【ラトタスクのブリーフィングと、MCUを語る変態たち】
空中艦〈フラクシナス〉の艦内、青く発光するホログラムが浮かぶブリーフィングルーム。
パイプ椅子にドンと腰掛けた坂田銀時は、出された紙コップの温かいお茶をすすりながら、目の前で腕を組む五河琴里をジト目で睨みつけた。
「で? 俺をわざわざ地上からこんな空飛ぶエロい要塞に引っ張り込んどいて、話ってのは何だよ。まさか俺に『校舎修繕費を全額肩代わりしろ』って脅すためじゃないだろうな?」
「違うわよ、バカ兄貴」
琴里はチュッパチャプスを口からスポッと抜き、真剣な――司令官としての鋭い瞳を銀らに向けた。
艦内モニターが切り替わり、先ほどまで校舎裏で暴れていた、あの漆黒の霊装を着た少女の姿が映し出される。
「……あれが、『精霊』よ」
「……せいれい?」
銀時が首を傾げると、琴里は原作通りの、しかしどこか重々しい口調で説明を続けた。
「ええ。この世界に突如として現れ、空間震という未曾有の災厄を引き起こす存在。彼女たちは人間とは異なる次元の存在であり、あの圧倒的な力の前には、AST(対霊部隊)のような武力による排除は無意味どころか、お互いの被害を増やすだけなの」
「ふむ……。あの不機嫌そうに大剣振り回してたお姉ちゃんが、空間震の元凶ってわけか。確かに普通の人間じゃなさそうだったけどよ」
「だからこそ、私たち『ラトタスク』は武力ではなく――別の方法をとる」
琴里はビシッと指を突き立てた。
「彼女たち精霊と『デート』し、デレさせることで、その強大な霊力を封印するのよ!」
ブリーフィングルームに、一瞬の静寂が訪れた。
銀時は紙コップのお茶を盛大にブーッと吹き出し、白目を剥いて絶叫した。
「で、でーと……!? はぁぁぁぁぁっ!? 何言ってんだお前!? あの剣ブンブン振り回して俺の股関節を犬神家スタイルにした物騒なお姉ちゃんと、甘いデートスポット巡ってラブラブになれってのか!? 正気かおい!! 命がいくつあっても足りねぇわ!!」
「正気よ! それしか彼女たちを救い、この世界の惨禍を防ぐ方法はないの!」
琴里がドヤ顔で言い放ったその時だった。
シュッ――!
ブリーフィングルームの自動扉が開き、バタバタと足音を立てながら、ラトタスクのクルーたちが次々と入ってきた。
第二章:クルーたちの紹介と、勝手なMCU自己紹介
「おや、司令官。会議の最中に失礼します。我がラトタスクの精鋭クルーたちの紹介ですね!」
先頭切って飛び込んできたのは、白衣を纏った長身の男――神無月恭平であった。
彼は胸に手を当て、うっとりとした表情で銀時に一礼する。
「初めまして、坂田さん。私はラトタスク副司令の神無月恭平です。……ああっ、素晴らしい! この緊迫したブリーフィングルームの空気、そして私を冷たく見下す司令官の視線……! ゾクゾクします!」
「初対面でいきなり変態全開の自己紹介すんじゃねぇよ!!」
銀時が速攻でツッコむと、神無月はふっと不敵に微笑み、何食わぬ顔で自身のこだわりを付け加えた。
「ちなみに、私の好きなMCU映画は『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』です。あの、長年信頼していた組織『SHIELD』が実はヒドラに内部から完全に侵食されていたという絶望的な裏切り構造……そして、親友であるバッキーとの間で引き裂かれ、身を焦がすような激しい痛みに悶えるキャップの姿……! あの容赦ない政治スリラー的絶望感と、自分の手で親友を殴らなければならない苦痛に満ちた肉弾戦……私、あの痛みに耐える男の姿を想像するだけで、全身の皮膚が引き剥がされるような歓喜に震えてしまうのです……っ!」
「映画のチョイスはガチで優秀なのに、語り口が生粋のドM変態すぎて映画の感想が頭に入ってこねぇよ!! なんで嬉しそうに全身の皮膚引き剥がされる想像してんだよお前は!!」
神無月のあまりのキモさに銀時が頭を抱えていると、次なるクルーが勢いよく名乗り出た。
「お次はおれです! ラトタスク通信士の川越です! よろしくお願いします!」
川越はビシッと敬礼しながら、なぜか満面の笑みでこう叫んだ。
「私の好きなMCU映画は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 2』です! ヨンドュが最後にピーター・クイルを救うために宇宙空間に散っていくあのシーン……『俺はお前を救うために親父になったんだ』という言葉の重み! 血の繋がりを超えた家族の絆に、艦内で毎回号泣して上司に怒られてます!」
「お前は急に爽やかで泣ける名作語るな! 艦内で泣いてんじゃねぇよ!」
さらに、オペレーターの椎名も手を挙げて割り込んでくる。
「私もいいですか!? 私は『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』です! サノスの『リソースの有限性による全宇宙の半数間引き』という思想の徹底ぶりと、すべてのヒーローが束になっても指パッチンを止められなかったあの圧倒的なバッドエンドの美しさが最高です!」
「テロリストの思想に共感してんじゃねぇよお前らは!! ラトタスクのオペレーター席は全員映画オタクの変人しか採用されない決まりでもあんのかよ!!」
第三章:呆れる銀時と、始まる新たな任務
神無月、川越、椎名――原作通りのラトタスククルーとしての優秀な(あるいは変態的な)お仕事をこなしつつも、初対面の自己紹介の代わりに勝手にお気に入りのMCU映画を熱弁し始めたクルーたちを前に、銀時はぐったりと椅子にもたれかかった。
「はぁ……聞いてるだけで胃に穴が開きそうだわ。お前ら、世界を救う組織の人間だろ? なんで敵も味方も揃いも揃ってマーベルの重箱の隅つつくような語りしかできねぇんだよ……」
「ふふっ、いいじゃない。みんな映画愛に溢れていて頼もしいクルーよ」と、琴里は満足そうにチュッパチャプスを舐め直した。
「頼もしくねぇよ! 心配しかねぇよ!!」
「で、話は戻るけど、坂田銀時」
琴里はクルーたちを制し、キリッとした表情で銀時に顔を近づけた。
「あの名前のない精霊を救う――正確には、暴走させて街を消し飛ばさせないために、あなたにも協力してもらうわ。『デートしてデレさせる』このミッションの最初のステップとして、まずは彼女と再び接触し、会話を成立させることよ」
「はぁ!? 俺が!? いやいや、さっきまでボコボコにされかけて校舎の瓦礫にハマってた男に頼む仕事じゃねぇだろ!」
「大丈夫よ。あなた、さっきの校舎裏で彼女とちゃっかり『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー3』のロケットの過去について熱く語り合ってたじゃない。映画の趣味が合うなら、デートの口実くらいすぐ見つかるわよ」
「あんな殺伐とした初対面をデートの口実にするな!!」
銀時が絶叫する中、空中艦フラクシナスの巨大なモニターには、かぶき町の夜空を漂う、まだ名もなき精霊の影が静かに映し出されていた――。
(第九話・終わり)