「はっ……」
気付いた時、俺は不思議な空間にいた。
「っ!?……ここはっ!?」
慌てて体を起こし見渡せば、ここは以前にも一度来たことがある。そう、あれは確か学園祭の時に見た場所だ。あの時と違ってただの白い空間ではなく、どこか淀んだ雰囲気で、そこら中に鎖が広がっている。
「って、裸ぁ!?」
自分の身体を見下ろした時、何故か自分が全裸だったことに気付き、咄嗟に体を丸め、両手で胸を隠す。
「オイオイ、仕草が完全に女の子になってるよ!」
「っ!?」
突如背後に感じた人の気配とともに聞こえた声に、俺は慌てて振り返る。
「お前は……!オータムに斬られた時に出て来た――!」
「どーも、もう一人の君です」
「っ!?」
目の前の人物――〝もう一人の俺〟の言葉に俺はもう一度周りを見渡し
「ってことは、ここは…!?」
「君の『心の中』だね」
軽い調子で言った〝俺〟はそのまま肩を竦め薄ら笑いのまま少し眉を顰める。
「しかし、今回はまずいよ。少し傷が派手に開きすぎた。今回ばかりは君の記憶が戻ってしまうかもしれない。ここには以前の君を知る人物がいるしね」
言いながら〝俺〟は振り返るように後ろを見る。
つられて俺もそちらを見ると、〝それ〟がいた。
最初からそこにいたのか、何故〝それ〟に気付かなかったのかわからない。
〝それ〟は鎖でがんじがらめに拘束された人のような何か、真っ黒な影のようなものが渦巻いていた。
「……………なんだよアレ?」
「あれは、君の『悪意』だ」
言いながら〝俺〟は俺に視線を戻す。
「『あれ』と『俺』と『君』が一つになることで、君は前の君に戻る」
「???」
意味が分からず首を傾げる俺に「そうだねぇ…」と〝俺〟は少し考える素振を見せ
「君は『理想』で、俺は『逃避』……んで、あれが『現実』ってところかな……」
「『理想』に『逃避』に『現実』……?」
〝俺〟の言葉に改めてみれば、気付けばその陰を中心に淀んだ闇のようなものが広がっている。
「最後になりそうだから教えておくよ」
と、〝俺〟が俺の方に歩み寄って言う。
「君が忘れたかった事、記憶」
「何だよ……俺が忘れたかった事って……?」
俺の問いにフッと口元に笑みを浮かべた〝俺〟は――
「『××××××××××××××××××』――君は、この〝事実〟を知って自らの死を選んだ」
その言葉の意味が一瞬俺にはわからなかった。
「驚きだよね。それこそ、自分と言う存在を揺るがしかねない。現に自分というモノを見失ったからこそ、こうなってるわけだしね」
そう言って〝俺〟は笑顔を浮かべた。
「今まで、楽しかったね!」
その笑顔は初めて見た気がする。今までの冷めた薄ら笑いではなく、心の底からの笑顔。
「『夢』の中で生きられて、でも、もうそれも醒める」
バキンッ!
〝俺〟の背後で影を縛っていた鎖が切れる。
うずくまっていた〝それ〟はゆっくりと立ち上がり、俺に歩み寄る。そして、〝それ〟は手を伸ばし、俺の肩を掴む。
ゾクリとした冷たい感覚とともに〝それ〟が掴んでいる方から冷たい感覚が徐々に全身に広がっていく。
見れば〝それ〟から泥のような闇が広がっていく。
――動けない。
――振りほどけない。
――俺はただそれが広がっていくのを見ていることしかできない。
「これからは――」
〝それ〟に飲み込まれる瞬間、〝俺〟の声が聞こえた。
「――現実で生きていくんだ」
その言葉を最後に、俺の意識は闇に呑まれていった。
○
「あら、起きたのね」
自身の目の前でベッドから上体を起こした男にスコールは微笑みながら言う。
「ナノマシンが効いたのね。まあそれでも丸2日も眠ったままだから冷や冷やしたわ」
言いながら枕元に歩み寄ったスコールは微笑む。
「エムの行動は少しやり過ぎだったわ、ごめんなさいね」
「………………」
「……? どうかしたの?」
自分の言葉に返事をせず、まるで自分の身体の感覚を確かめる様に両掌を握ったり開いたりし、しげしげと手を見つめる男に、スコールは怪訝そうに訊く。
「どこかおかしいかしら?それともまだ起き抜けでぼんやりしてるのかしら?」
「……いや」
スコールの言葉に初めて返事をし、視線を彼女に向けたその男は――
「なんでもないよ、スコール」
「あら……」
その言葉にスコールは笑みを浮かべる。
「その様子だと、私の知ってるあなたに戻ったのね?」
「ああ、そうみたいだ」
スコールの問いに答えた男はベッドから起き上がり、大きく伸びをしストレッチする。
「おかえりなさい、
「ただいま、
スコールの言葉に振り返った男――梨野航平だった彼は、鋭く目を細めながら歪める様に笑みを浮かべた。