二学期が始まってから数日後。この日はSHRと一時間目の半分を使って全校集会が開かれた。
内容は今月中旬に行われる文化祭についてだ。
しかしあれだ。広い体育館に全校生徒+教師陣が集まると、改めて俺と一夏以外に男がいないことを実感させられる。こうして集まるとなんとも肩身の狭い。
「それでは、生徒会長から説明をさせていただきます」
静かに生徒会役員と思われる眼鏡に三つ編みの女子生徒が告げる。……ん?なんでだろう、全然似てないのに一瞬――
「やあみんな。おはよう」
「「!?」」
考えかけた思考が一瞬で吹き飛んだ。壇上に現れた女子、二年生のリボンをしたその人は始業式の日の朝、俺の前に現れた謎の先輩だった。
というかなぜか俺の前に並ぶ一夏も息を呑んでいた。
俺も一夏も驚きの声を上げそうなのをこらえてその先輩に視線を向けた。
「ふふっ」
一瞬視線が合った気がした先輩は俺になのか一夏になのか、はたまた両者にか、意味ありげな笑みを浮かべる。
「さてさて、今年は色々と立て込んでいてちゃんとした挨拶がまだだったね。私の名前は更識楯無。君たち生徒の長よ。以後、よろしく」
ニッコリと笑みを浮かべて言う生徒会長。どうやら人気者らしく列のあちらこちらから熱っぽいため息が聞こえてくる。
「では、今月の一大イベント学園祭だけど、今回に限り特別ルールを導入するわ。その内容というのは」
閉じた扇子をすっと取り出し、横へとスライドさせる。それに応じて空間投影ディスプレイが浮かび上がった。
「名付けて、『各部対抗男子争奪戦』!」
ぱんっ!と小気味のいい音を立てて扇子が開く。それと同時に画面には俺と一夏の写真が大きく映し出された。
「え……」
「は……」
『ええええええええ~~~~~~っ!?』
俺と一夏の困惑の声は割れんばかりの声にかき消された。その叫び声に体育館が冗談じゃなく揺れた。
困惑から復活できないまま並んで間抜け面を浮かべる俺たち二人に一斉に視線が向く。
「静かに。学園祭では毎年各部活動ごとの催し物を出し、それに対して投票を行って、上位組は部費に特別助成金が出る仕組みでした。しかし、今回はそれではつまらないと思い――」
ビシ!と扇子で俺と一夏を指す生徒会長。
「織斑一夏、並びに梨野航平を一位二位の部活動に強制入部させましょう!」
生徒会長の言葉に再び雄叫びが上がる。
こうして俺と一夏の意見など無視して男子争奪戦が開幕したのだった。
〇
同じ日の放課後。クラスごとの出し物を決めるための特別HRのために教室内はわいわいと盛り上がっていた。
「えーと……」
クラス代表として会議をまとめていた一夏が黒板に並ぶ案を見ながらため息をつく。
黒板には『織斑一夏&梨野航平のホストクラブ』『織斑一夏&梨野航平とツイスター』『織斑一夏&梨野航平とポッキー遊び』『織斑一夏&梨野航平と王様ゲーム』『織斑一夏&梨野航平をモデルに写真撮影会(衣装指定可)』の文字が並んでいる。
「却下」
えええええー!!と大音量でブーイングが教室に響く。
「あ、アホか!誰が嬉しいんだ、こんなもん!」
「私は嬉しいわね。断言する!」
「そうだそうだ!女子を喜ばせる義務を全うせよ!」
「織斑一夏と梨野航平は共有財産である!」
「他のクラスから色々言われてるんだってば。うちの部の先輩もうるさいし」
「助けると思って!」
「メシア気取りで!」
とまあこんな具合だ。
助けを求めて視線を動かしているが助けてくれそうな人もおらず、千冬さんも先ほど
『時間がかかりそうだから、私は職員室に戻る。後で結果報告に来い』
と、一夏に言い残し去って行った。
「な、なあ、航平!お前だって嫌だろ!?」
「………ん?」
「ん?じゃねえよ!」
「いや、だって俺ホストクラブとかツイスターとか王様ゲームが何か知らないし。撮影会も一度経験してるしなぁ……」
「……うっ」
俺の記憶喪失具合を考慮に入れていなかったらしく俺が同意をしてくれなかった一夏はしまったという顔をする。
「で、ホストクラブとかツイスターとか王様ゲームって?」
「あのねー――」
と、俺の疑問に近くの席に座る本音が解説してくれる。
「ホストクラブって言うのはね、簡単に言えば女の子を男の子が楽しませるんだよ。一緒にゲームしたり一緒にお菓子とかジュース飲みながらねー」
「ほうほう」
「ツイスターゲームは色と体の部位をルーレットとかで指定して指定された色のマスを指定された体の部位で押さえるの。先に押さえられずに潰れちゃった方の負け」
「なんか面白そうなゲームだな」
「でしょ?で、王様ゲームは複数人で印のついたクジと番号のクジを引いて、印のついたクジを引いた人が王様としていろいろ命令するって遊びだよー」
「命令の内容は?」
「いろいろかなー。2番が王様の肩をもむ、とかー、4番と5番が腹筋をする、とかかなー」
「へー……説明を聞く限りおかしなところないけど、一夏はこれらのどの辺が嫌なの?」
「うん、説明の限りじゃおかしな点はないな。でも違うんだよ!そうじゃないんだよ!そうだけどそうじゃないんだよ!」
一夏が言うが俺は意味が分からず首を傾げる。
「ああもう!山田先生、ダメですよね?こういうおかしな企画は」
「えっ!?わ、私に振るんですか!?」
俺ではらちがあかないと思ったのか、真耶さんに振るが慌てたように考え込む真耶さん。
「え、えーと……うーん、わ、私はポッキーのなんかいいと思いますよ……?あ、でも撮影会とかもいいですね!」
やや頬を赤らめて答える真耶さんに一夏はさらに深いため息をつく。
「とにかく、もっと普通の意見をだな!」
「メイド喫茶はどうだ?」
と、一夏の言葉を遮って意見を言ったのは意外や意外、ラウラだった。俺を含めクラスのみんながポカンと口を開く。
「客受けはいいだろう。それに飲食店は経費の回収が行える。確か招待券制で外部からも入れるのだろう?それなら、休憩場としての需要も少なからずあるはずだ」
「え、えーと……みんなはどう思う?」
少し理解に時間がかかったのか一夏がゆっくりと周りに問いかける。
「いいんじゃないかな?一夏には執事か厨房を担当してもらって、航平には執事か場合によってはメイドをしてもらえばオーケーだよね」
クラスメイト達が呆然とする中、そう言ったのはシャルだった。シャルのラウラの意見への援護射撃は見事にヒットしたらしく徐々に周りに好感触な意見が広がる。
「織斑君と梨野君の執事!いい!」
「それでそれで!」
「メイド服はどうする!?私、演劇部衣装係だから縫えるけど!」
と、瞬く間に意見は広がり、なかなか決まらなかった我が一年一組の出し物は「ご奉仕喫茶」となったのだった。