数日後。
坂田銀時という一人の天パ男を巡る日常は、とある不快な過激派たちの遭遇によって崩壊を迎えていた。
場所は、万事屋から学校へと続く通学路。
愛車の原付スクーターをぶすぶすと走らせる銀時の横には、恐ろしい脚力で寸分狂わず並走する白髪の無表情女子高生――鳶一折紙の姿があった。
「坂田銀時。今日のあなたの移動速度は、昨日より時速一点五キロ遅い。疲労蓄積の可能性がある。後でマッサージをする」
「いらねぇよ! お前のマッサージとかツボ突いてそのまま頸椎粉砕されそうだからお断りだわ! つーか毎朝走ってついてくんなって言ってるだろ!!」
「問題ない。あなたの呼気と排気ガスを吸引するのが、私のモーニングルーティン」
「吸うな!! 身体に毒だろ!!」
朝から不毛極まりない会話を繰り広げていた、その時である。
――ガサガサッ!!
街頭の電柱の陰から、ぬっと現れた黒い影。
「待ちなさいよぉぉぉ――っ!!」
ドサッと路上に立ちはだかったのは、眼鏡をギラリと光らせた納豆くノ一・猿飛あやめ(さっちゃん)であった。
「何よその女はぁぁぁ! 銀さん! 私という正妻……つまり琴里ちゃんの『義理の姉』である私を差し置いて、今度は制服を着たピチピチの女子高生と登校デートですって!? 義姉として許せません! 許さないわよ!!」
「あ? さっちゃん? お前朝から何勝手に義姉気取ってんだよ、邪魔すんなら納豆ぶっかけんぞ」
「あぁんっ! 納豆ぶっかけのお仕置き……!? それも捨てがたいけど、今はそれどころじゃないわ! だいたいね銀さん! こっちはさっきから作者がAIに『説明口調にさせるな』だの『さっちゃんは銀さん呼びだ』だの何度もリテイク喰らわせて出番待たされてたのよ! どんだけNG出せば気が済むのよあの作者!!」
「メタぁぁぁ!! 楽屋裏の苦労を本編で暴露すんじゃねぇよ!!」
さっちゃんはぬらぬらした納豆の手を掲げ、折紙をビシッと指差した。
「そこの小娘! 銀さんの正妻であり琴里ちゃんの義姉でもあるこの私を差し置いて、真横をキープして並走するなんていい度胸じゃない! 銀さんの隣は、この猿飛あやめの専売特許よ!!」
折紙は走り(並走)を止め、ぬるりと立ち止まった。
その無機質な瞳でさっちゃんを検分し、淡々と言い放つ。
「……障害物。および、ユーザーの度重なる訂正指示により出力されたNPCと認識」
「NPC扱いすんな!! こちとら銀魂の初期から打撃力担当で張ってきてんだよ!!」
第二章:ゴリラ乱入と、ストーカー三つ巴の理論
バチバチと放電する二人の視線。銀時が「勝手にやってろ」とスクーターのアクセルを踏み込もうとした瞬間――。
「待たれよぉぉぉぉ――っ!!」
ドカーン!!
道路脇のゴミ箱を吹き飛ばしながら、全身に藁を巻きつけた男が路上へ転がり出てきた。真選組局長・近藤勲である。
「万事屋ぁぁぁ!! 羨ま……いや、不埒千万なり! 朝の清々しい通学路で、美女二人を従えてハーレム状態とは何事か! 俺は……俺は毎朝、お妙さんの通勤路のドブの中で身を潜め、お妙さんが通り過ぎた後の空気だけを吸うという、奥ゆかしくも儚い純愛を貫いているというのにぃぃぃ!!」
「ただの不審者だよ!! 警察が警察の格好してドブに潜んでんじゃねぇよ!!」
近藤は鼻血を拭いながら、力強く胸を張った。
「言っておくがな万事屋! 俺の一人称が『私』になってたり『妙さん』になってたりする度に、裏でプロンプトの修正指示が飛び交ってたんだぞ! 『近藤勲は一人称俺』『近藤はお妙さん呼び』ってな! おかげで俺のキャラクター設定データが内部で書き換わりまくって頭がパンクしそうなんだよ!!」
「お前の設定の不具合をここで愚痴るんじゃねぇよゴリラぁぁぁ!!」
ここに、かぶき町が誇る(?)三大ストーカーが勢揃いしてしまった。
さっちゃんが納豆クナイを構えて叫ぶ。
「ちょっとゴリラ! 横から割り込んでこないでちょうだい! 今は私とこの小娘の、銀さんストーカー第一人者の座をかけた神聖な決闘なのよ!」
近藤が胸を張って反論する。
「甘いぞ猿飛くん! ストーカーの歴史と執着心で言えば、この近藤勲が圧倒的だ! お妙さんの足音の周波数、残香の持続時間、挙げ句の果てにはお妙さんが踏んだ踏切の砂利の配置まで全て俺の頭に入っている!」
折紙は一切の表情を変えず、淡々と自身のポケットから厚いバインダーを取り出した。
「甘い。坂田銀時の起床時間、過去三ヶ月の体温変化、毎晩の寝返りの回数、使用したティッシュの枚数まで、全て記録済み。データ量において、私の優位は揺るがない」
さっちゃんが白目を剥いて叫ぶ。
「いつ取ったのよそのデータぁぁぁ!! 怖いわよ!! ていうかあんた『デート・A・ライブ』のキャラでしょ!? なんで銀魂のメタギャグ空間に違和感なく順応して自分もデータマウント取ってきてんのよ!!」
折紙は無表情のまま返答した。
「問題ない。クロスオーバー小説における世界観の同化現象。プロンプトの指示に従い、メタ発言を出力中」
「メタ発言をドヤ顔でシステム用語っぽく解説すんなぁぁぁ!!」(銀時)
第三章:不毛なるストーカー戦争
「私なんてね、銀さんの着古したジャージの匂いを嗅ぎながらご飯三杯いけるのよ!」(さっちゃん)
「甘い! 俺はお妙さんが召し上がったダーク物質(焼き卵)の焦げカスをコレクションし、神棚に祀っている!」(近藤)
「無意味。私は坂田銀時の抜け毛を回収し、DNA解析を完了している。将来の子供の遺伝子配列までシミュレーション済み」(折紙)
「遺伝子配列までやってんのかお前ぇぇぇ!! 一番ヤバいよこの女子高生!! ていうかAIのトークン数がストーカーの気持ち悪い自慢話で無駄遣いされてんだよ!!」(銀時)
互いのストーカー美学(という名の異常行動)をぶつけ合い、ヒートアップする三人。
さっちゃんが納豆クナイを振りかざす。
「能書きはいいわ! 銀さんの横を走る資格があるのは、銀さんの愛の鞭(暴力)に耐えられるこの私だけよ! ネバネバ納豆地獄に沈みなさい!」
「くっ、お妙さん以外の女性に危害は加えん主義だが……万事屋のストーカー仲間としてのプライドにかけて、退くわけにはいかん! むんっ!!」(近藤、服を破り捨ててムキムキの裸身になる)
折紙は無表情のまま、制服のポケットから静かに特殊なスタンガンを取り出した。
「対象者二名を排除。メタ発言による尺の引き伸ばしを終了し、坂田銀時との二人きりの登校時間を再開する」
「メタ要素を回収してまとめに入ろうとすんな折紙ぃぃ!!」
次の瞬間、納豆クナイ、裸のゴリラ、そして最新鋭のスタンガンを構えた無表情女子高生が、路上で激しくぶつかり合った!
ドゴォォォォォン!!
「ぶふぇぇぇっ! 納豆と電撃のコラボ……! 新しいプレイ……っ!」(さっちゃん)
「ぐわぁぁぁっ! お妙ちゃぁぁぁん! 今日のドブ掃除がぁぁぁっ!」(近藤)
「……排除完了。坂田銀時、行きましょう」(折紙、一切服を汚さずに佇む)
地獄絵図である。路上の真ん中で、納豆まみれのくノ一と黒こげの裸ゴリラが転がり、その中央で折紙だけがすんと立っていた。
第四章:オチ
呆れ果てて白目を剥いている銀時のポケットで、ピピッとお馴染みの電子音(通知音)が響いた。
画面を見ると、差出人はもちろん「琴里」。
『兄さん。GPSで見ているけれど、メタ発言で尺を稼いでないで早く学校に行きなさい。登校時刻まであと五分。遅刻したら、今夜のご飯は「もやし」すら抜きで「空気」にするわよ』
「ひぃぃぃっ! ゴットリ様までメタ視点で監視してやがったぁぁぁ!!」
銀時は転がっている近藤とさっちゃんを無視し、スクーターのアクセルを限界まで吹かした。
「おい折紙! これ以上やり直し食らったら俺たちの存在自体が消滅すんだよ! 撤収だ撤収ぅぅぅ!!」
「了解。抱きつきます」
「並走しろっつっただろぉぉぉ!!」
原付の横をターミネーター並みの脚力で並走する折紙と、その後ろ姿を「銀さぁぁぁん……!」「お妙ちゃぁぁぁん……!」と血涙を流しながら追いかける二人のストーカー。
かぶき町の朝は、今日も今日とて地獄のように賑やかであった。
(第三話・終わり)