帰ってきましたよ!
ピピピピピピピピッ
「んあっ」
枕元で鳴る目覚まし時計の音に意識を徐々に覚醒させながらいまだなり続ける目覚ましに彼は手を伸ばす。
「んっ…ああぁ!!朝か!」
ベッドから体を起こし大きく伸びをした織斑一夏はふと横に視線を向ける。そこには同居人が未だベッドの中にいるのが見える。
おそらく目覚ましの音を不快に思い、少しでも音を遮断するためか布団の中にもぐりこんでいる。
「たく、今日は終業式だから少し早く起きようって言ったのは航平なのに……」
一夏はぶつくさ言いながらベッドから起き上がり、隣のベッドの脇に立つ。
「ほら、航平!朝だぞ!」
布団に丸まった友人の体を揺すりながら声をかけるが、返ってくるのは「んん~」と言った寝惚けた返事だけだった。
「ったく……ほら、起きろっ!」
一夏は布団を掴み、勢いよく引っぺがした。が、その行動にすぐさま後悔する。それは――
「すぴぃ……」
そこにいたのは寝顔だけ見れば美少女と見間違えるような、体を抱くように丸まった寝相のためか寝間着のはだけた友人の姿だった。
一夏はその姿に一瞬にして混乱に陥り、頭の中は「女!?」の文字が埋め尽くし――
「ギャー!!!」
早朝の学生寮に一夏の叫び声が響き渡った。
○
「どうした、一夏?朝から疲れた顔して」
「……誰のせいだ、誰の」
「………?」
一夏の言葉に俺は首を傾げる。
「はぁ……何でもない。俺がいい加減慣れないと……」
「???」
一夏の呟きにさらに謎は深まるばかりである。
「てか、航平は朝には強いはずだろ?いつも早起きして早朝メニューこなしてるんだからさ」
「いや、そうなんだけどさ。最近は増えた放課後の特訓メニューが大変で……最近寝たりないんだよ。おかげで朝は休んで夜にやったりしてる」
「あぁ……お前んとこの指導者はいろんな意味ですごいもんな……」
「ああ……」
一夏の言葉にここの所熱心に俺に指導してくれる二人の人物の顔を思い浮かべ重いため息を吐く。
そんなことを言っている間に俺たちは食堂に着いたので朝食を選び、空いた席を探す。
ちなみに今日のメニューは二人とも和食セットにした。
朝食の乗ったトレーを持ってキョロキョロと周りを見渡すと空いた席と知った後姿を見つける。
「一夏、あそこが空いてる」
「おう」
一夏に空いた席を示し、ふたりでそこに向かって歩いて行く。
「おはよう、本音」
「あ、ナッシーにおりむー」
俺の声に振り返ってのはいつも通りのほほんとした雰囲気の本音、その横には相川さんと谷口さん。
「久しぶりだね、ナッシー」
「ん、久しぶり?まだ寝ぼけてるのか?昨日も普通に会ったじゃないか。夕食だって一緒に食べたんだし」
「あれ?ん~……なんだか久しぶりな気がするー。もっと言えば三か月ぶりくらいな気がするー」
「んなバカな」
一夏が笑い飛ばす。
「で、ここいいかい?」
「もちろん」
俺の問いに本音が返事し、他の二人も頷く。
「「いただきまーす」」
席に着いた俺たちは合掌、箸を取って朝食を始める。
「………なんだかナッシー、疲れてる?」
俺が和食セットのメイン、焼き魚の身をほぐしていると横から心配そうに本音が訊く。
「……ちょっと前から特訓がハードなもんで」
「…………」
俺の答えに本音が心底嫌そうな顔をする。
「そんなにあの人たちが嫌いか?」
「……別に~」
嘘だ。超苦手って顔に書いてある。
「嫌うのはいいけど、あんまり態度に出すなよ。何せあの二人は――」
「ここいいかしら?」
苦笑いで言う俺の言葉を遮って現れた人物たちに俺は内心ぎくりとしながらできる限りそれを表情に出さずに笑顔で頷く。
「どうぞどうぞ、空いてるんですから好きに座ってください――ナターシャ先生、バーンエッジ先生」
俺の返事にふたり――金髪ロングの女性、ナターシャ先生と、肩にかからないくらいの赤毛短髪に顔の左頬骨のピンクのハートの入れ墨が特徴的な女性、バーンエッジ先生は席に腰を下ろす。
「あら?梨野君朝それだけ?」
「それだけって……結構がっつり食べてるつもりですけど?」
「いやいや、それだけじゃもたないでしょ。今日は終業式で授業は午前だけなんだから午後はみっちり特訓よ」
「………昼ご飯は多めにします」
「うん、それがいいかもね」
笑顔でそう答える二人の先生の顔に俺は冷汗が頬を伝うのを感じる。
「なんというか……頑張れよ、航平」
一夏の言葉に頷きながら俺は味噌汁をすすった。
なぜナターシャさんやバーンエッジさんがここにいるか。なぜこのIS学園の教師としているのか、それは少し前、臨海学校から帰ってきた一週間後の全校集会でのことだった。
○
『えー、というわけで先日怪我で休職されたエドワース・フランシィ先生に代わり、非常勤講師として二人の先生に来ていただきました』
『アメリカから来ました、ナターシャです』
『ザイエスから来ました、バーンエッジです』
壇上で挨拶をする二人の人物の姿に俺は唖然として口をあんぐりと開く。
「な、なあおい、あの人たち……なんで……?」
「俺が訊きたい」
後ろから一夏が訊いて来るが正直俺も驚いているところだ。というか混乱している。
驚いているのは俺たち二人だけじゃないようで、あの二人のことを知っているメンバー、シャル、箒、セシリア、ラウラも唖然としていた。さらに見渡すと千冬さんがめんどくさそうに頭を抱えながらため息をついていた。
「で、どういうことなんですか?」
全校集会後、その日の放課後にナターシャさんとバーンエッジさんを捕まえた俺たち(専用機組)は事の顛末を聞き出そうとしていた。
「どうって……何が?」
「わかってんでしょ!?そっちの福音の操縦者の人だけならまだしも、私たちを襲った張本人のアンタがこうやって学園の教師になってるのは、一体全体どういうことなのよ!?」
とぼけたように首を傾げるバーンエッジさんに食ってかかる鈴。
「鈴落ち着け」
鈴をなだめつつ警戒を緩めない一夏。
「でも、鈴の言った通りです。なんであなたたちがうちの学園の教師になったんですか?」
「それは――」
「それは我々が説明しよう」
説明しようと口を開いたナターシャさんの言葉を遮ったのは聞き覚えのある男性の声だった。
振り返ると、そこには臨海学校最終日のバスに現れたあの奇妙な義手の老人、リボル大将と我らが担任織斑先生が立っていた。
「やあ各国の候補生の諸君、並びに梨野君、織斑君。また会ったね」
温和な笑みを浮かべ挨拶して来たリボル大将に俺は会釈する。他のみんなも同じように会釈だけにとどめていた。
「それで、なぜバーンエッジ君とナターシャ君がIS学園の非常勤講師として着任したか、だったね」
俺たちの警戒心剥き出しの挨拶にも意に返さずリボル大将は続ける。
「簡単に言えば、それが彼女、バーンエッジ君への処罰の一部だからだよ」
「処罰……ですか?」
リボル大将の言葉に俺は質問する。
「そう。先日の海での福音の暴走事件。あれによってバーンエッジ君は独断専行、独断でのIS学園への襲撃行為、また同盟国たるアメリカとイスラエルの共同実験の試験操縦者たるナターシャ君への攻撃。これらの行為の責任として彼女のIS学園での教職活動は決定した。それらが決定した背景にはいくつか理由がある」
そう言いながらリボル大将はその大きな右手の義手を掲げ人差し指を立てる。
「まず一つ目、彼女が襲撃行為を行った際、彼女の攻撃によって怪我をし、教職を休職する必要のある教師が一人出たこと」
おそらくエドワース・フランシィ先生のことだろう。
「二つ目、彼女の独断先行とはいえ、我が国の及ぼしたIS学園への損害に対する謝罪と賠償、それに付随しての奉仕活動という面」
二本立てていた指にさらに三本目が加わる。
「三つ目、彼女自身のたっての希望による決定。この三つが主な理由だよ」
すっと手をおろし、笑みを浮かべたままリボル大将が言う。
「また彼女のIS学園での非常勤講師としての活動に対するIS学園側からの給料の発生はない。これはあくまでこちらからの謝罪の気持ちを込めた奉仕活動だからね。さらに、彼女への処罰は他に、国家代表資格、および専用機の無期限剥奪、ザイエス政府からの給与の停止、および停止解除後の減俸予定、また一定期間の行動の監視。これらが彼女への処罰だよ」
「な、なるほど……」
リボル大将の言葉に一夏が頷く。
「バーンエッジさんがここにいる理由はわかりました。でも、じゃあナターシャさんはなんでいるんですか?」
「ああ、それは私が彼女の監視要員だからよ」
俺の問いに答えたのはナターシャさん本人だった。
「私に国連とか国際IS委員会とかから監視の通知が来て、最終的には私からの志願よ」
「へ~……でもなんでまた自分から?お二人って見たところあまり仲は良くなさそうですけど?」
「だからよ」
俺の問いに答えたのはバーンエッジさんだった。
「この女、私のこと嫌いだからこそ私が変なことしないように目を光らせるつもりなのよ」
「あら、よくわかってるじゃない。まあ志願した理由はそれだけじゃないけどね~」
「そうなんですか?じゃあ他の理由って?」
「んふふ、それはね~………君がいるから♡」
「ふぇっ!?」
言葉とともに俺の頭を抱きしめるように抱き着いてきたナターシャさんに俺は驚愕で動きを止める。
「あら、その子に目を付けてるのはあなただけじゃないわよ?」
そう言って今度はナターシャさんから奪い去るように俺を自身の方へ引っ張るバーンエッジさん。
「あの、お二人とも、痛いんですけど……」
「だって。放してあげたらどう、バーンエッジ?」
「あなたこそそんなにくっつくと暑苦しいんじゃないかしら、ナターシャ?」
なぜか俺を挟んで火花を散らす二人。そして――
「ふ~ん……大人気だね、航平」
なぜか不機嫌そうにジト目で俺を睨むシャル。
そんな光景を見てどうしていいかわからず呆然としているみんな、楽しげにニコニコと笑っているリボル大将、めんどくさそうにため息をつく千冬さん、であった。
ちなみにその後なぜか張り合うようにナターシャさんとバーンエッジさんは俺の特訓指導を名乗り出た。丁重に断ろうとしたが、その勢いにお願いする以外の選択肢を用意してもらえなかった。
○
今思い返すといきなりすぎるだろ。しかも俺の意思が全く反映されんし。まあおかげで色々ISの操縦技術は上がったけど。
「あら?どうしたの?手が止まってるわよ?」
俺が先生たちがIS学園に来た経緯を思い出していたところでバーンエッジ先生が顔を覗き込みながら訊いてくる。
「な、なんでもないです!」
「はっは~ん。さては何かよからぬこと考えてたな?」
「なんですかよからぬことって」
「いいっていいって!みなまで言わなくても!今日の特訓は私が手取り足取り優しく教えてア・ゲ・ル♡」
どうしよう、バーンエッジ先生全く人の話聞いてねえ。
「ちょっと、バーンエッジ。そういうのどうかと思うわ。梨野君?こんな痴女ほっといて私と二人で仲良く特訓しましょ」
「あなただって人のこと言えないじゃない!」
「何よ!?」
「やるっていうの!?」
「上等じゃない!」
なんか徐々にケンカ腰になっていくふたりにどうにか鎮めようとしたところで
「おい、お前たち。生徒の見本となるべき教師がダラダラと朝食を取っているだけじゃなく、随分と楽しそうじゃないか」
バーンエッジ先生たちの背後に修羅がいた。その声を聞いた途端二人がピシリと動きを止め、恐る恐る振り返る。
そこには腕組をして二人の先生を見下ろす千冬さんの姿があった。
「あぁ、お、織斑先生……」
「こ、これにはわけが……」
「そうかでは、そのわけ、ゆっくりと訊かせてもらおう」
「「ひぃぃぃっ!!」」
首根っこをガシッと掴まれた先生ふたりが千冬さんに引きづられて行くのを俺たちは呆然としていた。
「なんかウソみたいだよね~、あの二人、あれで先生なんだよね~」
そんな中呟かれた本音のセリフがなんとも的を射ていて俺は内心大爆笑したのだった。
というわけで復活です。
久々過ぎてキャラクターの喋り方とか細かい設定忘れかけてました(;^ω^)
ここから先当分時間はあるんで四月まではペースよく更新できる!…と思います。