「ふふ、さすがはエムね。あれだけの専用機持ちを相手に、よく立ち回るものだわ」
サングラス越しに襲撃者――エムの戦闘を見ながら、その女性は楽しそうに目を細めた。
「さて、そろそろ彼のところに行こうかしらね」
ふう、とため息を漏らすその女性の背に声がかけられる。
「あら、いったい誰に会いに行こうって言うのかしら?」
女性は振り返らない。
「あらこんなところで出会うとは。IS『モスクワの深い霧(グストーイ・トゥマン・モスクヴェ)』だったかしら?あなたの機体は」
「それは前の名前よ。今は『ミステリアス・レイディ』と言うの」
「そう」
女が振り返る。刹那、煌めくナイフが投げられる。
「マナーのなっていない女は嫌われるわよ」
瞬間的にISを展開した楯無は、それを蛇腹剣『ラスティー・ネイル』で叩き落とし、そのまま鞭のようにしなるそれで女性を狙う。
「あなたこそ、初対面の相手に失礼ではなくて?」
サングラスを捨てると同時に女性は自身のISを腕部部分展開して蛇腹剣を受け止める。
「『亡国機業』、狙いは何かしら?」
「あら、言うわけないじゃない。せっかくいいシチュエーションができたっていうのに」
「私の大事な学園を襲う理由、無理矢理にでも聞き出してみせるわ」
「それができるかしら?更識楯無さん」
「やると言ったわ、『土砂降り(スコール)』」
蛇腹剣を手放し、同時にランスを呼び出す。
四連装ガトリング・ガンを内蔵しているそれは、形成するなり一斉に火を噴いた。
ドドドドドッ――!!
「…………」
正確に相手を捉えた楯無だったが、その顔に余裕の色はない。
スコールの姿は金色の繭に包まれていて、弾丸は一発たりとも届いていなかった。
「やめましょう」
「…………」
「あなたの機体では私のISを突破できない。わかっているでしょう?」
「勝てないから、倒せないから、戦わない。それは賢い選択なのかもしれない――けれど!」
楯無の水のヴェールを刃に変えて、一気に攻勢へ転じる。
「私は更識楯無。IS学園生徒会長、ならばそのように振る舞うだけ……!」
水のドリルを纏ったランスによる高速突撃をひらりとかわして、スコールはまたナイフを投げる。
「そんなもの!」
水の刃がナイフを切り裂く。しかし、その瞬間ナイフが大爆発を起こした。
「!?」
もうもうと黒煙が立ち込める。
ISにこの程度の視界阻害はないに等しいが、楯無のハイパーセンサーには逃走するスコールの姿が見えていた。
「くっ……これで二回連続で逃がしたわね……」
はぁ…とため息をつく楯無。
「さっき、誰かに会いに来たような言い方だったわね………っ!まさか!?」
少し考えこむ様子を見せた楯無はハッと何かに気付いたように慌ててポケットから携帯を取り出す。
「あ、本音ちゃん!?彼は今どこに――え?いないってどういうこと!?」
電話の向こうの本音の言葉に楯無は驚きに固まる。
「そんな……まさか、彼女たちの目的は!」
楯無は慌てて移動し始めた。
○
「はぁ…!はぁ…!はぁ…!」
上空を飛んで行く一夏たちを視界に入れながら俺は走っていた。
視界会場から逃げようと殺到する人の間を抜け、やっとのことで会場から出ることができた。
人であふれかえる場所ではISを起動できないし、そもそもアリーナにはシールドがはられているので建物の中から出ることができない。
仕方なく人の波をかき分けて出て来たがお陰で時間がかかってしまった。
「と、とにかく急いで――」
「きゃっ!?」
と、慌てて走っていたせいで曲がり角から出て来た人物に気付かなかった。
「す、すみません!怪我無かったですか!?」
「ええ、大丈夫よ」
そう言ってその俺がぶつかってしまった金髪の女性は微笑みながら俺の差し出す手を取って立ち上がる。
その人物は優し気な大人な雰囲気で、その顔はどこかで見たような不思議な見覚えがあった。
「あら、そんなに情熱的に見つめられてしまうと照れてしまうわ」
「あっ!す、すみません!」
女性の言葉に俺は慌てて頭を下げる。
「あの……」
「何かしら?」
「どこかで、会ったことありませんか?」
「まあ、フフッ、それってナンパかしら?」
「ち、違います!?」
微笑む女性に俺は慌てて否定する。
「その……なんだかあなたとは初めてあった気がしなくて……」
「そう……」
俺の言葉に女性は頷き
「残念だけどあなたとは初対面よ」
「そ、そうですか……すみません、変なこと言って!じゃあ俺は急ぐんで!ぶつかっちゃってすみませんでした!」
女性の言葉に俺は少し残念に思いながら、自分が今急いでいたことを思い出し慌ててお辞儀をして一歩踏み出し――
「――ええ、そうね。はじめましてね、〝あなたとは〟」
「え?それどういう――」
通り過ぎざまに女性が言った言葉が気になり、慌てて足を止めた俺は振り返ろうとして――
「がはっ!?」
背後から何かに殴られ隣のビルの壁に叩きつけられる。
その衝撃に息が止まる。頭を揺さぶられて意識が遠のく。
意識が深い闇の中に落ちていくその一瞬前に
「フフ、感動の親子の再会、ね……」
女性の微笑みとともに聞こえた声を最後に、俺の意識は暗転した。