奴隷たちが「助けてくれ」と言ってきたので買って自由にさせたら、なぜか敵国やエルフの姫が求婚してくるのはなぜだ。 作:主義
コリンナとシリルと話したこともあって、他の子たちにも出身や今の気持ちを聞いておこうと思うようになった。
もし、故郷に帰る気がない場合はどうにかそっちに寄せる感じにするという目的を抱きながら。
そして今日はセシリアを自室に呼んだ。
セシリアは奴隷の中で唯一の竜人族。僕も竜人族がいることは知っていたけど、見るのは初めての経験だった。
まずこちらからクッショントークのようなものを挟もうとしたら、セシリアの方から質問を投げかけられた。
「竜人族のこと、怖くない?」
「怖くないかな」
「ご主人は不思議な人」
「そうかな。別に僕は普通の人間だよ」
「アタシのことを助けてくれた」
「それって…そこまで不思議なことじゃないと思うけど」
そう答えるとセシリアは首を横に振る。
「おかしいこと。人間はアタシたち竜人族のことが怖い。だから近付いてきたりしない」
まぁ…確かにセシリアの言うことも一理ある。人間は竜人族に対して異常なまでの怖がる。
でも、僕の認識としては少し違う。
「…そうなのか。逆に僕たちは竜人族が人間種のこと嫌いって聞いていたが」
「それは違う。元々、人間種がアタシたちを過剰なまでに恐れていた。だから人間種は一度だけ竜人たちを殺そうとしたことがあった」
そんなことは知らない。
少なくても両親からも家庭教師などからも聞いたことはなかった。本当に起こった出来事であれば絶対に何かしらの形で書き記されたり、口伝で伝わったりするものだと思うが。
「だから、アタシたちはそれに対抗して人間種を攻撃した。別にアタシたちを皆殺しにしたかったわけではない。だから途中で止めた。力を示すことは出来たから」
「…それでどうなったの?」
「そこで終わり。暗黙の約束という感じでお互いに関わらないようになった。竜人種は人間の前に普通は姿を現さない」
この話がどの程度の信憑性があるのかは分からないけど、完全に嘘だと断言することはできない。
それぐらいの信憑性と僕は判断した。
そこで一つの疑問が生じた。
「じゃあどうしてセシリアは奴隷になってたの?」
「……それは色々あった」
その言葉だけでこれから先にはまだ踏み込むべきではないと悟った。僕とセシリアは買った側と買われた側ではあるが、絶対に踏み込んで欲しくないところはどんな種族にもあるものだ。
「そっか…」
そして話を変えるため、元々の目的の方に移ることにした。
セシリアに関しては聞かなくても出身はわかる。竜人族が住んでいるのは、この世界に一つだけで竜人国だ。
確認する必要はないけど、さすがに少しぐらいはしておこう。
「セシリアの故郷は竜人国で大丈夫?」
「そう、竜人国で生まれた」
「よかった。じゃあもし、セシリアが故郷に帰るという選択をした時は竜人国まで送って行けば大丈夫?」
「そう…かな。でも、アタシは羽があるから普通に帰れる」
「あ、そっか。竜人には羽が存在するのか」
今のセシリアに羽は生えていない。全身を前から見ているだけではただの人間だが、後ろを見れば竜の尻尾も生えている。人間ではないのは一発で分かる。
「じゃあ…セシリアにはちょっと多くお金を渡そうか」
交通費が掛からないのであれば、多くお金を渡してもいい。元々一人一人にどれだけお金を渡すのかは決めている。
それは交通費を含めての金額。普通に暮らしたとしても2年以上は何もせずに生活できるレベルだ。もし贅沢などをせず、質素に生活すれば10年も生きられるかもしれない。
「アタシ、ご主人のために生きたい」
「え…」
「どうしたの、ご主人」
「い、いや、ちょっと衝撃的なことを言われた気がして」
さすがに僕の耳がおかしくなっただけだと思いたい。
「ちょっと…もう一度言ってくれない?」
「アタシ、ご主人のために生きたい」
「…なんで…?」
「そんなの決まってる。アタシのことを救ってくれたのはご主人。他の誰も『助けて欲しい』と思っても、助けてくれない」
「…こんなことを言ったら、セシリアに失望されるかもしれないけど、僕が買ったのはただの偶然だった。そんなに感謝されるようなことじゃない」
「過程なんてどうでもいい。どんな理由や原因があったとしても、救ってくれたのはご主人。それが全て」
「結果が全て。アタシはご主人のお陰で救われた。その結果はどんなことが起こったとしても絶対に変わらない」
セシリアの目は覚悟を決めた人の目に近いと思った。彼女の中で、僕のために生きようという気持ちは強く根付いているのだ。
コリンナとシリルよりもセシリアはちょっと重症だ。救った僕に対する気持ちが思ったよりも強く、これを故郷に帰るように誘導するのはとても疲れそうだ。
「アタシはご主人の力になりたい。どんなことでもいいんだ。ご主人が望むなら、アタシはこの世界の全てを敵にしても成し遂げて見せる」
な、なんか今までの子と全然違う。
この子をほっておくといつか、とんでもないことをしでかすんじゃないかと感じた。
「セシリア」
「…?」
「ちょっと手を繋いでくれるかな?」
「…うん」
僕の右手とセシリアの左手が繋がれた。
竜人族のことは知っていたけど、竜人族と手を繋ぐことになるとは。でも、普通の人間と手を繋いでるのと何も変わらなかった。
「セシリアは…僕に感謝してくれているんだね」
「うん、感謝という言葉では言い表せない。アタシが今、普通に生活できているのはご主人がいたから。ご主人があの日、あの場所で買ってくれなければアタシはまだあの檻の中で地獄のような生活を送ることになっていた」
まぁ…奴隷としての生活は地獄だろう。そんな世界に比べれば、今の生活はマシのはずだ。
そしてそこから救ってしまった僕のことをヒーローのように思ってしまうのは仕方ないのかもしれない。僕がもし、セシリアの立場であれば同じように救ってくれた存在に対して、心酔してしまうかも。
「それに…ご主人はアタシのことを買った。お金を渡して、アタシたちを買った。だったらアタシはご主人のために全てを捧げないといけない」
「そっか……でも、僕はさ、セシリアが幸せに暮らしていたらそれ以上のことは望まないんだよ」
善人でも悪人でもない、僕としては誰がどこで幸せになろうと別に構わない。僕に影響が出ないところで幸せになる分には関係ないし。
元奴隷の六人はまだ10代だ。これからの人生の方が圧倒的に長い。
今からやり直すこともできるし、これから幸せになれる。
「僕はセシリアたちに感謝しているんだ」
だってキミたちを買ったお陰で僕はお金を消費することができた。買った段階で半分以上の目的は達成できているのだ。
「セシリアたちから貰うものは貰っているんだ。だから、セシリアがそんなに必死になって僕の役に立とうとしなくていいんだ」
「キミたちは生きているだけで、十分なんだよ」
危ない金かもしれないけど、一応奴隷のことを買い、彼ら彼女らからすれば救った存在だ。
もしかしたら僕の人生の中で珍しい、良いことをしたのかもしれない。
そしてこんな良いことをするのは、これで最後かもしれないのだ。
僕が死ぬ時に、これのお陰で地獄に行くのを避けられるかもしれない。
その時は本当に六人に感謝しないと。