男子校育ちのボクが小6女子にTSしたらクラスで一番女子力が高かった件 作:間瀬凪
洗面所の鍵をカチャリと閉め、僕は脱衣所のスツールに腰を下ろした。
洗濯カゴを引き寄せ、まずは土ぼこりで灰色に汚れたレースソックスを脱ぐ。
続いて、カーディガンのシェルボタンを一つずつ外して脱ぎ、パステルピンクのフリル付きカットソーを頭から引き抜いた。
アイボリーの細プリーツスカートのウエストゴムを緩め、足元へ滑り落とす。
最後に、朝一番に恐る恐る履いた、淡いパステルピンクのジュニアショーツを膝まで下ろし、両足を踏み抜いた。
身につけていたものをすべて脱ぎ去り、僕は洗面台の大きな鏡の前に立った。
「…………」
そこに映っていたのは、湯気のない冷たい空気に、白く透き通るような肌を晒した十一歳の少女の裸体だった。
男子校時代の僕といえば、日焼けした浅黒い肌に、部活で無駄についた筋肉、すね毛や腕毛がそこかしこに生えた無骨な肉体だったはずだ。
だが、今鏡に映っている身体は、それとは何光年もかけ離れていた。
華奢な鎖骨のライン。まだ大人になりきっていない、けれど微かにふくらみの兆しを見せ始めている小さな胸。キュッと引き締まった細いウエストから、滑らかな曲線を描いて丸みを帯びるお尻。
そして――何より、股間だ。
足の間を見下ろしても、十七年間ずっとそこにあったはずの付属パーツは影も形もない。驚くほどすっきりと何もない平坦な身体。
(本当に……女の子になっちゃったんだな、僕……)
朝のパニックや始業式の喧騒を抜けて、静かな脱衣所で改めて自分の身体を直視すると、不思議な実感がじわりと胸の奥に染み渡ってくる。
すーすーと肌を撫でる冷気に身震いし、僕は浴室の引き戸をガラガラと開けた。
***
浴室の中には、甘いフローラル系のシャンプーの香りが微かに漂っていた。
僕は洗い場のプラスチックの椅子に腰を下ろし、シャワーの栓をひねった。
サーッと温かいお湯が勢いよく吹き出し、冷えた肌を心地よく包み込んでいく。
「ふぅ……あったかい」
膝小僧にこびりついた泥や足元の砂ぼこりが、お湯とともに勢いよく排水口へと流れていった。
さて、ここからが身体洗いだ。
棚を見上げると、水色のボディタオルと、ポンプ式のボディーソープが並んでいた。
タオルを濡らし、ボディーソープをワンプッシュ。
手の中でくしゅくしゅと泡立てると、きめの細かい白い泡が立つ。
(……それにしても、不思議な感覚だな)
恐る恐る、まずは自分の腕に泡を乗せてみた。
すべすべとした、驚くほどきめ細やかな白い肌。
男子校時代のように無造作に擦る気にはとてもなれず、僕はどこか壊れ物でも扱うかのように、おそるおそる泡を滑らせていく。
首筋、肩、小さな胸、そしてお腹。
少し力を込めるだけで皮膚がうっすらと赤くなってしまいそうで、自然と手つきは慎重になった。
背中や太ももを洗い終え、足元の泥汚れも泡で丁寧に撫で落とす。
そして――最後に残ったのは、股間だった。
(…………)
僕は思わず、自分の両手をじっと見つめた。
男の身体だって、そこはタオルなんか使わず、手で優しく洗うのが当たり前だった場所だ。
ましてや、今の僕には十七年間ずっとついていたはずの『相棒』がない。
(いや、そもそも見下ろしても真ん中が窪んでる? くらいで何もないんだけど……どうやって洗うんだこれ?)
男の感覚が首を傾げると、すかさず女の子の記憶が『いや、手鏡でも持ってこない限り見えない死角なのは当然でしょ!』と呆れたようにツッコミを入れてくる。
男の身体なら、上から見下ろせば「よっ、今日も元気だな」と一目で視覚確認できた。だが、女の子のこの場所は、自分自身の目で直接拝むことすらできない完全な死角なのだ。
(マジか……。視界ゼロのブラックボックスを手探りって、超高難易度のブラインド・ミッションすぎない!?)
『何言ってるの、指先の感覚で洗うのが当たり前じゃない』
頭の中で「男の思い込み」と「女の当然」が激しいレスバを繰り広げる。
朝のトイレでの大惨事と、ぎこちなくペーパーで除染した記憶が脳裏をよぎる。
(ええと……解剖学的には、皮膚というより粘膜に近い組織で……)
生物の知識を引っ張り出しながら、僕は躊躇した。
とはいえ、洗わないわけにもいかない。ドッジボールで砂ぼこりも浴びたし、汗だってかいているはずだ。
(……まずはシャワーのぬるま湯をかけて、手のひらでそっと優しく洗おう)
僕はタオルを置き、手のひらに少量のボディーソープを取って、お湯を足しながらしっかり泡立てた。
そして、壊れ物に触れるように、おそるおそる股の間へと手を伸ばした。
指の腹で、そっと表面の汚れを落とすように優しく撫でる。
その時だった。
(……ん? なんだこれ……?)
指先に、かすかな引っかかりを覚えた。
何か小さな塊のようなものが、指の腹にぽろぽろと触れるのだ。
恐る恐る指先を引き抜いて見てみると――。
「……っ!? 白いの……!?」
濡れた指先に、白くふやけた細かなカスのようなものが、ぽろぽろと付着していた。
(な、なんだこれ!? 病気!? それとも皮膚が剥がれたのか!?)
一瞬、僕の心臓が跳ね上がった。
だが、指先でその白い塊をそっとすり潰してみて、すぐに脳内CPUが答えを弾き出した。
(……あ。これ、トイレットペーパーだ……!)
朝の光景が、鮮やかに蘇る。
伝い漏れに激しく動転し、大量のトイレットペーパーを巻き取って、必死に押し当てて拭き取ったあの一幕。
あの時、擦らないようにと慎重に押し当てたつもりだったが、水に溶けやすいトイレットペーパーだ。濡れた肌を拭いた際、ふやけて崩れた紙の繊維が少し残ってしまっていたのだ。
(うわぁ……! 濡れた肌を拭いたら、そりゃ紙のカスもつくか……! こんなの男の時は知らなかったぞ!)
男の新鮮な驚きに対し、女の子の記憶が『濡れた場所に紙押し当てたら少しは残るに決まってるでしょ、だからお風呂で綺麗に流すんじゃない』と当たり前の顔で返してくる。
だが、その瞬間に僕の背筋を冷たいものが駆け抜けた。
(……ちょ、ちょっと待てよ……?)
手鏡でも使わなきゃ自分ですら見えないってことは……今ここがどうなっているのか、紙カスがついているのか、どう汚れているのかすら自分自身で分からないってことじゃないか!
――それって、男で言うところの『お尻の穴』と完全に同じ構造じゃないか!?
お尻の穴なんて、男だって絶対に人に見られたくない。エロいとか恥ずかしい以前に、自分ですら見えないし、どう汚れているかも分からない場所だからだ。
(ドッジボールのとき、僕は『男子が見たいのって、ここじゃないの?』なんて言っていたけれど……)
女子が見られたくない理由って、そういうことだったのか!
男子目線の「見たい」とかエロいとか以前に、自分でもどう汚れているか分からない無防備な死角だからこそ、絶対に他人に見られたくないのだ。
もしあの時、紙カスがついたまま見られていたらと思うと……想像しただけでゾッとする。
(あ、危なかった……! 手で丁寧に洗って、本当に良かった……!)
僕はシャワーの水圧を弱めのぬるま湯に設定した。直接当てて刺激にならないよう、水流を一度手のひらで受け、手のひらを通して優しく当てながら、指の腹でそっと残った紙カスを洗い流していった。
だが――紙カスを落とそうと少し指先に意識が向いた瞬間、泡立てたボディーソープが、うっかりひだの奥の粘膜へとわずかに触れてしまった。
「っ……!? 痛っ……!?」
ピリッとした鋭い刺激が走り、僕は思わず小さく息を呑んだ。
擦り傷に石鹸が触れた時のような、ツンと沁みる痛烈な刺激。
(し、しみる……っ!! な、なんで石鹸でこんなに痛むんだよ!?)
男子の感覚がパニックを起こす中、女の子の記憶が『ああっもう! 奥に泡が入ったら激痛が走るから「外側だけ優しく」ってあれほどお母さんから教わってたでしょ!』と頭の中でカンカンに怒鳴りつけてくる。
十二年間の女の子の記憶では「当然のタブー」として刻まれていたはずなのに、男子高校生のガサツな感覚で『紙カスをきれいに洗い落とさなきゃ』と躍起になったせいで、小学校低学年の頃以来の自爆をやらかしてしまったのだ!
慌てて手を離したが、じくじくと熱を帯びるようにヒリつく。外側の皮膚なら何でもないボディーソープの泡も、奥の無防備な粘膜にとっては刺激が強すぎるのだ。
「うぅ……っ」
直接シャワーを当てたら水圧で悪化してしまう。僕はシャワーのぬるま湯を手のひらで受け止め、指先からこぼれる優しい水流を通して、しみる部分へとそっと当てて泡を流した。
柔らかい水流を当て続けると、ヒリヒリとした痛みはようやく少しずつ和らいでいく。
(……ふぅ、危なかった……!)
一人きりの浴室で、僕は壁に手をつき、小さく息を吐き出した。
恐る恐るもう一度、手のひらを通してぬるま湯を当ててみると、もう刺激はなく、挟まっていた紙カスもきれいに流れてさっぱりとしていた。
(女子って……毎日こんなに気を遣って、自分の身体を慈しんでるのか。すごいな、本当に……)
男のガサツな思い込みが完全に敗北し、世の女の子たちへの純粋な敬意が胸の奥から湧き上がってくる。
その後、僕は手のひらのキメ細かい泡で外側だけをそっと撫で洗いし、ぬるま湯で丁寧に流し終えた。
泥のついていた髪もシャンプーで洗い、指通りを確かめながらコンディショナーを馴染ませて、念入りにすすぎ落とす。
最後に、少し高めの温度にしたシャワーをたっぷり浴びた。
「はぁぁぁ……」
思わず、深く長い息が漏れた。
サーッと全身を包み込む温かいお湯が、緊張でこわばっていた筋肉をじんわりと解きほぐしていく。
お湯に濡れて透き通るような肌や、しっとりと重みを増した黒髪を手櫛で整えながら、僕は小さく息を吐いた。
いろいろと戸惑うことばかりだけれど……温かいお湯でさっぱりする心地よさだけは、男も女も変わらない。
***
お風呂から上がると、脱衣所の洗面台で入念なアフターケアが待っていた。
バスタオルで身体を拭く際も、男子時代のようにガシガシ擦るのではなく、肌にタオルを優しく押し当てて水分を吸わせる。
パステルピンクの綿ショーツとお揃いの半袖インナーを着て、スツールに腰を下ろした。
ブオォォォォッ。
ドライヤーのスイッチを入れ、温風を黒髪に当てる。
男子校時代なら、濡れた短髪などタオルで二、三回ガシャガシャと拭けばそれで終了だった。
だが、肩口まで届くこの艶やかな黒髪は、そうはいかない。
濡れたまま放置すれば寝癖で大惨事になるし、雑菌が繁殖して匂いの原因にもなる。
ブラシを片手に持ち、根元から毛先へと温風を滑らせていく。
ブラシが通るたび、シャンプーの甘いフローラルの香りがふわっと立ち上り、髪が絹糸のようにさらさらと光沢を帯びていく。
「おお……すごいな」
鏡の中の自分が、少しずつ整っていく快感。
手間はかかる。男子の何倍も面倒くさい。
けれど、手をかければかけるほど、目に見えて綺麗になっていくこの感覚は――男の世界では決して味わえなかった、未知の面白さだった。
仕上げに冷風を当ててキューティクルを引き締め、淡いミントグリーンのルームウェアに袖を通した。
ふんわりとした柔らかいコットンが、清潔になった肌を優しく包み込んでくれる。
「よし、完璧だ!」
一階のリビングへ降りると、香ばしいごま油と醤油の匂いが漂っていた。
「お母さん、さっぱりしたよ……わ、チャーハンだ!」
「はいはい、お疲れ様。泥はきれいに落ちた? まったく、始業式早々にシャワー浴びるほど泥だらけになって帰ってくるなんて、本当に手のかかる子なんだから」
母がフライパンから大きめのお皿へと、黄金色にパラパラと輝く五目チャーハンをよそってくれた。
「いただきます!」
レンゲですくって頬張ると、香ばしさと旨味が広がり、思わず頬が緩む。ドッジボールで動いた後のお昼ご飯は格別だった。
***
昼食を終えて自室に戻った僕は、明日の時間割を揃え、真新しい教科書をランドセルに詰めた。
そして夕方、帰宅した父を交えて家族三人で温かい夕食を囲み、平穏な夜を迎えた。
パステルピンクのパジャマに着替え、部屋の明かりを落とす。
ふかふかの羽毛布団に潜り込むと、お日様の匂いが鼻腔をくすぐった。
(ふぅ……)
天井を見上げながら、僕は今日という激動の一日を静かに振り返った。
朝起きて相棒が消滅していた絶叫から始まり、トイレの大惨事、美少女コーデ、ガチドッジボール、そしてお風呂でのデリケートゾーンの洗礼。
情報過多で怒涛の一日だったが、胸の中に残っているのは絶望ではなく、未知の世界へのワクワク感だった。
(勉強は高校生頭脳があるから問題ない。女の子の身体も、要領よく付き合っていけばいい)
明日からは本格的な通常授業。給食も始まる。
(上等だ。学年三位の頭脳を舐めるなよ)
僕は不敵に微笑み、心地よい疲労感に身を委ねて目を閉じた。
――だが、十七歳の元男子高校生は、まだ知らなかったのだ。
勉強など足元にも及ばない、女子小学生特有の『不可解な生態』が待ち受けていることを。
男子校のロジックを遥かに超越した真の洗礼が、明日、容赦なく幕を開けるとは露知らず――。