【第三の目を開くマダオと、変態師弟の危険な蜜月】
第一章:マダオの覚醒と、ダークホールドの幻影
「さあ、選ぶんだ銀さん……! そのパチモンDVDを『買う』と口にするか、それとも永遠にこの青いレジャーシートの地平線を彷徨い続けるか……!」
長谷川泰三の血走り、ギョロギョロと常軌を逸した動きを見せる両目が、突如として異様な光を放った。
その額の中心――まさに両眉の間が、ピクピクと痙攣するように盛り上がり始める。
「なっ……なんだあいつ、額が割れようとしてやがるぞ……!?」
銀時が冷や汗を流しながら後じさった。
次の瞬間、長谷川の額の皮膚がビリビリと裂け、そこからギラギラと禍々しい紫色に輝く不気味な瞳が、カッと見開かれた。
――第三の目(サードアイ)が開眼したのだ。
その眼から放たれたドス黒い魔力がアスファルトを揺らし、周囲の空間がぐにゃりと歪み始める。
「フハハハハッ! 見えたぞ! マルチバースのすべての無職の運命が! この第三の目を開いた私に、もはや不可能はない! 買え! 私のDVDを全巻買い揃えろ――っ!!」
あまりの狂気的な光景に、銀時は懐からツッコミ用の木刀を落としそうになりながら絶叫した。
「お前はいったい何を読んでサードアイなんて開眼してんだよ!! なに勝手に『ダークホールド』でも読み込んでダーク・ダークマターな呪いに呑み込まれてんだよテメェはァァァッ!!」
十香も、手にしたパチモンDVD『アベンジャーズ:インフィニティ・うまい棒』を落としそうになりながら、青ざめて叫んだ。
「なんと……! あのボロ着の男から発せられる魔力は、スカーレット・ウィッチのダークホルダーのそれに匹敵するか、あるいはそれ以上に底が知れないぞ! このままでは私たちの精神がマダオの地平線に完全に飲み込まれてしまう!」
第二章:副司令の叫びと、明かされる変態の系譜
絶望的な無限ループの空間と、第三の目を開いて暴走する長谷川の魔力が最高潮に達したその瞬間――。
頭上の空気が、バリバリと電撃を伴って切り裂かれた。
「――そこまでよ、薄汚い無職の変態野郎!」
鮮やかな赤いマフラーを風になびかせ、手裏剣とクナイを両手に携えた妖艶な美女が、空中から見事な着地をきめた。
目をハート型に蕩けさせ、全身からただならぬ「危険なフェロモンとストーカーの気配」を漂わせる忍者――猿飛あやめその人であった。
あやめは、ぐにゃりと歪む空間の中、長谷川を冷徹な眼差しで睨みつけ、クナイを鋭く構える。
「あうっ、あんな薄汚いおじさんの三つ目のせいで、私と愛しい銀さんの甘い朝の散歩が台無しじゃない! いい大人が青いシートの上で第三の目など開眼して、恥ずかしくないのかしら! その額の目玉、今すぐ私の特製クナイで綺麗にくり抜いてあげるわ!」
「おっ、さっちゃん! ちょうどいいところに……!」と銀時がホッとした表情を浮かべた、その時だった。
上空の空中艦〈フラクシナス〉のブリーフィングルームのメインモニターを通じて、それまで絶望して震えていた副司令・神無月恭平が、突如としてガバッと立ち上がった。
彼の両目は、先ほどの長谷川とはまた違う意味で、感涙と狂喜の光に完全に満ち溢れていた。
「――はっ……! あ、あの麗しき手裏剣さばき、そして対象の尊厳を泥水に叩き落としながらも、自らは快楽の悦楽に身をよじるその完璧なまでの身のこなし……間違いありません……!」
神無月はスピーカーに向かって、身を乗り出すようにして叫んだ。
「し、師匠――っ!!」
「……は?」
現場にいた銀時、さっちゃん、そして長谷川の三人が、完全に同時に動きを止めて空中モニター(神無月)を振り返った。
さっちゃんは、手にしたクナイをスッと下げると、パッと顔を輝かせてモニターを見上げた。
「あら、神無月じゃない! 元気に変態をやっているようで何よりじゃない!」
「はい! 師匠に仕込まれたあの特製の『特大画鋲入りサボテンクッション』のおかげで、今の私の歪んだ人格が無事にスクスクと育っております!」と、神無月が艦内で感涙を流して敬礼する。
銀時が盛大にズッコケながら絶叫した。
「おいちょっと待て! お前ら今でも連絡取り合ってんのかよ!? なんだその最悪すぎる現役の変態師弟関係は!!」
第三章:今でも続く連絡と、さっちゃんの一撃
さっちゃんは、くいっと眼鏡の位置を直しながら、当然のように言い放った。
「当たり前でしょ。神無月は私の可愛い弟子の一人だもの。月に三回は『今週いじめてもらった変態エピソード』の近況報告メールが届くし、新しい緊縛ロープの巻き方についてもよく相談に乗ってあげる仲よ」
「どんな内容のメールをやり取りしてんだよ! 即座にアドレスブロックしろや!」と、銀時がインカム越しに神無月へ向かってブチ切れる。
上空の艦内では、司令官席の五河琴里が、顔を真っ青にして頭を抱えていた。
「もうやめて……! 私の指揮する艦の副司令が、かぶき町の狂った変態忍者の弟子で、しかも今でも定期的に変態メールのやり取りをしてただなんて……! ラトタスクのコンプライアンス委員会を今すぐ総動員してクビにしてやるわ……!」
地上では、第三の目を開いたまま空間歪曲を続けていた長谷川が、このカオスすぎる展開に耐え切れず、額の目をパチパチと瞬かせた。
「い、いや待ってくれ……私の開眼したサードアイの呪いの空間が、なんかこの忍者と変態副司令のせいで一気にギャグ漫画の空気になっていくんだが……私だってお好きでこの無職をやってるわけじゃないんだ……!」
「うるさいわよ、長谷川さん! そもそも無職が第三の目を開いたところで、ハローワークの求人票の文字すらまともに見えないのは明白でしょ!」
さっちゃんは一歩踏み出し、愛用のクナイを冷たく構えた。
クナイの鋭い切っ先が、朝の光を浴びて妖しく光る。
「くらえ! 私の可愛い弟子・神無月の前で変態の恥をさらすがいい! 変態奥義・『九字切って身悶える愛の縛り手裏剣』――!!」
シュパッ――ズドンッ!!
さっちゃんの放った正確無比な一撃が、長谷川の額の「第三の目」を完璧に捉えた。
「ぎゃあああああぁぁぁっ! 私のサードアイがぁぁぁ! 無職の未来が見えなくなりそうううぅぅぅ――!!」
盛大に悲鳴を上げた長谷川は、白目を剥いてその場にバタリと気絶し、青いレジャーシートの上に大の字になって沈黙した。
第四章:ループの崩壊と、朝の訪れ
長谷川が気絶した瞬間、周囲を包み込んでいた空間の歪み――無限ループの呪縛が、パリンとガラス細工のように音を立てて砕け散った。
路地裏の景色は元に戻り、いつものかぶき町の穏やかな朝の光がアスファルトを照らし出す。
「ふぅ……これでようやく、変態空間から解放されたわね」
さっちゃんはフッと艶やかに髪を払い、すかさず銀時にベッタリと密着しながら腕に絡みついた。
「さあ銀さん! 無限ループの恐怖から私たちを救い出したご褒美に、今すぐ私の特製の縄で愛の監禁デートを楽しみましょうぞ……じゃなくて楽しみましょ!」
「語尾がバグってんぞ! あと『でござる』が混ざるな! お前はそういうキャラじゃねぇだろ! 離れろ、コノヤロー!」
銀時が必死にさっちゃんを引き剥がそうとする中、地面に気絶した長谷川の足元からは、例のパチモンDVD『アベンジャーズ:インフィニティ・うまい棒』がポツリと転がり落ちていた。
十香はそのDVDをそっと拾い上げ、満足そうに頷いた。
「むぅ……色々と言いたいことはあるが、あのボロ着の男の狂気も、変態忍者の乱入によって無事に鎮圧されたようだな。銀時、今日のデートの締めくくりとして、この『うまい棒』のパチモンがどれほど美味しくないのかを検証しに、駄菓子屋へ行くぞ!」
「なんでそっちに話が流れるんだよ……!」
マルチバースの歪み、マダオの第三の目、そして副司令とさっちゃんという今でも連絡を取り合う最悪の変態師弟関係――すべてを乗り越えたかぶき町の朝は、今日も相変わらず救いようのないほど賑やかに始まっていくのだった。
(第二十二話・終わり)