【未来センチネルの恐怖と高速移動、そして忘れ去られた鬼副長】
第一章:熱狂冷めやらぬ万事屋と、新たな映画座談会
「ワカンダ・フォーエバー!」の叫びがかぶき町の夜空に吸い込まれていった後も、万事屋のリビングルームを包む熱気は収まる気配を見せていなかった。
ちゃぶ台の上には、志村妙の手作りおはぎ(異次元の黒光りを放つ物体)と、スナックお登勢から奪い取ってきた酒瓶が乱雑に転がっている。
ポータブルDVDプレイヤーの画面を真剣な目つきで巻き戻していたのは、溝鼠組の若頭・黒駒勝男であった。
「おい、お前ら! MCUの熱い映画もええけどな、X-MENシリーズの『フューチャー&パスト』も忘れちゃ困るで! 特にあの未来のセンチネル……! あんな絶望的な化け物、映画史上でも早々おらんで!」
勝男が七三分けの髪をピシッと撫で付けながら熱弁を振るうと、ボロボロのトレンチコートを着た長谷川泰三(マダオ)が深く頷いた。
「同感だね、勝男さん……! ミスティークのDNAを取り込んだ未来型センチネルは、炎を出せば氷に変化し、ダイヤのように皮膚を硬化させ、ミュータントの能力をその場で即座に適応・コピーして無力化する……。私のような無職が、ハローワークの面接官に『職歴なし』の時点で即座に対応策をとられて門前払いされる絶望感にそっくりだよ……」
「長谷川さん、例えが相変わらずセコくて悲惨よ!」と、隣の猿飛あやめがクナイをくるくる回しながらツッコミを入れる。
その横で、志村新八が眼鏡の位置をシャッと直しながら身を乗り出した。
「いやでも! あの映画で一番テンション上がったのって、やっぱりペンタゴン(米国国防総省)でのクイックシルバーの厨房高速移動シーンじゃないですか!? スローモーションの中でポップソング(『Time in a Bottle』)が流れて、警備員たちの弾丸の軌道を変えたり、スープを指で味見したりスープをかけたりのあのシーン! あれはマジで最高にスタイリッシュでしたよ!」
「うむ! あの桃色のジャケットを着た若者の高速移動は実に見事であった!」
夜刀神十香も、手にしたおはぎを頬張りながら目を輝かせた。
「世界が止まっているかのような静寂の中で、一人だけ自在に駆け回り、敵を翻弄する……! 私の誇る『鏖殺公(サンダルフォン)』の剣技をもってしても、あの速さに追いつくのは容易ではないぞ!」
真選組一番隊隊長・沖田総悟は、ずずっと日本酒をすすりながら冷めた笑みを浮かべた。
「へっ、あのスピードがあれば、土方さんの背後から気付かれずにバズーカの導火線に火をつけて爆破するなんて朝飯前ですぜィ。あのクイックシルバーの野郎、真選組の一番隊隊士として雇いたいぐらいですわ」
「お前は警察の能力を殺人に利用しようとするな!」と新八が激しくツッコミを入れる。
第二章:モニター越しのラトタスクと、ことり・令音の分析
空中艦〈フラクシナス〉の艦内から壁のホログラムモニター越しに参加しているラトタスクの面々も、画面を食い入るように見つめていた。
分析官の村雨令音は、眠たげな目を擦りながら淡々と呟く。
「……ふぅ……。未来型センチネルの適応能力は、空間相殺や精霊の固有霊波に対する完璧なカウンターとなり得るな。……もし、精霊の力をコピーするセンチネルが存在したとしたら、ラトタスクの対話任務も極めて難易度が上がっていたはずだ……」
司令官の五河琴里は、チュッパチャプスの棒を咥え直すと、腕を組んでフンと鼻を鳴らした。
「ふん、言っておくけど、うちの〈フラクシナス〉の「グリンブルスティ」や「神威霊装」だって負けてないわよ。……それにしても、あのクイックシルバーの超高速移動……あんなの、精霊のスピード領域すら超越してるわ。万事屋、あんたたちの街って、どうしてこうもハリウッドのSF映画の超技術や異能に敏感なのよ?」
「知らんわ!」と坂田銀時が畳の上に寝転がりながら吐き捨てた。
「こちとら江戸の末期みたいな雰囲気出しておきながら、宇宙人は歩いてるわ、ロボット家政婦はいるわ、作者の気まぐれでアメコミ映画の批評会まで開かされる狂った街なんだよ! 脳みそが映画のネタで胃もたれしてんだよコノヤロー!」
第三章:存在を完全に忘れ去られていた「あの男」の登場
その時だった。
ドン! ドン! ドン!
万事屋の玄関の引き戸が、乱暴かつ激しい音を立てて叩かれた。
「おい……! 開けろ万事屋!! なんだこの騒ぎは!! 街中でヤクザとオカマと真選組の隊士が『ワカンダ』だの『センチネル』だの叫んで大騒ぎしてるって通報がひっきりなしに入ってんだよ!!」
怒気を含んだ、聞き覚えのありすぎる野太い声が廊下に響き渡る。
部屋にいた全員が、一瞬だけぴたりと会話を止め、顔を見合わせた。
「……あれ? この声って……」と山崎退が冷や汗を流す。
ガラッと勢いよく引き戸が開くと、そこには漆黒の真選組隊服を身に纏い、口に煙草をくわえ、額にピキピキと青筋を立てた男――真選組副長・土方十四郎が立っていた。
土方は部屋の中のカオスな光景(ヤクザ、オカマ、マダオ、十香、そして酒を飲んでいる局長の近藤や部下の沖田)を目撃し、絶句した。
「……お前ら……。宴会だと……? 局長、総悟、山崎……お前ら巡察の途中で何万事屋で油売ってんだゴラァァァ!!」
土方の怒号がリビングに響き渡る。
しかし、銀時をはじめとする部屋の面々は、感動や映画談義の余韻に浸ったまま、心底「誰だっけこいつ?」というような白けた視線を土方に向けた。
「……あ、土方さん」
山崎が気まずそうに目を逸らす。
「『あ、土方さん』じゃねぇよ山崎!! 俺を置いて全員で何盛り上がってんだテメェらは!! ていうか作者!! 第二十七話くらいからずっと俺の存在忘れてただろ!! 真選組が出てくる話で副長の俺が出番なしってどういう計算だコノヤロー!!」
土方が煙草を床に叩きつける勢いで叫ぶと、沖田が心底面倒くさそうに酒をあおった。
「やだなぁ土方さん。アンタはマヨネーズの過剰摂取で脳の回路がセンチネルにコピーされて破壊されたと思って、全員でスルーしてたんですよィ」
「勝手に殺すな!! 俺の脳はマヨネーズでできてねぇ!!」
新八が苦笑しながらフォローを入れる。
「いやぁ土方さん、すみません。僕たちもMCUからX-MENの『デイズ・オブ・フューチャー・パスト』の話で盛り上がりすぎてて、完全に土方さんの存在が記憶のマルチバースから消えてました」
「マルチバースで片付けるな!!」
第四章:マヨネーズとセンチネルの融合
土方はハァハァと息を荒らしながら、ちゃぶ台の上の「特製ダークマター風おはぎ」に目を留めた。
そして、ポケットから愛用のマヨネーズを取り出すと、迷いなくそのおはぎの上にドバドバと山盛りのマヨネーズを回しかけた。
――ヌチュチュチュチュ……!
「むっ……! なんだその白い流動体は!?」と十香が顔を顰める。
土方はマヨネーズ塗れになった物体を豪快に一口で噛み砕くと、ドヤ顔で言い放った。
「フン……未来のセンチネルがミュータントの能力をコピーして適応するってなら、俺の『マヨネーズ適応能力』の前には無力だな。どんな属性の攻撃も、マヨネーズの濃厚なコクで包み込んで無効化してやるぜ」
「「「 お前のマヨネーズはセンチネルもドン引きして学習を拒否するわ!! 」」」
銀時、新八、そしてモニターの琴里が一斉に盛大なツッコミを叩き込んだ。
「まったく……どこへ行っても変人ばかりね」
琴里は呆れ果てたように息を吐きながらも、チュッパチャプスを口の中で転がして微かに微笑んだ。
「令音、地上との回線を切りなさい。これ以上この街の狂気に付き合ってたら、ラトタスクのメインコンピューターまでマヨネーズでバグりそうだわ」
「了解した、司令官……」
画面がふっと消え、万事屋のリビングには、マヨネーズを撒き散らす土方と、それを冷ややかに見つめるかぶき町の住人たちの、いつも通りの、そして最高に騒がしい日常が戻ってきたのであった。
(第二十八話・終わり)