「なっ!?一夏さん、誕生日は今月なんですの!?」
「お、おう」
寮での夕食でいつものメンバーで食事をしながら談笑をしていると、突然セシリアが声をあげた。
話題の過程でなんとなく誕生日の話題になったのだが、そんな時一夏が「そう言えば、俺もうすぐ誕生日だ」と言う爆弾を投下したのである。
一夏本人は、そんなに騒ぐことか?みたいな顔で首を傾げてる。
「へ~、いつなの?」
「九月の二十七日だよ」
「へ~…ってことは日曜日だね」
シャルロットがカレンダーを頭の中に描いているのか、うんうん頷く。
「一夏さん、そういう大事なことはもっと早く教えてくださらないと困りますわ」
「え?お、おう。すまん」
憤慨するセシリアに一夏は困惑しながら頭を下げる。
「とにかく二十七日の日曜日ですわね」
セシリアは純白の革手帳を取り出すと、二十七日に二重丸を書き込んだ。
「お前はどうしてそういうことを黙っているのだ」
シャルロットの隣でラウラがむすっとした口調で言う。
「え?いや、別に大したことじゃないかなーって」
「ふん。しかし、知っていて黙っていたやつもいることだしな」
「「うっ!」」
ラウラにギロリと睨まれ一夏のダブル幼なじみが固まる。
ちなみに俺も知っていたがそれを言うと藪蛇なので黙っておくとしよう。
「べ、別に隠していたわけではない!聞かれなかっただけだ」
「そ、そうよそうよ!聞かれもしないのに喋るとKYになるじゃない!」
箒と鈴はそんな言い訳をしながらパクパクとご飯をほおばっている。
「そう言えばナッシーは誕生日いつなのー?」
と、ぼんやり聞いていた俺の横で本音が訊く。
が、その問いに周囲の空気が変わったのを感じた。なんと言うか、触れちゃいけないこと触れちゃった!みたいな。
「え?俺?」
「の、のほほんさん、それは……」
首を傾げる俺に一夏がビミョーな顔で何か言いかけるが
「2月3日」
『えっ!?』
「――ってことになってる」
『……………』
俺の言葉に周囲の空気が凍り付いたのがわかった。ん?なんで?
「あ~……」
そこで何か気付いたらしい本音もビミョーな顔をして
「なんか…ごめんねぇ……」
「え?何が?」
「だって、ナッシーは記憶が……」
「あぁ~……」
俺もそこでこの空気の正体に気付く。
「別に気にすんなよ。そういうふうにされる方が気になる」
俺はため息をつく。
俺の言葉にその場の面々が顔を見合わせ、気を取り直した様子で頷く。
「でも、なんで2月3日?」
ふと気になった様子で鈴が訊く。
「あぁ、それはその日俺が拾われたからだよ」
「拾われた?」
俺の言葉にシャルロットが首を傾げる。
「俺がIS学園の敷地内で見つかった日。まあちゃんと意識が戻ったのはその一週間後だったけど」
「なるほど……」
みんな納得したように頷いている。
「じゃあ次の2月3にはお祝いしないとね~」
「そうだな、大事なお兄ちゃんの誕生日だ。盛大に祝ってやらないと」
本音の言葉にラウラが頷く。
「2月3日か……よし、腕によりをかけて美味しい巻き寿司をご馳走しよう」
「ケーキは大豆で作らないとね」
と、箒と鈴が言うが
「……ん?なんで?」
「「「「え?」」」」
俺の言葉に一夏、箒、鈴、本音がポカンと首を傾げる。
「え?だって……2月3日といえば巻き寿司と大豆だろ?」
「「「「ん~?」」」」
一夏の言葉に今度は今度は俺を含める四人が首を傾げる。
「あ、そうか!」
と、そこで箒がポンと手を打つ。
「節分は日本の文化だ」
「あ、そっか。つい当たり前になってた」
「そうね。私もつい失念してたわ」
「アハハ~、うっかりうっかり」
と、四人が笑い合う。
「なんですの、その『せつぶん』というのは?」
「あぁ、日本の文化でな。『節分』というのは季節の節目の事でな、各季節の始まりの日でそれぞれ、立春・立夏・立秋・立冬と言って、その前日のことを言うんだ。その中でも立春の前日、2月3日のことだけ言うことも多いし、今回の場合もそれだな」
「昔は季節の変わり目には悪いモノが生まれるって信じられてたからそういうモノを払うための行事だな。そう言う悪いモノを『鬼』って見立てて、その鬼を祓うために炒り豆、大抵は大豆を投げて追い払い、その年の運がいい方角――恵方を向いて太巻きを無言で食べるといいってされてるんだ」
「へぇ~、なるほど」
「面白い文化ですわね」
シャルロットとセシリアが納得したように頷く。
「しかし、なんで豆を投げるんだ?豆に悪いものを祓うようにスピリチュアルな力でもあるというのか?」
「ん~、いろいろ諸説あるらしいけど『穀物には生命力と魔除けの呪力が備わっている』とか魔の目って書いて『魔目』って言う語呂合わせで鬼の目に投げつけて鬼を滅する『魔滅』に通じてる、とかいろんな説があるよな」
「へぇ~」
ラウラの問いに答える一夏の言葉に俺も感心して頷く。
「まあそんなわけで日本人にとって2月3日といえば巻き寿司と大豆なんだよ」
「なるほど。まあ祝ってくれるだけでうれしいからいいや。そう言うお祝いの仕方でもいいけど、普通のお祝いの仕方で俺は十分だよ」
「そっか」
「まあ航平さんの誕生日は当分先ですのでおいおい考えるとして、目下は一夏さんの誕生日ですわね」
「ああ。一応、中学の時の友達が祝ってくれるから俺の家に集まるんだけどみんなも来るか?」
「も、モチロンですわ!」
「何時からだ?」
「えーっと、四時くらいかな。ほら、当日って〝あれ〟があるだろ?」
一夏の言葉に全員「そういえば」と言う顔をする。
一夏の言う〝あれ〟とはISの高速バトルレース『キャノンボール・ファスト』のことだ。本来なら国際大会なのだが、IS学園があるここでは少し状況が違う。
市の特別イベントとして催されるそれに、学園の生徒たちは参加することになる。
まあ専用機持ちが圧倒的に有利なので、一般生徒の参加する枠と専用機持ち限定の枠に分かれている。訓練機を貸し出してもらっているが専用機ではないので俺は一般枠で出場する。
学園外でのIS実習となるこのイベントでは、市のISアリーナを使用する。臨海地区に作られたそれはとてつもなくでかく、二万人以上を収容できるらしい。
「なんか俺だけ仲間外れみてぇ」
しょんぼりとしながら椅子の背もたれに体を預ける。
「まあまあ、仕方ありませんわよ。ほとんど航平さん専用になっているとはいえ、航平さんが使っているのは訓練機の『打鉄』ですもの」
「まあそうだけどな」
セシリアの言葉に俺は頷く。
「私も一般枠だし一緒にがんばろー」
「はぁ、僕も航平と競いたかったなぁ」
と、本音がニパーッと笑いながら言い、シャルロットが残念そうに言う。
「ま、当日はお互い頑張りましょう、ってことで」
「終わればパーティーなわけだしな」
鈴とラウラが言い
「ま、俺も頑張るし終わったらみんなの応援に行くよ」
「おう」
俺の言葉に一夏が頷いたのだった。