あらかじめご了承ください。
「どういうことだ」
「いや、どういうことって言われても……」
時間は放課後、場所は剣道場。今もまたギャラリーは満載で、俺たちは昼間の篠ノ之さんの宣言通り、篠ノ之さんと手合わせをしていた。俺の前に一夏が先に手合わせを開始してから十分。今、一夏は篠ノ之さんに怒られていた。剣道のルールを知らない俺でも結果はわかった。一夏の負けである。面具を外した篠ノ之さんの目じりは吊り上がっている。
「どうしてここまで弱くなっている!?」
「受験勉強してたから、かな?」
「……中学では何部に所属していた」
「帰宅部。三年連続皆勤賞だ」
それって毎日、何もせずに家に帰ってたってだけなんじゃ?
「――なおす」
「はい?」
「鍛え直す!IS以前の問題だ!これから毎日、放課後に三時間、私が稽古をつけてやる!」
「え。それはちょっと長いような――ていうかISのことをだな」
「だから、それ以前の問題だと言っている!」
これは何を言ってもダメそうだ。ISのことは山田先生あたりを頼るしかないかもしれない。
「まったくお前と言うやつは。……よし、次は梨野。お前の腕を見せてもらう」
「……俺、剣道やったことないんだけど」
「それでもかまわん。好きに動けばいい。型も気にしなくていい」
どうやらやることは決定事項のようだ。
俺はしぶしぶ立ち上がり、防具を着け、見よう見まねで竹刀を構える。
「初めてにしてはなかなか様になっているではないか」
「そりゃどうも」
「それでは始めよう。好きな時にかかってくるがいい」
こうなったら俺も意地だ。なんとしても、篠ノ之さんをぎゃふんと言わせてやる。
「………ふっ!」
俺は床を力強く蹴り、振りかぶった竹刀を篠ノ之さんに叩き込――もうとするが、篠ノ之さんは当たる寸前によけてしまう。
篠ノ之さんから距離をとって、真正面から篠ノ之さんを見つめる。
「……はあっ!」
「!?」
パアンッ。
俺の頭へと振り下ろされた竹刀を俺は竹刀で受け止める。速かった。ものすごく速く、もう少し反応するのが遅れていたら、今、俺が受け止めている竹刀は俺の頭へと叩き込まれていただろう。
「………っ!」
そこから先はほとんど無意識、条件反射だった。
上から篠ノ之さんの竹刀で抑えられている俺の竹刀。俺はそれを持つ手を、今まで曲がっていた肘を伸ばした。それによって、俺の竹刀は斜めになり、上から力をかけていた篠ノ之さんの竹刀は俺の竹刀を滑り、篠ノ之さんの体と共に俺の右側へと逸れて行く。
「!?」
篠ノ之さんの驚愕しているのがなんとなくわかる。俺もぶっちゃけ何が起きているのかわからない。
俺はそこから右足で一歩踏み出し、篠ノ之さんの横を通って篠ノ之さんに背中を向ける形になる。篠ノ之さんは俺の後ろでバランスを崩したのか、屈む姿勢になっていた。
「…っ!」
俺はそこから踏み出した右足を軸に回転し、回転の勢いをのせ、竹刀を篠ノ之さんの頭に叩き込もうと振りかぶる。
「はああああ!」
「!? せい!!」
パアンッ!
大きな音がし、気が付いたら俺の手から竹刀が消えていた。屈んだ姿勢から体をこちらに向け、竹刀を振り上げた姿勢で止まっている篠ノ之さん。
ガタタッ
俺の後ろから何かが床に落ちる音がした。振り向くと、さっきまで俺が持っていた竹刀だった。
どうやら俺が竹刀を振り下ろす瞬間に篠ノ之さんも斬り上げ、俺の竹刀を弾き飛ばしたらしい。
「……参りました」
完全に俺の敗北である。負けを認めるしかない。
「………」
無言のまま立ち上がり、面具を取る篠ノ之さん。俺も面具を取る。
「……梨野。お前いったい……」
「?」
「いや、なんでもない。お前もこれから一緒に見てやる。二人ともこれから放課後は私が三時間じっくりとみてやるからな」
そう言って、篠ノ之さんは更衣室に行ってしまった。
「すごいなお前」
「何が?」
去っていく篠ノ之さんをぼんやりと見送っていた俺に一夏が言った。
「だって、箒って去年、剣道の全国大会で優勝してるんだよ」
「……まじで?俺、そんな相手と戦ってたの?」
「おう。でも、お前すごいよ。もう少しで箒に一太刀当てたぜ」
「あんなのまぐれだよ。まぐれ」
俺は苦笑いを浮かべる。あの時はただ勝手に体が動いただけだ。偶然に過ぎない。
「織斑くんてさあ」
「結構弱い?」
「ISほんとに動かせるのかなー」
「梨野くんはもう少しだったんだけどね」
「でも負けちゃったしね」
「二人ともあれで大丈夫なのかな」
ひそひそと聞こえるギャラリーの落胆の声。ああ、やっぱり男が女に負けるのはみじめだ。
「でだ。篠ノ之さんにはなんでか稽古を付けられることになったし、ISのことは山田先生あたりに頼もうと思うんだけど、どうだ?」
「そうするか」
俺は聞こえてくる落胆の声を振り払うように提案し、一夏もうなずく。
(朝のトレーニングももっと気合い入れて頑張るか)
○
(あの、梨野航平という男……)
剣道場で着替えをしながら、箒は先ほどのことを考えていた。
(あいつの動きはなんともおかしなところだらけだった。竹刀の構え方、足運びなどの動きがすべて素人のものだった。にもかかわらず、動きの端々に熟練者のような動きが見える。そして何よりもあの最後の……)
そこで、箒はあの時の航平の動きを思い出す。自分の竹刀を受け止め、そこから流れるように箒の竹刀を滑らせ逃れた。
(もしもあの時私の反応がもう少し遅れていたら……)
その先を想像し、言葉にすることをためらってしまう。
(それに比べて一夏のやつは大体、たるんでいる。明らかに一年近くは剣を握っていない。でなければあんな風に、私に負けるはずがない)
航平と比べるように一夏との手合わせを思い出す。六年ぶりにあった幼なじみは自分の予想をいい意味でも悪い意味でも上回っていた。
六年前よりも大人っぽくなり、ただの生意気だった瞳はわずだが大人の男を感じさせるものに変わっていた。
(しかし、たるんでいる。恥ずかしくはないのか。まったく)
そうは思うものの、六年ぶりにあった幼なじみへの思いは止まらない。
自分のことを覚えていてくれたこと。一目で自分だとわかってくれたこと。剣道の全国大会で優勝したことを知っていたこと。
それらのことがうれしくないはずがない。
「…………はっ!?」
ふと、姿見に映った自分の顔を見て我に返る。
(と、とにかく、明日からは放課後は特訓だ。せめて人並みに使えるようになってもらわなくては困る)
箒は腕を組み、うんうんとうなずく。
(そ、それに、放課後に一夏と二人っきりに……)
「いや!そ、そのようなことは考えてはいないぞ!大体、梨野だっているんだ!二人っきりなどでは断じてはない!」
そこまで言ったところで、ふと、残念に思えてしまう。
「……!! いやいやいや!決して残念なんかではない!!残念なんかではないんだ!!」
だだっ広い更衣室で一人、誰に言い訳しているのかもわからず、声を荒げる箒だった。
さあさあ、もうすぐセッシーとのバトルだ。
バトルシーンの描写のへたくそな私にどこまで描けるか、今から頭抱えてます。