山田先生の見回りと称した息抜きに付き合った後も我らが1年1組のメイド喫茶は大盛況だった。
そしてお昼前、そろそろ持ち回りで休憩に入るころ、と思っていたところでふと見ると
「一夏と……誰だろあの人?」
一夏が部屋の片隅の席で見知らぬ女性と話していた。
その女性はスーツ姿に茶髪の人物で、実際に見たことがあるわけじゃないが漠然としたイメージでのキャリアウーマンと言った雰囲気に見える。
ただ、一つ言えるのは二人の会話は弾んでいるようには見えない。どちらかと言うと一夏は話を切上げたいのに女性の方が一方的に話しているように見える。二人の手元を見れば女性は何かのカタログのようなものを示しながら話しているようだ。
そこでやっと合点がいく。恐らく俺の認識はあながち間違っていなかったようだ。
恐らくあの女性はどこかのIS関連企業の営業の人で、現在一夏相手に商談の真っ最中なのだろう。
学生の文化祭の会場で商売をするなんて見上げた商魂だが、正直管理の命知らずとも思える。
IS学園の、それもあの織斑先生が担任をする教室で学生相手に商売とは……というか逆によく入れたなこの人、この学園に。それだけ名のある企業の人間なのだろうか……?
まあそれはともかく、一夏はいまだうちのクラスの出し物のスタッフとして働いている上にここの稼ぎ頭だ。これ以上拘束されると営業妨害だ。見たところ一夏も迷惑してるようだし。
俺はそこまで考え姿勢を正し、一夏たちの席へと向かう。
「失礼します、お客様」
「あ……こうh――ナナ」
「っ!?」
お辞儀をしながら行った俺の言葉に一夏が振り返り少しほっとしたような顔をする。
対して茶髪の女性は何故か俺の顔を見て息を飲み驚愕の表情を浮かべていた。が、それも一瞬ですぐに取り繕ったように元通りのキャリアウーマンの顔になる。
「申し訳ありません、織斑一夏君に他の席から指名が入りましたので――」
「え、ええ。こちらこそすみません。お忙しい時間に」
俺の言葉に女性は頷く。
「よろしければ、お飲み物や何か食べ物など追加でご注文されますか?」
「いえ、お会計をお願いします」
「そうですか。では、あちらへどうぞ」
席を立つ女性をレジの方へ示し、二人で女性を見送る。
女性はちらりと俺の顔を見て、そそくさと去って行った。
「すまん、助かった」
女性の姿が見えなくなってから一夏が苦笑いを浮かべて言う。
「いいわよ。なんだか困ってるみたいに見えたし」
「ああ。あの人の会社の装備を使ってほしいってさ。『白式』は空き容量ないから無理なんだけどな」
一夏は苦笑いを浮かべながら頷く。
「まぁ役に立ったのならよかったわ」
「ああ、本当にありがとう。マジで助かった」
ニッと笑う一夏に頷き、俺と一夏はそのまま仕事に戻る。
その後俺たちはシャルロットたちも含めて何人かずつで休憩を取りつつ働いたのだが
「やはろ~。繁盛してるみたいね~」
お昼時のピークを過ぎ、少しゆったりし始めたところでその人――生徒会長はやって来た。
「あ、生徒会長。いらっしゃいませ」
一夏が生徒会長に言う。たまたま近くにいたのが一夏だったので一夏が接客しているのだ。
「あ、ごめんね~、お客さんじゃないの」
「え?そうなんですか?じゃあなんで?」
「うん、実は生徒会の出し物に一夏君と航平君にお手伝いしてもらえないかなぁ~って思ってね。航平君は?」
「いますけど……航平~!」
と、呼ばれたので俺は首を傾げながら二人の方へ行く。
「呼んだかしら?」
「あぁ、航平。実は会長が――」
一応他にもお客さんがいるので女性口調で言う俺に一夏は横の生徒会長の顔を見る。
「……………」
そんな生徒会長は驚愕の表情で俺を見ていた。
「なんですか?」
「あ、ごめんなさい。航平君よね?」
「ええ。今は『ナナ』で働いてますけど」
「はぁ~……話には聞いてたし写真でも見てたけど……」
感嘆の声を上げながら俺のことを頭からつま先までジロジロと興味深そうに見る。
「すごい。知ってても女の子にしか見えないわね」
「そんなに褒めても何も出ないですよ」
生徒会長の言葉に俺は笑いながら返す。
「で?俺と航平で何を手伝うんですか?」
「というか私たちが抜けるとここが人で足らなくなるんじゃ……」
「うん、そこは大丈夫だと思うわよ」
と、俺の言葉に生徒会長が頷き
「二人の他にも人ではあるみたいだし、お昼のピークは過ぎてるでしょ?どうしても人手がいるなら私たちで用立てるわよ」
それに、と区切って生徒会長は視線を向ける。俺と一夏もそちらに視線を向けると、そこには
「いらっしゃいませ、ご注文はいかがいたしましょう?」
イケメンがいた。
このクラスでの出し物で一夏の他のイケメン要因。執事姿が実によく似合う人物――シロである。
午前中に別の用があるとかで参加していなかったシロはお昼過ぎにはクラスの方に参加している。
彼女の衣装は制服と同じく男物、執事服を着ている。それがやけに似合っているのだ。と言うか男の俺が女装して女であるシロが男装って、なんかおかしくない?
「はぁ?何?ボーッと突っ立ってジロジロ見て」
俺たちの視線に気付いたシロが怪訝そうな表情で俺たちに――と言うか俺に訊く。
「いや、なんか改めて見るとよく似合ってるなぁって思って」
「あんたに褒められてもうれしくないわね。まああんたもよく似合ってるんじゃない?」
「え?」
突如いつも俺に対してあたりの強いシロの口から誉め言葉が出たことに面食らうが
「いつもの暑苦しくてウザい感じがマシになってる。普段からそうしてればいいのに」
「っ!あぁそうですか!!」
「口調。いつものウザい感じが出てる」
「~~~!これは失礼したわね!これでいいかしら!?」
「五月蠅い。お客さんの迷惑よ」
「ぐぬぬぬぬ!」
シロの言葉に俺は歯噛みしイライラする感情を無理矢理飲み込んで
「ご、ご指摘ありがとう。肝に銘じてくわ」
「わかればいいわ。と言うかちゃんと自分の頭で考えればわかるでしょうに、あぁ、あんたの足りない頭じゃ無理か」
「ギィィィィ!俺が頭足りてないならお前は身長が――」
ヒュン!
シロのズケズケと言う言葉に言い返そうとした俺の言葉は俺の頬を掠めて何かが飛んで行った風切り音に遮られる。
恐る恐る振り返る俺。そこにはシロが投げたであろう銀色のお盆を涼しげな顔で受け止めている生徒会等の姿があった。
ギギギッぎくしゃくとした動きで視線を戻した俺。そんな俺を真正面から睨みつけるシロの視線に背中に冷や汗を流す。
「私の、何が足らないって?」
「……ナ、ナンデモナイデス」
シロの視線に俺はぎこちなく返す。
そんな俺にフンと鼻を鳴らして生徒会長からお盆を受け取ったシロは接客に戻っていった。
そんなシロを見送った俺たち三人。そんな中俺たち二人に視線を向けた生徒会長は
「ね?」
「いや、なんの『ね?』ですか?」
生徒会長の言葉に俺はため息をつきながら訊く。
「彼女もいるし、ある程度人手は大丈夫そうでしょ?」
「あ~……ん~……まぁ……」
俺は頷きつつ、しかし、納得がいかない気がしてム~っと唸る。
「と言うわけで二人には生徒会の手伝いをしてもらうってことでいいかしら?」
「ん~……まぁ、こっちが大丈夫そうなら……」
生徒会長の言葉に一夏が頷き、俺はも頷く。
「で?いったい何をするんですか?」
「ん~それはね~……」
俺の問いに生徒会長はニヤリと意味深に微笑み、どこからともなくセンスを取り出す。
それをバッと開くとそこには達筆な字で『シンデレラ』と浮かんでいた。