奴隷たちが「助けてくれ」と言ってきたので買って自由にさせたら、なぜか敵国やエルフの姫が求婚してくるのはなぜだ。 作:主義
青髪の青年の名前はシリル。
彼の印象としては好青年。
六人の中では年長な方でコリンナなどの面倒を見ているイメージだ。年齢としては17で、その年齢にしてはしっかりしている。
奴隷としての経験が嫌でもシリルを成長させてしまったのかもしれないが。
――――――
庭でシリルは木刀を振っていたので、僕は少し気になって声を掛けた。
「シリル…剣を使ったことがあるの?」
シリルを木刀を振るのを止めて、僕の方に向いた。
「はい、ボクの家は国の中でそれなりに影響力のあったんです。だから民を護ることはボクたちの責任のため、力を磨く。そのために剣の修行や様々な武具での戦闘訓練も行いました」
どうやらシリルの家は金持ちだったらしい。よく考えるとこの子たち育ってきた環境を含めて、何も知らない。
「そっか。シリルの故郷ってどこなの?」
「ボクはラフヤ公国です。そこでずっと育ってきました」
ラフヤ公国か。
帝国でもなく、公国か。
いや、まだ公国の方が陸路で送れる可能性が高い。
公国と王国の仲はそこまで悪くない。
だが、帝国と公国に関しては昔からのいざこざがあり、仲が悪いと言ってもいいぐらいなんだけど。
陸路もしっかりしているし、最悪な場合は海路でもどうにかできる。シリルに関しては故郷に帰ると言った場合の、方法は大丈夫そうだ。
「そうなんだね。シリルはどうするか決めた?」
「いえ、まだ悩んでいます。ご主人様に助けて頂いた命のため、もうこの命はご主人様のために使うのが礼儀だと分かっております」
全然、そんなことしてくれなくていいって。
僕としてはキミたちがそれぞれ故郷に帰る選択をしてくれるのがもっとも望ましいんだから。
僕がそんなことを思っているとはつゆ知らず、シリルは話し続ける。
「ですが、ボクの無事を両親に伝えたいという気持ちがあります。なので今はまだ悩んでいるところです」
悩まなくていい。
故郷に帰ってくれればいい。
だけど、さすがにそれを直接伝えるわけにもいかないため、遠回しに伝えることにした。
「僕のことは全く気にしなくていいよ。僕に助けられたから、僕のために命を使うなんて考えなくていいんだよ。僕はキミたちが自由に生きていくのを望んでいるんだから」
これで少しでも、シリルの考えが故郷に帰るという方に傾いているくれることを願っている。
僕はシリルの頭に手を載せて、髪型が崩れないように優しく撫でる。
「僕はシリルが大切だから、シリルの選んだ道ならどんな道でも応援するよ」
「こ、こどもあつかいしすぎです!」
「ごめんね、でも、シリルってなんでか撫でたくなっちゃうんだ」
「…そ、そうなんですか?」
「うん、なんかごめんね。シリルが嫌ならもう止めるよ」
僕が撫でるのを止めて、頭から手を離そうとしたところで、なぜかシリルが僕の腕を握ってきた。
「どうしたの?」
「い、いえ…ご主人様が撫でたいのであれば、撫でてください」
「え、いいの?」
「はい、いいです」
「無理してない?」
「無理してません。ご主人様の手は温かいので、撫でられていると安心できるので」
「そっか、じゃあこれからも撫でるね」
「で、ですが、あんまり他の子たちの前では遠慮してくれるとありがたいです」
「わかった。皆の前では遠慮しようかな」
別に僕は皆から好かれたいと思っているわけではないけど、嫌われたいわけでもない。
だから、シリルが嫌なのであれば無理にすることではない。
それから少し話した後に、僕は話を故郷に帰るか、ここに残るのかという話に戻した。
「シリルが僕のことを大切に想ってくれるのは嬉しいよ。だけど、僕のことなんて考えないんでいいんだ」
シリルを含めて、全員がどんな選択をすればいいのか悩んでいる。そしてその悩みの中心には僕がいるんだと思う。自意識過剰じゃなければだけど。
助けてもらった恩を感じてしまっているからこそ、自分の身は『僕のために』使うべきではないかという考えがあるんだと思う。そしてそれが故郷に帰るという選択を阻害している。
「僕が皆を助けたのは…皆に自由に生きて欲しいからだ。それ以外のことは望んでいない。故郷に帰りたいという気持ちが少しでもあるなら、帰っておいた方がいい。この世界ではいつ何が起こるか分からない。会える時に会っておくべき…じゃないかな」
ちょっとごり押しし過ぎた感じもするけど、これぐらいしないとシリルは故郷に帰るという選択を取ってくれそうにない。
でも、『いつ何が起こるか分からない』というのは本当だ。今の国の情勢はどこも混沌としている状況だ。いつどこで戦争が起こってもおかしくない。
そんな世界で親や友人は大切な存在だ。だからこそ、会える時があるのであればあっておいた方が良い。
両親や友人も会いたいと望んでいるはずだから。
「僕への恩なんて感じなくていいんだ。たとえ、これから違う国で生きていくことになったとしても、僕はいつでもシリルの幸せを願っているから」
そう、故郷に帰ったら一生会えないわけではない。
いつかたまに会えるかもしれないし、どちらにしてもこの空の下で僕は生きているんだ。
同じ世界を生きているわけだから、たまに偶然会うこともある。
「だって僕にとって一番嬉しいのは、シリルを含めて、みんなが幸せに暮らしていることだから」
そうだ。
それぞれがそれぞれの国で幸せに暮らしてくれれば僕にとっても、助けて良かったと思える。
もちろん、お金を使うのが主の目的ではあったけど、その副産物として奴隷たちが故郷で人間らしき生き、幸せを感じられる生活を送れていたら嬉しい。
シリルは静かに僕の言葉を聞いてくれていたけど、ちょっと話し過ぎたかもしれない。
「ご主人様…」
「どうしたの、シリル」
なぜか急にシリルの瞳から雫が零れ落ちていく。急なことに僕もすぐに反応ができなかった。
「え、ど、どうしたの!?」
シリルは嗚咽をすることなく、静かに泣いているのだ。
「僕が近くにいるから、落ち着いて」
シリルのことを抱きしめて、優しく背中をさする。僕がシリルのためにやってあげられるのはこれぐらいだ。
泣き止むまで、僕は理由を聞くことはせず、静かに抱きしめて、背中をさするだけ。
シリルの涙が止まったのを確認してからも、僕は耳元で「大丈夫だから」と言い続ける。
「…ご主人様は本当に優しく、強くて、カッコイイ人…ですね」
「そんなことないよ。ちょっと過大評価し過ぎだよ」
「いえ、ご主人様はカッコいい人です。ご主人様こそ自分のことを過小評価し過ぎです」
「…そうかな…」
僕は僕のことを正当に評価できていると思うんだけど。
「そうです。ボクにとってご主人様は憧れの存在なんですから」
「憧れられるほどの人間では…ないんだけどな…」
「いえ、ご主人様は素晴らしい人です」
意外にシリルは頑固で僕のことを素晴らしい人間だと疑っていないようだった。
いくら僕が否定したとしても、シリルの中でもう僕は『素晴らしい人』と決まってしまっているようだ。
シリルが故郷を選んでくれるようにできることはやった。どうか、僕の努力が報われて全員がここを離れる選択をしてくれることを切に願う。