WORLD TRIGGER ~ 飛翔する遊星 ~   作:凸凹凹凸

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第2話「唐突な開戦②」

WORLD TRIGGER ~ 飛翔する遊星 ~

 

第2話「唐突な開戦②」

 

 

 

 

 時間帯は夜となり、近界民(ネイバー)による出現や被害を考え、住民を避難させ、今や無人となった『警戒区域』の町をまるで散歩でもするかのように一人歩いている青年が手に『ぼんち揚げ』の袋ごと持って食べながら、その表情は真剣そのものだった。

 

(んおぉー……俺のサイドエフェクトが動きだしたなぁ。こりゃ『第零』さんのお陰かな?)

 

 その青年。

 界境防衛機関《ボーダー》に二つしかないと言われた『(ブラック)トリガー』の持ち主であり、『S級』の実力派エリートを自称する男。

 (じん)悠一(ゆういち)が青い隊服をはだけるように着て、一応ボーダー隊員なんですよーと告げている格好だった。

 

「そろそろかな」

 

 そう言って、迅は食べていたぼんち揚を全部食べ終え、ポイ捨てなんてせずに綺麗に袋を折り畳んでズボンのポケット辺りに入れとく。後のカス掃除が大変だが、迅はその面倒さえ配慮に入れてまで持ってきていたのだ。だがそんな事を気にしてる場合でもなく、『警戒区域』だと言うのに電柱にある防犯灯が何故か電気が通っているが今は有難い。

 迅はその電柱に立っていれば、前方から多数の迫り来る疾走音が耳に届いてくる。

 

 

 

「止まれ!!」

 

 

 

 ズサッ! 表れたのはボーダー本部での『最精鋭部隊』のメンバーが揃っていた。三々五々と表情や心構えで臨んでいるように見え、バラバラだが目的をハッキリとした確固の気構えだった。

 

「迅……!!」

 

「そうか。なるほど、そう来るか」

 

「太刀川さん、風間さん久しぶり。みんなお揃いでどちらまで?」

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「うーむ……今日も3勝7敗が最高か……。4勝の壁があるな」

 

「腕が上がってるのはあんただけじゃないのよ」

 

「ほう」

 

 プスプスと白い髪をアフロのように膨張している空閑遊真が『3』の口で、師匠相手である小南にあとちょっとで4勝への勝利を手に入れるべく、休憩の為、訓練室(トレーニングルーム)から出てすぐにあるオペレーターデスクに集まっていた。

 

「小南先輩から3本取れたら大したもんだろ」

 

「とりまる先輩も一勝負どう?」

 

「また今度な」

 

「えっ、ちょ! なんでとりまるは最初から先輩呼びなの!?」

 

 なにやら烏丸が椅子に座りながら弟子である三雲のトレーニングスケジュールを考えながら紙に書いていた。突然、迅に言われて師弟関係となったというのに真面目に三雲のことを考えていた。

 

「どうやっておまえの相棒を強くできるか、今はそれを考えるので手一杯だ」

 

 

 烏丸がその三雲のことで思い悩んでいる頃、場所が変わり、体力作りとして玉狛支部周辺の外周を走っているレイジに千佳、三雲の三人は夜ながらも頑張っていた。

 そこには玉狛支部に居座っているお子さま林藤陽太郎もカピバラの雷神丸に跨がり追走しながらゼェゼェ苦しそうにしている三雲を応援して付いて行っていた。

 余裕を持って背後を見ながらレイジが今の走り込みの説明をする。

 

戦闘(トリオン)体での戦闘に生身の筋力は関係ないが、トリオン体の操縦は生身を動かすときの『感覚』が元となっている。生身で『動ける感覚』を掴めばトリオン体ではその何倍も動けるようになる。生身の鍛錬を甘く見ないことだ」

 

「はい!」

 

「は……はひ…………」

 

「しぬな! おさむ!」

 

 レイジは走りながら後ろから付いてくる後輩たちを眺めて、ふと考える。まさか三雲の持久力がこんなにダメだとは。

 だが、三雲の言う通りレイジの弟子である彼女、雨取千佳は少なくとも三雲より顔を上げ、胸を張り、呼吸の取り方も見事に保って走っていた。持久戦に向いている。

 

(ふむ……)

 

 これは鍛え甲斐がある。

 ふとそう思ったレイジだった。三雲も雨取も、

 

 そして、そんな玉狛支部外周を走る二人をよそに、支部の中ではまた空閑と小南がオペレーターデスクで休憩していた。それだけの実力差が遊真とあるということ。

 

「そういえば、最近迅さん居ないね」

 

「なんかやることがあるって言ってたな。あの人」

 

保護(ホゴ)先輩も居ないし」

 

「んー……ホゴさんは部屋でアニメ見てるかゲームしてるかじゃないか」

 

 遊真が迅の姿が支部内でも見かけないのでふとそう思い、それにノートに書き写しながら烏丸も律儀に答えていると、ボトルに入った水分を補充していた小南が何気なく告げてきた。

 

「どうせ、またなにかコソコソやってんでしょ? あいつの趣味『暗躍』だから」

 

 そして。

 

「ホゴさんは、…………やっぱりアニメ見てるのかしら?」

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「うおっ、迅さんじゃん。なんで?」

 

「よぅ当真。冬島さんはどうした?」

 

「うちの隊長は船酔い(・ ・ ・)でダウンしてるよ」

 

「余計なことを喋るな当真」

 

 当真と呼ばれた少年。当真(とうま)(いさみ)はリーゼントを立派に整えた髪をいじり、待ち構えていた迅に疑問に抱くが、同じ『遠征組』にして《風間隊》の隊長であり、その集団の中で一番背が小さくもその無表情さと内面から伝わる気迫に気圧(けお)される雰囲気を纏った風間(かざま)蒼也(そうや)が厳しくそう言い放つ。

 

「こんな所で待ち構えてたってことは、俺たちの目的もわかってるわけだな」

 

うちの(・ ・ ・)後輩(・ ・)にちょっかい出しに来たんだろ?。最近、玉狛(うち)の後輩たちはかなりいい感じだから……ジャマしないでほしいんだけど」

 

「そりゃ無理だ…………と言ったら?」

 

「その場合は仕方ない」

 

 迅は(おの)が持つ、《(ブラック)トリガー》の黒塗りの柄尻に手を乗せ、臨戦体勢をとる。

 

「実力派エリートとして、かわいい後輩を守らなきゃいけないな」

 

 迅の微笑みながらの気迫に三輪が気に入らないように舌打ちを鳴らす。

 だが、逆に『面白い』と感じる者もその中に居た。

 

「なんだ、迅。いつになくやる気だな」

 

 笑みを浮かべていたのはボーダー内上位1位の座に着いている《太刀川隊》隊長・太刀川慶だった。

 

「おいおい。どーなってんだ? 迅さんと戦う流れ?」

 

 軽く冗談のように言った当真だったが、その可能性も十分過ぎるくらいある。手元にはいつでも狙撃できる狙撃手(スナイパー)用トリガー《イーグレット》を出現させられるようにしていた。

 だが、そこには冷たくも確りと芯が籠った声が遮った。

 

「『模擬戦を除くボーダー隊員同士の戦闘を固く禁ずる』………隊務(たいむ)規定違反で厳罰を受ける覚悟はあるんだろうな? 迅」

 

「それを言うならうちの後輩だって立派なボーダー隊員だよ。あんたらがやろうとしていることもルール違反だろ、風間さん」

 

「…………!」

 

 迅の言い様に、風間は思わず思い悩む。だが、そんな虚言に物申すように、三輪が吠えるように食ってかかる。

 

「「立派なボーダー隊員」だと…………!? ふざけるなッ!! 近界民(ネイバー)を匿ってるだけだろうが!!」

 

近界民(ネイバー)を入隊させちゃダメっていうルールはない。正式な手続きで入隊した正真正銘のボーダー隊員だ。誰にも文句を言わせないよ」

 

 その言葉に三輪も喉を詰まらせる。

 隊務規定あってこそ、『界境防衛機関(ボーダー)』として世間から危険視されていないのだ。軍規に並ぶ厳粛にして厳重な規則。守られなければ即時厳罰。それがあるから組織が成り立つ。幾ら《(ブラック)トリガー》の回収が名目があるとは言え、その命令を下した上の連中の規則(きめごと)に縛られるのは、隊員にとって数ある面倒事の一つと言える。

 だが、だからこそこの男(・ ・ ・)を城戸司令は指揮権を任せたのだろう。

 

「いや、迅。おまえの後輩はまだ正式な隊員じゃないぞ。玉狛での入隊手続きが住んでても、正式(・ ・)入隊日(・ ・ ・)を迎えるまでは本部ではボーダー隊員と認めていない。俺たちにとっておまえの後輩は1月8日(・ ・ ・ ・)まではただの野良近界民(ネイバー)だ」

 

 太刀川も、レーダーに映らないようになるマント《バッグワーム》のオプションを切り、動きやすい格好である黒コートの隊服になり、悠然と告げた。

 

「仕留めるのになんの問題もないな」

 

「へぇ」

 

 同時に、三輪は前から太刀川が苦手だというその理由が分かった。太刀川慶と迅悠一のやり口が似ているからだ。

 

「邪魔をするな迅。おまえと争っても仕方がない。俺たちは任務を続行する」

 

 風間も風間で、この不毛なやり取りにその冷静な考えで結論着いていた。

 

「本部と支部のパワーバランスが崩れることを別としても、(ブラック)トリガーを持った近界民(ネイバー)が野放しにされている状況はボーダーとして許すわけにはいかない。城戸司令は、どんな手を使っても玉狛の(ブラック)トリガーを本部の管理下に置くだろう。玉狛が抵抗しても遅いか早いかの違いでしかない。おとなしく渡したほうがお互いのためだ。…………それともその(ブラック)トリガーの力を使って本部と戦争でもするつもりか?」

 

「城戸さんの事情は色々あるだろうが、こっちだって事情がある。あんたたちにとっては単なる(ブラック)トリガーだとしても、持ち主本人にしてみれば命より大事な物だ」

 

 向こうが曲げられないように、こちらにだって曲げられない事情というものがある。

 

「あくまで抵抗を選ぶか……。お前も当然知ってるだろうが、遠征部隊に選ばれるのは()トリガー(・ ・ ・ ・)に対抗(・ ・ ・)できる(・ ・ ・)と判断された部隊だけだ。他の連中相手ならともかく、俺たちの部隊を相手におまえ一人だけで勝てるつもりか?」

 

 それなら何処までも甘く見ているつもりなのか、憤りを越え、呆れるものだ。風間は表情こそ一切乱れていないがふとそう思った。

 だが、遠征組に選ばれたことがある迅だ。

 

「おれはそこまで自惚れてないよ。遠征部隊の強さはよく知ってる。それに加えてA級の三輪隊。おれが(ブラック)トリガーを使ったとしてもいいとこ五分だろ」

 

 なら勝負は明らか。

 そこを退け、風間がそう言い放とうとしたが、迅は崩さぬ口角を上げた口で告げた。

 

「『おれ一人だったら』…………の話だけど」

 

「…………ッ!? なに……!?」

 

 ダンッ!!

 全員が上方から聞こえた着地音に目を向けた。するとそこに立っていたのは、

 

「嵐山隊現着(げんちゃく)した! 忍田本部長の命により、玉狛支部に加勢する!」

 

「嵐山……!」

 

「嵐山隊……!?」

 

 到着したその部隊は忍田派に属し、A級5位にして広報担当の役割をもこなし、「ボーダーの顔」としてメディア露出も多いことで有名である《嵐山隊》だった。

 隊長の嵐山(あらしやま)(じゅん)が迅の横まで降りると、嵐山隊紅一点の木虎(きとら)(あい)、嵐山隊副官の立ち位置である時枝(ときえだ)(みつる)も並び立つ。

 

「いいタイミングだ嵐山。助かるぜ」

 

「三雲くんの隊のためと聞いたからな。彼には大きな恩がある! 」

 

「木虎もメガネくんのために?」

 

「命令だからです」

 

「時枝も助かるぜ」

「頑張っていきましょう」

 

 さて、と迅は相手方を眺め、

 

「嵐山たちがいればはっきり言ってこっちが勝つよ。おれのサイドエフェクトがそう言ってる。おれだって本部とケンカしたい訳じゃない、。退いてくれると嬉しいんだけどな、太刀川さん」

 

「なるほど……『未来視』のサイドエフェクトか。ここまで本気(・ ・)のおまえは久々に見るな…………おもしろい(・ ・ ・ ・ ・)

 

 はぁぁぁぁ~ぁぁ、と盛大に溜め息を吐いた迅。

 やはりこの人はこうなるのかと、溜め息を吐かずにいられなかった。

 

「おまえの予知を……」

 

 太刀川は鞘からゆっくりと、抜刀する。

 光り輝く刀身を覗かせて、ゆっくりと、ただそれだけで、

 

「……覆したくなった」

 

 相手の身を(すく)ませる。

 

「やれやれ……そう言うだろうなと思ったよ」

 

 だが、迅とて引けない。

 ならば情け容赦無い戦いに移ろう。

 言葉ではなく、刀剣同士の斬り合いにて、勝者(けっちゃく)決める(つける)

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 そんな迅&嵐山隊(バーサス)遠征組&三輪隊の戦いが始まった時であろうその時、玉狛支部所属の隊員である宍喰(ししくい)焔悟(えんご)紺頼(こんらい)鉦胡(しょうご)も動いていた。

 二人共、迅と同型の隊服に似ており、それが玉狛支部所属の隊服なんだと彷彿させるが、色が分かりやすく、焔悟は迅よりも純粋は蒼色の上着隊服で、鉦胡も青色の濃紺(ネイビーブルー)の上着隊服。色もそうだが、個人的にオリジナリティに作られてるのかもしれない。焔悟の隊服は裾が短く、鉦胡の隊服は裾が長く作られていた。

 その青さが夜の街中、特に屋根での移動では黒に馴染む色で、目立たなく移動出来ていた。

 

「迅の《未来視(サイドエフェクト)》の邪魔にならない程度の手伝いをするつもりだが、(しょう)っさん保護(ほご)メガネにも連絡しといたか?」

 

「保護メガネはガチギレするから止めてけよ。…………ブッ! ブックフフフッフ!!」

 

「笑ってんじゃねぇか」

 

 迅たちが戦っている周辺まで跳んでやって来ると焔悟と鉦胡は辺りを警戒しながらも遠くから見渡せる場所にへと更に移動していた。

 

「遠征組以外の隊……狙撃チームとか来てたら完璧ボクら狙われるよね?」

 

「それならもう撃たれてるさ。狙撃手(スナイパー)用トリガーの射程範囲内にはもう来てる。当真が一番怖ぇけど、それは向こうに気を取られてるし、なにより城戸司令はトップチームを信じてんだろうさ」

 

 焔悟は攻撃手(アタッカー)用トリガーを装備している為、両手に何もない状態で双眼鏡を覗かせる。

 

「それに、危険になりそうだったら、鉦胡の〝サイドエフェクト〟が反応するだろ」

 

「それはそうだけど、反応するだけで対応はこっちでやらないといけないんだ。それがどこまで危険なのかも分からないというのに……」

 

「それはそうだが……おっ! 太刀川くんの旋空(・ ・)によって、距離を置いたな迅。それからどうすんだ」

 

「盗み見になんて、嫌な趣味してんな」

 

「君も来てんがな」

 

「遠征組は数が居るからバラけて玉狛支部に行ったらどうするの?」

 

分散す(バラけ)れば連携も出来ずに迅か嵐山隊に集中砲火受けてやられる。だからって一人や二人の少数を玉狛に行かせてもレイジ達ボーダー最強部隊《玉狛第一》に返り討ちだ。それなら太刀川くんや風間くんなど攻撃手(アタッカー)上位や、狙撃手(スナイパー)1位2位の当真や奈良坂くんを行かせても無駄だ。通れやしない」

 

「無粋な質問だったねぇ」

 

「堅牢なのは堅牢だけど、万が一がある。太刀川くんたちは『強い』んだ。確実なんて何処にも無いが、…………うん?」

 

「どったの?」

 

 焔悟は戦術面では太刀川や風間、他にも数人頭が切れる者が居るあの中で、遠方から別の部隊……というより数人が向かっているのに気づいたのだ。レーダー画面を正面に出現させ、確認の後、遠征組と三輪隊だけじゃない。と判断し、焔悟はすぐに眺めていたであろうマンションのベランダから降りた。かなりの高層マンションだったにも関わらず躊躇無く降りた。

 鉦胡も後に続くが、この落下していく重力感は何度 体験しても肝を冷やされる。現実に生きてきた者に対して地面ほど密接してきた人生に新たな感覚を植え付けられたのだ。戸惑いや困惑が付いて回るのは大変ストレスになるのだが、それを代償に超人な力を手に入れたも同義であるのだが、それを理解してもやはりというか、結果は『怖かった』のだ。だが、無事に高層マンションから降り、風の抵抗を上手く利用して民家の屋根に見事着地するところには『慣れ』を感じさせられる。

 だが、鉦胡がそんなことを考えている内に、焔悟は次のことを考えていた。

 

(なんだ? 『玉狛』と『忍田派』が手を結んだことで本部隊員の3分の1戦力が遠征組より上回ったことを知られ、『城戸派』が新たに戦力を投下してきたのか? だが遠征組に続くA級隊員を投入するには幾らか骨が折れるハズ、そして何より情報が回ってくるハズなのに……)

 

 焔悟は次から次へと民家の屋根を蹴り飛びながらその少数迫りくる奴らのもとへ急ぐ。

 

(……嫌な予感だ)

 

「…………ッッ!? 右だ!」

 

 鉦胡の声に即座に反応し、攻撃手(アタッカー)用武器トリガーの軽量ブレード『スコーピオン』でそれを弾き落とした。

 

「ひあぁ~……落とされちったぁ」

 

「……………………」

 

「「ゲッ!?」」

 

 見事な対応をみせた焔悟だったが、鉦胡と共に攻撃してきた相手に思わず呻き声を洩らしてしまった。それほどの相手、それほどの苦手な相手たち。

 

「おっ久~! 愛する兄達(・ ・)たちの援護にきたプリティな妹達だっぜ~」

 

「……まさか、この人たちだったなんて……(とどろき)さんも相手が悪い」

 

 二人の前に立ちふさがったのは、誰かによく似る女剣士の二人だった。

 一人は格子状の目と、長いツインテールが特徴的な小さな女の子。オプショントリガーである《バッグワーム》を使わず、無用なトリオン消費をせずに警戒区域(こ こ)まで来たらしい。

 もう一人はとても長身の少女で、夜間でもあるのに、月明かりに映ったその立ち姿はとても凛としており、月下に咲く華のように、見蕩(みと)れて思わず息を小さく洩らしている。

 黒い髪は腰まで伸ばし、だと言うのに邪魔になっているのかと思えばそんなことを思わせない流麗な動きにまた見蕩れ…………、

 

「よそ見♪」

 

「「うおぉおーーっ!!」」

 

 その一人に視線を集中し過ぎたせいか、もう一人の小さなツインテールっ娘に容赦無い斬撃を振るわれる。

 間一髪のところで避けるが、拍子に顔から道路に突っ込んでしまう。いくら戦闘(トリオン)体だからとはいえ屋根から道路に向かって落ちていくのに中々怖かった。

 

「やっべぇ……相変わらず美女だ……。もう、美少女とかじゃなくて、マジ『美女』だ」

 

「よ、よそ見っ!」

 

 ズワァンッ! と光の一刀が鉦胡の雁首目掛けて一閃する。だがこれも間一髪避けられる……が、足場が不安定だった為に体勢が崩れてしまい、無様に屋根から落ちて塀と塀の間に挟まった。

 見事にハマってしまったのだ。いくらトリオン体でも手も足が動かせない状態に陥ったのだ。

 

「やべぇえ!! これマジやべぇえ!! 真っ二つにされるぅぅぅッッ!!!??」

 

「ほんとに馬鹿かこの人たちっ!?」

 

 勿論、()らせてもらう。

 彼女の攻撃手(アタッカー)用トリガー『弧月』が鉦胡の体全体を真っ二つに出来るよう横斬りに振るわれるが、

 

「貴女も余所見よ……」

 

 ガキィイン!! と激しい金属音がツインテールの少女の耳から伝わった。

 

「もっと惹き付けておけよ」

 

「いぃやぁ無理でしょォ!?」

 

 顔面押さえたままだったが、形を自在操れる『スコーピオン』で十字斬りをツインテールの少女に放ったのだが、それを事前に見越してか、黒髪長髪の美女が身の丈ほどある長刀の『弧月』で防いでみせた。

 そして、鉦胡の反応から見て、土壇場での連携だと判断する。

 

(この挟まり男だけでも!)

 

 だが既に鉦胡の姿も消え、反対側の道路に出ていた。

 

「言った通りでお願いね……」

 

「分かってるわよッ!」

 

 見事に二手に別れたこの一騎討ちに、早くも終わらせようと焔悟はスコーピオンを双剣にして長刀使いの美女に瞬速の連撃を繰り出していく。

 

「…………やはり、速い(・ ・)ですね」

 

「と言いながら受け流すかい!」

 

 笑みを浮かべる焔悟に対し、美女は長い弧月を巧みに動かし氷のような無表情顔で執拗に『頭部』『首』『胸部』に刺突(つき)を放つ。

 

風間(・ ・)ちゃんが来たってことは、やはり迅たちが防衛戦を敷くことを知ってたのかい!」

 

「いえ……、知りませんでした……」

「え、マジで?」

 

 そんな軽口を叩くが、一向に絶え間ない焔悟の連撃に早速動きが鈍くなってきた風間と名乗る美女がふと、隙を見せる。

 

(獲った)

 

 体勢を崩した美女にすかさずトリオン体での急所、胸部にある『トリオン供給機関』に向けて双剣で貫こうとするも、

 

(ぬがっ!?)

 

 ヒュンッ! と風を切る音が顔面のすぐ側で聞こえた。

 長刀使いの美女がまるで軽い物でも動かしたかのように手首と五指だけを動かし、長刀の『弧月』を円状に回転させ、逆に焔悟の首を獲ろうとしていたのだ。

 

「……難しいわね」

 

(うわぁ……)

 

 こんなえげつない方法を取るのは、あの(・ ・)風間と同じだった。

 

(まぁ、これなら倒せないことも……)

 

 そう考えていると、今度は完全にスピードを先手に取られ、予測不可能な長刀の動きに、

 

「シールド!」

 

 防御(ガード)用トリガーを発現させると、防御(ガード)範囲を極端に狭まり小さくして、防御の硬度を最高にさせて受け止めるが、

 

(あらら!)

 

「……む、ーっ!!」

 

 両手で柄を握り、思いっきり力を入れれば、空中展開させていたシールドが何故か動きだし、『なにィ!?』と驚く焔悟を、視界が揺れたと思えば体が重力を無視した勢いよく打ち飛ばす。女性とはいえトリオン体。人命救助にてその怪力が活躍する。フルパワーで動かせば巨大な岩盤や建物のコンクリートの瓦礫だって動かせる。

 

(そうか……コイツらの狙いはっ!)

 

 ガゴォン! ガゴォン! と家から家へと幾度も突き破り、貫き飛ばされながらも焔悟は相手の狙いをしっかりの捉えるも、その美女は無表情のまま駆ける力も弛まず押し通していかせる。

 考えあっての行動も、民家を破壊してまでやってしまっているのは若さ故に事後処理のことを考えていないことか、それとも知っての大胆不敵な行動か。焔悟的にも前者であって欲しかったが、この美女の性格を知っている。零度を(・ ・ ・)誇る冷静さ(・ ・ ・ ・ ・)を。

 最後の民家を大破させて、広い道路に出てやっと横跳びにして避けてみせると、そこには見知った顔がそこかしこに立っていた。

 

「ありゃ、エンゴさん?」

 

「…………やっぱか!」

 

 最初から、本当に戦闘が始まる前から『合流』を狙い、位置も把握きて決めていたのだろう。迅や太刀川、風間隊の隊員たちが対峙している場所にへと出た。

 

「……蒼伊(あおい)か」

 

「……お兄ちゃん(・ ・ ・ ・ ・)

 

 風間隊隊長であり、蒼伊と呼ばれた美女の兄であろう風間(かざま)蒼也(そうや)がそこに立っていた。

 

「何故ここに居る」

 

「えっと……その、お兄ちゃんに会いたくって……」

 

 さっきまでとは打って変わって、凛とした姿が和らげ、気恥ずかしそうに下を向く美女がそこに居た。

 風間隊の菊地原(きくちはら)士郎(しろう)歌川(うたがわ)(りょう)が迅や焔悟から守るように蒼伊の前に出る。

 

「蒼伊先輩、久しぶりですね。そして相変わらず(・ ・ ・ ・ ・)です。それ治した方が良いんじゃないですか?」

 

「おい、言い過ぎだぞ」

 

「こっちはこっちで甘いし……」

 

 風間隊も前から会っていたのか、蒼伊に気軽に話し掛ける。蒼伊は菊地原や歌川に軽くお辞儀をして、兄の風間蒼也の様子を伺うが、無表情なその顔は思考を読むことが出来ない。

 

「待てよ、(アオ)ちゃんが居るってことは……」

 

 そして、風間隊や太刀川の動きが止まると同時に、一陣の風が横切った。

 

「正面からか!」

 

「若いねぇ……」

 

 ガキィッ! と音が鳴ったと同時に武器で防ぎ、迅と焔悟にその〝二刀〟で襲ったのは栗色の長い髪をツインテールにした小さな少女だった。

 

(れん)っ! お前もか!」

 

「わたしもだ!」

 

 受け止められたが、そのまま二刀を即座に戻し、次の斬撃を放とうとするも、迅が右から焔悟が左からの重い一撃を横薙ぎに斬り払おうとする。

 だがそれを間一髪で見切り(・ ・ ・)、体をねじ曲げ曲芸よろしく宙で回転して焔悟の刃を砕け裂いた。

 

(……ッ!……受け太刀に弱いスコーピオンだけを狙った返しか! 油断ならん娘だ相変わらず)

 

 だが、それだと迅の刃が彼女を襲うが、

 

俺がいるぜ(・ ・ ・ ・ ・)?」

 

 迅の横顔まで迫った刃先を『予知』のサイドエフェクトで紙一重で避けるが、かなり危なかった。それほど目の前の少女に集中させられたということだった。

 

「太刀川妹に風間妹……強力な協力者が増えちまったぜ」

 

「えっと……………………………………悪ぃ」

 

 これにて局面が新たに変わる。

 迅と合流した焔悟に、遠征組と三輪隊、そして太刀川と風間妹達(シスターズ)の参戦。

 

 未来が変わった。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「あっ、ぉ?」

 

 所変わって、二手に別れた嵐山隊の足止めを入った三輪隊二名に太刀川隊一名の計三名の戦闘場所にも新たなアクション起こっていた。

 

『どうした、(けん)?』

 

 マンションのベランダにて、狙撃ポイントに構えていた嵐山隊唯一の狙撃手(スナイパー)佐鳥(さとり)賢が遠方から煙が見えたことに冷や汗を垂らしていた。トリオン体によって備えられた内部通信で嵐山が何かあったのか確かめてきたが、今こちらも戦闘中、説明してもただ要領を得ないので『なんでも無いっす』とだけ返す。

 

「曖昧な理由で戦う連中だ。情けなんて描けるなよ」

 

「誰に言ってんのよコラ」

 

 拳銃(ハンドガン)を嵐山の頭部を狙ったまま、出方を待っている鋭い眼光を放つ三輪隊隊長・三輪秀次に、太刀川隊の火力担当にして《弾バカ》なんて呼ばれている出水(いずみ)公平(こうへい)が嵐山隊と対峙したまま動けないでいた。

 その理由は単純に事前に知っていた嵐山隊メンバーの一人に《狙撃手(スナイパー)》が何処かに潜伏しているからだった。迂闊に射線が通らないようにしているからだった。

 

(ま、そんなんじゃ相手も狙撃場所変えて狙えるトコに移動されるだけなんだし……)

 

 ここは打って出る。

 そう決めたのは、遠征組にしてA級1位の部隊《太刀川隊》の中距離・援護補佐など専門にしてる《射手(シューター)》の出水が笑みを浮かべて、前に出た。

 

()るならさっさと始めようぜ。早くこっちを片付けて、太刀川さんに加勢しなきゃなんないからな」

 

 そう告げた出水の両手から、眩い光が洩れたと思えば、そこにあったのはトリオンで出来たであろう四角い〝キューブ〟。

 それは射手(シューター)独自の攻撃態勢前の準備動作だったのだが、これにて出水は名の通り両手が(・ ・ ・)塞がった(・ ・ ・)状態にもなった訳だが、まるで待っていたかように刹那的の嫌な射撃音がその場を支配した。

 狙いを定め、絶好のチャンスで射撃をしたのは、嵐山隊唯一狙撃手(スナイパー)の佐鳥賢。

 撃ち抜いた相手を確かめようと照準器(スコープ)を覗くと、

 

「……クハハ、なんちゃって。佐鳥、見っけ」

 

 反応早く、佐鳥は一気に身を低くしてその場のマンション部屋内部に引っ込み、外にへと駆け抜ける。

 

「うっわ、釣られた! 両攻撃(フルアタック)と見せかけて両防御(フルガード)かよ! 相変わらずイヤらしいな出水先輩は!」

 

 見事な出水の引っ掛けにより狙撃手(スナイパー)の居場所を見つけた三輪たちはすぐさま指示を出す。

 

「陽介、狙撃手(スナイパー)を片付けろ」

 

「オッケー♪」

 

「木虎!」

 

「カバーに入ります」

 

 合流した特殊武器、弧月槍型を手にした攻撃手(アタッカー)米屋陽介が七階建てくらいあるマンションに駆け登り、佐鳥を仕留めんとするが、木虎が拳銃(ハンドガン)で牽制の弾丸を放つ。

 背後から迫った弾丸を、一目見て大雑把に飛躍して避け、槍をマンションの壁に突き刺したとおもえば空中で止まり、同じく駆け登ってきていた木虎に横蹴りを食らわす。

 受け止めた木虎だったが、マンションの一室に蹴り飛ばされ、米屋も直ぐに追い、体勢を整えた木虎と改めて対峙した。米屋は邪魔な可愛い後輩から消すつもりになったらしい。槍を構えて、ただ相手を見て笑みう。

 『戦い』を楽しむかのように、

 

「おいこら、優等生。勝手に人ん家入っていいのか?」

 

「蹴り飛ばしたのそっちでしょ?」

 

 木虎藍も、女の妖しい瞳を照らし、(いざな)う妖しきその美貌(カオ)に、光刃(ヤイバ)を片手にまた(わら)った。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「そらぁ!」

 

「おっ!」

 

 ガキィンッ! 

 激しいトリオンによる武器の衝突音がその場に響く。だが、追撃は止まない。

 

「……弧月」

 

「ぬぐっ!」

 

 迅に対して太刀川慶と風間蒼伊(あおい)が、焔悟には太刀川(れん)と風間蒼也が相手取っていた。

 太刀川の斬撃に追うような剣筋で蒼伊の長刀の弧月がギリギリのところをなぞる。だが、迅は身に宿るサイドエフェクト《未来視》で剣筋を予知し、避け、それに応戦するような鋭い一撃をそれぞれに放つ。

 二人それぞれまた新たに、回避をしながらも攻撃に繋げる。

 

「流石は女版太刀川(・ ・ ・ ・ ・)さんと呼ばれるだけあって、一刀(ひとたち)一刀(ひとたち)が半端なく重いなぁ」

 

「……なら倒さ(やら)れなさい」

 

「それはごめん、だね!」

 

 踏み込み過ぎた蒼伊に迅は見逃さず、トリオン供給機関から脳に流れる伝達系を切断しようと首を狙ったが、

 

「だったらコイツだ!」

 

「あっぶねー! あぶねー!」

 

 太刀川の刺突(ツキ)が迅の脳天を貫こうと迫ったが、それさえも迅に読まれたが、

 

(おっと!?)

 

 ヒュウッ! と迅は斜めに崩れた体を器用に動かし、『ソレ』を避けた。迅を狙ったのは二つの弾丸だった。

 

『奈良坂さん、当たらないです!』

 

『いいかれ黙って撃て。迅さんには予知のサイドエフェクトがある。(かわ)されるのは仕方ない。当てるんじゃなく動きを制限させるつもりで撃て。迅さんの対処能力を攻撃の密度で上回るんだ』

 

 狙撃したのは、《三輪隊》の狙撃手(スナイパー)二人組の奈良坂透と古寺章介だった。

 インカムで連絡し合っていると、奈良坂はもう一人居るであろう狙撃手(スナイパー)に意識を向けた。

 

『当真さん、そっちはどうなんだ?』

 

 そう聞かれたであろうボーダーNo.1狙撃手(スナイパー)である《冬島隊》隊員の当真勇は敵の狙いを定めては、深いため息を溢す。再び息を吸い、狙いを定めては……深い深いため息を溢す。これを繰り返すだけだった。

 

『いやよぉ…………確かにおれは外れる弾なんか撃たねぇぜ? だけどよ、あの人の動きはなんだ? 向こう側(・ ・ ・ ・ ・)の奴らの動きだぞ……』

 

『なに……』

 

 あの自信に満ち溢れ、溢れ過ぎて(こぼ)れてしまい、その狙撃手(スナイパー)としてプライドが高過ぎた為に周囲にウザがられていたが、腕は本当に確かな男である当真勇。

 そんな男が『撃ち(づら)い』と思ったのは、もう一人の対戦相手にだった。

 奈良坂(ならさか)は狙いを変え、狙撃場所を改めて移動し、当真が狙いを定めていたであろう敵にスコープから眺めると、

 

(あれが、宍喰(ししくい)焔悟(えんご)さんの動き……《玉狛第零(・ ・ ・ ・)》の隊長(・ ・)の実力か)

 

 スコープから覗いたその先には、奈良坂が冷静に判断した実力差だった。

 ボーダー上位に入る攻撃手(アタッカー)を相手しながらも、しっかりと狙撃手(スナイパー)の射線も建物を利用して遮らせ、そんな狙撃対応をしている焔悟に気付き狙撃手(スナイパー)狙撃でき(う て る)るよう攻撃手(アタッカー)たちも射線が通る場所にへと移動させようとするが、そうすると焔悟の猛攻が連撃が上がり一層危険な状態にへと追い込まれてしまうのだった。

 それを全て考えた上で、相手の攻撃手(アタッカー)を射線の盾にして上手く立ち回る焔悟に狙撃手(スナイパー)組は初めて(・ ・ ・)相手をするあの熟練のボーダー隊員に舌打ちを鳴らしていた。

 

(なんというか、ここまで狙撃されるのが嫌なのか。誰だって狙撃されるのは嫌がるが、そんなの当たり前なんだが…………あの人はここまで徹底している)

 

 どんな隙間さえ、チャンスさえあれば狙撃できる自信を持つ当真に奈良坂。この二人が手を(こまぬ)くなどあり得ないと言われるほどの狙撃の実力の持ち主。なのだが、近界民(ネイバー)がいる世界に遠征しても尚、まだ『経験』というものが足りなく、こんな相手はまだ狙撃したことが無かった二人は苛立ちが止まらなかった。

 だが、それでも頭を冷やして冷やし尽くす。

 狙撃手(スナイパー)が焦る、それこそがこの戦場でどれだけの悪手となるか、二人は理解している。

 狙いだけを定め、ただ撃てるチャンスを待った。

 

「はぁっ!」

 

「よぉおっ!」

 

 そして、その現場では高速回転を加え、焔悟に絶え間ない連撃の嵐が風間から受けているのに対し、耐久力〝D〟の筈である『スコーピオン』でその全てを焔悟は受け止めていたのだ。

 それだけではなく、太刀川慶の妹・太刀川恋の二刀の《弧月》さえも耐えきって(・ ・ ・ ・ ・)いたのだ。

 バランス重視にして万能型の《弧月》。ボーダー内でも一番人気の万能ブレード。変形機能はないが基本の性能が高く、多くの攻撃手(アタッカー)やブレードが主力(メイン)万能手(オールラウンダー)に使用されている。

 だがそれはつまり、攻撃重視・奇襲型のトリガー《スコーピオン》より耐久力が高いことを示しているのだ。

だと言うのに、焔悟が扱っているであろうスコーピオンが丈夫過ぎる(・ ・ ・ ・ ・)。何度も斬り合うも一向にヒビさえ入らない始末。

 恋も何度も耐久力〝A〟である弧月で斬りつけようも、破壊出来ないでいたのだ。

 

相変わらず(・ ・ ・ ・ ・)、連係や個人の戦闘能力が高いな、蒼也。妬むよ」

 

「そうですか、こっちは貴方のトリオン能力を妬みますよ」

 

「だが、才能はお前の方が愕然と上だよコンチクショウ」

 

 焔悟は恋の突進力を生かし、勢いに乗せたまま足を引っかけ重心をずらして転ばせたと思えば、恋は器用に転んだ体をうねらせて跳び、無重力を感じさせるような回転を披露させ、その回転を生かした勢い中から光の刃がキラリと輝く。

 

 だが、

 

「斬り(やぶ)れ、流動(タイプ)斬馬刀(ザ ン バ)』」

 

 焔悟がそれを告げた瞬間、風間は一気に血の気が引いた。 見たことのあるそれを、

 だがその咄嗟のことに…………考えが生じる前に、

 

 

「頭を下げろォォォ!!」

 

 風間が大声を張り上げたことに驚きを隠せないでいたが、人間咄嗟の言葉に反応できるものだ。恋は風間に言われた通り直ぐに身を屈ませたが、ザクッ! と腕が斬られていた。

 

(な、なんで!?)

 

 そして原因もすぐに分かった。

 

「な、なによ!! ソレ!」

 

「……チッ……」

 

 風間と恋が唖然として見たものは、

 

「これが《玉狛》の実力よォ……ナメんじゃねェぞコラ」

 

 焔悟の両手から巨大な光の大剣が出現していた。

 あれで周囲を斬り払ったのだろう。民家が綺麗に破斬されていた。

 完全に間合いが詰められた。

 この男、本当に情け容赦無く全力で挑んできた。

 《玉狛》で開発された本部未承認の近界民(ネイバー)技術(テクノロジー)を使った実験作で来たのだ。

 

「……仲間を護るため、実験作まで使いますか、宍喰さん」

 

「蒼也くんよ。侮るなよ? 玉狛はマジで『こんなことでそこまで本気に?』と思われるようなこと平然としてやるぞ? それこそが真の驚異だぜ」

 

 まったく。その通りだ。

 完全に太刀川の援護に向かえなくなった。それ以前にこちらが追い込まれた。風間は表情を変えないでいた、つもりだったのだが、自分でも気づかれずに口角が吊り上がっていた。

 それを見た焔悟は『オイオイ……マジかよ』と追い込んだつもりが、風間の知的好奇心を揺れ動かしてしまったことに後悔した。

 

 風間はスコーピオンを両手から両刃として出現させ、四つの刃を露にして構える。

 玉狛の実験作を見れる、体験できる。

 恥ずかしながら、冷静ながらも風間は高揚していた。

 

「勝負はこれからだ、宍喰さん」

 

 風間は姿を消した。

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