俺が前世を思い出したのは、五歳の頃だった。
個性が覚醒したあの時、俺は早速使ってみた。
変身出来たのはベ・ダグバ・ダ。
先ずは最下級からだった。
問題はここから。
グロンギへの変身過程では体そのものを書き換える。
筋肉を、骨格を、神経を、臓器を、もしかしたら魂も変わるかもしれない。
で、その刺激によって脳か魂をやられた。
先ずは頭痛がした。
遅れて当時五歳の俺では知り得ない情報が一気に流れた。
脳が情報量と処理に追いつけず、知恵熱を出しながらその場を倒れた。
起き上がったのは丸一日後。
強制的に変身解除され、その後ずっと寝ていたらしい。
そのおかげかうまい具合に前世と今世が混ざって今の俺になった。
最初はクウガの世界に転生したと思った。
何かしらの理由でゲブロンを埋め込まれてダグバになったと。
だが現実は違う。あくまでダグバに変身出来る“個性”であって、グロンギそのものではなかった。
両親は俺の個性を喜んだ
変身する個性は当たりの部類だからだ。
異形系と違ってオンオフが効くから外見による差別がされにくいし、素の戦闘力や免疫力も高い。
変身すれば言わずもがな。あのダグバの力を一部とはいえ使えるのだ。
「変身」
個性を発動させる。
瞬間、俺は怪物となった。
拳銃程度では傷一つ付かない外骨格。
生体鎧の中で稼働するあらゆる野生動物を上回る筋肉。
常人の何倍もの速度で伝達を繰り返す神経と、凄まじい速度で処理する脳。
最初はまだ体が追いついてないのかベ程度だったが、今では序盤怪人のズに、力を込めると中盤のメになれる。
終盤のゴは未収得でラスボスのンには程遠いが、これでも十分強い個性だ。
更に、今世の俺は容姿にも恵まれた。
呪術廻戦の五条悟を黒髪黒眼にしたような外見。
前世の影響も相まって、自慢じゃないがそれなりにモテている。
前世の記憶と経験。
生まれ持った強個性。
五条悟似の外見と才能。
今の俺は中身を除けばかなりのスペックだと自負している。
持って生まれた個性の優劣によって格付けされるこの個性社会あら、俺の将来は約束されたも同然であろう。
だから俺は努力なんてしない。
そこそこのヒーローになって、程々のヴィラン倒して、楽に出世するんだよ。
「さー!お前らも三年ということで、本格的に将来について考えていく時期だ!今から進路希望のプリントを配るが、大体ヒーロー科志望だな!」
折寺中学校の教室
クラス中で手を上げながら個性を発動させる同級生。
先生は個性使うなと軽く注意してプリントを配る。
「せんせー! 皆とか一緒くたにすんなよ! 俺はこんな“没”個性共と仲良く底辺なんざ行かねーよ」
調子乗った発現する生徒が一人。
ツンツンに尖がった薄い金髪に、鋭く赤い三白眼。
爆豪勝己。性格と言動以外は完璧な才能マンであり、俺のクラスメートだ。
「あのオールマイトをも超えて俺はトップヒーローと成り! 必ずや高額納税者ランキングに名を刻むのだ!!」
「あ、そいやぁ…緑谷も雄英志望だったな」
先生の発言によって緑谷にクラスメイトの視線が突き刺さる。
雄英高校ヒーロー科は倍率300倍。偏差値79にもなる国立の高校だ。
そんな所に二人も受ける奴がいるのだからこの反応は当然だろう。
「はぁぁ!? 緑谷が!? ムリっしょ! 勉強できるだけじゃヒーロー科には入れなねえって!」
「そっ‥‥そんな規定もうないよ! 前例がないだけで‥‥」
緑谷がクラスメイトに反論しているが、正直、彼らの言う通りだ。
人類の八割近くが個性を持つのに対し、彼は残り二割の無個性。
個性が無い。つまり何の異能もないということだ。
このご時世、個性が無いというのはそれだけで大きなハンデを追うことになる。
増してやヒーローなんて以ての外だ。
「先生も五条なら行けると思うんだけどな~」
無視だ。
俺は通信制の学校に行ってヒーロー資格だけ取り、なんちゃってヒーローになって楽したいんだよ。
「こらデク!」
ボーン!
爆豪が個性で緑谷を吹き飛ばし、詰め寄った。
何をそんなに怒ってるんだアイツ?
てか、突き飛ばすだけなら個性使わなくてもいけたろ?
相手はナードの緑谷だぞ?ヒーロー目指して鍛えてるお前の方が肉体的にも強いだろ?
おい、担任も止めろよ。
殺傷力はねえが個性使って爆破したんだぞ?
前世なら突き飛ばしそうになった時点で教師止めに入ったのにこの学校どうなってんだ?
「没個性どころか無個性のテメェが、なんで俺と同じ土俵に立てるんだ!?」
クスクスと笑う声が教室中に聞こえる。
無個性というだけで夢を語る権利すらない個性社会。
ここにいるほぼ全員がヒーロー科志望だというのだからヒーローの敷居の低さに笑えてくる。
「おいやめろ爆豪。ホームルーム中だぞ」
「あぁ!? んだテメェ!!」
喧嘩腰になる爆豪。
コイツとは仲が悪い。一度取り巻きと喧嘩して病院送りにしちまったからな。
あれ以来コイツは俺と出来るだけ関わろうとしない。俺もそうだけど。
「爆豪落ち着け!内申点に響くぞ!」
「チッ…!」
内申を持ち出されてあっさり引いた。
良かった、もしここでやり合ったらこの教室が持たなくなるからな。
「そ、それじゃあプリント配るな〜!」
重くなったクラスの雰囲気を変えようと、担任が極力明るく声を上げる。
俺はソレを見ながらあくびをこぼした。
放課後。
俺は忘れ物を取るために教室へ戻った。
「話はまだ済んでねぇぞデク」
爆豪は緑谷からノートを取り上げた。
遠目で見るとそれには将来のためのヒーローノートと書かれている。
確かあれは…、緑谷の宝物だっけか。
そのこと知ってるのかアイツ?知ってたら流石に許されないぞ。
「一線級のトップヒーローは大抵、学生時代から逸話を残してる。俺はこの平凡な市立中学から初めて! 唯一の! 雄英進学者として“箔”をつけてーのさ、まー完璧主義なわけよ」
奴はそう言って個性で緑谷のノートを焦がし、ポイっ外に放り捨てた。
流石に見ていられれない。俺は教室に入って止めに行こうとする。
「つーわけで一応さ、雄英受けるなナードくん」
爆轟はさっきまでの怒ったような顔をにこりと歪めながら、緑谷の肩に腕を回す。
途端にガチガチ震える緑谷。
俺はつい拳を握りしめてしまった。
そのザマは前世の俺に似ていたから。
「あ、ヒーローに就きてぇなら良い方法があるぜ? 来世は個性が宿ると信じて屋上からのワンチャンダイブ」
その言葉を聞いた瞬間、俺はアイツに殴りかかった。