【空中艦フラクシナス艦内の静けさと、令音の眠たげな分析】
ピカァァァァン―――っ!!!
空中艦〈フラクシナス〉の転送光に包まれ、ドサリと艦内の床に放り出されたのは――なぜか、坂田銀時ひとりだけであった。
「って、おいおいおい! なんか俺だけ拉致られてやんの! あの青臭い精霊と重装備ストーカー女を地上に残したまま、なんで俺だけピンポイントで母艦に連れ込まれてんだよ!!」
頭をポリポリとかきながら銀時が立ち上がると、そこは薄暗く、青いホログラムの光が瞬くフラクシナスのブリーフィングルームだった。
「あら……いらっしゃい、バカ兄貴」
振り返ると、司令官席にふんぞりかえった五河琴里が、チュッパチャプスをペロペロと舐めながら冷ややかな目を向けていた。
そして、その隣――管制卓の端に寄りかかるようにして、目の下にくっきりと深いクマを作った、いかにも寝不足で気だるげな女性が、とろんとした目で銀時を見上げていた。
「……はじめまして、坂田さん。私、ラトタスクで解析官をしている……村雨令音よ。ふぁあ……」
小さくあくびを噛み殺しながら、村雨令音はふんわりとした足取りで銀時のほうへ歩み寄ってきた。その態度はどこまでも穏やかで、母親のように包み込むような優しさと、底知れぬ気だるさが同居している。
自己紹介の挨拶代わりにとばかりに、令音はトロンとした瞳で銀時を見つめ、静かなトーンでこう呟いた。
「ねえ、坂田さん……。『X-MEN: フューチャー&パスト』に出てきた未来版のセンチネルのこと、どう思う……?」
「いきなり自己紹介代わりにフォックス版X-MENの絶望ビジュアルの話題をぶっこんできたぞこのクマの凄い美女!!」
銀時は思わず二歩ほど後ずさった。
第二章:令音の穏やかで冷徹なセンチネル論
だが、令音は全く悪びれる様子もなく、ただ柔らかく、穏やかな声音のまま言葉を続けた。
「だって……あの子たちの適応能力、すごく厄介でしょう……? どんなミュータントの能力をぶつけても、瞬時にその特性をラーニングして無効化してしまう。アイスマンの冷気も、コロッサスの鋼鉄化も、すべて学習されて、手も足も出せずにズタボロにされていく……あの、未来の荒廃した世界観……見ていると、胸が締め付けられるように切なくなるわ……」
銀時も、そのどこか母性的ですらある気だるげなペースに巻き込まれ、腕を組んで真面目な顔つきで頷いた。
「そうなんだよ! あそこが一番エグいところだよな! 個々の能力がどれだけ強力でも、数とチートな適応力で完全に完封されるから、未来の地球がロボットどもに支配されて絶滅寸前まで追い込まれているあの絶望感がハンパねぇんだよ!」
「そう……そうなの、坂田さん……」
令音は目を細め、どこか遠くを見るような優しい(しかし目が据わった)目で語る。
「あんなの、並大抵の手段じゃ絶対に打破できないわ。だからこそ、あの未来版センチネルを真正面から破壊して無力化するとしたら……やっぱり『X-MEN: アポカリプス』に登場したアポカリプス様レベルの、物質を分子レベルで自在に分解・再構築する圧倒的なエネルギーの持ち主か……あるいは、『X-MEN: ファイナル ディシジョン』や『ダーク・フェニックス』のジーン・グレイの、全宇宙をも焦がす圧倒的なサイキックの暴力で原子レベルに消し炭にするくらいじゃないと、綺麗にシャットダウンするのは難しいと思うの……」
「ハードル高すぎだろおい!!」
銀時がツッコミのチョップを空中に振り下ろす。
「いや確かに、マグニートーが磁力でちょっと鉄くずをねじる程度じゃ、あの未来版センチネルのチート適応能力の前には歯が立たないからな! アポカリプスの全盛期か、制御不能になったジーンの規格外のフェニックス・フォースの暴力くらいじゃないと、正面突破はマジで無理だわ!」
「うん……私、夜も眠れなくて……あの映画を観るたびに、もし現代の私たちの世界にあのセンチネルが送り込まれてきたら、どうやってハッキングしてシステムを停止すべきか、三昼夜くらい本気でシミュレーションしちゃうの……」
「お前、ラトタスクの解析官の仕事そっちのけで何をガチの対ロボット防衛シミュレーションしてんだよ!! 目の下のクマの原因そこだろ絶対!!」
第三章:司令官の激しいツッコミ
二人が艦内の片隅で、すっかり意気投合してフォックス版X-MENの絶望的ヴィラン論について穏やかに語り合っているその横で――
五河琴里の頭の血管が、かつてないほどにブチブチと音を立てて逆立った。
「ちょっとあなたたちねぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
ガタッ!! と司令官席から立ち上がり、琴里は足を踏み鳴らして絶叫した。
「何よこれ!? なんで敵か味方かも分からない初対面の挨拶の代わりに、『フューチャー&パストのセンチネル対策』と『アポカリプスやジーン・グレイじゃなきゃ倒せない説』について、艦内の片隅でガチのSF考察戦を優雅に繰り広げてんのよ!!」
琴里はチュッパチャプスを投げ捨て、頭を抱えて地団駄を踏む。
シンボルである黒リボンを揺らしながら、琴里は令音をビシッと指差した。
「ここはラトタスクの極秘空中艦よ!? 兄貴は地上から保護されてきたばかりなの! 村雨令音、あなたも解析の仕事に戻りなさいよ! なんで初対面の男とアメコミ映画の最強キャラの相性考察で盛り上がってのよ!! 語るんじゃないわよ!!」
令音はふんわりと優しく首をかしげ、困ったように、しかしどこかトロンとした声で微笑んだ。
「……だって、琴里。映画のお話をしていると、心が癒やされるの……。坂田さん、とってもいい理解者だわ……」
「理解者認定すんな! 俺はただ地上から拉致られていきなりセンチネルの耐久値の議論に付き合わされた被害者だわ!」
頭を抱えてツッコミを入れる銀時と、呆れ果てて白目を剥く司令官・琴里。
かぶき町の空を飛ぶ空中艦フラクシナスの内部は、今日も今日とて、MCUとX-MENを巡る不条理な熱気で満ち溢れていたのだった――!
(第八話・終わり