「まー、キャノンボール・ファストのことは置いておいて――ねぇ、一夏の貸し出しってまだなわけ?」
と、鈴がふと思い出したように聞く。
「今は抽選と調整してる。もう少し待ってくれ」
「ふーん……」
一夏が答えると鈴はなんでもなさそうに麻婆豆腐を食べるが、たぶん内心興味津々なんだろうな……。
「ああ、そういえばみんな部活に入ったんだって?」
と、一夏もふと思い出したように言う。
一夏の部活貸し出しが公表されると同時にみんな何かしらの部活に所属した。
「私は最初から剣道部だ」
憮然と答えてるが、箒って確か一学期はほとんど幽霊部員だったんじゃなかったっけ……?まあ最近はちゃんと部活に顔を出してるらしいが……。
「鈴は?」
「ら、ラクロスよ」
「へぇ!ラクロスか!似合いそうだな!」
ラクロス……なんか網みたいなのでボール投げ合うやつだっけ?
「ま、まあね。あたしってば入部早々期待のルーキーなわけよ。参っちゃうわね」
さすが専用機持ちだけあって身体能力は高いようだ。グランドを走り回りながらステッキを振り回す鈴の姿は確かに似合っていた。
「セシリアは?」
「わたくしは英国が生んだスポーツ、テニス部ですわ」
テニス……あの平たい網みたいなのでボールを打ち合うあれか。
「へえ。もしかしてイギリスにいた時からやってたとか?」
「その通りですわ。一夏さん、よろしければ今度ご一緒にいかがですか?」
「んー、俺テニスってやったことないんだよなぁ」
「で、でしたら!わ、わたくしが直接教えてあげてもよろしいですわよ?と、特別に」
期待した様子で言うセシリアだったが、それに対して一夏は普通に「機会があったら頼むよ」と流していた。
「そういえばシャルロットもなんか部活入ったんだっけ?」
「うん、料理部にね」
「へ~…料理部かぁ~。でもシャルロットってもともと料理上手いのに」
「まあ、レパートリーが増やしたくて。またよかったら味見してくれる?」
「いいよ。シャルの料理なら期待を裏切らない出来になりそうだ」
俺の問いに答えたシャルに俺は頷くとシャルは嬉しそうに微笑んだ。
「そう言うアンタはどうなの?」
「え?俺?」
鈴の問いに俺は首を傾げる。
「あんたも強制入部させられたじゃない」
「どうですか、ロボット研究部での活動は?」
「あぁ……」
鈴とセシリアの言葉に俺はどう答えたものかと考え
「毎日毎日、あのシロちゃんにこき使われてるよね~。私とは全然遊んでくれないのに、シロちゃんの手伝いはするんだもんねぇ~?」
「うっ……」
本音の言葉に俺は口籠る。
「それは……確かに申し訳ないと思ってるけど――」
「ツーン」
俺の言葉を聞かずに本音がそっぽを向く。
「聞いてくれ!そりゃ俺だってやりたくないけどさ!でもしょうがないだろ!?俺だってあんな憎たらしいチビが――」
「誰がチビだワレェ」
「あいたぁ!?」
俺がこれまでのあいつからの強制労働を思い出しながら怒りに震えていると、突如頭上から聞こえた声とともに俺の後頭部に衝撃が走る。
「何すんじゃこの野郎!!」
「何?なんか文句あんの?」
言いながらシロは自身の左手に持つお盆からナイフをスッと構える。その殺気に俺の背筋に寒気が走る。
「なんでもないです……」
「フン」
鼻を鳴らして去って行くシロ。そんな彼女の背中を見送り――
「……こえぇ……」
俺は息をついて、そのまま机に突っ伏す。
「もうヤダ~……部屋も一緒なんだからこんなところでまで会いたかねぇよ……」
「アハハ、お疲れ様」
俺にシャルが労いの言葉を掛ける。
「そんなに会うのが嫌なら消灯ギリギリまで私の部屋来る~?かんちゃんもいるしおやつでも食べてのんびりしよ~」
「……そうしようかな」
「っ!じゃ、じゃあ僕も行ってもいいかな?」
「いいよ~。みんなでワイワイ楽しも~!おりむーたちは?」
「えっ?俺は……」
一瞬一夏が俺の顔を見て
「俺は、ちょっと今日の課題がまだ終わってないから、やめとくわ」
「そっか~、頑張って~」
一夏の言葉に本音が頷くのを見ながら、俺は夕食を再開した。
○
「ふぅ……」
シャルロット、本音、そして航平が一足に先に帰っていくのを見ながら一夏は見送り、ため息をつく。
「……で?」
「え?」
「いい加減白状しなさいよ」
「は、白状って?」
そんな一夏に四人がジッと視線を向ける。
「それでごまかしているつもりなんだな」
「あんた、最近おかしいわよ」
「より具体的に言うと航平に対してよそよそしいぞ」
「一体何があったんですの?」
「うっ……それは……」
四人からの追及に一夏が言い淀み
「………詳しいことは口止めされてるから言えないんだが、前に学園祭の時の襲撃で航平の記憶が戻りかけたってあったろ?」
「あぁ、らしいわね」
「どんな感じだったかとかは知らないけど」
「なんかちょっとの間だけですぐに元に戻ったんだったか」
「お兄ちゃんじゃないお兄ちゃんか。少し気になるな」
四人が頷き
「ていうか、箝口令敷かれるほどって、あいつの正体って何者なのよ?」
「何かわかったんですの?」
「いや、ほとんど何もわからなかった。航平自身も少し思い出しかけたけど、結局よく分からなかったみたいだし」
ただ……、と一夏は一拍置き
「何というか、わからなくなったんだ」
「わからなくなった?」
一夏の言葉に箒が言い、他の三人も首を傾げる。
「あの時、記憶の戻りかけた航平は、俺たちの知ってる航平とは違った。あの時の航平の目……俺を見る目には、何の感情も見えなかった」
一夏はその時のことを思い出しながら呟く。
「俺を視界にとらえているのに、まるで俺に興味を示さない、何の感情も見えない薄ら寒い冷たい瞳……。――あの航平が敵なのか味方なのかはわからない。ただ、一つ理解できたのは、あの航平は俺のことを興味も関心も脅威も感じていない、無の感情で見てたってこと。俺たちの知ってる航平と、あの時の航平、そのギャップが俺にはなんだか異様なものに思えたんだ」
言いながら一夏は視線を上げる。
「もちろん俺は航平のことを信じてる。でも、あの時の航平を見てしまうと、どうしても考えちまうんだ。いつか航平の記憶が完全に戻った時、航平は俺たちの味方なのか、それとも、敵なのかって……」
「なるほど……」
一夏の言葉に四人が頷く。
「まあ、わたくしたちは航平さんの様子を実際に見たわけじゃないので何とも言えませんが」
「ほどほどで折り合いをつけた方がいいわよ」
「いまはまだ航平も一夏の様子には気付いてないようだが」
「あんまりあからさまだといつか避けられてるって気付かれるぞ」
「ああ……」
四人の言葉に一夏は頷くが、いつもの覇気は無かった。