:【壊れた校舎と、犬神家と、MCUを語り尽くす者たち】
ドガァァァァァン―――っ!!!
巨大な爆発音が響き渡り、校舎の一部がまるで豆腐のように削り取られた。
「うわぁぁぁぁっ!?」
黒煙と粉塵が立ち込める崩壊した教室で、坂田銀時は必死に咳き込んだ。
生徒たちを地下シェルターへと逃がし、最後尾を確認していた矢先の大惨事である。
「ゲホッゲホッ! 何だよこれ……マジで空間震ってやつかよ! 校舎修繕費で俺の給料が永遠に天引きされる未来しか見えねぇんだけど!?」
立ち込める煙を素手で払いながら、銀時が歪んだ校舎の裂け目へと目を向ける。
そこには――ぽっかりと開いたクレーターの中央に、一人の少女が佇んでいた。
漆黒の霊装に身を包み、大剣を手に携えた、神秘的で圧倒的な美しさを持つ少女。
だが、荒廃した世界の中心で、彼女は冷たい、拒絶の意志に満ちた瞳で銀時を睨みつけていた。
「……お前も、私を殺しに来たのか?」
殺気を孕んだ一言とともに、少女の手にある大剣が鋭く光る。
「ヒッ……!? いやいやいや! 待て待て待て! 俺はただの通りすがりのしがない国語教師……!!」
あまりの威圧感に腰が引けた銀時は、慌てて後ずさりしようとした――その瞬間。
足元の瓦礫につっかかり、派手にすてーん! と大転倒。
ドスッ!!!
崩れかけた天井の穴から、逆さまの状態で瓦礫の隙間に落っこち、見事な『犬神家の一族』スタイル(両脚だけがVの字で天井に向かって突き出ている状態)でスッポリとハマってしまった。
「あだだだだ!! いてぇぇぇ! 股関節が! 股関節が持ってかれるぅぅぅ!!」
「……?」
さっきまで剣を構えて警戒を全開にしていた少女は、眼前で繰り広げられたあまりにもマ抜けな光景に、パチクリと目を丸くした。
「……何をしているのだ、お前は」
「何してるじゃねぇよ!! 助けて! 抜けねぇの! 股関節が『こんにちは』しそうなんだよ!! つーか何笑ってんだよ! 助けろコラァ!!」
逆さまで足をジタバタと暴れさせる銀時。
少女は警戒を保ちつつも、そのあまりにも情けない姿と、悪意の欠片も感じられないあまりのバカバカしさに、徐々に緊張を解いていった。
(……この者から殺気も悪意も感じられぬ。というか……ただの可哀想な奴なのではないか……?)
「……はぁ。仕方がない奴だな」
少女は溜め息をつくと、大剣を地面に突き立て、無造作に銀時の突き出た両足をガシッと掴んだ。
「ぐえっ!? 待って! 力加減! 力加減気をつけてね!?」
スポォォォンッ!!!
まるで大根でも引っこ抜くかのような勢いで、少女は銀時を瓦礫から豪快に引き抜いた。
第二章:噛み合わない自己紹介とMCUトーク
「ぶはぁっ!! 助かっ……た……けど、首の骨が一瞬『ポキッ』て聞いたことない音させたぞお前!?」
首を押さえて悶絶する銀時に対し、少女はふんと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「助けてやったのだから感謝するのだ。……で、お前は何なのだ? 私を排除しに来た『あいつら』の仲間ではないのか?」
「あいつらってのが誰だか知らんが、俺はパチンコとイチゴミルクをこよなく愛するしがない天パ教師、坂田銀時だよ。好きなMCU映画は『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』だ」
少女は驚いたように目を見開いた。
「サカタギントキ……それがお前の名前なのか? それにエムシーユーとは何のことだ? 『ノー・ウェイ・ホーム』……?」
「お前マーベル知らんのか? 歴代ピーターが三人揃って胸熱になるやつだよ。自己紹介に一番好きな映画を添えるのは社会人の基本の嗜みだろ」
銀時がドヤ顔で言い放つと、少女はしばらく考え込むように顎に手を当てた。
「……よく分からないが、私しも自己紹介の嗜みとやらをすれば良いのだな? 私には名前はない! だが、私が一番心惹かれた映画は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』だ! あのロケットという異形の者が仲間と絆を深め、己の過去と決着をつける様には胸を打たれたぞ……!」
「お前名前ないのにMCUはしっかり観てんのかよ!? しかもチョイスが渋くて泣けるやつじゃねぇか!!」
不意にディープな映画談義が成立してしまい、銀時は思わず白目を剥いてツッコんだ。
第三章:マルチバースサーガを本格討論する三人
「それにしてもだ、最近のマルチバースサーガは軸が広がりすぎて追うのが大変だよな! 『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』でアース838のイルミナティが瞬殺された時の絶望感とか語り合いたいのに、配信ドラマも含めて作品数が多すぎるんだよ!」
「む……『ロキ』シーズン2で見せたタイム・ローパーとしての結末の美しさに比べれば、他のマルチバース展開はやや散漫と言わざるを得ぬのではないか? 剪定される時間軸の切なさは胸に刺さるが……『ホークアイ』のケイト・ビショップとイエレナの掛け合いのような日常感も捨てがたいぞ」
「お前、見た目と言動に反してディズニープラスヘビーユーザーすぎんだろ!」
「それだけではない。銀時、私は『キャプテン・マーベル』続編の『マーベルズ』で見せた三人の位置入れ替わりアクションも評価しているのだ。だが、マルチバースの縦軸として映画とドラマの履修ハードルが上がりすぎた点は歪みを否定できぬな」
「語りが熱い! 追うのが義務感になったら終わりだからな!」
ガレージの瓦礫に腰掛けて、すっかりMCUのマルチバースサーガについて熱く語り合っていた銀時と名前のない少女。
その時だった。
ザッ、ザッ、ザッ……
無機質な足音とともに、崩れかけた壁の陰から一人の少女が姿を現した。
制服の上から対霊部隊(AST)の重装備を身にまとった、無表情の女子高生――鳶一折紙であった。
「……そこまで」
「お、折紙……! お前、いつの間に俺たちの会話を盗み聞きしてたんだよ!」
「最初から。……ですが、マルチバースサーガの核心に触れる議論を前に、無言でスルーすることは不可能」
折紙は一切の動揺を見せず、無表情のまま単調な口調で本格的に議論へ割って入ってきた。
「特にフェーズ4からフェーズ5にかけてのマルチバース展開における構造的欠陥について、私の見解を述べる。……『シャン・チー』のテン・リングスや『エターナルズ』の出現がその後のマルチバースにどう接続されるのか未回収のまま、『ドクター・ストレンジ2』や『アントマン&ワスプ:クアントマニア』で急激に世界観を拡張しすぎた」
「何で急に無表情で論理的なレビュー始めんだよ!!! 命がけの戦場の空気ゼロかお前は!!」
名前のない少女も目を丸くして身を乗り出した。
「む……!? 確かに『デッドプール&ウルヴァリン』でのTVAの扱いやFOX作品への愛あるリスペクトは見事であったが、全体の縦軸としての整合性には議論の余地があるな……!」
「お前も乗っかって議論を深めるな!!」
折紙は無表情のまま、淡々と胸元のメモを指差した。
「さらに『征服者カーン』というラスボス候補を巡るリアルな降板劇と、そこから舵を切った『ドクター・ドゥーム』の起用展開について。ロバート・ダウニー・Jrがトニー・スタークではなくドゥームとして降臨するインパクトは映画史に残る歪み。……さらには『ファンタスティック・フォー:ファースト・ステップス』でのレトロフューチャーな世界観提示を含め、今後のMCUがこの広げすぎた大風呂敷をどう畳むのか……私の関心は尽きない」
「ガチオタの考察ユーチューバー並みの熱量無表情でぶつけてくんなよ!!! なんで征服者カーンの裏事情やダウニーJrのドゥーム復帰ネタまで完備してんだよ!!」
折紙は淡々と銀時を見つめた。
「ですが、私と坂田銀時のタイムラインにおいては、どんなマルチバースの分岐を選ぼうとも私が正妻として世界線を統合する未来しか確定していない」
「さらっと自分の歪んだストーカー願望をマルチバースの改変に組み込もうとするな!!」
名前のない少女は大剣の柄を握り直し、折紙を鋭く睨みつけた。
「よく分からぬが……この女、恐ろしい異次元の妄想を語りつつも、MCUの考察精度だけは本物だな……!」
「感心してんじゃねぇよ!!」
第四章:AST隊員総出のインフィニティ・サーガ大討論会
まさにカオスな議論が最高潮に達したその時――天井の瓦礫を吹き飛ばし、ASTの隊員たちがズラリとなだれ込んできた!
ババーン!!!
「鳶一隊員! ターゲットを発見したわね……って、何をやっているの!?」
先頭で怒鳴り込んできたのは、AST隊長の日高日下部(あるいは現場指揮官)であった。彼女はライフルを構え、般若のような顔で激怒する。
「精霊と市民を前にして、何をノロノロ立ち話をしているの!? 早く攻撃を開始しなさい!」
しかし、周りのモブ隊員A(女子)が手元のバイザーを操作しながら、小声で呟いた。
「でも隊長……さっきの通信で拾った『マルチバースサーガの広がりの限界』って話、正直めちゃくちゃ分かります。私、『シークレット・インベージョン』のドラマでニック・フューリーの扱い観てちょっとショックだったんですよね……」
モブ隊員Bも即座にうなずく。
「分かる! 結局マルチバースって言われても、やっぱり『インフィニティ・サーガ』の圧倒的なまとまりと比べちゃうのよね! フェーズ1からフェーズ3までの『アイアンマン』から『インフィニティ・ウォー』『エンドゲーム』に至るあの奇跡の導線が神すぎたのよ!」
「お前らまで任務中にマーベルオタの血を騒がせてんじゃねぇよ!!」とツッコむ銀時。
隊長は血管を浮き出させて怒鳴り散らした。
「貴様ら!! 任務中に何の雑談をしているの!! 映画の感想なら基地に帰ってから……っ! ていうか、インフィニティ・サーガを語るなら『キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー』のヒーロー同士の信念の衝突を抜きにするんじゃないわよ!!」
「隊長もめちゃくちゃ好きじゃねぇかぁぁぁ!!!」
一瞬で隊長もなぁなぁで議論に参加してしまい、崩壊した校舎はAST全員を巻き込んだ熱狂的な映画座談会と化してしまった。
「隊長! でもシビル・ウォーでのトニーの孤独とキャップの譲れない正義の対立は、今観ても胃が痛くなりますよ!」(モブ隊員A)
「そうよ! だからこそ『インフィニティ・ウォー』でサノスに一敗地に塗れた後、『エンドゲーム』でキャプテンが『アベンジャーズ……アッセンブル』って呟いて全員揃った瞬間の興奮に繋がるのよ!!」(隊長、ライフルを構えたまま熱弁)
名前のない少女も深くうなずき、目を輝かせる。
「むぅ……! サノスという圧倒的な悪に対し、散り散りになった者たちが再び集結するカタルシスか! 『アベンジャーズ/エンドゲーム』のあの合戦シーンは、私しも何度観ても震えるぞ!」
「精霊にまで共感されてるじゃないですか隊長!」(モブ隊員B)
折紙は無表情のまま単調に付け加えた。
「『アイアンマン』の『I am Iron Man』で始まり、『エンドゲーム』の同じ台詞で締める構造美。あれを超える映画体験は未だ存在しない」
銀時も思わず鼻の穴をほじりながら同意してしまう。
「まあな……『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の1作目でダメ人間どもが円陣組んでオーブ掴むシーンとか、インフィニティ・サーガの勢いはマジで異常だったわ。あの熱量をもう一度味わいたいって気持ちは分かるよ」
「……って、納得して会話に乗っかってる場合かぁぁぁ!!」
銀時が我に返って大喝した。
「お前ら全員警察か何か知らんが重装備だろ!? そっちの少女は世界の危機みたいな精霊なんだろ!? なんで敵味方と通りすがりの天パ教師が全員でインフィニティ・サーガの思い出話に浸ってんだよ!! 現場の緊張感どこ行った!!」
「「「「あ……」」」」
AST隊員たちと隊長、そして名前のない少女がハッと我に返り、お互いを二度見した。
第五章:我に返った撤収劇
「い、いけないわ! 完全にペースに巻き込まれたわ! 隊員全員、精霊を包囲――」
隊長が慌てて指示を出そうとした瞬間、再び校舎全体を揺るがす強烈な地鳴りが響いた!
ウゥゥゥゥゥ―――ッ!!!
「やべぇ! 本気の二次空間震が来るぞ! マーベルを語り尽くして満足したところで撤収だぁぁぁ!」
銀時は間髪入れずに名前のない少女の手をガシッと掴んだ!
「む……!? 銀時!?」
「行くぞ名前のないお嬢さん! この映画オタクの重装備集団に捕まったら一生旧作のコメンタリー上映会に付き合わされるぞ!」
「うむ! お前と語る映画の話は楽しかったのだ! 逃げるぞ!」
「待ちなさい! 坂田銀時とのインフィニティ・サーガ同時視聴会は私のものです!」
背後で折紙が追撃姿勢に入り、隊長が「そこの天パと精霊を逃がすなー!」と叫ぶ中、銀時は十香の手を引っ張って崩れた廊下を全力で疾走する!
インフィニティ・サーガからマルチバースサーガまでを語り尽くした、あまりにもカオスで不条理な出会いを経て、天パ教師とまだ名を持たぬ少女の逃走劇は、いよいよ本格的な物語へと突き進んでいくのだった――!
(第五話・終わり)