[町を出る朝]
翌朝。
その町からは綺麗な日の出を見ることが出来た。
姉妹は宿屋の一階で旅支度を整えていた。
アイリスは旅行鞄の中身を確認し、悪魔祓いの本や薬品、食料が揃っているかを確かめている。
一方のマリアは、いつものように手ぶらで宙に浮いていた。
「アイリス~、準備できた?」
「もう少し。お姉ちゃんは何も持ってないんだから、待ってるだけでしょ」
「えへへ、そうとも言う!」
「もう……」
準備を終えた二人が宿屋の外へ出ると、そこには何人もの町人が集まっていた。
「おお、来たか!」
「もう出発するんだね」
町長をはじめ、事件の解決に関わった人々が姉妹を見送りに来てくれていた。
そして、彼らの手にはいくつもの包みがあった。
「これは旅の途中で食べてくれ。焼きたてのパンだよ」
「こっちは保存の利く食料だ。道中で役立つだろう」
「日用品も少し入れておいた。遠慮せず持っていってくれ」
「えっ、こんなにいいんですか?」
アイリスが驚いて尋ねる。
「もちろんだとも。君たちには町を救ってもらったんだからな」
「そうそう! 遠慮なんかいらないよ!」
町人たちは笑顔で包みを差し出した。
アイリスは一つひとつ丁寧に受け取り、何度も頭を下げる。
「ありがとうございます。大切に使わせてもらいます」
その隣では、マリアが嬉しそうにパンの包みを覗き込んでいた。
「わぁ! パンだ! これ、すっごく美味しそう!」
「お姉ちゃん、これは旅の食料なんだからね。今すぐ食べちゃ駄目だよ」
「えーっ!」
町人たちから笑い声が上がった。
[エミリアの見送り]
そのとき、人混みの向こうから一人の女性が歩いてきた。
「待ってください!」
「あっ!」
アイリスが声の主を見て顔を明るくする。
そこにいたのは、先日の事件でソウルレスに魂を奪われていた町の看板娘、エミリアだった。
すっかり元気を取り戻した彼女は、以前と変わらない明るい笑顔を浮かべていた。
「エミリアさん! もう大丈夫なの?」
「はい! おかげさまで、すっかり元気になりました!」
エミリアは二人の前まで来ると、深く頭を下げた。
「本当にありがとうございました。お二人が助けてくれなかったら、私は今ごろどうなっていたか……」
「そんな、気にしないで。無事でよかったよ」
アイリスが優しく答える。
するとマリアが横から顔を覗かせた。
「エミリアちゃん、元気になってよかったね!」
「マリアさんも! あのときは本当にありがとうございました!」
「えへへ! 私はちょっとお手伝いしただけだよ!」
「ちょっとどころじゃないと思うけど……」
アイリスが小さく突っ込む。
エミリアはくすりと笑ったあと、少しだけ寂しそうな表情を見せた。
「もう行ってしまうんですね」
「うん。まだ行ってみたい場所がたくさんあるからね」
「そうですか……。でも、またこの町に来てくださいね。今度はゆっくりおもてなしさせてください!」
「もちろん! そのときは美味しいものをいっぱい食べさせてね!」
「ふふっ、任せてください!」
エミリアはマリアに手を振り、それからアイリスにも笑顔を向けた。
「アイリスさんも、お元気で」
「うん。エミリアさんもね」
[次の目的地]
町の門を抜ける前に、アイリスは地図を広げた。
「次はここに向かおうと思う」
マリアが隣から地図を覗き込む。
「どこどこ?」
「呼ばれずの森」
「……呼ばれずの森?」
「うん。昔から悪魔に関わる土地として知られている場所なんだって。古い伝承や記録もたくさん残っているらしいよ」
「へぇー! なんだか不思議な名前だね」
「詳しいことはまだ分からないけど、悪魔について調べるなら行ってみる価値はあると思う」
アイリスは地図を畳み、鞄にしまった。
悪魔に関する古い土地。
そこには、叔父も知らないような知識が残されているかもしれない。
マリアを元に戻す方法。
それを探すためにも、立ち止まっているわけにはいかなかった。
「よーし! それじゃあ次の町……じゃなくて、森に出発だね!」
マリアは楽しそうに両手を広げた。
「森に町はないと思うけどね」
「えーっ、じゃあ美味しいものは?」
「森に入る前に買っておこうね」
「あはは! それがいい!」
二人は町の人々に見送られながら、再び歩き始めた。
背後からは、エミリアや町人たちの声が聞こえてくる。
「気をつけてー!」
「また来てくれよー!」
マリアは振り返り、大きく手を振った。
「みんなー! またねー!」
アイリスも振り返って微笑む。
こうして姉妹は、最初の町を後にした。
次に向かうのは、古くから悪魔と深い関わりを持つ土地――呼ばれずの森。
そこに何が待ち受けているのか、二人はまだ知らなかった。