奴隷たちが「助けてくれ」と言ってきたので買って自由にさせたら、なぜか敵国やエルフの姫が求婚してくるのはなぜだ。 作:主義
奴隷たちに選択を迫るまで、あと5日間だ。
今はもう日が沈み、僕もベッドに横たわっている。
最近こういう時間は彼ら彼女らの現状について考える。
それぞれまだ悩んでいるようで昨晩は奴隷たちで何か集まって話をしていたと使用人が言っていた。
一応、奴隷たちは一人一部屋。
寝る時もそれぞれの自室で眠りに付くのだ。
六人がどんな選択をするのか、分からない。
少なくともシェリルは家に残る決断をするのはほぼ確定と言ってもいい。他はまだ聞いていない子もいるが、ほとんど悩んでいるといったところだろう。
そんなことを考えていると、僕の寝室を誰かがノックする音が聞こえてきた。
「はい、どうぞ」
僕も体を起こして、扉の方に視線を向けるとそこから入って来たのは、六人のうちの一人、ダークエルフのイーデンだった。
「イーデン、どうしたの?」
「…怖いです」
「怖い?」
確かにイーデンの体は小刻みに震えていた。
「どうしたの、何か怖いことでもあった?」
「…怖い夢みました…」
「そっか」
イーデンの年齢がいくつなのか分からないけど、少なくとも見た目はまだ子供のダークエルフだ。普通に家族のことが恋しい年齢なのかもしれない。
「じゃあ、こっちに来て」
僕は手招きするとイーデンは少しずつこっちに足を進めてきた。僕もベッドから立ち上がり、目の前まで来てくれたイーデンのことを抱きしめた。
「僕が出来るのはこれぐらいだけど、少しでもイーデンの心が落ち着くといいな」
「…主様…温かいです」
「少し落ち着いた?」
「うん、主様の体温を感じたらちょっと寂しくなくなりました」
「それはよかった。じゃあもう少しこのままでいようか」
僕は五分ぐらい抱きしめた状態にした。
この程度でイーデンが落ち着いて、寝ることができるのであれば。
そしてそれから僕のベッドに隣同士で腰を下ろす。
「こういうことってあるの?」
「たまに…あります」
「あるんだね。いつもはどうしてるの?」
「我慢します。主様や屋敷の人に迷惑を掛けるわけにはいきませんから」
まぁ…そうだよね。あくまでこの家はただの仮の家で、六人はそれぞれ気を張って生活しているはずだ。
周りに頼るなんて難しい。
「…じゃあ、これからは我慢しなくていいよ」
「え…」
「寂しい時とか、怖い時とかは僕でよければイーデンが落ち着くまでずっと側にいてあげるからさ」
イーデンが故郷に帰る選択をしてくれれば、あと数日だ。そうであれば僕がイーデンにしてあげられることはしてあげる。
同い年ぐらいの子たちは苦手だが、それでも嫌いではない。
「嫌だったら嫌って言ってね」
「ううん、主様がよければ私は…して欲しいです」
「じゃあ、その時は僕に声を掛けて」
ただ抱きしめるだけで少しでも安心できるのであれば、してあげた方がいい。
そして話題は変わり、今度は呼び方の話に移っていく。
「主様…以外の呼び方をしてもいいですか?」
「別に何でもいいよ。最初に会った時に言ったけど、どんな呼び方でも全然問題ない」
「…父様…はだめですか?」
「別にいいけど、なんで僕が『父様』?」
「主様は優しくて温かくて…お父さんみたいだからです」
僕とイーデンは年齢的に考えるとそこまで離れていない気もするし、ダークエルフは長寿な種族だ。見た目では幼く見えても年齢は僕よりもってことも。
「…あのあくまで質問だから答えなくてもいいんだけど、年齢とかって?」
「今は105歳です」
明らかな年上だ。やっぱりダークエルフは本当の年齢と容姿が全く合っていない。
「105歳か…それはダークエルフだとまだ子供ぐらい?」
「そうですね。子供から少しずつ大人に変わっていく時期といったところですね」
じゃあ人間換算で言うと、どの程度なのだろう。まだ10代といった認識で全然いいのか。
「そうなんだ。それでイーデンから見ると僕は父親みたいに見えるってこと?」
「…主様には嫌な気持ちにならないで欲しいんですけど、なんかお父さんみたいって…」
もしかして、僕って自分が思っているよりも老けているように見えるのかな。これからはその辺りも気を使って生きて行った方がいいのかも。
「そっか。いいよ、僕はどんな呼び方でもいいって最初に言ったからね」
「…じ、じゃあ…父様」
「うん」
さすがに呼ばれ慣れしていないので、急に言われたら反応できるかは分からない。
「父様」
「どうしたの?」
「ち、ちょっと呼んでみたかっただけです、父様」
イーデンの顔に少し笑みが戻っていたので、それはよかったと思った。
そしてこの際だから、イーデンについてちょっと聞いてみることにした。
「イーデンの故郷について教えてくれる?」
「わかりました。私の故郷はルクリエという場所です」
やっぱりそうか。
ルクリエというのはダークエルフのみが生活することが許される国。
あんまり詳しいことは知らないけど、確か北の森を越えて、もっと北に歩いた先にあるとか。この辺りは本当に曖昧だ。
「私はそこでずっと過ごしていました」
「そうなんだ。じゃあ、イーデンはその故郷に帰りたい?」
「……分かりません」
普通に『帰りたい』とすぐに言うかと思ったけど、どうやらそうでもないらしい。
「私に両親はいません。どちらも私が物心付く前に死んでしまったので」
「それは…」
「それからは色んな人に育ててもらいました。ですから、ルクリエという国は私にとって大切な場所です」
「なら―――」
次の言葉を言う前にイーデンが声を発した。
「…確かにルクリエは大切です。でも…父様のことも大事なんです」
「え、ぼく?」
「はい、私のことを救ってくれました。傷や腕なども治してもらい、食事やお風呂、衣服に至るまで全て用意してくれました。そして寂しい時は抱きしめてくれます」
ただ傷を治しただけのことが、六人をここに縛り付けてしまっている。こっちとしてはそんなこと気にせず、それぞれの故郷へと帰還して欲しいんだけど。
だけど、その後のイーデンは少し予想していないことを口にした。
「私は父様の近くで、父様をお護りしたいのです」
「護る…?」
「父様は自分のことを大事にしていないので」
その言葉を聞き、僕は目を見開いてしまった。まだ会って数週間の相手に自分という人間を見透かされた気がしたからだ。
「…なんでそう思ったの?」
「一番の理由は私たちに魔術を使ったことです」
「…魔術…」
「私たち、ダークエルフやエルフは魔法を使うことができます。魔法と魔術は違います。魔術とは人間が編み出した人智を越える神の御業。魔法とは神の御業です」
僕はイーデンの説明を静かに聞くことにした。
「元々この世界には魔法しかなかったのです。そして、魔法を使えるのはエルフやダークエルフだけでした。人間に魔法に対抗する手段は存在しなかったため、人間は研究を重ねて魔術というものを作り出したと言われています」
確かにエルフやダークエルフも…神の御業と呼ばれる魔術を使えるのは知っていた。
でもそれが魔術と違う、魔法だとは知らなかった。
同じ魔術だと。
イーデンの説明はまだ終わることなく、これから先も続く。
「何より魔法は代償を必要としませんが、魔術は違います。魔術を使い続ければ、使用者に何かしらの影響が出る恐れがあります。父様はそのことを知った上で、私たちに魔法を使ったんですよね…」
「…そうだね」
「私たちと父様はあの日会っただけです。そんな素性も知らないような子供を父様は自分の命を掛けて、治療してくれました。これだけで父様が自分の命のことを大事にしていないのはわかります」
確かにその通りだ。
普通の人間であれば、自分の命が危険にさらされるような魔術をずっと見ず知らずの子供に使い続けるなんてことはしないと思う。
「もちろん、私たちはそれに感謝しています。父様のお陰で私たちは普通の生活を出来ているんです」
感謝する必要ないといっても、無理か。六人にとっては奴隷から救ったように見えても仕方ないような状況だったし。
そしてイーデンは言葉を続ける。
「でも、父様が自分を大切にしていないのが心配です。だから私は父様の側で、父様をお護りしたいんです」
「イーデンの気持ちは嬉しいよ。でも、僕のことじゃなくて、イーデンにはイーデンの道を歩んで欲しいんだ」
「…父様に救ってもらったから護りたいという気持ちもあります。でも、それ以上に私自身が父様と一緒にこれから生きていきたいんです」
「ありがとう。だったら僕からもう何も言わない。色々と悩んで、なるべく後悔がない選択をしてくれ」
これ以上に言うことがない。
ここで無理に故郷に帰るように言ったところで、イーデンに影響はない。
彼女は彼女の中でしっかりと考えられる子だから。
「はい、故郷のこともあるので、もう少しだけ考えさせてもらいます」
もし、イーデンが故郷に帰るという選択肢をしてくれた場合も考えて、彼女の故郷ことルクリエについてしっかり調べておこう。
今の状態だと送り届けることも不可能だ。
どうしても場所を突き止めるのが難しそうであれば、イーデンの力を借りることにしよう。