「いらっしゃいませ~!」
「二名様ですね?こちらへどうぞ!」
学園祭が始まって少したって、我らが一年一組の教室はおかげさまで大繁盛だ。
お客さんもたくさん来ているお陰で俺たち接客担当も忙しく働きまわっている。
なかでもシャルは甲斐甲斐しく働いている。なんでだろう?始まる前に褒めてからなんか上機嫌だ。
「こら」
「あてっ」
と、教室の中を見渡していた俺の後頭部を誰かが軽く小突く。
見ると俺の後ろに箒がお盆を肩に当てながらジト目で見ていた。
「いや、お客さんたくさん来てるから珍しくって……」
「客がたくさん来てるんだからボーっとされると接客が回らん」
「うっ……ごめん。すぐ仕事に戻るから――」
「ちょっと待った」
箒の言葉に謝りながら動き出そうとした俺の腕を箒が掴む。
「お前にはあそこの客の相手を頼みたい」
「あそこ……あぁ、鈴ね。さっき来たのは見かけたよ。休憩なんだろ」
箒の指さす方向を見るとチャイナ服姿の鈴いた。が――
「でも一夏が相手してんじゃん。俺行かなくてもいいだろ?」
「いいから!その……そう!さっきあっちで一夏への指名が入ったんだ!一夏にはそっちに回ってほしくてな!」
「ふ~ん、まあそう言うことなら……」
箒の言葉に俺は頷き行こうとし
「待った!」
「グエッ!?今度はなんだよ!?」
再び呼び止められた、今度は髪を掴まれて。
「口調!」
「ん?……あぁ~、んんっ!――それじゃあ行ってくるわ」
「うむ、それでいい」
咳払いをして気を取り直して言う俺に箒も頷く。
それに頷き鈴の元へ向かう。
鈴と一夏は丁度『執事にご褒美セット』をしていたようだ。
「失礼します。一夏君、他のお客さんからご指名ですよ」
「ちょっと誰よ!?今一夏は私の相手を――って航平!?」
苛立たし気に振り返った鈴が呼びかけた俺の姿に驚く。
「あんたいくら得意だからって……」
「仕方ないじゃない、みんなからこっちを着ろって言われちゃったんだから。それで一夏君、悪いけど指名された席にいってくれる?」
「お、おう。どこの席に行けばいいんだ?」
「さぁ?」
「さぁって……」
「詳しくは箒に聞いてちょうだい?私も箒から言われて来たの」
「そうなのか?わかった。じゃあ鈴、悪いけど行かねぇと」
「あ、ちょ!まだ話は――」
「こうh――じゃなかった、ナナ、あと頼む」
「ええ、任せて」
鈴の言葉を最後まで聞かず席を立った一夏に頷く俺。一夏はそのまま去って行った。
「ぐぬぬぬ~……箒のやつ~……」
そんな一夏を見送りながら鈴が悔し気に鬼の形相で二人を睨んでいた。
「いや、そりゃ邪魔したのは悪かったけど、指名入ったら仕方ないでしょ?」
「ハッ!ホントに指名が入ってるのかわかんないわよ~?」
「え?どういうこと?」
「箒と違ってあたしは客として一夏の接客を受けられるもの。それをいいところで切り上げさせたかったのかもよ~?」
「あぁ~……」
鈴の言葉に俺は納得する。
「ま、別にいいけど。十分堪能したし」
「そう?まあ怒ってないならよかったわ」
「あんたも大変ね。そんな格好して、喋り方まで………ブフッ」
「おい、待てなんで笑った?」
「い、いや……大変だなぁって思って……」
「思ってないだろ?絶対楽しんでるだろ?」
「ほら口調口調。男に戻ってる」
「おっと――やる以上は真面目に頑張ってるのに、笑うなんてひどいわ」
クククッと笑いをこらえながら言う鈴の言葉に俺は憤慨しながら女性口調に戻す。
「いや、でも実際感心してるのよ。何度見ても女にしか見えないわ。知らなきゃ航平の姉妹かなんかかと思うわね」
口調を戻した俺に興味深そうに鈴が言う。
「ところでさっき『ナナ』って呼ばれてたけど?」
「あぁ、俺午後からは執事服で接客するから、メイドの状態と執事の状態で呼び名を分けてんだ。執事の方はちゃんと『航平』として、メイドの今は『ナナ』として、ってね」
「なるほどね。もう一個訊くんだけど……それ、盛り過ぎじゃない?」
「ん?」
鈴の言葉に俺は鈴の指さす先を追って行く。そこにはパッとやら何やらで盛ってある俺の胸元があった。
「そうかしら?」
「そうよ。何?当てつけ?」
「違うわよ。ほら、私の背の高さならある程度の大きさになるのはしょうがないのよ」
「言いながら乳を揉むな」
鈴がジト目で睨む。
「身長が高さと胸の大きさに因果関係なんてあるの?」
「ほら、織斑先生とか。あの人背が高いしスタイルもいいでしょ?」
「それは……まあそうだけど……」
「ね?だから背の高さと胸の大きさは結構関係があると――」
言いかけたところで俺はふと入り口に視線を向ける。そこには巡回の仕事中だろうか?山田先生が入り口近くにいたセシリアと話していた。
俺はそんな山田先生と目の前の鈴を数回見比べ
「……ごめん。やっぱ因果関係ないかも」
「おい、今誰と誰比べた?」
「ミクラベテナイワヨ?」
「カタコトになってるじゃない!今完全に山田先生とあたし比べたでしょ!?『あぁあっちは背が低いのにあんなに大きくて、それに比べてこっちはまな板みてぇだな』とか考えたんでしょ!?」
「そこまでは思ってないわよ」
「そこまでってことはちょっとは考えたってことじゃない!?」
ガルルルルッと威嚇するように鬼の形相で俺を見る鈴。今にも飛び掛かって来そうな鈴と俺の間に突如銀色のお盆が差し込まれる。
「歓談中すまないがお兄ちゃ――お姉ちゃんに指名が入った」
「ラウラ、わざわざ言い直さなくていいからね?」
俺はお盆を差し込んできたラウラに苦笑いを浮かべながら言う。
「そうか?その方がいいかと思ったんだが……まあそれはいい。指名だ。すぐに行くぞ」
「わかったわ。それじゃあね、鈴。あなたもそろそろ戻らないと休憩時間終わりなんじゃないの?」
「くっ……はぁ、はいはい、アンタもお仕事頑張りなさいよ」
「ええ。鈴もね」
ため息をつきながら席を立った鈴の言葉に俺は頷く。
鈴は手を振り、お会計を済ませて一組の教室を去って行った。
「さ、行くぞお姉ちゃん」
「だから……はぁ、まあいっか。それで?指名って誰の?」
「ああ、あそこの席だ」
ラウラの指さす方向を見る。そこには満面の笑みで座りながら手を振る山田先生の姿があった。