けてIS学園として動いている。そんな我々に攻撃を仕掛けるということは十分な国際問題だ。そのことを理解しているのか?」
ラウラが殺気のこもった目でピンクISを睨む。が、ピンクISはどこ吹く風でへらへらと口を開く。
「え~~~、あたし、むずかしい事わかんなぁ~い。それにぃ~――」
そう言いながら俺に向けられていた銃口を構え直し、引き金に指をかける。
「先に仕掛けたのはそっちの福音なんだからァ!大義はこっちにあんだよぉぉォオ!!」
「――っ!」
俺は咄嗟に抱えていた女性をしっかりと抱き直しながら真横に飛ぶ。俺の一瞬前にいたところをレーザーが通過する。あとコンマ一秒でも反応が遅れたら今頃残った心もとないエネルギーなんて一瞬で消し飛んでいただろう。
「航平!」
シャルが叫びながら楯で俺を庇うように前にやって来て、他のみんなも武器を構え直し、戦闘態勢に。
「いいの?IS学園に加えてあたしたちにまで攻撃したら、敵が増えるんじゃないの?」
鈴が両肩の衝撃砲で狙いを定めながら言う。が、それに対しても飄々とした雰囲気で
レーザーライフルを向けたまま口を開く。
「……キャッ、こわ~い!じゃあ……あなたたちへの攻撃は最低限にしなきゃね。でもまあ――ナターシャを抱えてる子にはやむを得ず盛大に攻撃しなきゃだけど」
背筋の凍るような笑みを口元に浮かべ、俺へと殺気を向ける女性に俺はどうしようもない恐怖を感じる。
「航平!お前はその人を連れて逃げろ!」
一夏が雪片弐型を構えながら顔だけをこちらに向けて叫ぶ。
「でも!」
「いけ、お兄ちゃん!」
一夏に向かって行ったとき、今度はラウラが叫ぶ。
「私たちがこいつを食い止める!お兄ちゃんは速くその人を教官のもとへ!そこまでいけばさすがのやつも手が出せなくなる!」
「頼みますわ、航平さん!」
「ここは任せて航平!」
「しっかり逃げ延びなさいよ!」
「やつは私たちが相手する!」
みんなの言葉に俺は逡巡の後頷く。
「………わかった!」
俺は女性を抱え直し、脇目も振らずみんなに、ピンクISに背を向けて俺は加速し始めた。
○
「あーあ、逃げちゃったか~」
ピンクISの操縦者は言うが、その声には焦りはなく、余裕を感じさせるものだった。
「この人数を相手に随分余裕そうだな」
「えぇ~、余裕?そんなことないよ~。代表候補生が四人に史上初の男性操縦者、そこの赤い機体は初めて見るしね~」
箒の問いにへらへらと答える敵IS操縦者。
「流石にきつそうだし――ちょっと本気出しちゃおっかな」
肌を刺すような殺気を感じ、一夏たちは各々装備を構え直した。
○
延々と続くのではないかと思われる海の上を飛行しながら俺は旅館にいる千冬さんに通信を繋ぐ。
「千冬さん!」
『航平か!?答えろ!今どうなっている!?』
通信がつながった途端耳元で千冬さんの声が響く。
「福音は撃破したんですが、なんか〝ザイエス〟とかいう国のISが来て、福音の操縦者を引き渡せって!いまみんなが食い止めてます!」
『福音の操縦者は?』
「今俺が連れてそっちに向かってます!」
『そうか。ならそのままできるだけ早くこちらに連れてこい。絶対にやつらに渡すな!』
「了解です!……あの、千冬さん!」
『なんだ?』
「〝ザイエス〟ってなんなんですか?何者なんですか?」
俺の問いに一瞬の間を空け、千冬さんが答える。
『……〝ザイエス〟とは、世界でも有数の高い技術力を誇る先進国でISのシェアも世界でトップクラスの国だ。昔は神帝王という国家元首の名の下に、様々な国に対して「神掃」と呼ばれる侵略戦争を起こしていたが、ISの登場以来、世界がお互いに戦争の火種になるようなことを避けているためかおとなしくしてる。が、その間も兵器開発は進めているらしい。昔から兵器産業が盛んでそれに伴って国内の科学技術も高い。世界的に見てもISシェアも上位三位には入るだろう。それによって付いた二つ名が〝機械帝国〟』
「機械帝国………」
『さらに、軍事国家のためにIS操縦者のレベルも高い。盛んな兵器産業による機体に操縦レベルの高い操縦者。訓練機のお前では勝負にならない。絶対に無理はするな。追いつかれたら戦うな。逃げることだけを考えろ』
「はい。………でも、みんなが食い止めてるし流石に追いつかれることは――」
「あるんだな~これが」
「っ!?」
突如俺の言葉を遮るように背後から聞こえた言葉に背後に視線を向ける。
そこには、背筋の凍る笑みを浮かべたピンクのISが飛行していた。その姿が俺には悪魔のように見えた。
「な、なんで!?みんなは!?」
「あー、大丈夫大丈夫。死んではいないと思うわよ……多分ね」
「多分!?」
「海に落としたり、最低限の攻撃だけ加えてあとは全速力でこっち来たからどうなってるか知らないわ。だから――次は君ね」
背後の敵操縦者は俺に向け長大なレーザーライフルの銃口を向ける。
「っ!!」
攻撃が飛んでくる前に一瞬の逡巡の後、海面すれすれに降下する。前に読んだ戦闘の教本に水面すれすれの方が当たりずらいというのを見た気がするからだ。
そのおかげなのか、ただ俺の運がいいだけなのかわからないが、何とかすれすれで回避する。
「ちょこまかちょこまかと逃げるわね。でも、どこまでもつかしらね~」
楽しげに言いながら連射する女性。俺は万が一にも福音の操縦者を落としてしまわないようにしっかりと抱え、その銃撃の雨を避けていく。ときどき肩や足に銃撃がかすめ、打鉄のシールドエネルギーを削っていく。
「くっ!」
削られるたびに背筋に悪寒が走る。おそらく直撃すれば一瞬で勝負が着いてしまう。
一層気合いを入れ直し、俺はただ前へ前へと飛行し続ける。
「ほらほら撃たれっぱなしでいいの?反撃してこないの?」
背後から挑発じみた言葉が飛んでくるが無視してただ前を見て突き進む。
そんな俺の顔の横すれすれをレーザーの光が通過する。
「おわっ!?」
「あ、おしい」
驚愕しながら集中し直す俺。
「はぁぁぁぁ!!!」
俺はここで背中のスラスターに意識を向け奥の手の『瞬間加速』を繰り出す。
「へぇ……」
突如さらに加速した俺に敵操縦者は少し驚いたもののさらに加速し、変わらぬ精度で俺への銃撃を続ける。
「くっそ~!!」
悪態をつきながら前へと進む。が――
ズドン!
「っ!?」
目の前の海面が突如巨大な水柱を上げる。どうやら背後の敵操縦者が少し前を狙い、銃撃したようだ。
驚愕し、その水柱のせいで俺は一瞬、加速を緩めてしまう。
「バイバイ」
そんな一瞬の隙を予想通りと言わんばかりに楽しげな声で背後から声が聞こえる。
(あ……やばい……)
振り返るまでもなく背後では俺にえらいを付けた銃口が光っている。おそらくその攻撃は当たるだろう。ここまでだ。そんな考えが頭の中によぎる。やけに周りがスローに思える。
そんなスローな世界の中で、俺は一瞬の風切り音を耳にする。
ヒュン!
それはまるで実弾銃の弾丸が飛ぶ音のようだった。その直後――
カァン!
金属同士がぶつかるような音ともにピンクISの銃撃があらぬ方向へと飛んでいく。
「くっ!?」
悔しげな、そして驚愕の感情を孕んだ声が敵操縦者の口から洩れる。
直後、またもや先ほどの風切り音が立て続けに数回聞こえるとともに背後で数度の金属音と水しぶきのあがる大きな音が聞こえてきた。
「???」
俺はわけのわからないまま背後からの攻撃が止んでいることに気付き、意識を前方へと戻し、加速し直す。
「うおぉぉぉぉ!!」
俺は雄叫びとともに目的地へと向かって飛び続けた。
不思議なことに謎の風切り音がしてから、背後からの攻撃も、さらにはピンクISの姿も消えていた。
○
「ちぃ!どこからの攻撃だ!?」
元のスピードに戻り、進んでいく航平の後姿を睨みながらピンクISの操縦者は謎の攻撃の出どころを探していた。
最初の一撃は自身のレーザーライフルの砲身に当たり、無理矢理に射線を変えられた。そこから続く攻撃は的確にレーザーライフルを構えようとすればそれを阻害し、目的の少年を追いかけようとすれば視界を邪魔するように水柱を上げる。
彼女からすれば邪魔だ邪魔で仕方がない。徐々にイライラが募る。
「誰よ!まずはそっちから仕留めてから――」
近くには誰もいない。強いて言えば射線の先と思われる位置には小さな小島がある。おそらくそこから狙撃してきているのだろう。
その小島に向かって飛ぼうとしたところで彼女の行動を遮ったのは一つの通信だった。
「何よこんな時に……」
女性はぶつくさ言いながらも通信を繋ぐ。
相手は自身の上官であった。しかも、その内容に彼女は驚愕した。
「えっ?退却……ですか?」
○
「いや~、何とかなったね」
そう言いながら、顔に目元を覆うマスクをした小柄な少女は寝そべっていた体を起こす。
その体には黒っぽい装甲のISを纏い、その手にはゆうに二メートルはありそうな対物ライフルを抱えていた。
「そうですね」
その少女の横で水色のカッターに紺色のスーツを纏った機械部品のような髪留めの白髪少女が頷く。
「しっかしよ、いくらできる限り手を出さないってのが今回の依頼内容だからって、もっと早めに助けてもよかったんじゃねぇか?」
さらにその横では小柄な少女の抱える対物ライフルほどの、もしかしたらそれよりも大柄な白髪の男が寝そべりながら呟く。
「しょうがないじゃん。私らはあくまでも本当に危なくなったらってことだったんだから」
「そうだけどよー……」
不満げに大柄な男は体を起こし胡坐をかく。
「〝ザイエス〟のやつらが出て来たんなら俺たちが加勢したっていいじゃねぇかよ。しかも、あんな強行手段を命令するやつ〝あいつ〟しかいないだろ」
「まあ十中八九そうだろうねー」
顔を覆うマスクのせいで隠れているが露出している口元に笑みを浮かべて頷く少女。
「やけに素直に撤退していきましたが、これで終わり……なんてことは――」
「まぁ、ないだろうな」
白髪の少女の言葉に大柄な男は答える。
「むしろ素直に撤退したことが逆に不気味だ。まだ一波乱も二波乱もありそうだ」
大柄な男は大きなため息をついた。
更新が遅れてすみません。
できるだけ早く投稿するつもりだったのですがリアルの方が忙しく、なかなか筆が進みませんでした。
次回はもう少しは期間をあけずに投稿できるように頑張ります。