「千冬姉ぇ!」
「…………」
一日の授業が終わり教室を後にした千冬に一夏が呼び止める。
一夏の呼びかけに千冬はゆっくりと振り返る。
「学校では織斑先生だ。――どうした?何か質問か?」
「その……あの……」
「………はぁ、着いて来い」
言い淀む一夏にため息まじりに言うと歩き始める。
一夏が千冬の後に着いて行くと職員室にやって来た。千冬はそのまま自身のデスクに座り、一夏の方に視線を向ける。
「明日の準備もある。手短に話せ」
「明日……」
千冬の言葉に一夏は少し黙り、すぐに意を決したように口を開く。
「明日、行くんだよな?」
「……ああ、そうだな」
一夏の言葉に頷き
「もちろん、連れて行かんぞ?」
「わかってるよ。もう俺たちも連れて行ってくれ、なんてわがままは言わない」
「そうか、ならなんだ?」
千冬の問いに一夏は頷く。
「シトリー先生やベリアル先生からも言われたし、俺も自分でいろいろ考えたんだ」
一夏は真剣な顔で千冬を見据える。
「航平の事は全部千冬姉ぇに任せる。俺たちは千冬姉ぇたちが安心して航平を救出に行ける様に学園を守ることにする」
「そうか……」
一夏の言葉に千冬は頷く。
「お前、前よりも物分かりが良くなったんじゃないか?」
「え?」
「前のお前ならなんとしてでも無理矢理について来ていたんじゃないか?」
「……かもしれない」
一夏は苦笑いを浮かべながら頷く。
「でも、千冬姉ぇたちを信じることにしたんだ」
「信じる?」
「ああ。だって――」
言いながら一夏は千冬へ笑みを向ける。
「千冬姉ぇが、俺の最高の姉さんが助けに行くんだ。きっとうまくいく。そう信じられるんだ」
「…………」
一夏の言葉に千冬は一瞬そっぽを向き
「そうか……」
素っ気なく返して立ち上がる。
「千冬姉ぇ?」
「そろそろ時間だ。私は行くぞ」
「あ、待ってくれ!」
言いながらスタスタと歩き出した千冬の右手を掴んで呼び止める一夏。
「……なんだ?」
「俺は千冬姉ぇたちを信じてる。だからきっと航平を助け出すことも、航平を攫った奴らを倒すこともできるって信じてる。だから――」
言いながら一夏は掴んだ千冬の右手を握らせ、その上から自身の両手で包み込む。
「千冬姉ぇのこの拳に俺の気持ちを込めるから、航平を攫った奴らにきつい一発を頼むよ、俺の代わりに!」
「……ああ、わかったよ」
一夏の言葉にフッと口元に笑みを浮かべた千冬は今度こそ職員室を後にした。
○
「失礼、お待たせしました」
「いや、構わん。教職としての仕事もあるだろう。こちらでもある程度話しを進めておいた」
会議室に入った千冬に部屋に先にいた面々の中で一番最年少、一夏よりも幾分幼い眼鏡の少年が慇懃に頷く。
会議室には眼鏡のその少年の他にベリアルとシトリーとシロ、さらに三本の煙草をくわえた褐色肌の白衣の男、高級そうなロングコートを羽織りサングラスをかけた金髪の男がいた。
「それでは、改めて役者もそろったことだし、本題に入るとしよう」
言いながら眼鏡の少年が席に着く面々を見渡す。
「明日に控えた『梨野航平奪還作戦』、その最終打ち合わせだ」