奴隷たちが「助けてくれ」と言ってきたので買って自由にさせたら、なぜか敵国やエルフの姫が求婚してくるのはなぜだ。 作:主義
奴隷たちとコミュニケーションを取っていき、感じることは僕が思っているよりも六人は感謝しているということだ。
別に僕は感謝して欲しくて、助けたわけではなく、ただお金を使うためだ。それ以上の目的は存在しない。
三人とコミュニケーションを取った以上は残りの三人とも話してみる。
六人がどういう選択をするのかは分からないが、少しでも故郷に帰ってもらうため、頑張ろう。
次はシェリルと話そうと思ったが、彼女の場所が分からず、使用人たちに聞くと「シェリル様は書庫で多くの時間を過ごされているので、今日もそちらにいるのではないでしょうか」と言われた。
言われた通り、書庫に行くと本当にシェリルは静かに書物を目を通していた。集中しているのが伝わってくるため、声を掛けるのは少し気が引けるが、ここで立ち去るわけにもいかないので声を掛ける。
「シェリル…何を読んでるの?」
「…主様、気付くのが遅くなってしまい、申し訳ありません」
「そんなことは気にしなくていいんだよ。僕がただシェリルに会いたくて来ただけだから」
「私に会いに?」
「うん、シェリルと話して見たくて、いいかな?」
「構いません。主様がそう望むのであれば。私に答えられる範囲の事であれば何でもお答えします」
「それじゃあ、あそこの椅子に座ろうか」
書庫内にある椅子に僕とシェリルは腰を下ろす。
お互いに向かい合う形で座るので、改めてシェリルの顔をまじまじと見る。
そして思ったけど、本当に美人だ。他の子たちも顔立ちが整っているけど、シェリルは少し群を抜いているように見える。世の男性であれば、彼女に好意を抱いているするのかもしれない。
「あの、どうかされましたか、主様?」
「ううん、何でもないよ」
さすがにここで「美人だと思って見ていた」と言うのは、ちょっと気持ち悪い気がしたので止めることにした。
「まずシェリルについて教えてもらって大丈夫?」
「はい、私に答えられることであれば」
「じゃあまず、シェリルの故郷はどこ?」
「私はラミス天国《てんこく》で生を受けました」
ラミス天国。
これまた少し特殊な国家だ。
ラミス天国について僕が知っている情報としては、自分たちを神に愛された民と一途けている者たちの集まりだということと、人間以外の生物を認めていないことは知っている。
国民は神を信仰していて、神の元に自分たちは守られ、自分たちは正しいと思っている。
王国と天国の国交は存在しているため、シェリルにことを送り届けることは難しくない。シェリルが帰りたいという気持ちが芽生えてもらえれば、すぐに帰す手配を進めることができる。
「シェリル…これは興味なんだけど、ラミス天国の国民は人間以外の生物を認めていないという話は本当なの?」
「本当です。正確に言うとすれば、人間と同列の生物は絶対に存在しないという考え方です」
「同列…」
「はい、そこが大事なのです。ですから、家畜として豚や鳥を飼っている者はおります。人間以外の生物は絶対に人間に服従するべきという考え方と言った方がいいかもしれない」
「その考え方が浸透しているとなると、竜王国やエルフが治めているリロニエルは完全に敵対国として見ているということか?」
「そうですね。人間以外が治めている国を認めていません。少し前にエルフの国こと、リロニエルを攻めようとしたみたいですが、その作戦は失敗に終わったと聞いています」
「そうなのか…」
それぞれの国に事情が存在する。
考え方や歴史も違えば、自ずと国としての在り方も全然違うものになるのだ。
僕からすれば、自分たちを神に選ばれた民だと自称している人間に過ぎないが、国内に住んでいる者からすればそれは疑いようのないことなんだと思うし。
そこで僕は「シェリルは故郷に帰りたい?」と聞いてみることにした。
回答は実に早く、さっぱりしたものだった。
「いえ、帰りたくありません。私はもうあの国のことを何とも思っていませんし、帰りたいという気持ちが湧くことはありません」
まさかここまで言い切られるとは思っていなかったので、しばらく返す言葉が見つからなかった。
今までの子たちは少しは悩んでいたけど、シェリルは迷っていないというか、もう選択肢の1こと故郷に帰るというものは除外されていた。
「主様、どうされました?」
「何でもないよ、ただちょっと驚いちゃっただけ」
「驚かせてしまって、申し訳ありません。ですが、主様に嘘を付くわけにはいかないので」
「いいんだ、シェリルの気持ちが聞けて、僕は嬉しいよ」
これだとシェリルを故郷に返すのはさすがに難しいかもしれないな。あそこまで言い切るということは、僕が何かを言った程度でシェリルの考えが変わるとは思えない。
「シェリルは何かやりたいこととかあったりする?」
「いえ、私にはないです」
「なんか不思議な言い方をするね」
「はい、私にはないですが、主様が私に何かをして欲しいのであれば行います。私は主様の奴隷ですから」
「…そういうことね、僕から何かを命令したりすることはないよ」
「であれば、私にやりたいことはないですね」
「そっか…」
何かやりたいことがあれば、そこから外の世界を見てきた方がいいんじゃないかなぁとか言うこともできた。
この感じだとシェリルについては、残る方針で考えておいた方がいい。さすがに短期間でシェリルの考えが変わるとは思えない。
そう結論付けたタイミングでシェリルは一つ質問を投げかけてきた。
「主様にとって家族ってどんなものなんですか?」
「家族か……難しい質問をするね」
この質問をする相手として、僕はたぶん適していない。僕は家族に対する愛情に溢れているような人間ではないから。
でも、さすがに何か答えてあげるべきだと思い、必死に頭を回転させて出てきたのは一言だった。
「一緒にいて、心地いい気持ちになれる存在とか…」
両親と一緒に居て、心地いいと思ったことはないが、普通の家族は安心したりするものなんじゃないかと思う。
「心地いいですか…」
「あくまで僕の言葉だから、そんなに重く受け止めないでね」
「…いえ、主様の言葉を胸に刻みます。家族とはそういうものなんですね」
そんなこと刻まなくてもと思っていると、シェリルが首を傾げた。
「でも、それだと…主様と私は家族ということになってしまいます」
「え……」
「私は主様と一緒にいると安心します。主様が近くに居てくれるだけで安心できますし、触れてくれたらもっと安心できます」
シェリルを含めて、全員が元奴隷だ。そういう環境に置かれたからこそ、僕のような存在でも近くにいると安心してしまうのか。
ここでそれは家族じゃないと否定することは簡単だ。
でも、なんかそれをするとシェリルが「では家族の心地いいとはどんなものなのでしょうか?」とさらに質問を重ねてきそうだ。
それを避けるために僕はシェリルの考えを肯定することにした。
「じゃあ、僕とシェリルは家族なのかもね」
「そうなのですか。私と主様は血縁では繋がっていませんが、家族なのですか?」
「うん、家族は血が全てではないからね」
「そういうものなんですね」
僕と両親は血縁関係上は家族であったと思うが、温かい家庭と呼べるものではなかった。だから別に血縁関係だけが全てとは思えない。
「主様と私は家族ですか…」
するとシェリルは急に…ぎこちない笑みを浮かべた。
「どうしたの?」
「いえ、ちょっと嬉しくて。これが家族なんだと思ったら…」
「そっか…」
結果として、シェリルは故郷に帰る気はないことが分かった。