新エリー都にある大学病院。そこで、セツは「メンテナンス」を受けていた。
「どうですか?」
「……芳しくありませんね。以前より体のエーテル耐性が低下し、より虚弱になっています」
「いつまで持ちそうですか?」
「そうですね……持ってあと1年、といったところでしょうか」
「なるほど……分かりました、ありがとうございます」
持って1年。医者が言いづらそうに宣告した余命を、セツは特に動揺することなく受け入れた。
(そっか、あと1年持つか分からないのかぁ。だとしたらもっとホロウ内部の調査とか積極的に行ってもいいかもしれない)
「やあ、セツちゃん」
「浅羽さん」
待合室に戻ったセツを、浅羽悠真が出迎えた。対ホロウ6課に所属するエリートであり、彼もまた……エーテル適正減退症候群を患っていた。
「浅羽さんも定期検診に?」
「そ。僕もさっき終わったとこでさ。セツちゃんさえ良ければお茶しない?」
「いいですよ、もちろん浅羽さんのおごりですよね?」
「抜け目ないなぁ。まあそのつもりだったけど」
ルミナスクエアのカフェでコーヒーを買って、目立ちにくい路地裏で、2人でコーヒーを飲む。これがセツと悠真の毎度の逢瀬であった。
「それで、症状の進行は?」
「相変わらずですね。少しずつ全体のエーテル耐性が低下していってて、体も虚弱になってきてるって」
エーテル適正減退症候群は基本的には一部の臓器のエーテル耐性が低下するものだが、まれにセツのように、体全体のエーテル耐性が低下していく症状も存在する。セツの症状の場合、体の機能全てが緩やかに低下していくというもの。
「……そっか」
「浅羽さんは?どうなんですか」
「僕も同じ。心臓と肺が弱ってるってさ」
「そうですか」
「……セツちゃんはさ、死にたくないとか思わないの」
「うーん……もともとなかった命ですし。どうせなら使い潰そうとしか思いませんね」
悠真は、セツの正体を知っている。ジョーカーとして何度かともに仕事をこなしたことがあり、悠真になら明かしてもいいと、セツが自ら明かしたのだ。
「セツちゃんって、今何歳だっけ?」
「えーっと……確か15歳、ぐらいでしたかね?正しくは分からないですけど」
「…………」
苦虫を噛み潰したような顔をして、悠真はコーヒーを飲み干す。その表情の理由に、セツは気づかない。
「ねえセツちゃん、アストラ・ヤオのライブって行ったことある?」
「あの歌姫、ですよね。ないですけど……どうして?」
「最近物騒でさ、彼女のライブに襲撃予告とかが届いたりするわけ。それで護衛を僕たち対ホロウ6課に任せたいって意見が出てて……まだ確定じゃないけど」
「大変ですねえ」
「それでさ。もし仕事が入ったら、労働の対価としてチケットが貰えるんだ。セツちゃんさえ良ければそのチケット、貰ってくれない?」
「まだ決まってもない仕事の対価を?浅羽さんがそんな話するなんて、珍しい」
「そうだね、まだ決まってない。いつになるか分からない。だから……セツちゃん。その時まで、生きててほしい」
悠真の指が、セツの髪に触れる。セツの髪は薄く、透き通るよう。
「……まあ、善処します」
「良かった。それじゃあ僕はこれで。」
「はい、星見さんや月城さん、蒼角ちゃんによろしく言っといてください」
悠真を見送って、セツはコーヒーを飲む。セツはいつも、ミルク多めのコーヒーを頼む。そのカスタマイズを悠真が覚えたのは、いつからだっただろうか。
「………はあ」
オフィスに戻って、悠真はデスクに突っ伏した。
セツ。ジョーカーとして振る舞い、戦う、なんとも線の細い、儚い少女。彼女の正体を知った時は驚いた。まさか今まで頼りにしてきたジョーカーが、病院で何度も顔を合わせてきた少女だったとは。
彼女は、まだ15歳だという。あんなか弱く儚げな少女が、普段は治安局のヒーローとして振る舞っている。エーテル適正減退症候群と戦いながら、だ。いや、戦っている、という表現は相応しくない。
セツは、自分の死を当然のように受け入れている。もちろん悠真だって受け入れていないわけじゃない。だが、彼女はあまりにも気にしていなさすぎるのだ。人間としては早すぎる終わりを、まるで機械の寿命のように。
「わたしは、部品ですから」
前に話した時、セツがそう言ったのを覚えている。防衛軍に拾われ、エーテルメモリの適合者・ジョーカーとして戦う。彼女は、自分のことを人間だと思っていない。だから、自分の命が尽きかけていると知っても、大して驚かない。
「辛いなあ」
どうしようもない現実に。セツの境遇に。ぐちゃぐちゃの感情を、悠真は吐き出した。
セツ
自認「ジョーカーの部品」。悠真とは知り合い。
浅羽悠真
セツを気にかけていたが、ジョーカーの中身と知ってさらに気にかけるように。あまりにおいたわしくて見るのも辛い。
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