妹たちが依存し過ぎていたので、しばらく離れて暮らすことになった。久し振りに帰るとさらに悪化していたようで「結婚しよう」と言われたんだが。 作:主義
兄が妹を想うように、妹も兄のことを想う。
その愛には大きな隔たりがある。
兄から妹への気持ちは家族としてのもの。
だが、妹が兄のことを想う気持ちは異性としてだ。
この隔たりが簡単に埋まることはない。
――――――
今日、西園寺春は初めて転校した高校に登校することになる。
西園寺早雪と西園寺望月は兄から「登校中、学内では家の中でみたいにくっ付いたりするのはダメだから」と言われてしまったのだ。
そんな言葉、無視すればいいと二人は思っていた。
だが、兄の目を見ればそれが本当に望んでいることだというのも分かっている。ここで兄の言うことを聞かずにくっ付きに行けば、嫌われるかもしれないという考えが頭をよぎる。一度よぎってしまうと、その考えが消えることはない。
だからといって、兄のことを近くで見たいという気持ちがなくなることはない。
そんなこんなで妹たちは兄に見つからないように学校内で兄のことを見張ることにした。本人たちがどう思っていたのかは分からないが、彼女たち姉妹はとても有名だ。
容姿も整っていて、文武両道となれば自然と注目の的になってしまうものだ。二人はそんなこと気にしていないようだが、周りは二人の一挙手一投足に注目する。
そんな有名な姉妹が高等部の教室の前までいれば自然と周りは目を奪われる。まず中等部の生徒が高等部のところまで来ることはない。
「やっぱりにいにって制服似合っている、望月?」
「うん、まあ兄さんは何でも似合うけど」
二人は教室の中にいる兄のことを見つめながら話す。周りの高等部の生徒はそんな二人を邪魔しないように静かにしている。
自分たちよりも年下のはずなのに、まとっている雰囲気がそれを感じさせないのだ。
「今度、にいにとアパレルショップとか行きたい」
「確かに、兄さんを着せ替え人形みたいにしてみたいかも。何でも似合いそうだけど、一番似合う系統の服ってどれなんだろう」
「じゃあ、早雪と望月、にいにの三人で行こう」
「わかった、後で兄さんに予定を聞いておくよ」
「うん」
話の内容はいつも兄のことだ。
この二人が兄のことを考えていない時間はないのかと思うほどに、二人の話にはいつも兄が出て来る。
自分たちの授業が始まるギリギリまで兄のことを見るのだ。それをずっと繰り返すのだ。自分たちの授業が終わると兄の教室の前まできて、見つめ、授業が始まる前に帰る。
――――――
昼休みも兄のことを見ようと教室に行くところで、衝撃的な光景を見てしまった。それは彼女たちの兄と知らない女子生徒が一緒に歩いていたのだ。
「望月、あの人知ってる?」
「ううん。ぼくは知らない」
「あの人、にいにに近くない?」
「うん、近いね。あんなに兄さんと近付いて…」
「あそこは早雪と望月の場所」
「ぼくもそう思う。たかが他人があの場所を奪うなんて許せないよ」
「早雪も同じことを思った」
兄のことを遠くから見守っている二人はそんな会話を繰り広げていた。
その後も気付かれないように兄の後を追った。二人の後を追った先は食堂だ。食堂には人が密集していることもあるが、彼女たちぐらい有名な姉妹であればそんな場でも注目を集めてしまう。
「本当にあの人、にいにと距離が近すぎる」
「ぼくもそう思う。早く兄さんから距離を取って欲しいし、兄さんには二度とあの人に近付かないで欲しい」
二人にとって兄に近付く人間は誰であっても許せない。自分たちの大切な兄が変な女に誑かされているのだ。
「にいには優しいから言えないのかな」
「そうだね。本当はあんな女のこと鬱陶しいのに兄さんは優しいから言えないんだと思う。だからちゃんと後で言ってあげよう」
「うん、にいにの言いにくいことはちゃんと早雪たちが言ってあげないと」
周りが彼女たちに近付けないと思うほどに、キレているオーラが出ていた。顔は笑っているし、声の抑揚も別に普通だけど、絶対に怒っていると誰でも分かるだろう。
何より周りの生徒たちはなんで姉妹がそんな怒っているのかもわからない。
それに加えて、兄妹の関係性を明かしていないので、なぜ彼女たちが彼を見てい
るのかもわからないのだ。
本当に周りからすれば困惑だ。
兄妹の関係性を明かしていないのは妹たちなりの配慮だった。朝の一件から兄は自分たちに近付かれるのが嫌だというのは分かった。
そしてその理由はたぶん、目立ちたくない。
だからそのため、本当はクラスメイト全員に対して自分たちの兄だと宣伝したいところを我慢しているのだ。それをすると兄に迷惑が掛かると。
「ねぇ…帰りはにいにと帰っても大丈夫?」
「大丈夫だよ。兄さんは学内ではって言ってたし。学内を出れば朝みたいにくっ付いてもいいはず」
「うん、早く放課後にならないかな」
そんな会話が兄に聞こえてないところで行われていた。