「ん?なんだこれ?」
移動教室の際、俺は落ちてたノートを拾ったことがあった。
ヒーローノートと表紙に書かれた一冊のノート。
名前は書かれてないので軽くめくって誰の物か特定しようとする。
「すげえな」
ノートを読んで俺は感心した。
ヒーローについて詳しく分析されている。
俺でも知ってるようなヒーローからチャートに乗ってないマイナーまで。
個性をどう活かしているのか、サポートアイテムはどんなものか、逆に弱点やgン回はどこまでなのか。
あまり興味が無い俺でも関心を引いてしまう程だった。
「そ、ソレ僕のなんだ!返してくれないかな?」
「ん?ああ悪かった」
どうやらこれの持ち主は緑谷だったらしい。
俺はさっと返した。
「ありがとう…。コレ、僕の宝物なんだ」
「そうか。ヒーローが好きなんだな、緑谷は」
緑谷出久。
クラスで唯一の無個性。
一度爆轟の取り巻きに絡まれてたから追い払ってやったが、それ以来だったな。
「五条君もヒーロー目指してるの?」
「ああ、楽出来そうだからな」
「そう、なんだ…。確かに、五条君ってかなり強い個性だから…」
そう言ってノートを強く抱きしめながら、悲しそうな眼をする緑谷の姿が、しばらく俺は忘れられなかった。
突然の乱入者、五条勇悟。
彼はワンチャンダイブ発言した爆豪を突如殴り飛ばした。
「「「………」」」
教室が静寂に包まれる。
緑谷も、取り巻きも、殴られた爆豪さえも。
何が起きたか分からないといった様子で固まった。
「取ってこい。ダイブしてな」
勇悟は殴り倒した爆豪を見下ろす。
途端、急激に沸騰するかのように爆豪の中から怒りが湧いた。
「て…メエええええええ!!!」
立ち上がりながら殴りかかる爆豪。
個性無しでも高いスペックを誇る身体能力と運動神経。
ヒーローになる為に鍛えられたソレは、中学生離れしたパフォーマンスを発揮する。
「弱いな。ワンチャンダイブする?」
「~~~~!!?」
だがそれは、勇悟には通じなかった。
爆豪の拳を避け、時には捌く勇悟。
何発が入ってるはずなのに、涼しい顔を止めない、
通じない。己が誇る武器と技が、誰にも負けなかった筈なのに。
何故、俺はこんなモブに押されている!!?
爆豪は勇悟を強者だと認めていた。
恵まれた容姿と才能、そして強い個性。
コイツは自分に並び立つのではと恐怖したこともあった。
しかし、勇悟には向上心が無かった。
勉強も運動も出来るが所々で手を抜いている。
強い個性を持っていながらあまり使いたがらない。
楽したいと、手を抜きたいと、安全に生きたいとほざいている。
宝の持ち腐れ。
持っている側でありながら、何かを為そうという熱がないのだ。
そんな有様を見てから恐怖は失望と化し、関心を捨てた。
「今更しゃしゃり出てくんじゃねえぞナメプ野郎がぁぁぁぁぁ!!!」
だから許せない。
今になって“熱”を出すその目が。
「や…やばいって!」
「僕、先生呼んで来る!」
取り巻きは二人のケンカにパニックになり、緑谷は止められないと悟って職員室に全速力で向かう。
「この程度か?無個性と一緒じゃねえか」
「あぁ!!?だったらお望み通り見せてやるよぉ!!」
勇悟の挑発に乗って個性を使う爆豪。
使ってしまった。
怒りで頭が湧いている彼は冷静な判断が出来てない。
タイミングも何もかも丸分かりな、大雑把な個性使用。
迎撃は容易だった。
「がふッ!!?」
再び殴り飛ばされる爆豪。
カウンタークロス。
爆豪が爆破を込めた掌を突き出すタイミングに合わせて。
意識外からの攻撃に視界がブラックアウトしながら、爆豪は黒板まで吹っ飛ばされた。
激しい衝突音。
叩きつけられた黒板にヒビが入る。
衝撃で教室が若干揺れる。
「カハッ―――!!?」
黒板に若干めり込んだ爆豪。
パラパラと黒板の欠片を落としながら、彼の身体もゆっくりとずり落ちていった。
「いってえ。ちょっと鼻血出ちまったじゃねえか」
ハンカチで鼻を抑えながら、痛む個所を庇いながら。
勇悟は職員室に出頭した。
はい、謹慎くらいました~。
今日から学校行かなくていい!毎日遊び放題のアニメ三昧だぜ!!!
俺、学校嫌いなんだよね。一度卒業してるのにまた入りなおすって苦痛じゃね?
前世でも牢獄に入れられた気分なのにまたぶち込まれるとかさ、俺何か悪いことしたっけ?
だから今世は義務教育は出来るだけ行かなくていいよう工夫して、高校は通信学校目指してたんだよ。
そして今日からは、通学地獄から抜け出せた!わ~い、早速貯めてたエロゲー消化しよ~!
「って、言う暇もねえか」
ベッドの上に寝転がる。
昨日の喧嘩で俺と爆豪は中学生なのに謹慎を食らった。
ここまではいい。あの後、爆豪だけじゃなく緑谷の親まで謝罪とお礼を言いに来やがった。
爆豪はボコボコになっていた。
気絶するほど派手に殴り飛ばしたのに、俺以上に母親にボコられたらしい。
アイツの家大丈夫か?あいつの母親美人だけど目つき鋭いしヤンキーっぽいなよな。あんな性格になったのってもしかして…。
緑谷は何も悪くないのに謝ってきた。
俺が自分でしゃしゃり出たのに自分のせいだと言ってきた。俺は俺の意志でぶん殴りたかっただけだってのに。
アイツの母親も美人だけど太ってたんだが、もしかしてストレス太りか?その原因って…。
「どこの家庭も闇あるなぁ…」
個性社会。
強い個性は優遇されて弱い個性は見下される。
無個性なんて以ての外。夢を言った程度であんな目に遭わされる世の中だ。
ホントに面倒な世界に転生してしまった。どうせなら男女比世界に転生してハーレム作りたかったぜ。
「…ちょっと歩くか」
気が滅入った。
折角昼間から休めるのだ。
どうせなら普段出来ないことをやってみよう。
「………何だアレ?」
休日は満員の喫茶店でパフェを食った帰り道。
商店街で何やら騒ぎがあった。
どうやらヴィランが暴れて火災が起きているらしい。
警察が避難誘導を行い、ヒーローが救出と鎮火活動を行っている。
だが、誰もヴィランに向かおうとはしない。
少し個性を引き出して暴れているヴィランに目をやる。
液状型の異形系個性。確かにアレは厄介だな。
俺なら何とか出来そうだが、並大抵の個性では難しいだろう。
しかも人質付だ。おそらく人質の個性で火災を引き起こしたのだろう。
「(ん?あれって…爆豪か?)」
だっさ。
アイツの事だ、どうせ俺ならヴィラン倒せるとか息巻いて返り討ちにあったんだろう。
これを機に反省してヒーローらしい心構えとか学んでほしいところだ。
「駄目だっ、誰か有利な個性のヒーローが来るまで待つしかねえ!」
「何、すぐに誰か来るさ!あの子には悪いが、それまで耐えてもらおう」
「………」
だっさ。
ヒーローなんてこの程度か。
これなら俺もヒーローなんて簡単になれる…。
「馬鹿野郎!止まれ!止まれーーー!」
「ッ!!?」
ヒーローが制止する声。
振り返ると、昨日謝りに来た緑谷が炎の中を突っ切って向かっていた。
「アイツ…助ける気か!?」
バカか?
いくらヒーローに憧れてるからって、この状況で行くか普通?
相手は強い個性のヴィラン、しかも周囲は火の海で歩くことすら困難。
プロヒーローでも手をこまねき、誰かが助けてくれるってほざいてるのに。
増してや、ソイツはお前をいじめていたクソ野郎だぞ。助ける義理はないどころか、恨む権利すらあるのに。
怖くないのか?
憎くないのか?
馬鹿らしいって思わないのか?
理解出来ない。
いや、したくない。
こんな奴がいるなんて、知りたくない…。
「ッ!!?やりやがった!」
リュックを奴の目に当てて怯ませ、その隙に人質を引き上げようとする。
確かにアイツは視界を確保する為に目だけは流動化させなかったらしい。
けど、分かってるからって試そうとするか?何の力もない無個性の子供が?
「君が…助けを求めている目をしていた…!」
「ッ!!?」
その言葉を聞いた瞬間、俺は走り出した。
「てめえこのクソガキがぁ―――――!!」
液状型ヴィランが腕を振り上げる。
だが、ソレが緑谷に振り下ろされることはなかった。
「俺がいるからな」
「五条…くん?
生体鎧に覆われた右腕。
異形と化した俺の腕なら、こんな液体軽く止められる。
身体が熱い。
あんなの見せられたせいか、今の俺はこれ以上なく昂っている。
この熱に身を任せ、俺は思い描く力を形にする。
「変身」
腰に“黒いベルト”のゲドルードが出現。
悪魔を模したようなバックルの眼が赤く光り、熱い光が体を覆う。
「何あの姿!?」
「し、新人のヒーローか!?」
「いや聞いてねえぞあんなの!なんだアイツは!?」
野次馬やヒーローが騒ぐ中、やせ細った一人の男がその名を呼ぶ。
「仮面…ライダー?」
主人公喧嘩で負傷しました。
爆豪相手に個性無しで無傷は流石に難しい…。