IS~無い物だらけの物語~(休載中)   作:大同爽

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第85話 それぞれの思惑

 

「失礼します」

 

 重厚なドアを開いて学園長室に入ってきたのは楯無だった。

 

「ああ、更識くん。ちょうどよかった」

 

 楯無を迎えたのは穏やかな顔をした初老の男性だった。

 表向きはその妻が学園長を務めているが、実務に関してはこの男性が取り仕切っている。

 

「それでは報告をお願いしますね」

 

 そう言って総白髪の初老の男性、IS学園の実質の運営責任者たる轡木十蔵が楯無に促す。

 

「まず、織斑一夏くんに関してですが、彼のIS訓練については順調です」

 

 いつもの茶目っ気溢れる様子はなりを潜め、真面目な顔で楯無は言う。

 

「正直、驚きました。一度教えたことを数回の反復で覚えるところや、理解の早さなど今まで見て来たどんな女子よりも上ですね」

 

「そうでしょうね。あの織斑先生の弟ですから」

 

 どこか含みのある言葉に、しかし、楯無は深く追求することなく続ける。

 

「次に亡国機業ですが、確認しただけでも二機のISを保有しています。うち、一機はコアを抜き取っていたのですぐに再度の行動は起こせないでしょう」

 

「なるほど。では、一番の案件を」

 

 言いながら轡木は一つ咳ばらいをし

 

「いかがでしたか、梨野航平君は?」

 

「………正直、わかりません」

 

 轡木の言葉に楯無は少し考え口を開く。

 

「記憶を失くした状態の彼は強いてあげるならしぶとく打たれ強い点くらいで、それ以外は本当に素人に毛が生えた程度でした。でも、あの時の別人のような彼、そして、その後のいつもの彼に戻ってからも……」

 

 楯無は少し言葉を選ぶように考えた後

 

「はっきり言って、彼は得体が知れないです」

 

「得体が知れない?」

 

 楯無の言葉に轡木は首を傾げる。

 

「全力ではなかったとはいえそれなりに本気で、仕留めるつもりの一撃でした。それを、訓練機でしかも片手でいとも容易く受け止められました。恐らく今の彼の実力は専用機持ち達の中でも群を抜いている。下手をすれば国家代表クラス……しかも――」

 

 そこで楯無は一度言葉を区切り、真剣な表情で轡木の顔を見据え

 

「彼は、自分の全てを思い出したわけではありません。その実力はいまだ彼の記憶の奥底です。つまり、私が専用機持ち達の中でも群を抜いていると感じた今の彼の力も、彼の全力のほんの一部分かもしれないということです」

 

「なるほど……」

 

 楯無の言葉に轡木は頷く。

 

「彼の処遇、どうしますか?」

 

 轡木に楯無は問う。

 

「今日の一件で亡国機業の言動から、記憶を失う前の彼は少なくとも組織と何らかの接点を持っています。最悪、彼自身が構成員の一人という可能性も……」

 

 楯無の言葉を受け、轡木は

 

「現状維持でお願いします」

 

「それは、今後も監視をしつつ、もしもの時は……ということですか?」

 

「ええ。そういうことです。まあ、彼の監視は主に〝彼ら〟にお任せしてください。その為に来ていただいているわけですからね」

 

「……わかりました」

 

 轡木の言葉に少し思うところはあるようだったが、楯無は頷き

 

「でも、彼がこの学園の敵となるのであれば、私はこの学園の生徒の長として行動します」

 

「ええ。それで構いませんよ」

 

轡木が頷いたのを見て楯無は報告の続きに戻るのだった。

 

 

 ○

 

 

 

「そう……あの子に会ったの」

 

「ああ……」

 

 とある場所、とある高層マンションの最上階の一室でオータムは対面のソファーに腰掛ける金髪の女性の言葉に頷く。

 

「どうすんだよ、スコール?」

 

 オータムの問いにスコールと呼ばれた金髪の女性は

 

「そうね。正直完全に忘れていたのは予想外だったけど、あなたの話を聞けば戻す算段も付いたわ」

 

「てことは……」

 

「近々、私たちのよく知る〝彼〟に会えるかもしれないわね」

 

 スコールが微笑みながら言うと、オータムは嫌そうに顔を顰める。

 

「あら、嫌なの?」

 

「だってよぉ……あいつといいエムのやつといい、ガキのクセに目上の人間を敬おうとしねぇし……」

 

「ほう?お前、私よりも目上だと思っていたのか。面白い冗談だな」

 

 オータムの言葉に背後から声が聞こえる。

 

「っ!テメェ!」

 

 オータムは振り返りながら叫ぶ。

 オータムの視線の先には部屋の入口の扉にもたれるように立つ少女の姿があった。

 

「エム、部屋で待機するように言ったはずだけど?」

 

 少女――エムに向けてスコールは訊く。

 

「〝あいつ〟に会ったらしいな」

 

 が、その問いに答えずにエムはオータムに問う。

 

「あぁん?それが何だって言うんだよ?」

 

「どうだった?」

 

 睨み返すオータムにエムはさらに問う。

 

「どうもクソもあるか。あの野郎、何一つ覚えていなかった。私らの事も、何もかも忘れ去ってやがった。自分が何者なのかもな」

 

「………そうか」

 

 オータムの答えにエムはそう短く応じるとそのまま踵を返す。

 

「エム」

 

 そんな彼女にスコールが呼びかける。エムは振り向かないまま足を止める。

 

「次の作戦では特にあなたに働いてもらうわ。そのつもりでいて頂戴」

 

「……わかった」

 

 スコールの言葉にエムは短く頷き部屋を後にする。

 

「相変わらず愛想のねぇガキだな」

 

「あら、私には楽しみで楽しみでしょうがないって見えたわよ」

 

 それ見送ったオータムが舌打ちをしながら言うとスコールは微笑みながら言う。

 

「さ、オータム。あなたも今日は疲れたでしょう?ゆっくりお風呂に入って疲れを癒しなさい。次の作戦にはISに乗れなくてもやってもらうことはあるわ」

 

「ああ」

 

 スコールの言葉にオータムは頷き、部屋を後にする。

 オータムを見送ったスコールはゆっくりと立ち上がり一人窓辺に立つ。

 窓の向こうには夜空と、その下には街の光が煌めいている。

 それを見ながらスコールは人知れず笑みを浮かべ

 

「エムじゃないけど、私も楽しみね。ねぇ…ダウンプーア?」

 

 誰かに問いかけるようにそう言うのだった。

 

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