男子校育ちのボクが小6女子にTSしたらクラスで一番女子力が高かった件 作:間瀬凪
小鳥のさえずりと、カーテンの隙間から差し込む柔らかな朝の光で目が覚めた。
ふかふかの羽毛布団の中で、僕はぐっと両手を伸ばして心地よい伸びをする。
(……んっ、よく寝たぁ……)
女の子になって迎える、二日目の朝。
まどろみの中で手足を伸ばした瞬間、僕はふと、下腹部の奥に微かな熱っぽさを覚えた。
ほんの少しだけ何かが充血しているような、じんわりとした温かい違和感。
膀胱が張っているような切迫した尿意とは明らかに違う、身体の芯が微かに疼くような感覚。
(……あれ?)
思わず意識を集中させる。
まさかとは思うが、この尿意とは違う微かなムズムズとした感覚は――。
僕は布団を跳ね上げ、パジャマのズボンの上から股間を見下ろした。
そこにあるのは、昨日と何一つ変わらない、驚くほどすっきりと平坦な世界だった。
(……テントになってない!)
そう、何一つ盛り上がっていないのだ。
男子高校生時代、朝といえば反射的な『朝立ち』との戦いだった。
無意識の生理現象とはいえ、布団を不自然に押し上げるあの突起は、下着のゴムに引っかかって痛いわ、うつ伏せで二度寝しようとすれば圧迫されて悶絶するわ、家族に見られたら即社会死だわで、厄介極まりない爆弾だった。
だが、今の身体はどうだ。
奥の方に微かな充血の違和感こそあれど、外見上の変化は文字通り『ゼロ』。
パジャマの上から触れてみても、どこにも引っかかる角などない。完全なるステルス仕様。誰にも絶対にバレないし、何一つ生活に困らない。
(女の子の身体って、こんなに平和なのか……!?)
感動を胸にベッドから抜け出し、僕は一階のトイレへと向かった。
そして――ここで僕は、女の子の身体構造の『真の神髄』を思い知ることになる。
パジャマとショーツを下ろし、便座に腰を下ろす。
男子時代、朝立ちの状態でトイレに行くことほど理不尽な苦行はなかった。
上を向いて突っ張っているモノに下向きの角度をつけるのは至難の業で、無理に押し下げようとすれば激痛が走り、腰を浮かせて壁に手をつくようなアクロバティックな前屈み姿勢を強いられる。それでも照準が狂って便器の外へ飛び散りそうになったり、尿道が圧迫されてスムーズに出なかったりと、毎朝が命がけの攻防戦だったのだ。
かと言って、昨日の朝は女の子の身体になったばかりで、男の感覚のまま浅く腰掛けて放出してしまい、太ももを伝い漏れさせて大惨事になったトラウマもある。方向をコントロールする突起がない女の子の身体は、座る角度を間違えれば大惨事になるのだ。
(昨日はそれで盛大にやらかしたんだよな……! ええと、どう座ればいいんだっけ……!?)
男の感覚が身構えた瞬間、よみがえった十一歳の女の子の記憶がすっと引き出され、身体が自然に動いた。
そう、女の子にとっては物心ついた頃から当たり前にやってきた「当然の基本姿勢」――便座に深く腰掛け、軽く前傾姿勢をとる。
その体勢を整えてから、ただふっと下腹部の力を抜く。
――それだけで。
男子時代のように突っ張ったモノを下向きに無理やりねじ曲げる苦痛も、何の角度調整も、何の抵抗もなく、澄んだ水音とともにスッと自然におしっこが抜けていく。
(……出た。普通に出た……! 伝い漏れも一切なし!)
微かな充血感などどこ吹く風、一滴も外に散ることなく、重力に従ってまっすぐ水たまりへと吸い込まれていく。
トイレットペーパーを適量巻き取り、優しく押さえるようにして拭き取る。ショーツを引き上げれば、あっけなくミッション完了だ。
(気にせず、普通に朝おしっこができる……! 昨日の大惨事のトラウマも吹っ飛ぶくらい、最高すぎるだろ……!?)
女の子の身体にとっては「正しく座ったから漏れなかった」というごく当たり前の日常にすぎない。
けれど、昨日の伝い漏れパニックと、男子高校生時代の毎朝の血と涙の奮闘を知っている僕からすれば、これは奇跡と呼ぶに値する。
文明の利器を正しいフォームで享受できた圧倒的な快適さに、僕はトイレの個室でひとり、深々としみじみ噛み締めていた。
***
洗面所で丁寧に洗顔を済ませ、自室のクローゼットの前に立つ。
ずらりと並んだ色とりどりの洋服たち。昨日まではただ圧倒されるばかりだったが、今朝の僕のテンションは完全に『ファッション誌のスタイリスト』だった。
(せっかく女の子になったんだ。身だしなみとコーディネートには全力でこだわり抜いてやる……!)
男子高校生時代、制服の学ランか、適当なジャージとパーカーをローテーションしていた灰色の世界とはまるで違う。自分のセンスひとつで、目の前の可憐な十一歳の少女をいくらでもプロデュースできるのだ。この楽しさは男の世界には絶対に存在しなかった。
昨日はパステルピンクとラベンダーの上品なお嬢様コーデだった。
ならば新学期二日目の今日は――昨日の反省も活かしつつ、女の子の特権をフルに活かした『王道ガーリー可愛いスタイル』でいこう!
選んだのは、丸襟に控えめなレースがあしらわれた、オフホワイトのパフスリーブブラウス。ふんわりとした袖の丸みが、いかにも可憐な女の子らしさを引き立ててくれる。
そしてボトムスには、淡いモカピンクのサスペンダー付きプリーツスカート! ウエストに小さなリボンがあしらわれ、肩紐のサスペンダーが胸元から背中へと伸びる――男の世界には絶対に存在しない、女子小学生ならではのド直球に可愛いアイテムだ。
(サスペンダー付きスカート……! なんだこの圧倒的な可愛さは……! 理屈を超えて破壊力が凄まじいぞ……!)
姿見の前に立ち、くるりと一周回ってみる。
歩くたびに規則正しいプリーツがふわりと広がり、肩紐のシルエットが可憐さを何倍にも強調してくれる。
足元には、履き口に小さなフリルのついた白のリブハイソックスを合わせた。昨日の反省を活かしてスカートの裾を気にしつつも、健康的な女の子の可愛らしさを完璧に演出する黄金比だ。
さらに、昨夜入念にブローした黒髪。手ぐしを通すだけで毛先までツヤツヤと指からすり抜ける極上のストレートだ。
昨日はハーフアップだったが、このガーリーなコーデに合わせるなら――。
僕はドレッサーの引き出しから、小さな飾りゴムを取り出した。
髪を左右ふたつに分け、耳の少し下あたりの低い位置で、ふんわりと結ぶ。
高めの位置で結ぶツインテールはさすがに小学生でも幼すぎて気恥ずかしいが、耳の下でまとめる『ローツイン』なら、清楚で大人びた可憐さが出る。仕上げに結び目の上の毛束を指先でほんの少しだけ引き出して、ふんわりとした柔らかさをプラスした。
「……よしっ! か、完璧すぎる……!」
鏡の中に映るのは、少女漫画の主人公か、ティーン誌の読者モデルのような、圧倒的透明感の美少女。
首を左右に傾げるたび、耳の下で結んだツインテールの毛先がぴょこぴょこと揺れる。
男子校育ちの僕が持ち前の分析力と器用さを発揮した結果、そこらの小学生女子を軽く置き去りにする『天然あざと女子力』が朝の三十分で爆誕してしまったのだ。
「いってきます!」
温かいトーストと目玉焼きを平らげ、ランドセルを背負って玄関を出る。
春の澄んだ空気の中、ふわりと揺れるツインテールとサスペンダースカートを身にまとい、僕は快活な足取りで桜並木を通り抜けた。すれ違う近所のおばさんや登校中の生徒たちが思わず振り返るのを横目に、内心でドヤ顔を隠しながら。
市立向日葵小学校、6年2組。
ガラガラと教室の引き戸を開けて足を踏み入れた瞬間、教室内がふっと静まり返った。
登校してきた男子たちの視線が、釘付けになったように僕の足元から頭へと動く。
「お、おい……今日の柏木、やばくね……?」
「ツインテール……!? なんかめちゃくちゃ可愛いんだけど……!」
ひそひそと囁き合う男子たちの動揺を感じ取り、僕の内心の女子力ゲージがぐんぐんと上昇する。よし、大成功だ!
だが――そんな僕の前に、すたすたと早足で詰め寄ってくる影があった。
始業式の日に僕の服をまじまじと観察してそっぽを向いていた、クラスのお洒落女子――芹沢梨々花だ。
今日の彼女は、昨日の大人びたキュロットから一転、上品なレース襟のブラウスにネイビーのチェックプリーツスカートという、絵に描いたようなお嬢様スタイルを着こなしていた。昨日僕が見せた清楚コーデに真っ向から当てつけるような、完璧な気合いの入りようだ。
だが――僕の目の前でピタリと立ち止まった梨々花は、腕を組むなり目を白黒させて僕を凝視してきた。
「ち、ちょっと……柏木さん!」
「えっ? な、なにかな、芹沢さん……?」
急な接近に僕がたじろぐと、梨々花は僕の服装を上から下まで、スキャナーのように食い入るように見つめた。
「なんなのよその格好! 昨日は清楚系お嬢様風だったくせに、今日はモカピンクのサスペンダースカートにゆるふわツインテールだなんて……! 完全にジャンル変えてきてるじゃない!」
「えっ、あ、うん……今日はちょっとガーリーにしてみようかなって。それに、耳の下あたりで結んだ方が子供っぽくならなくて可愛いかなって思って……」
「ぐっ……! わ、分かっててやってるのね……!? あ、当てが外れたわ……! い、いえ、別に意識なんてしてないけど!」
なぜか梨々花はギリッと奥歯を噛み締め、悔しそうに頬を紅潮させた。
「ふ、ふん! 昨日の清楚なお嬢様風も癪だったけど、今日の王道ガーリーも……べ、別に悪くはないんじゃないかしら! ……ほんの少し、似合ってるだけなんだからねっ!」
言いたいことだけマシンガンのように言い放つと、梨々花は長い髪をファサッと翻し、ツンと顔を背けて自分の席へと戻っていった。
「なんなのあの子、急に絡んできてさー」
隣の席の菜摘が、机に肘をつきながら苦笑い混じりに声をかけてくる。
「おはよう郁実! 今日も気合い入ってるね〜。ツインテール、すっごい似合ってんじゃん!」
「あはは……おはよう、菜摘ちゃん。ありがと」
(ふぅ……女子のファッションチェックも人間関係も、男子校の百倍くらい気を使うな……)
お洒落のルールも、女の子同士の微妙な距離感も、昨日今日で急造した元男子高校生には神経をすり減らすことばかりだ。
だが――。
(こと『勉強』に関してだけは、僕の独壇場だ)
身体の構造に振り回され、女子社会の洗礼に冷や汗を流す僕にとって、机の上の世界だけは唯一の安全地帯であり、男子高校生としての尊厳を保てる絶対領域なのだ。
キーンコーンカーンコーン。
朝のホームルームが終わり、一時間目の国語の授業開始のチャイムが鳴り響く。
教卓に立った担任の大河原先生が、悪戯っぽく笑いながらプリントの束をとんとんと揃えた。
「はい、席に着けー。新学期早々だが、五年生の総復習と春休みの課題の確認を兼ねて、漢字とことわざの小テストをやるぞ。ちょっと骨のある四字熟語や慣用句も入ってるからな」
「ええーっ!? 一時間目から漢字テストとか聞いてないよー!」
教室中から一斉にブーイングが巻き起こる。
隣の菜摘も「うわー、マジかよ……まだ頭が春休みモードなんだけど……漢字とかどっちの部首だか忘れちゃったよ……」と机に突っ伏した。
だが、配られたテスト用紙を一目見た瞬間、僕の内心の口角は不敵に跳ね上がった。
(ふふん……愚民どもよ、嘆くがいい)
問題用紙に並んでいるのは、小学校配当の漢字の書き取りや、「五里霧中」「紆余曲折」といった基礎的な四字熟語、ことわざの意味合わせ。
高校生頭脳を誇る僕からすれば、現代文の評論文や難解な漢文訓読はおろか、大学共通テストの漢字問題ですらない。もはや『幼児向けのことば遊び』と呼ぶのもおこがましいレベルだ。
だが、僕はただ全問正解するだけで満足するような男ではない。
背筋をピンと伸ばし、正しい鉛筆の持ち方で、トメ・ハネ・ハライの一つひとつまで徹底的に神経を行き届かせる。可憐でおしとやかな美少女たるもの、書く文字すらも美しく上品でなければならないのだ。
さらさらと鉛筆を走らせること、わずか三分。
周りの小学生たちが「うーん……」と頭を抱え、消しゴムのカスを撒き散らして解答欄を黒く汚している中、僕のテスト用紙は書道のお手本のように整った、寸分の乱れもない美しい美文字で埋め尽くされていた。
四時間目の授業の終わりに返却されたテストの点数は――当然の『百点満点』。
「おいおい柏木、昨日の算数プリントに続いてまた満点か! 全問正解なのはもちろんだが……何より、字がめちゃくちゃ綺麗だな。トメやハネまで完璧で、そのまま硬筆の展覧会に出せるレベルだぞ」
大河原先生が感心しきった様子で、赤ペンで大きな花丸のついた答案を手渡してくる。
それを見た菜摘が、目を丸くして身を乗り出してきた。
「えっ、郁実また百点!? ていうか……字、めっちゃ綺麗になってない!? 前はもっと男の子っぽい丸文字だったのに、なんかお嬢様の手紙みたいじゃん! あの最後の『五里霧中』とか、意味わかんなくて適当に書いちゃったのに!」
「あ、あはは……春休みに、ちょっとペン字の練習もしたからね」
控えめに微笑んで見せる。
「すごーい、郁実ちゃん女子力高すぎ……!」
後ろの席の実来たちからも羨望の眼差しが向けられる。
(フッ……これくらい朝飯前だよ。高校生の教養と美文字スキル。片手間で無双してやるさ)
周囲からの羨望と賞賛を一身に浴び、僕は心地よい全能感に浸っていた。
――そう、ここまでは完全に僕の計算通り、ボーナスステージのイージーゲームだったのだ。
昼休みの鐘が鳴り響く、その瞬間までは。