日の出と旅のアイリス   作:ゼネラル・ラピ

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[姉の変化]〜[教会の古文書]

[姉の変化]

 

 

事件を解決した夜。

 

姉妹は宿屋に戻り、夕食を済ませて部屋でくつろいでいた。

 

アイリスはベッドの端に腰掛け、今日の出来事を悪魔祓いの本に書き留めている。マリアはというと、相変わらず床から少し浮いた状態で、妹のすぐ隣を漂っていた。

 

「アイリス~」

 

「なに、お姉ちゃん?」

 

「んーん、呼んだだけ!」

 

「……もう。書き物してるんだから、あんまり邪魔しないでよ」

 

そう言いながらも、アイリスは特に気にした様子もなくペンを走らせる。

 

するとマリアは、ふわりとアイリスの背後に回り込んだ。

 

そして、そのまま後ろから妹を抱きしめる。

 

「えへへ。やっぱりアイリスは可愛いなぁ」

 

「ちょっと、お姉ちゃん。近いって」

 

「いいじゃん、姉妹なんだから!」

 

マリアはアイリスの肩に頬を寄せ、尻尾を楽しそうに揺らしている。

 

いつものことだ。

 

……いや、少し違う。

 

最近のマリアは、以前にも増してアイリスにくっついている時間が長くなっていた。

 

食事のときも、町を歩くときも、宿屋で過ごすときも。何かにつけて妹のそばにいたがる。

 

アイリスが少し離れようとすれば、すぐに追いかけてくる。

 

「お姉ちゃん、今日はずいぶん甘えん坊だね」

 

「そう?」

 

「そうだよ。前からそうだったけど、最近は特にひどい気がする」

 

「だって、アイリスが可愛いんだもん」

 

「それ、理由になってないよ……」

 

マリアは楽しそうに笑うと、今度はアイリスの頭を両手で包み込むように撫でた。

 

「大好きだよ、アイリス」

 

「……私も大好きだよ、お姉ちゃん」

 

その返事を聞いたマリアは、ますます嬉しそうに妹を抱きしめた。

 

けれど、その胸の奥では、本人にも説明できない変化が起きていた。

 

アイリスを愛おしいと思う気持ち。

 

そばにいてほしいという願い。

 

少しでも離れたくないという感情。

 

それらが、以前よりもずっと強くなっている。

 

妹を救うために悪魔になったあの日から、マリアにとってアイリスは何よりも大切な存在だった。

 

しかし今、その愛情は少しずつ、普通の姉妹のそれを超えるほどに膨らみ始めていた。

 

マリア自身は、まだその変化を深く考えていない。

 

ただ、妹が笑ってくれるだけで嬉しい。

 

妹が隣にいてくれるだけで幸せ。

 

そして、できることなら、この先もずっと一緒にいたい。

 

「ねえ、アイリス」

 

「今度はなに?」

 

「明日も一緒にいようね!」

 

「……旅をしてるんだから、当然でしょ」

 

「あはは! そっか!」

 

マリアは満足そうに笑った。

 

アイリスはそんな姉を見て、少しだけ首を傾げる。

 

姉の様子がいつもより甘えん坊になっていることには気づいていた。

 

けれど、それが今日の戦いで強大な魔力を使ったことと関係しているのか、それとも別の何かなのか。

 

今のアイリスには、まだ分からなかった。

 

 

 

[教会に眠る古文書]

 

翌朝。

 

姉妹は町の中心にある古い教会を訪れていた。

 

石造りの立派な建物で、長い歴史を感じさせる装飾が施されている。教会の奥には、この地方に伝わる悪魔や古い契約について記された書物が保管されているらしい。

 

「ここに悪魔に関する古い記録があるんだね」

 

アイリスは教会を見上げながら、背負った鞄の位置を直した。

 

「うん! なんだか面白そうだね!」

 

マリアも隣で浮かびながら、興味深そうに建物を眺めていた。

 

しかし、二人が入口に近づいたところで、マリアの動きが止まった。

 

「……あれ?」

 

目の前には何もない。

 

それなのに、マリアは見えない壁にぶつかったように、それ以上前へ進めなかった。

 

もう一度、少し力を込めて近づいてみる。

 

だが、やはり入れない。

 

「うーん……これ、嫌な感じ」

 

アイリスが不思議そうに振り返る。

 

「どうしたの?」

 

「たぶん、中にある聖具のせいだね。かなり古いものみたいだけど、ちゃんと力が残ってる」

 

教会の中には、悪魔を退けるための聖具がいくつも保管されていた。

 

普段なら弱い魔力に抑えているマリアでも、悪魔である以上、その影響を受けてしまう。

 

「そっか……じゃあ、お姉ちゃんは入れないんだね」

 

「うん。残念だけどね」

 

マリアは入口の前でふわふわと浮かびながら、少し不満そうに頬を膨らませた。

 

「せっかくアイリスと一緒に来たのに~」

 

「ごめんね。私だけ中で調べてくるよ」

 

「えーっ、待ってる間どうすればいいの?」

 

「町を散歩してきてもいいよ。終わったら迎えに行くから」

 

「……アイリスと離れるの?」

 

マリアは途端に寂しそうな顔をした。

 

「すぐ戻るってば」

 

「ほんと?」

 

「ほんと」

 

「絶対?」

 

「絶対!」

 

ようやく納得したマリアは、アイリスの頭を撫でた。

 

「じゃあ、頑張ってね。何かあったらすぐ呼んでね!」

 

「うん。お姉ちゃんも町の人に迷惑かけないでよ?」

 

「えへへ、分かってるって!」

 

こうして二人は、一時的に別行動を取ることになった。

 

 

[古文書の調査]

 

教会の中は静かだった。

 

色鮮やかなステンドグラスから差し込む光が、石造りの床に模様を落としている。

 

アイリスは司祭に案内され、奥にある書庫へと通された。

 

そこには古い書物や羊皮紙、長い年月を経て文字が薄くなった記録が大量に保管されていた。

 

「こちらが悪魔に関する記録です。かなり古いものもありますので、取り扱いにはお気をつけください」

 

「ありがとうございます。ゆっくり調べさせてもらいます」

 

アイリスはさっそく一冊の本を手に取った。

 

悪魔の種類、契約の儀式、魂の変質、魔力の性質。

 

叔父から教わった知識と照らし合わせながら、必要な情報をノートに書き留めていく。

 

特に気になっていたのは、悪魔になった人間についての記録だった。

 

(悪魔になった人間を元に戻す方法……どこかに何か残っていないかな)

 

叔父は方法が存在しないと言っていた。

 

それでも、アイリスは諦めていなかった。

 

この教会には、叔父も知らないような古い記録が残されているかもしれない。

 

一冊読み終えると、次の本を開く。

 

さらに次の本へ。

 

気がつけば、書庫の机には何冊もの本が積み重なっていた。

 

アイリスは夢中になってページをめくり続けた。

[退屈な悪魔]

一方、教会の外。

 

マリアは入口のそばで、暇そうに浮かんでいた。

 

「…………」

 

石段に腰掛けることもできず、ただ宙に浮いたまま、通りを行き交う人々を眺めている。

 

しばらくすると、尻尾を左右に揺らし始めた。

 

「アイリス、まだかなぁ……」

 

少しだけ教会から離れてみる。

 

しかし、すぐに戻ってきた。

 

「うーん、やっぱり近くにいたいなぁ」

 

マリアは入口を見つめる。

 

中に入れないことは分かっている。それでも、妹がすぐ向こうにいると思うと、なかなかその場を離れられなかった。

 

通りかかった子供が、マリアを見上げる。

 

「あ、お姉ちゃん! また空に浮いてる!」

 

「こんにちは!」

 

「今日は飛ばしてくれないの?」

 

「今日はちょっとお仕事中なの!」

 

「えーっ!」

 

子供たちは残念そうにしながらも、手を振って走り去っていった。

 

マリアは小さく手を振り返す。

 

そして再び教会の入口へ視線を戻した。

 

「……アイリス、早く出てこないかな」

 

普段なら一人で町を散歩するのも好きだった。

 

けれど、今はそれほど楽しく感じられない。

 

妹と一緒に歩きたい。

 

妹と一緒に食事をしたい。

 

妹が何を見つけたのか、どんな本を読んだのか、隣で聞いていたい。

 

そんな気持ちばかりが膨らんでいく。

 

その頃、書庫の奥ではアイリスが新たな古文書を開いていた。

 

姉妹が再び一緒になるまで、もう少し時間がかかりそうだった。

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