[下された判決]
それから数時間後。
保安官の詰所では、ロザンナの処遇について上層部との協議が続けられていた。
保安官は過去の記録を照合し、ロザンナが森の中で命を奪った者たちについて調査を進めていた。
そして、ようやく返答が届いた。
「……なるほどな」
書類に目を通した保安官は、少しばかり複雑な表情を浮かべた。
そこに記されていたのは、意外な事実だった。
ロザンナが殺害したと確認された人間は、全員が凶悪犯罪者だった。
強盗や殺人を繰り返し、各地で指名手配されていた者たち。中には、かなり高額な懸賞金がかけられていた者もいた。
つまり、ロザンナが彼らを殺害したことについて、保安官たちが責任を追及する理由は大きく失われたのである。
「……皮肉な話だな」
保安官は書類を机に置いた。
さらに、上層部が問題視していたのは、ロザンナの魔法だった。
彼女は自然を自在に操ることができる。木々を成長させ、根を動かし、植物を使って周囲の地形そのものを変えてしまう。
そんな相手を、通常の牢獄に収監することは難しい。
どれほど頑丈な壁を用意しても、床から根を伸ばされれば突破される可能性がある。魔法を封じる設備も、長期間にわたって彼女を拘束できる保証はなかった。
そして、彼女を確実に裁く手段として残されたのは、事実上、極刑だけだった。
だが、今回確認された事実を踏まえれば、それを選択する理由も乏しい。
結果として、上層部はロザンナの釈放を認めた。
「……釈放、か」
保安官は書類を閉じた。
少々異例の判断ではあったが、これ以上彼女を拘束し続ける合理的な理由もなかった。
[魔女への提案]
その知らせは、すぐにアイリスたちにも伝えられた。
「ロザンナの釈放が決まった」
「本当ですか!?」
アイリスの表情が明るくなる。
「ああ。ただし、彼女が今後どうするかは本人次第だ。こちらから行動を強制することはできない」
「ありがとうございます!」
アイリスは嬉しそうに頭を下げた。
一方、マリアは隣で腕を組んでいた。
「……本当に釈放しちゃうんだ」
「お姉ちゃん」
「分かってるよ。もう決まったことなんでしょ?」
マリアは不満を隠そうともせず、頬を膨らませた。
「でも、私はまだ納得してないからね」
「うん」
アイリスは苦笑しながら、保安官に案内されてロザンナのいる部屋へ向かった。
そこには、椅子に腰掛けたロザンナがいた。
彼女は二人の姿を見ると、いつものように優雅な笑みを浮かべた。
「あら。お二人とも、またお会いしましたわね」
「ロザンナさん」
「あら、アイリスさん。何かご用かしら?」
アイリスは彼女の前まで歩み寄った。
「あなた、釈放されることになったんです」
「……そう」
ロザンナは特に驚いた様子もなく、目を伏せた。
「そうですか。ようやく、あの森からも解放されるというわけですわね」
「はい」
「ですが、今さらどこへ行けばいいのかしら。私には、もう帰る場所などありませんもの」
その言葉に、アイリスは少しだけ表情を和らげた。
「だったら、私たちと一緒に旅をしませんか?」
「……え?」
ロザンナの目がわずかに開かれる。
「私たちはこれからも旅を続ける予定です。いろいろな町を訪れて、悪魔や魔法について調べていくつもりなんです」
「それで、私を同行させようと?」
「はい。あなたの魔法なら、きっと誰かの役に立てると思います。それに……」
アイリスは一度言葉を止め、ロザンナを真っすぐ見つめた。
「もう森の中だけで暮らす必要はないと思うんです。外の世界には、まだあなたが知らない場所も、出会ったことのない人たちもたくさんいるはずです」
ロザンナは黙ってアイリスを見つめていた。
「もちろん、無理にとは言いません。あなたが望むなら、という話です」
しばらくして、ロザンナは口元に手を添えた。
「ふふ……随分と変わったお誘いですこと」
「そうでしょうか?」
「ええ。つい先日まで殺し合っていた相手を、今度は旅に誘うなんて」
「……それは、そうですね」
アイリスは少し困ったように笑った。
その横で、マリアが口を開く。
「私はまだ反対だからね」
「あら、マリアさん。ずいぶんと嫌われてしまったようですわね」
「当たり前でしょ。あなたがアイリスにしたこと、私は忘れてないんだから」
「ふふっ。怖い妹さんですこと」
「お姉ちゃんだよ!」
マリアがすかさず訂正する。
アイリスは思わず小さく笑った。
ロザンナはそんな二人のやり取りを眺めていたが、やがて窓の外へと視線を移した。
そこには、森に閉じ込められていた頃には見ることのできなかった、広い空があった。
「……少し、考えさせていただけますかしら」
「もちろんです」
アイリスは頷いた。
ロザンナは再び二人に目を向ける。
「ですが、もし同行することになったら……退屈はさせませんわよ?」
その口元には、久しぶりに余裕のある笑みが戻っていた。