【アベンジャーズ/ドゥームズデイと、トニーの影を追うピーターの運命】
「……じゃあ、大まかな作戦概要はそういうことだから。各自、次の再接触に備えて準備をしなさい!」
五河琴里はパチンと手帳を閉じると、ピリピリとした緊迫感を残したまま、「ちょっとエンジニア室の様子を見てくるわ」とブリーフィングルームを足早に退出していった。
司令官の後ろ姿が完全に扉の向こうに消えた瞬間――。
艦内の空気が、音を立てて「ガチの映画オタク座談会モード」へと切り替わった。
「ふぅ……。さて、司令官が視界から消えたところで、本日の本題に入りましょうか」
副司令の神無月恭平が、スッと眼鏡を押し上げながら不敵な笑みを浮かべる。
通信士の川越やオペレーターの椎名、そしてなぜか隅っこの椅子でぐったりしている坂田銀時を囲むように、ラトタスクのクルーたちが身を乗り出した。
「テーマはズバリ――『アベンジャーズ:ドゥームズデイ』における、ドクター・ドゥームは果たしてインフィニティ・サーガのサノスを超える真のラスボス(マルチバースの覇者)たりうるのか否か、についてです!」
「いきなり重い議題ブっこんできたなオイ!!」
銀時は椅子から転げ落ちそうになりながら激しくツッコミを入れた。
第二章:ドゥームは本当に「サノス」の代わりを務められるのか?
「私はね、少し懸念しているのです」
通信士の川越が、真剣なトーンで腕を組んだ。
「もちろん、原作コミックにおけるドクター・ドゥームの圧倒的なカリスマ性や、科学と魔術を極めたチート級の強さは疑いようがありません。ですが、実写映画のマルチバースサーガにおいて、『征服者カーン』からの急な路線変更を経て、ドゥームがどこまで説得力のある“全宇宙の脅威”として描けるのか……。サノスのような『命の均衡』という歪んだ哲学を持った絶対的絶望感を、一作(あるいは二作)で超えられるかと言われると、正直不安が残るのですよ!」
「なるほど、鋭い指摘ですね」と神無月が身をよじる。
「ですが川越君、そこがドゥームの恐ろしいところです! 彼はただの侵略者ではなく、自らの手で世界を完璧に管理し統治するという『歪んだ救済者』。その傲慢さと知性がマルチバース全体をどう歪めるか……想像するだけで、私の背骨が心地よく軋むような狂気を覚えます……っ!」
「お前の背骨の心配はしてねぇよ! つーかお前ら、司令官がいなくなった途端に生き生きと映画の未来危ぶんでんじゃねぇよ!」
銀時がやれやれと頭を抱える中、管制卓の端でずっとクマをこすっていた村雨令音が、トロンとした目で静かに口を開いた。
「……問題は、強さや哲学だけじゃないわ……。一番残酷で、私たちが直視しなきゃいけないのは……キャスティングの構造よ……」
令音の一言に、ブリーフィングルームの空気がピタリと凍りついた。
第三章:トニー・スタークとピーター・パーカーの「師弟関係」という名のトラウマ
「……キャスティング?」と銀時が首を傾げる。
神無月がゴクリと唾を飲み込み、震える声で解説を始めた。
「坂田さん、ご存じないのですか……? 今回、ドクター・ドゥームを演じるのは――かつてMCUの礎を築き、自らの命を犠牲にして世界を救ったアイアンマンこと、ロバート・ダウニー・Jr.(RDJ)その人なのです……!」
「は……? え? ちょっと待て」
銀時は目をパチクリとさせた。
「アイアンマンの中の人だろ? なんでヒーローの象徴みたいな顔のオッサンが、よりによって宿敵のヴィランやってんだよ! 予算の都合で顔バレの使い回しでもすんのか!? メタ的におかしくねぇか!?」
「そこがエグいのです……!」
オペレーターの椎名が、痛みに耐えるような顔で拳を握り締めた。
「考えてみてください! MCUの中で、トニー・スタークはスパイダーマンことピーター・パーカーにとっての『絶対的な師匠(父親代わり)』でした! ピーターはトニーからサングラス(E.D.I.T.H.)を譲り受け、彼の死を乗り越えて真のヒーローになろうと苦悩し続けた……あの、あまりにも深い師弟の絆の物語を!」
「あ……」
銀時の顔からサーッと血の気が引いた。
「もし……もしですよ、『ドゥームズデイ』の作中で、マルチバースの歪みによって、ピーター・パーカーが『死んだはずの師匠・トニー・スタークと瓜二つの顔をした、冷酷非道な独裁者ドクター・ドゥーム』と対峙することになったら……?」
神無月がうっとりと、しかし悪夢を見るような目で叫んだ。
「愛する師匠と同じ顔をした男が、マルチバースの破壊者として自分の前に立ち塞がる! 自分の手で、あるいは戦わなければならない絶望! ピーター・パーカーの精神がどれほどズタボロに引き裂かれるか……ああっ、想像しただけで、ピーターの泣き叫ぶ顔が目に浮かんで、私の精神が歓喜で満たされてしまいます……っ!」
「最低だなオイ!! 精神構造がどこの変態ヴィランだよお前は!!」
第四章:ピーターのメンタルを心配する銀時
銀時はあまりの残酷なストーリーラインの想像に、思わず冷や汗を拭った。
「いや、ちょっと待て……。それマジで公式がやる気なのか? ピーターくんの人生、トニーが死んだ時点で既に親友も叔母さんも失ってボロボロだろ? そこにさらに『トニーの顔をした最強の敵』とかぶっ込まれたら、あいつのメンタル完全に粉砕玉砕大喝采じゃねぇか! マーベルの脚本家は悪魔かよ!」
「だからこそ、『ドゥームズデイ』というタイトルの重みが跳ね上がるのです」と令音は穏やかに、しかし残酷に微笑んだ。
「師匠の遺志を継いだ少年が、師匠の顔をした悪魔と戦わされる。師弟の絆の美しさが、そのまま最大の精神攻撃へと変貌する……。マルチバースサーガのフィナーレを飾るにふさわしい、究極の心理的残酷劇(トラウマ)だわ……」
「お前ら、映画を観る目が完全にドSの処刑人なんだよ!!」
銀時がテーブルを叩いてツッコミを入れたその時、ブリーフィングルームの自動扉がプシューと開いた。
「――こら、あなたたち! いつまで映画の妄想語り合ってのよ!!」
戻ってきた五河琴里が、黒リボンを揺らしながらジト目で一同を睨みつける。
「空間震の再発に備えて、全員持ち場に戻りなさい! 特にバカ兄貴、次はあの名前のない精霊と本格的に接触するためのシミュレーションを始めるわよ!」
「へいへい、分かってらぁ……」
銀人はトボトボと椅子から立ち上がりながら、心の中でそっと呟いた。
――おいおい、ピーター・パーカーくんよ。お前の未来の苦労を想像したら、俺のパチンコ負けのショックなんて可愛いもんだったわ……。がんばれよスパイダーマン……!
かぶき町とマルチバースの運命を乗せた空中艦は、今日も今日とてカオスな熱気を孕んだまま、静かに次の空域へと進んでいくのだった――。
(第十話・終わり)