「うん、うん。このお肉美味しいねぇ。あ、わいーん」
稀代の天才にしてISの生みの親である科学者、篠ノ之束は高級食材をふんだんに使った料理をがつがつむしゃむしゃとマナーなど欠片も意識していない様子で食べながらまるで水を飲むように高級ワインをグビグビと飲む。
高級レストランにあるまじき食べ方をする束に対し、スコールは顔に笑みを浮かべている。
世界中のあらゆる国家、組織が血眼になって探している束をどうやってこの地下レストランに呼び出すことができたのか、それはスコール以外誰も知らない。
「お気に召しまして?束博士」
「んー?そうだねー。そこの睡眠薬入りのスープ以外はね~」
料理をがっつきながら言う束の言葉にスコールは笑みを崩さない。
いや、驚くべきは睡眠薬入りのスープを飲み干して調子が変わらない束の肉体の方だ。
「それで、束博士。あの話は考えていただけたでしょうか?」
「どの話ー?」
「我々、『亡国機業』に新造ISを提供する話です。もちろん、コア込みで」
「あははー。いやだよー。だって、めんどくさいじゃん」
「そこをなんとかお願いします」
「お断りしまーす。あー、ケーキちょうだーい。あとね、ハンバーグとカレーと冷やし中華」
束はスペアリブに齧りつきながら、行儀悪くメニューを眺めて追加の注文をする。
「ふう……。どうしても、ですか?」
「うん」
「そう…ですか……」
束の言葉に頷くスコール。と――
「お待たせしました」
長い金髪のウェイトレスが銀のお盆にチョコレートケーキを運んでくる。
「どうぞ」
「ん~、そこ置いといて~」
ウェイトレスに見向きもせずに言う束の言葉に従ってケーキをテーブルに置き――
「では、失礼しま――すッ!」
お盆の下に隠していたナイフを束に向けて振り下ろす。
「おっと」
が、それを持っていたスペアリブの骨に突き刺して受け止め
「ほいっと」
そのまま手を捻ってナイフ奪って上へ弾き、そのままそのウェイトレスをクルリと舞うように机へ押さえつけ、落ちて来たナイフをキャッチしウェイトレスの顔の真横に突き立てる。
「おっと、そこまで」
と、そこでスコールが口を開く。
「それ以上動くと、こちらも動かざるをえなくなります」
そう言ってスコールが視線を別に向ける。束がそちらを見ると、そこには拘束されたクロエと、その首筋にナイフを押し当てたオータムの姿があった。
「それ以上されると、この小鹿ちゃんのステーキを用意させることになりますけど?」
「……せ」
「はい?」
「離せ」
ニッコリと笑ってそう言った束は次の瞬間には突き刺していたナイフに加え、机に並んでいた食器のナイフとフォークをすべて同時にスコールに投擲する。
「っ!?」
咄嗟に防御姿勢をとったスコールを踏み付け、空中に躍り出ると天井を蹴ってオータムの懐に入り込む。
慌ててクロエに向けていたナイフを翻すその手首を捻って折り曲げ、そのまま刃の先端を右肺に刺した。
「なんッ――」
驚愕するオータムにさらに左肩、左胸、左腹と掌打を打ち込みクロエから遠ざけ、最後に蹴り飛ばされたオータムはワインセラーに派手な音を立てて突っ込んだ。
「くーちゃん、大丈夫だったかにゃー?」
「は、はい……束様」
クロエの拘束を素手で引き千切った束は優しい笑みをクロエへ向ける。
「あのねぇ、私ってば天才天才って言われちゃうけどねー、それって思考とか頭脳だけじゃないんだよー」
クロエを後ろから抱きしめながら言う。
「肉体も、細胞単位でオーバースペックなんだよ」
それは、スコールにとって完全に誤算だった。
人質が有効に働かなくてもISを使えば――と、思っていたのに、結果はこのザマである。
「ちーちゃんくらいなのさ、私に生身で挑めるのは」
その言葉にスコールは人知れず奥歯を噛みしめる。
しかし、そこで状況が変わった。
「動くな」
IS『サイレント・ゼフィルス』を展開したエムがレストランに飛び込んできた。
これで勝負は振り出しに、むしろ自分たちに有利な状態になった――かに思えた。
「ふうん、オモシロ機体に乗ってるね」
一瞬のまばたきの瞬間に束はすでにライフルの上に立っていた。
「ッ!?」
振り払おうとした瞬間に、ライフルは束の手によって『解体』された。
さらにビットもアーマーも次々に『解体』され、まるで舞い散る花弁のように光の粒子となって消えていく。
そして最後に頭部アーマーを『解体』したところで、束はその手を止めた。
「ん?んんん?」
「…………」
束はじっとエムの顔を見て動かない。
エムも完全に動けない。動けばその身を『解体』されてしまうから。
その一瞬の膠着に――
「動くな」
束の背後に立ったウェイトレスが束の首筋にナイフを向けていた。
「あとほんの少し力を込めればアンタの大事な血管が致命的に傷つくぞ。ここらで一回クールダウンと行こうぜ」
「お前……」
ウェイトレスの言葉に束は手を下ろし、相手に視線を向ける。
「へぇ?また会ったね、少年」
「…………?」
束の言葉にウェイトレス――ダウンプーアが首を傾げながらナイフを下ろす。
「お前、『俺』に会った事があるのか…?」
「うん。前に少しね」
頷きながら束はダウンプーアの顔を少しジッと見つめ
「でも、たぶん『君』に会うのは初めてだよ。何があったか知らないけどね、『亡国機業』の少年」
「あぁ、なるほど」
そこで合点がいったようにダウンプーアはポンと手を打ち付ける。
「話がはやくて助かるよ。まぁ細かいことは気にしなさんなッ。こっちの俺が、『本物』だ」
そう言ってニカッと笑ったダウンプーアの言葉に束は
「あは」
「………?」
「あはははははっ!いいね。君名前は?」
「ダウンプーア」
「そっか……じゃあ、そっちの君は?」
そう言って束はエムへと視線を向ける。
「…………」
「当ててみせようか?」
笑みを浮かべながらジッとエムを見つめ
「織斑――マドカ、かな?」
「「「ッ!?」」」
スコールとエム――マドカ、ダウンプーアが同時に驚きの表情を浮かべる。
「当たったぁ!へへ、そうだねぇ」
うーんと考えるような仕草をしてから、スコールに視線を向けた束は
「ねぇ、この子たちの専用機なら作ってもいいよ♪」
「え――」
笑顔のまま告げられた言葉にスコールは驚きを漏らす。
「その代わり、この子達、ちょーだい!」
「そ、それは困りますが……」
「ちぇ~、なんだよ、ケチだなぁ~」
そう口を尖らせて言いつつも、束はその頭脳で二人のための専用機を頭の中で構築し始めていた。