マダオとさっちゃんの突然すぎるMCU語りと、メタの呪縛】
第一章:気絶からの謎の復活と、不穏な空気
かぶき町の朝靄が晴れ渡り、アスファルトの上に大の字で気絶していた長谷川泰三(マダオ)の体が、ピクンと痙攣した。
「うぅ……頭が割れるように痛い……。俺の第三の目が、ハローワークの求人票の文字すら見えない『無職のブラックホール』に引きずり戻される……っ!」
ボロボロに裂けたトレンチコートを引きずりながら、長谷川がゾンビのようにのろのろと上半身を起こした。そのすぐ傍らでは、猿飛あやめ(さっちゃん)が、愛用の赤いマフラーを優雅に払いながら、うっとりとした目で坂田銀時の腕にしがみついている。
「ふう、朝の爽やかな空気と、銀さんの腕をへし折りかねないほどの密着感、最高じゃない!」
「語尾がどうこう以前にいつの間に腕にしがみついてんだテメェは! さっさと離れろ、コノヤロー!」
銀時が盛大にツッコミを入れながらさっちゃんを引き剥がしようとした、その時だった。
地面にへばりついていた長谷川と、銀時の腕にしがみついているさっちゃんの動きが、ピタリと止まった。
二人はまるで操り人形のように、一糸乱れぬ動きでゴキゴキと首を鳴らすと、何の脈絡もなく、そして恐ろしいほど真剣な眼差しで空の彼方を見据えた。
そして――。
「……なぁ、あやめ君」
「何かしら、長谷川さん……」
「MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)のフェーズ3における『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』の空港での大乱闘シーンだがね……あれはやっぱり、社会的な契約と個人的な絆の板挟みになった男たちの悲哀が凝縮されていて、実に味わい深いと思わないかね?」
「激しく同意するわ! 特にスパイダーマンが初参戦したときの『トニーおじさん、あの人たち大柄すぎるよ!』っていうあの絶妙なアウェイ感、そしてアントマンが巨大化して周囲の全員をポカンとさせた瞬間のカタルシス……あれこそ映画史に残る奇跡の群像劇よ!」
――ビクッ!!
その場にいた銀時と十香は、あまりにも唐突すぎるMCU談義の開幕に、盛大に顎が外れそうになった。
第二章:銀さんのツッコミと、恐るべきメタ発言
「「……は?」」
銀時と十香が完全にフリーズする中、マダオとさっちゃんは止まらない。
財布の代わりにボロボロのポケットからハンカチを取り出し、涙を拭うように長谷川がガラガラ声で語り出す。
「ちなみに俺の推しキャラは一貫して『アントマン(スコット・ラング)』だぜ……! 元泥棒で、妻に愛想を尽かされ、前科持ちで、就職活動をしても『お前は元犯罪者だ』と秒速で門前払いされ……それでも愛する娘のために泥水をすする覚悟でミクロの世界に飛び込むあの姿! まさに俺自身の人生のパラレルワールドを見ているようで、涙なしには観られないのさ……っ!」
「私の推しは『スカーレット・ウィッチ(ワンダ・マキシモフ)』よ!」
さっちゃんは自分の頬を両手で挟み、目をハート型に蕩けさせながら黄色い声を上げた。
「愛する人のために世界を敵に回し、街一つを丸ごと自分の理想郷に作り替えてしまうあの狂気的なまでの独占欲と依存心……! 私が銀さんを監禁してかぶき町の治安を私物化したいという純愛のメンタリティと完全に一致していて、観るたびに胸がキュンキュン締め付けられるわ!」
「お前らの自分語りのチョイスが軒並み重すぎて朝から胃もたれがするわ!! ていうか長谷川さん、さっきまでおかしな高貴な一人称使ってたのに、いつの間にかいつもの『俺』に戻りやがって!」
銀時が耐え切れず、木刀を地面に叩きつけて絶叫した。
「ちょっと待てお前ら! なんだいきなり! さっきまで第三の目開いてたりクナイで顔面刺されてたりしたよな!? なんで気絶から覚めた瞬間から、頼まれてもいないのにMCUのフェーズ別お気に入りキャラ語り始めてんだよ! お前らにそんな教養のカケラも感じさせる隙間あったか!?」
銀時のあまりの正論に、長谷川とさっちゃんは、ぴたりと会話を止め――。
スッ……と、何の違和感もない自然な動作で、銀時のほうを真顔で振り返った。
「何を言っているんだ、銀さん」
長谷川がボロボロのトレンチコートの襟を正し、冷徹なほど真面目なトーンで言い放つ。
「気づかないのかい? 今回のこの章は、どうやら作者が『MCUネタをこれでもかというほど全方位に詰め込みまくる章』にしたいらしいという明確な裏事情があるんだよ。 だから、俺たち登場人物も、文脈の自然さとかキャラクターの自発的意志とかを完全に無視して、唐突にマーベルの魅力を語り出さざるを得ない構造になっているのさ」
「思いっきり第四の壁をぶち破ってメタ発言を公式設定にするな!!」
銀時が頭を抱えて崩れ落ちた。
さっちゃんも、愛用のクナイをくるくると回しながらそれに追撃する。
「そうよ銀さん! 作者が『もっとキャラにMCUを語らせろ、文字数が足りない』って顔を青ざめさせながらAIに指示を出しているのが、私には透けて見えるのよ! だから、私たちもこの大人の事情(メタフィクション)に逆らわず、フェーズ4以降のマルチバース・サーガの深刻さについても深掘りしていかないと、次の話でモブキャラに降格させられちゃうんだから!」
「そんな生々しい大人の事情をキャラクターの口から堂々と喋らせるな! 作者の首を今すぐ締めてこい!」
第三章:十香の感心と、カオスな映画座談会の再燃
その一連のメタすぎる会話を、十香は腕を組みながら「ふむふむ」と深く感心したように聞いていた。
「なるほど……! この世界の住人たちは、自分たちが『物語の登場人物』であるという宿命を背負いながらも、その枠組みの裏にある『作者の意図』や『ノルマ』という不可視の魔力に突き動かされて生きているというわけだな! なんと壮大で、かつ不条理な運命の輪なのだ……!」
「感心すんな十香! お前までそっち側の奇行種に染まるな!」
銀時が慌てて十香の肩を揺すったが、時すでに遅し。
一度「MCU語りの呪い」に火がついてしまった長谷川とさっちゃんは、もはや誰にも止められない暴走機関車と化していた。
「さあ、話の続きをしよう、あやめ君!」
長谷川が男気のある(中身はマダオな)顔つきを作る。
フェーズ1:原点にして至高のトニー・スタークの成り上がりと、俺の失われたスーツ姿の重なり。
フェーズ2:組織の腐敗を描いたキャプテン・アメリカの陰謀劇と、俺をクビにした入管局の黒い影。
フェーズ3:インフィニティ・ウォーで全てを奪われる絶望……あれはまさに俺の人生そのものだ。
フェーズ4以降:マルチバースの混沌の中で自己を貫くヒーローたちの孤独!
「なぁ、銀さん、男ってのはどん底に落ちてから這い上がるときが一番輝くと思わないかい?」
「微塵も這い上がれてねぇお前が言うな!!」と銀時が激しくツッコミを入れる。
さっちゃんも負けじと声を張り上げる。
「そしてフェーズ4の『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』での切なさはプライスレスよ! あぁ、私も銀さんと一緒に、全ての記憶を消去されてもなお、遠くから見守るだけの切ない関係に身を置きたい……っ! ついでに監禁したい!」
「最後の一言で台無しだよ!」
上空の空中艦〈フラクシナス〉の艦内では、このやり取りをモニターしていたオペレーターの椎名が、乾いた笑みを浮かべながら呟いていた。
「……なんか、地上の人たちが勝手に自分たちの物語のメタ構造について語り出しちゃってますけど……これ、ラトタスクの極秘プログラム的には大丈夫なんですかね?」
通信士の川越も、遠い目をして頭を抱えた。
「もう何も分からない……。マルチバースの歪みとか精霊の力とか以前に、この街の住人たちは『作者の都合』という名の最強の絶対神に支配されているんだ……」
副司令の神無月恭平だけは、なぜかネクタイを緩めながら大興奮していた。
「ああっ……! 自らがフィクションの登場人物であることを自覚し、作者の意図という名の絶対的な束縛に嬌声を上げながら従属していくこのメタ的マゾヒズム……私の全人格が歓喜の涙でビショビショに濡れてしまいます……っ!」
「通信を切断しなさい川越!」と、司令官・五河琴里の冷徹な一喝が艦内に響き渡ったのは言うまでもない。
第四章:収拾のつかない朝の路地裏
かぶき町の朝日は、すっかり空高く昇り、冷え切ったアスファルトを温め始めていた。
しかし、その路上では――。
「いや、待ってくれ。フェーズ4の『エターナルズ』における宇宙の創世神セレスティアルズのスケール感についてだがね……俺のような無職の男にとっても、宇宙の存亡というのは妙に心に響くものがあるんだよ」と真面目に語り続ける長谷川と、「ちょっと待ちなさいよ、アンジェリーナ・ジョリー演じるセナの戦い方の美しさは、私と銀さんの赤い糸の次に尊いわよ!」と熱弁するさっちゃんが、いつの間にか地面に円陣を組んで議論を白熱させていた。
それを横目に、銀時は深い、深いため息をつきながら、十香の手をそっと引いた。
「……もうダメだ、あいつら完全に脳みそがマーベルの沼に沈み込みやがった。これ以上付き合ってたら、俺たちまでフェーズ何ちゃらの一員に組み込まれちまう」
「うむ……! だが銀時、悪くはなかったぞ。偽りのマルチバースとはいえ、これほどまでに人間(と変態たち)の情熱を燃え上がらせる物語の力、私も少しだけ分かった気がする」
「そうかよ。じゃあ帰るぞ。朝飯は納豆ご飯だからな」
メタ発言を連発する狂気の路地裏を背に、天パの男と精霊の少女は、日常という名の現実世界へと足早に戻っていくのだった。
――もっとも、この後も作者のMCU偏愛が続く限り、彼らの平穏が長く続く保証はどこにもなかったのだが……!
(第二十三話・終わり)