WORLD TRIGGER ~ 飛翔する遊星 ~   作:凸凹凹凸

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※注意(まえ)書き※

オリジナルなオリジナル回。
苦手な方は、回れ右。右でも左でもかまわない。
まぁどちらでもかまわない。
かまわないというのなら、この回もかまわないということで。
おねがいしたい。

要するに、

文章というものは、むずい。


第3話「唐突な開戦③」

WORLD TRIGGER ~ 飛翔する遊星 ~

 

 

 

第3話「唐突な開戦③」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風間と焔悟の対決が始まったと同時に、迅悠一の方でも動きがあった。狙撃手(スナイパー)組から城戸司令より指揮を預かった太刀川に報告を受けたからだった。

 

『なに? 宍喰さんの実験作トリガーで対決を始めったって?』

 

『はい。民家ほどの高さを誇る巨大なスコーピオンの剣が出現し、風間さんが隠密トリガーにて隠密(ステルス)モードで対応しています。『カメレオン』を使われているので狙撃手(こ ち ら)も下手に手が打てない状態です』

 

 太刀川は風間の実妹である風間蒼伊(あおい)と、風間の指示で太刀川と行動を共にしている風間隊の菊地原と歌川もそこに居た。

 迅は四人もの相手をしているのだ。

 通信しながら、菊地原と歌川は迅に追撃を絶え間なく繰り出している。そこに特殊に作られた異色の長刀『弧月』で舞うように鋭い斬撃を放つ蒼伊に迅も苦笑いを浮かばせている。早く太刀川も参加したいとウズウズしているが我慢している。

 格子状の瞳が揺れる中、太刀川は耳に傾ける。

 

『もうそっちは任せるしかないな。恋も居るのか?』

 

『はい。よく見えない風間さんと巧妙に連係をとっていて、唖然としていたところです』

 

『ハハハ、じゃあそっちはもう狙撃手(スナイパー)活き(・ ・)はしないだろう。当真はもう居ないだろ?』

 

『……え………………チッ…………はい。いつの間にか居ません』

 

 普段真面目な奈良坂から聞こえた舌打ちにビクッとなった太刀川だったが、笑みを作って、

 

『あとで連絡来ると思うが、アイツは嵐山たちの方に向かったんだろ。アイツは放っといてこっちに来い。奈良坂に古寺』

 

『……奈良坂、了解』

 

『こ、古寺了解!』

 

 古寺の声が震えていたが、どうやら奈良坂と一緒だったのだろうか、かなりビビってたな。恐らく一緒に居たんだろう、と太刀川は予想して、今ある『駒』でどう(ブラック)トリガーを追い詰めるか思考を巡らした。

 

(迅と嵐山隊でも大変だったが、こちらには蒼伊と恋も来た。少しだけだが戦力も上がったっつーのに…………相手にはもしかしたら《玉狛第零》まで出張ってきたかもしれない。そりゃ玉狛が狙われてる訳だから来るのは予想していたが、《玉狛第一》のことも出てくることも予想しておくか? いや……もし出てきても玉狛支部がガラ空きになる、これはナシか……すると、)

 

 太刀川は弧月をトントンと肩に立てて、迅を見ている。こちらも油断大敵の相手だ。

 

(《玉狛第零》の残り二人も来ているよな? ならこれは完全に……)

 

 太刀川は苦い顔になるが、一向に笑み顔は変わらず、より一層深みのある微笑を作った。

 

(苦しいなぁ………苦しいが……これはこれで、楽しめる(・ ・ ・ ・)

 

 戦闘好き(バトルマニア)には絶好な日になると、太刀川は自分が指揮する立場だというのに、笑みが消えることはなかった。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「というわけで、オレ(・ ・)も参加させてもらうよ」

 

「うへ~……マジで」

 

 つい先ほどまで、三輪隊の隊長である三輪秀次と、太刀川隊切っての《火兵》である出水公平が接近戦を得意とする槍使い・米屋陽介の援護をマンション内で戦闘をしていた嵐山隊の紅一点である木虎との対決がまさに決まったところだった。

 地形を巧妙に利用した木虎が米屋のトリオン供給機関を破壊したことで見事勝負が決したと思っていたが、これは二対二の対決ではなかった。

 それをよく理解していた米屋は、全て知った上で木虎のワイヤーを組み込んだ攻撃を受け、上手く誘導したことと緻密な連絡を出水と取ったことで連係が重なり、『射手(シューター)』であった出水は所謂(いわゆる)《弾丸》を種類数多く作れ、弾幕も激しいことに特化したクラス。空中での回避は絶望的で、弾種も『通常弾(アステロイド)』だが火力(パワー)速度(スピード)もある弾丸。

 冷静にこの弾を選んだ出水も結構えげつないが、これでは多種多様のオプショントリガーでも使わない限り避けれるものではなかった。

 だが、この様子を目視した時点で嵐山隊の副官(サブリーダー)的な存在、時枝が相変わらず半目ながらも見事に木虎をオプショントリガーの『(シールド)』で出水の通常弾(アステロイド)を防いでみせる。

 しかし撃った本人である出水でさえ『マジか』と焦ったというのに、そんな隙間も逃がさねぇ、と言わんばかりの銃声がそこを支配した。

 ボーダー内で堂々と一位の座に君臨するリーゼント、No.1狙撃手(スナイパー)の当真勇である。

 彼はなんと、マンション越しに時枝が飛び出してくることを予測して、何キロも離れ場所から狙撃したのだ。

 それが寸分違わず時枝の頭部を直撃し、続けて当真は獲物を逃がすまいと瞬時に木虎にも狙撃するが、撃たれながらも冷静過ぎる判断で木虎を空中で引っ張り、当真の凶弾から逃れられた。

 

 ボロボロになった米屋と時枝はむなしくトリオン体に組み込まれた機能トリガー『緊急脱出(ベイルアウト)』にて流星となって基地にへと送還された。

 互いに一人が脱落したが、数では互角となっている嵐山隊と三輪と出水、当真。

 そんな拮抗している慎重な場面だと言うのに、そこに一人の男の登場によって覆ることになる。

 

『オレ……参上ッ!!』

 

 二十歳過ぎだと言うのに日朝にでもやってるライダーの真似事をして登場してきたのは、こちらも玉狛支部所属の男。

 遠吠(とおぼえ)保護(やすもり)だった。

 

 そして現在に至る。

 

「嵐山に木虎さん。ここは玉狛支部《不動の男》と呼ばれたこのオレ、遠吠保護の土壇場だ……そこで見てな!!」

 

「どうしましょう、嵐山さん。私無性にあの人を撃ち殺したいです」

 

「どうした木虎!?」

 

「あの馬鹿みたいな発言にも一気に、最高峰にイライラが溜まりました。早く撃ち殺したい」

 

「待て待て待て! ちょっと待て! ちょっ……遠吠さん! もう意地張ってカッコつけた発言よしてください。あの、ちょっとオブラートに包んで言いますが、かなりアホっぽいです」

 

「それ包んでる!? オブラートをちゃんと包んでるかい!?」

 保護は思いもしなかった味方から銃撃されるのではと警戒するが、三輪も木虎と同じだったのか血管浮き出るほどの苛立ちをみせていた。

 だが、出水はコンクリートの道路だと言うのに、堪えられないと言わんばかりに笑い転げて地面を叩いていた。

 

「わははははははははははははははっっっっ!!!! ひぃ~ひぃ~……ぶはぁ!! ぶははははははははははっっっ!!」

 

「テメェ笑い過ぎたコンニャロウ!!!」

 

 保護は近くに破壊されていた瓦礫を手にすると思いっきり出水に投げ捨てる。

 出水も『あぶねっ!?』と華麗に避けると、フーフーと息を整えるもやはり笑いが止まらなかった。

 

「ふう~ふ~……ぶふっ!? くくく……くはぁ! わははは!! だ、ダメだ! ぶは、ダメ、ダメだ! ツボるったぁ!! やべぇ! ぶははははは!!」

 

「なんなんだよマジでもぉぉぉぉぉ!!」

 清々しいほどツボにハマった出水は笑いが止まらなかった。

 

「【師匠】は相変わらずツボるっス……ぷくくく……いや、すんませ……ぷくくく、あぁー! くそ! わはははははははははははははは!!」

 

「思いだし笑いすんにゃぁああああ!!」

 

 笑われ過ぎて怒り心頭となる保護だったが思わず噛んでしまい益々出水の腹筋の崩壊に拍車を掛けた。

 

「わはははははははははははははは!!!」

 

「………………嵐山ァ、出水(アイツ)はオレが……殺る(・ ・)

 

「なんかもう好きにしちゃってください」

 

 嵐山も肩を竦めて笑い転げているボーダーNo.1の部隊(チーム)の一員である出水を見ながら、木虎にアイコンタクトを送っていた。

 これで嵐山隊は三輪と当真の二人を相手取れば良いことになったが、それをただ遠くから眺めているだけの男はそこに居なかった。

 

「……っ!?……遠吠さん!」

 

「うおっぉぉぉぉ!!?」

 

 嵐山が叫ぶ前に、保護は(メイン)(サブ)のトリガーホルダーに内蔵しているオプショントリガー、《(シールド)》を展開させた。

 

「ナマイキ当真がァ……」

 

 No.1の狙撃手(スナイパー)当真勇が愛用している銃は、長年ボーダーに勤めていた保護はその射線や威力などの情報は既に知っていた。

 

(やっぱり隙があったら狙撃し(う っ)てくる。だがアイツのプライドだから外す弾は撃ってこないと思ったけど……まさか!?……アイツまで苛立ったのか!?……そうだとしたらマジでショック!!)

 

 そう考えながらも、保護が狙撃されないよう射線を遮らせるよう民家の塀隠れるが、その前に三輪が前に出た。

 

「アンタには即刻消えてもらう」

 

 有無を言わせぬ気迫を纏って、三輪は拳銃(ハンドガン)を保護に向け、容赦無く放つ。

 連続して、笑いが流石にもう止まった出水が援護しようとトリオンキューブを両掌から具現化させると、出水はハッ! と何かを思い出す。

 

「しまったッ! 突っ込むな三輪! それはっ──────」

 

「しかし遅い」

 

 三輪は銃で撃ちながら突進していた為に、相手が避けた後、刀型のトリガー《弧月》で追撃するつもりだったのだろう。

 だが、それを見越して(・ ・ ・ ・)か、微小であったが、ふと出水からなにかポキポキッ! とまるでプラスチックが割れた音が聞こえた瞬間、足元に視線を向ければ、

 

(……!?……(トラップ)か!?)

 

 だが駆けた抜けた足が止まらず、微小のトリオンキューブのようなものを複数個踏みつけてしまう。

 すると、予想を越えた爆発が三輪を襲った。仕留めたか、と思っているとA級隊員である三輪がそんは初歩的な罠に引っ掛かるほど鈍ってはいなかった。

 だが、何故引っ掛かったのか。

 まず1つは、

 

「ぐははははぁぁぁぁぁ!!」

 

「くっ!?」

 

 配置させている場が余りにも保護と近い場所にあったからだった。これだと配置させた本人さえ巻き込まれる範囲だというのに、問答無用に起動させた。

 

「このォ!!」

 

 三輪から放たれた弾丸を(シールド)で守っていた保護だったが、微小だというのに弾丸《炸裂弾(メテオラ)》並の爆撃を受けた二人は既にボロボロになってしまった。

 戦闘(トリオン)体である身体の至るところからヒビが割れていて、そこから微量ながらも戦闘(トリオン)体から漏れでるトリオンが霧散させていっている。

 

(シールド)がボロボロだぜ」

 

戦闘(トリオン)体が……クソッ!)

 

 舌打ちをする三輪だが、ちゃんと保護との距離を離して保つ。これを自然に行えるからこそ名誉あるボーダーA級隊員。

 そして出水も、数日とはいえ遠征に行っている間、この人・遠吠保護の性格や戦い方を少し忘れていた。

 ボーダーに入隊した頃、お世話になったこの人の戦い方を。

 出水はトリオンキューブを発現させると、数秒も経たない内に弾種を決め、編成させ、加工させ、凝縮させ、そして、定める。

 

『後方に飛べ三輪! ドデカイの送るぜ』

 

 そう言った途端に、出水は自らの頭上に弾丸を浮かせると、一気に保護にへと放った。

 

師匠(・ ・)これはどうだかぁ!!」

 

 笑顔を広げて向け放つ。無数の弾丸が保護を襲う。

 

(馬鹿が! なにを興奮してそんな大弾を! 何を考えてる出水)

 

 巻き込まれないよう三輪は大きく後退すると、前方から出水が放った炸裂弾(メテオラ)に負けないくらいの光弾が輝いていた。

 それを同じく眺めていた嵐山が木虎と共にその場から急いで退避していた。

 

「急げよ木虎! あっ、佐鳥にも連絡してくれよ! もう狙撃とか考えないで急いでこの場から退避しろって!! 完全に忍田本部長と城戸司令、それに鬼怒田さんや特に根付さんから完全なペナルティを貰うぞこれは!」

 

「い、一体どうしたと言うんですか嵐山さん。ここは一気に三輪、出水、当真隊員を撃破するには絶好な───」

 

「佐鳥合流!! いやぁ、嵐山隊集まって大丈夫なんですか? 当真さんに狙い打ちされないかヒヤヒヤっスよ」

 

 疾走している嵐山たちと合流し、並走しながらも佐鳥は何処かその高揚している気持ちを隠さないで陽気に話しかけてくる。

 佐鳥曰く、ボーダー始まって以来の《射手(シューター)》師弟の対決が始まるとか、ここら《警戒区域》が更地になってしまうとか、そんなことを説明してくる。

 

「待ってください。あの人……玉狛の?」

 

「そうだ。玉狛支部の《第零》の火力担当、遠吠(とおぼえ)保護(やすもり)さん。木虎がさっき感じてた通り、少しふざけてるところやアホっぽいところがあるが、ボーダーNo.1の部隊《太刀川隊》の火力担当の出水に匹敵するトリオン量の持ち主にして《射手(シューター)》」

 

「そんで、出水先輩の射手(シューター)の師匠なんスよね。あそこまで弾丸の種類を扱えるのはボーダー内であの二人しかないと思うね」

 

「……本当かどうか信じがたいです」

 

 自分の目で見ていないから信じない。

 そう告げる木虎に嵐山と佐鳥は苦笑いを浮かべて、木虎に言う。

 

「なら木虎、そろそろ振り向いて聞いてみろ」

 

「そして見てみろよ後輩。これが、莫大なトリオン量の持ち主同士の戦い方を」

 

 嵐山が止まったことで、木虎も後ろを振り返る。

 すると、そこで聞こえ、見たものは。

 

「……ぇ……ぁ……ぁ……な、こんなの馬鹿げている」

 

 目にした先には、まるで映画やニュースなどでしか知らなかったであろう紛争地域を思わせる爆撃音が数キロ離れたここからでも聞こえてきた。

 聞こえるだけじゃない。離れた場所からとはいえ、高層ビルが地上から放たれたトリオンの光弾が撃ち抜かれたかと思えば、次は轟音を共に崩落するビルの姿が見えてしまった。

 後先のことなど考えない圧倒的物量同士のぶつかりあい。そして比喩的に扱う弾圧ではない本物の『弾圧』。

 

 弾丸と弾丸が削り合うかのようにぶつかり合う衝突音が遠くまで離れたここまで聞こえてきた。

 そして同時に思ったことが、

 

「こ、ここまでやりますか? 相手を制圧させるだけならもう充分なんじゃ……?」

 

「だから木虎の言っている通りだよ?」

 

「えっ?」

 

 興奮気味に佐鳥は遠く聞こえる射手(シューター)の師弟対決に笑いながら言う。

 

「ボーダー始まって以来の莫大なトリオンを持った射手(シューター)の対決に、力量が互いに拮抗(・ ・)しているからああ(・ ・)なっちゃってんだよ。だから勝負がつかない。もうあの二人が対決しちゃったら周囲が破壊し尽くされるぞ」

 

 そして嵐山も苦笑しながら頭を掻いた。あそこ近隣の建造物の破壊は全部ボーダーが支払うんだろうと考えると、許される行動じゃない。

 だがここは『警戒区域』。

 戦う場所として提供してくれた三門市の一部。

 

「あぁ。始末書祭だぞ。あの二人」

 

 きっと忍田さんや鬼怒田さんに怒られるだう。そうおもいながら、嵐山は二人を連れて移動していった。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「「炸裂弾(メテオラ)!!」」

 

 ガガガガガガッッ!! と荒く削られる音だけがその場に響いたと同時に、爆発音が続いた。

 地には幾つもの爆発により抉られたクレーターが幾つもの出来上がり、それが目に入らないのか問答無用に光弾の弾幕が激しくなる。

 片方が《通常弾(アステロイド)》を放てば、片方が《炸裂弾(メテオラ)》を放ち、《変化弾(バイパー)》を放てば《誘導弾(ハウンド)》で返す。

 まさに射手(シューター)同士の戦いをしている二人。

 

「トリガー……『将棋盤(クリーク・ダオメン)』!」

 

 そんな拮抗した戦闘していた出水と保護は、これでは埒があかないと感じ、保護は『実験作トリガー』を発動させた。

 発動する際、(メイン)(サブ)のトリガーホルダーの二つを持っているが、保護は新たに木製に(かたど)ったトリガーホルダーだった。木面が波打つように浮き出て、本物の木で出来たホルダーに見えていた。

 それを(サブ)ホルダーをオフにするやすぐに『実験作トリガー』を起動(オン)にさせたらしい。

 

「おいおい! ズリぃぞホゴさん!」

 

「うるせぇ! 死に晒せェェェ!!」

 

(完全に悪役じゃねえか!)

 

 見た目は変わっていない保護に警戒を抱くが、出水は、前にこういった『嘘』をつかれたことがある。いくら戦闘している今とはいえ、逆に言葉に乗せられたという場合もあるかもしれないが、今は警戒に越したことはない。

 射手(シューター)としては、接近戦を苦手とするため後退する出水だったが、保護は迷わず突っ込んできた。

 

通常弾(アステロイド)!」

 

 もちろん、そんな馬鹿正直な直行に出水がなにもしない筈もなく。迎え撃つように両手に浮かばせた顔一つ分くらいの大きさのトリオンキューブを分解させ、無数の小型キューブにさせるとそれを容赦なく保護にむけて乱射する。

 ヒュンヒュン!! と風を切る嫌な音をさせながら迫り来る《通常弾(アステロイド)》に、保護は冷や汗を流しているが、やはり走りを止めない。

 

(あの実験作トリガーが怪しい。こんな正面から迫って大丈夫な訳がな───)

 

 そう誰もが思い訝しむ保護の行動を予測していると、更にその予想を越え、

 

歩兵は前へ(フォルン・ゾルダート)

 

 そう告げた瞬間、保護の前方には超小型のだが、トリオンによって作られた《人形》が突如出現したのだ。

 乱射してきた出水の通常弾(アステロイド)を変わりに受けたその《人形》はある程度ダメージを受けてから、その場で霧散する。

 爆発する訳でもなく、まるで空気に溶けて無くなるかのように静かに消えていった。

 その現象に、出水は一瞬にして焦りを覚えた。

 

(なぁ! まだ試してないから分からんけども! これ多分弾撃(・ ・)が効かなねぇ!)

 

 出水は後ろを確認することもせず、なんでもいいから下がることだけに考えた。

 出水はこの遠吠保護の『実験作トリガー』に危惧を覚えたのだ。

 

「ダッハッハッハッハーー!」

 

(あのバカ笑いにはムカツクがっ! おそらくあのトリガーは俺との相性が悪いと思う!)

 

 ドヤ顔で後退する保護に、やはり撃破されてもいいから突っ込むかと一瞬過ったが、逃避に心掛けた。

 

「ホゴさんのそのトリガー見たいけど、俺たちの目的は〝(ブラック)トリガー〟の奪還だ。だからこのバトルはまた……」

 

 また今度しよう。そう言おうとした出水だったが、また何か保護の口が遠目から動いたのを見た。

 

(あんだよ……! またなにか!)

 

 通常弾(アステロイド)を防がれたから、次は炸裂弾(メテオラ)でも放とうかと思っていた所に、保護の周囲に何かが光だしてきた。

 よく目を凝らし、戦闘体となった視覚で確認する。

 

(………………はぁ?…………)

 

 保護のドヤ顔の周囲には、光輝く多種多様の剣と槍が出現していた。

 

「そ、それトリオン(・ ・ ・ ・)で作ったのかよ? ありえねぇだろ?」

 

「カハハハ! 技術者(エンジニア)さんは偉大なり!」

 

 そして、その光の剣と光の槍は、また新たに作られた《人形》に持たされた。数は四。

 《人形》は人の形だが、顔面は鼻も口も無い。あらゆるパーツを無くしたような、美術室に置いてあるような人形のような歩兵たち。

 

「まだ数は出せる。お前だって『将棋』やったことあるだろ」

 

 前に出る。

 保護は決して美形と言えるほどではない顔だが、今は真っ直ぐな目で笑いながら出水を見る。

 

「九騎の歩兵駒(ドール)をオレはまだ出せる」

 

 出水は薄ら笑いしか出てこない。

 

「香車も桂馬も、飛車も角行も、銀将も銀将もある」

 

 ピクピクと顔の筋肉も痙攣してきた。

 

「さてと、どォする?」

 

 出水は戦意が無くなった訳じゃないのも分かっているし、まだまだ余力も残してある。保護の『実験作トリガー』の性能を知る為に最後まで足掻いてみるのも考えた。

 だが、仮にここで戦って勝てたとしてもトリオン切れは間違いないと判断できる。それだけの対決が約束される相手だと出水は理解もしている。だからこそ、

 

「うん。もう別にいいんじゃね?」

 

 出水は笑って、両手を上げた。

 

「参った、ということで」

 

 保護も笑って、手打ちの証として出水にドロップキック食らわして決着がついた。

 

 

 

 

 





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