IS~無い物だらけの物語~(休載中)   作:大同爽

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第83話 開幕『シンデレラ』

 生徒会長に半ば無理やり引っ張って行かれた先で俺と一夏は渡された衣装に着替えていた。

 ――着替えたのだが……

 

「梨野くん、一夏くん、ちゃんと着た~?」

 

「「……………」」

 

「開けるわよ」

 

「開けてから言わないでくださいよ!」

 

「なんだ、二人ともちゃんと着てるんじゃない。おねーさんがっかり」

 

「……なんでですか」

 

「そりゃまあ……一応着ましたよ……着ましたけど……」

 

 生徒会長の言葉に俺はため息をつき

 

「なんで俺の衣装、ドレスなんですか?」

 

 そう、一夏の衣装がTHE王子様と言った純白の衣装なのに対して、俺のモノはスカイブルーのドレスだった。

 俺たちは現在第4アリーナの、普段ISスーツに着替えるために使われる更衣室で着替えた俺たちは互いの服装を見ながら生徒会長に視線を向ける。

 

「そりゃ需要に答えたのよ」

 

「どの層の需要ですか……?」

 

「というか大人しく着てるんだし、結構ノリノリなんじゃないの~?」

 

「さっきまでメイド服だったから着てからおかしいことに気付いたんですよ!」

 

 生徒会長の言葉に俺は叫ぶ。

 

「さ、そろそろ時間よ。はい、一夏くんには王冠。梨野くんにはガラスの靴ね」

 

「あの~、薄々感じてはいたけど、俺が王子で航平がシンデレラってことは、まさかとは思いますけど……」

 

「……………」

 

 一夏の問いに生徒会長はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「やめてくださいよ!考えただけで寒気がする!男と男の恋愛見て何が面白いんすか!?」

 

「そう?女の子は多かれ少なかれその手の腐ったモノは好きだと思うわよ?」

 

「聞きたくなかったそんなこと!やらされるこっちの身にもなってくださいよ!なっ!一夏!」

 

「えっ!?――オ、オウ!ソウダナ!」

 

「おい待てなんで声裏返ってんだ?」

 

「さては一夏くん、梨野くんの姿見て、見た目だけならアリとか思ったでしょ?」

 

「っ!?は、はぁ!?そそそそそんなわけないじゃないですか!」

 

「冗談で言ったのにその反応……まさかマジ!?」

 

「一夏、悪いが俺よくこういう格好してるけど恋愛はノーマルで――」

 

「ちげぇよ!俺もいたってノーマルだよ!」

 

 一夏と距離を取りながら言う俺に一夏が慌てて否定する。

 

「というか!俺ら脚本とか台本一度も見てませんけど大丈夫なんですか!?」

 

 話題を変える様に叫ぶ一夏に俺も感じている疑惑は一旦脇に置いておいて生徒会長を見る。

 

「あぁ、それは大丈夫。基本的にはこっちからアナウンスするから、その通りにお話を進めてくれればいいわ。あ、もちろん台詞はアドリブでお願いね」

 

 大丈夫なんだろうか、本当に。

 横をちらりと見れば一夏も同じ不安を感じているようでなんとも微妙な顔をしている。

 しかし俺たちの不安をよそに生徒会長に促されるまま俺たちは舞台袖に移動する。

 

「さあ、幕開けよ!」

 

 ブザーが鳴り響き、照明が落ちる。

 幕が開き、アリーナのライトが点灯した。

 ライトの明りに浮かび上がるのは豪勢な作りのセットの数々と、アリーナの観客席を埋め尽くす満員の観客たち。

 

『むかしむかしあるところに、シンデレラという少女がいました』

 

 聞こえてくるアナウンスは俺も知っている物語そのもので、よかった普通のシンデレラだ、と一安心――したのも束の間

 

『否、それはもはや名前ではない。幾多の舞踏会を抜け、群がる敵兵をなぎ倒し、灰燼を纏うことさえいとわぬ地上最強の兵士たち。彼女らを呼ぶにふさわしい称号……それが「灰被り姫(シンデレラ)」!』

 

 ……あれ?そんなお話だったっけ?

 

『しかし、そんな兵士たちの一人がとある国の王子と恋に落ちた。任務に従事する兵士たちにとって恋など御法度。裏切り者の彼女と王子の王冠に隠された軍事機密を狙い、今宵「灰被り姫(シンデレラ)」、そして特殊部隊「Jack」たちが舞踏会という名の死地を舞い踊る』

 

「「はぁぁぁ!?」」

 

「もらったぁぁぁ!」

 

 叫び声を上げながら現れたのは、俺と同じデザインの、しかし、俺と違い純白に銀の装飾の施されたシンデレラ・ドレスを身に纏った鈴だった。

 

「のわっ!?」

 

「あぶねっ!?」

 

「王冠よこしなさいよ!」

 

 反射的に避けた俺たち――というか一夏を睨んでからすぐに中国の手裏剣こと飛刀を投げてくる。が、それは俺には飛んでこず、一夏を狙っているように飛んで行く。

 

「死んだらどうすんだよ!?」

 

「死なない程度に殺すわよ!」

 

「意味が分からん!」

 

「なんかよく分からんけど俺は狙われてないってことでいいの?」

 

「あんたに興味ないわよ!」

 

「なるほど……一夏!武運を祈る!」

 

「あ、おまっ!キタねぇ!」

 

「ごめんなさい、王子様!そしてありがとう!私を逃がすために囮になってくれるなんて!」

 

「言ってねぇよ!」

 

 叫ぶ一夏を無視して俺は逃げる。

 鈴が襲って来た理由とか、何故か一夏しか狙われない理由とか、いろいろ訳分からんがとりあえず今は安全な所へ――と思ったのだが

 

「航平ぇぇぇぇぇ!」

 

「捕まえたぁぁぁ!」

 

 突如横合いから二人の人物が襲い掛かってきた。

 それは一夏のような王子の衣装に身を包んだシャルと本音だった。

 それぞれシャルロットは細身のレイピアを、本音は忍者のようなクナイを両手に構えていた。

 

「なっ!?シャルに本音!?なんで!?」

 

「ごめんね、航平」

 

「悪いけど、何も聞かずにそのガラスの靴を渡してくれるかな~?」

 

「へ?ガラスの靴?」

 

 俺は首を傾げながらスカートを少し持ち上げ自分の足元を見る。

 

「これ渡せばいいのか?まあそれくらいなら……」

 

 言いながら俺は近くにあったセットの石に腰掛けガラスの靴に手を伸ばし

 

『王子にとって国とは全て。その重要機密が隠された王冠を失うと、自責の念によって電流が流れます。そして、シンデレラにとって王子から送られたガラスの靴を失うことは耐えがたい苦痛。その苦痛によって電流が流れます』

 

「へ?」

 

 聞こえてきたアナウンスの内容に、しかし、ガラスの靴に手をかけていた手は止められず、ガラスの靴を脱いだ俺は――

 

「アババババババッ!?」

 

 バリバリバリ!という音ともに電流が体に流れる。

 痛いとかそう言うの通り越して熱い。しかも、電流のおかげで体の自由が利かず俺は数秒されるがままに電流を受け、やっとの思いでガラスの靴にかけていた手を外すと、電流もようやく止まる。

 

「な、なななな!?」

 

 触ってみれば心なしかチリチリになった気のする髪に、ドレスの端々に薄く煙が立っている。

 

「何今の!?」

 

『ああ!なんということでしょう。王子の国を思う心、そして、シンデレラの王子を思う気持ちはそうまでも重いのか。しかし、私たちには見守ることしかできません。なんということでしょう』

 

「いやいやいや!次されたら死ぬわ!」

 

 とにかくまた電流を流されたらたまったもんじゃない。俺は慌てて立ち上がる。

 

「悪いシャル!本音!俺も死にたくない!」

 

「ええっ!?そんな!」

 

「困る~!」

 

「俺だって困ってんだよ!すまん!」

 

「あ、ちょっと航平!?」

 

「待ってよナッシ~!」

 

 二人が叫ぶが俺はそれを無視して走り去る。

 しかし、逃げ場所などなく、気付けば俺は一夏と合流していた。

 

「こ、航平!さっきはよくも見捨てたな!」

 

「しょうがねぇだろ俺狙われてなかったんだし!」

 

「てかその様子だとお前……喰らったのか?」

 

「電流か?めっちゃ痛かった!」

 

「そうか……ってことは結局俺たちは同じ穴の狢ってわけだ!」

 

「そうみたいだな!」

 

 一夏の言葉に逃げながら頷く。

 見ると俺たちの背後からはそれぞれ武器を持ったドレス姿の鈴と箒、ラウラに加え、王子姿のシャルと本音が追ってくる。

 

「航平!ここは協力してこの場を乗り切るぞ!」

 

「おお!でもその前に一夏!一個訊いていいか!?」

 

「なんだ!?」

 

 並走する一夏に視線を向け

 

「『同じ穴の狢』の狢って何?」

 

「それ今訊くことか!?」

 

 俺の疑問に一夏が叫ぶ。――と、なんだか地響きが聞こえてきた気がする。

 

『さあ!ただいまからフリーエントリー組の参加です!みなさん、王子様の王冠とシンデレラのガラスの靴目指してがんばってください!』

 

「「何ぃぃぃぃぃ!?」」

 

 地響きの正体は数十人を超える王子とシンデレラの大群だった。しかもそれが今もなお増え続けている。

 

「織斑くん、大人しくしなさい!」

 

「航平くん、覚悟ぉぉぉ!」

 

「私と幸せになりましょう、王子様!」

 

「ガラスの靴、よこせぇぇぇぇぇ!!」

 

 俺たちに向かってくる王子とシンデレラの群れに俺たちは戦慄する。

 前からは大群、後ろからもシャルや本音たちが来ている以上逃げ場はない。

 

「ど、どうすれば!?」

 

「どうにか逃げ場は!?」

 

 と、二人で戦慄しているとき

 

「こちらへ」

 

「へっ?」

 

「はっ?」

 

 俺たちは足を引っ張られてセットの上から転げ落ちた。

 

 

 ○

 

 

 

「着きましたよ」

 

「はぁ、はぁ……」

 

「ど、どうも……」

 

 俺たちは誘導されるまま、セットの下を潜り抜けて更衣室にやって来た。

 最初に俺たちが着替えた場所で、ここなら着替えもある。

 

「えっと……」

 

 一夏が相手の顔見ようと視線を向ける。俺も、そう言えば逃げるのに必死でちゃんと相手が誰だったのか見てなかった。

 改めて確認してみれば、それはさっき一夏に何かを売り込んでいたキャリアウーマンだった。先ほど見た通りニコニコと笑みを浮かべている。

 

「あ、あれ?どうして巻上さんが……」

 

「はい。この機会に白式をいただきたいと思いまして」

 

「……は?」

 

 一夏の問いにキャリアウーマン――巻上さんはにこにこと笑顔を崩さないまま答える。

 

「いいからとっとと寄越しやがれよ、ガキ」

 

「えっと……あの、冗談ですか?」

 

「冗談でてめぇみたいなガキと話すかよ、マジでむかつくぜ」

 

口調は冷たいのにニコニコとした笑みを張り付けた顔。そのギャップに着いて行けずにいる俺たち。そんな俺たちはそのせいでそれに一瞬対応が遅れた。

 一瞬で目の前まで飛び込んできた巻上さんはそのまま一夏の腹を蹴り、その衝撃で一夏はロッカーに叩きつけられる。

 その光景に咄嗟に俺は飛び退いたが、巻上さんが俺に追撃を仕掛けてくることはなかった。

 俺は慌てて一夏に駆け寄る。

 

「大丈夫か一夏!?てめぇいきなり何しやがる!?」

 

「あーあ、クソッたれが。顔、戻らねぇじゃねーかよ。この私の顔がよ」

 

「ゲホッ、ゲホッ!あ、あなた一体……」

 

「あぁ?私か?企業の人間になりすました謎の美少女だよ。おら、嬉しいか?」

 

 そう言って再び一夏を蹴ろうとしたが、寸でで俺が一夏とともに床を転がるように避ける。

 

「……………」

 

 そんな俺たちをその女は冷たく見下ろす。

 

「おい」

 

 と、女は俺を見て言う。

 

「……881002040602」

 

「は?」

 

 突如言い始めた謎の数字の羅列に俺は一瞬呆ける。

 

「チッ……演技かと思ってたがマジだったか……たく、ふざけんじゃねぇよ、余計な仕事増やしやがって……」

 

「てめぇ何わけわかんないこと言ってんだ!?」

 

 ブツブツと愚痴る女に叫ぶ俺だったが

 

「今のテメェにゃ関係ねぇ。黙って寝てろ」

 

「っ!」

 

 直後鋭い殺気を感じた俺は飛び退くが

 

「おせぇよ」

 

 女の背中で何かが煌めいたと思った瞬間、俺は胸に鋭い痛みを覚える。直後、目の前が深紅に染まる。

 その正体は俺の右肩から左の脇腹まで、丁度俺の身体に走る傷をなぞる様に鮮血が噴き出していた。

 

「あっ……」

 

 その正体に気付いた時、俺の身体が力が抜け、ゆっくりと崩れる様に倒れる。

 

「航平!?」

 

 慌てた一夏の声が遠く感じる。

 ドクドクと胸から熱いものが溢れ反対に体の芯が寒くなっていく。

 ――あぁ…ヤバイ……死ぬ……

 朦朧とする意識の中で『死』の文字が浮かぶ。

 

「てめぇよくも航平を!!――白式!!」

 

「待ってたぜ!それを出すのをなぁ!」

 

 暗転していく意識の中で最後に耳に聞こえたのは怒りに満ちた一夏の叫びと、嬉しそうな興奮した様子の女の声だった。

 そのまま俺は意識を失った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――と思ったが、気付けば俺は真っ白な空間にいた。

もしかしたら死にかけの俺が見る走馬灯ってやつなのかもしれない。

何も無いのは、文字通り、俺の中に思い出すべき思い出がないからなのだろうか?

だからだろう、俺の意識は今しがたのことで埋め尽くされる。

 

――やべぇ

 

――くそ

 

――痛ぇ

 

――やられた

 

 何もない走馬灯のクセに、胸からあふれる血も、その痛みもリアルだ。

 と、そんな中で胸の感覚に違和感を覚えた。

 ジクジクと痛みと一緒に感じるのは俺の胸の中で何かが蠢いているような感触。

 まるで何かが外へ這い出そうとしている感触。

 

ずぷっ

 

 直後、〝それ〟は傷口から現れた。

 小さな棒切れの先のようなそれが、〝人間の指〟だと認識するよりも早く

 

 ずっ

 

「え……?」

 

 その光景に俺は胸の痛みも忘れて呆ける。

 俺の胸から這い出てきたそれは〝人間の右腕〟だった。

 

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