男女比が偏っている世界で女性アイドルのマネージャーになる   作:主義

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なぜかアイドルにマネージャーとしてスカウトされる。

握手会に参加して、しばらく経った日。

 

 

「なんだ、これ?」

 

 

加藤《かとう》正行《まさゆき》宛と書かれている茶封筒があった。送り主の名前は何も記載されていないのはちょっと不気味だけど、開けてみるか。

 

 

開けると中に入っていたのは一枚の紙だ。紙を広げてみるとそこには住所と時間、あとこれを書いたであろう人物のサインがあった。

 

 

「え……斉藤《さいとう》麻依《まい》…」

 

あり得ない人物のサインだ。

 

いたずらだと吐き捨てるのは簡単だけど、それができない。なぜなら、オレは彼女の直筆サインもたくさん持っている。偽物と本物の区別はできるという自負すらある。

 

 

 

その僕が見ても、このサインは本物だ。それに元の世界であれば揶揄いとか色々と考えられるけど、この世界でこれをするメリットというものがあまり思いつかない。女よりも男が貴重な世界で、男は女を怖がっているのだ。

 

 

でも、本人だとは思えない。

 

 

 

 

その気持ちがあるものの、オレは億が一の可能性に掛けて時間通りに所定の場所に行った。

そこはただの公園だ。

 

 

「…正行くん」

 

呼びかけられて振り返ると、いつものアイドル衣装ではなく、私服に身を包んだ斉藤《さいとう》麻依《まい》の姿があった。

 

 

さすがにオレは目の前の光景が信じられず、黙り込んでしまった。

 

 

「正行くんだよね?」

 

 

「……は、はい…」

 

齋藤麻衣はオレの言葉を聞いて、いつもの右手でVポーズを作ってから「来ちゃった!」と言った。

 

 

その姿に本物のアイドルだと感心してしまった。

 

衣装に身を包んでいなくてもやっぱり存在がアイドルなのだろう。

 

ってそんなことは今、どうでもいい。一番重要なのはなんでこんなところに現役のアイドルがいるのか、それとオレの家のポストに入っていた封筒は本当に彼女が入れたものだったのかという二点。

 

 

「あんまり正行くんの時間を取らせるのも申し訳ないから単刀直入に言うね。私たちのマネージャーになってくれませんか?」

 

目の前の彼女の言葉を理解するのに数秒を要した。そして内容を頭が理解できると、今度は驚きで一歩後ずさってしまった。

 

 

「え、なに言ってんの?」

 

 

「伝わらなかったかな。じゃあもう一度言うね、私たちのマネージャーになってください!」

 

 

「い、いや、聞こえてはいるけど、なんでそんなことを?」

 

 

「だって正行くんって私たちのことを推してくれているよね?」

 

 

「…そうだね。推してるよ」

 

 

「こんなに熱心に推してくれる人は滅多にいない。それなら正行くんにも私たちを支える方になって欲しいなって」

 

意味が分からん。推してくれているから、彼女たちを支える方になる?

 

 

「それにこれはグループのメンバーもプロデューサーも承諾済みだよ」

 

 

「ま、まじで…?」

 

 

「マジです」

 

こんなただのファンを迎え入れようとするプロデューサーは一体大丈夫だろうか。オレはプロデューサーと話したこともないけど、少し心配にはなってきた。

 

 

「いや、さすがにマネージャーになってくれと言われてすぐに即答はできないというか」

 

 

「…確かにそうだよね。急にマネージャーになってって言われても悩んじゃうよね」

 

 

「う、うん」

 

 

「じゃあ一週間後のこの時間にまたこの場所で会おうよ。その時に正行くんの答えを私に聞かせてくれると嬉しいな」

 

 

「じ、じゃあ、それで」

 

言葉を理解はできても、未だに何で齋藤麻衣がなぜオレのことを誘って来たのかも分からない。

 

もし億が一にも齋藤麻衣が何かしらの事情でそんなことを思ったとしても普通は周りの人間がそれを止めるはずだ。

 

 

それなのに、彼女の話を聞く限り、周りの人間も賛成しているようだ。彼女が嘘を付いているのかもしれないけど。

 

 

少なくてもオレは彼女を推している人間として彼女が嘘を付いているとは考えないようにしたい。こんな「マネージャーになって欲しい」みたいなおかしな話でなければ。

 

 

 

 

去り際に彼女はまたこちらに向き直って告げる。

 

 

「私は正行くんにマネージャーになって欲しい。あなたが近くにいてくれば、私たちはもっと上のステージまで行ける気がするの。だから、良い返事を待ってるね」

 

そして彼女は去っていった。

 

 

 

 

 

 

彼女が去った後も…さっきまで齋藤麻衣というアイドルの姿が思い浮かぶ。普段は絶対に握手会やライブでなければ会うことのできない存在に、こんな形で会うことになるとは……。

 

 

それも自分たちのマネージャーになって欲しいなんて……。

 

 

 

「今日はとんでもない日になったな」

 

 

オレも帰路に付くことにした。

 

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