[専用武装]
武器屋を出たあとも、マリアは自分の尻尾を眺めていた。
ロザンナから提案された尻尾の武装。そして、クロウグローブのような手甲。
どちらも興味深かったが、マリアの中ではすでにひとつの考えが固まりつつあった。
「ねえ、ロザンナ」
「なんですの?」
「私、尻尾を武器にすることに決めた!」
マリアは尻尾を持ち上げ、その先端を指差した。
「先っぽを刃物にするの。これなら私の動きを邪魔しないし、遠くからでも攻撃できるでしょ?」
「なるほど。尻尾の長さを自由に変えられるあなたには、理にかなった選択ですわね」
「でしょ!」
「ただし、簡単な改造ではありませんわよ」
ロザンナの表情が少し真剣になる。
「尻尾の先端に金属の刀身を取り付けるとなれば、普通の武器を作るのとは訳が違います。あなたの身体の一部なのですから」
「うん。それでもやるよ」
マリアは迷わなかった。
[腕のいい職人]
三人は再び武器鍛冶屋を訪れた。
店主はロザンナの注文した槍について確認していたが、マリアの姿を見ると不思議そうに眉を上げた。
「今度は何をお求めで?」
「この尻尾を改造してほしいの!」
マリアは自分の尻尾を職人の前に差し出した。
「尻尾……?」
職人はしばらく言葉を失った。
「先端を刃物にしたいんだ。こんな感じで、鋭い刀身を取り付けてほしいの!」
マリアは尻尾の先を細く伸ばし、刃物のような形を作ってみせた。
職人は興味深そうに観察したあと、慎重に答えた。
「なるほどな。だが、普通の金具を取り付けるわけにはいかん。尻尾は生きた身体の一部なんだろう?」
「うん。自由に動かせるよ」
「なら、熱した鉄をそのまま押し当てて刀身を固定するような方法は危険すぎる。お前さんの身体を傷つけかねん」
マリアは少しだけ表情を引き締めた。
今回の改造は、単に武器を買うのとは違う。
自分の身体の一部に、金属の刃を組み込むのだ。
しかも、尻尾は彼女にとって自由自在に動かせる大切な器官である。改造によって動きが鈍くなれば、せっかくの武装も意味がない。
「……それでも、できる?」
「方法を考える時間はくれ。尻尾の動きを妨げず、刀身をしっかり固定できる構造にする必要がある」
「お願い!」
マリアは職人の目をまっすぐ見つめた。
「多少大変でもいいから、ちゃんと使えるものにしてほしいの」
その決意を感じ取ったのか、職人は深く頷いた。
「分かった。引き受けよう。ただし、身体への負担が大きい方法は採らん。お前さんが使い続けられる武器にする。それが職人の仕事だ」
「ありがとう!」
マリアは嬉しそうに尻尾を揺らした。
その横で、アイリスは少し心配そうに姉を見ていた。
「お姉ちゃん、本当に大丈夫? 身体の一部を改造するんだよ?」
「大丈夫だよ。せっかくなら、ちゃんと自分に合った武器が欲しいもん」
「でも、無理はしないでね」
「分かってるって!」
ロザンナは二人のやり取りを眺めながら、静かに微笑んでいた。
「ふふっ。マリアさんも、ようやく自分の戦い方を考え始めたようですわね」
「何よ、それ。私だってちゃんと考えてるよ!」
「そうですわね。完成が楽しみですわ」
こうしてマリアの新しい武器の製作が始まることになった。
それは彼女自身の身体と一体になる、ほかの誰にも扱えない特別な武器となるはずだった。
[鍛造]
いよいよ、マリアの新しい武器を作る作業が始まった。
鍛冶場には職人たちが集まり、炉の熱と金属を打つ音が響いていた。
まずは刀身の製作からだった。
数人の職人が交代しながら、赤熱した鋼をハンマーで何度も打ちつけていく。金属が叩かれるたびに火花が散り、少しずつ余分なものが取り除かれ、刀身の形が整えられていった。
刃の部分には金が用いられることになっていた。装飾のためだけではない。マリアの尻尾に施す特殊なまじないと相性が良く、魔力を伝える役割も持たせるためだった。
やがて刀身が完成する。
職人たちは最後の工程に取りかかった。
「準備はいいか?」
「う、うん……!」
マリアは鍛冶場の作業台に腰掛け、自分の尻尾を職人たちに預けていた。
いつもは自由自在に動かしている尻尾だが、今は緊張からか、落ち着きなく揺れている。
「お姉ちゃん、本当に大丈夫?」
傍らにいたアイリスが心配そうに尋ねる。
「だ、大丈夫……。ここまで来たんだもん」
そう答えるマリアの声には、いつもの余裕がなかった。
ロザンナも少し離れた場所から見守っている。
「無理だと思ったら、すぐに中断してもらいなさいませ」
「分かってるよ……!」
職人が慎重に刀身を持ち上げる。
高温に熱せられた金属が、マリアの尻尾の先端へと近づいていった。
そして――。
刀身が尻尾に接合された。
「――――っ!!」
マリアの身体が大きく震えた。
声にならない悲鳴が鍛冶場に響く。
「お姉ちゃん!」
アイリスが思わず身を乗り出す。
マリアは涙をこぼし、何かを言おうとするものの、言葉にならなかった。普段ならどんな状況でも軽口を叩く彼女が、今はただ耐えることしかできない。
職人たちは手を止めず、慎重に作業を進めていく。
やがて接合が終わり、刀身が尻尾の先端に固定された。
しかし、まだ最後の工程が残っていた。
[身体の一部]
「ここからは、仕上げのまじないを施す」
職人の一人が、刀身に刻まれた紋様へ手をかざした。
そこには、通常の鍛冶では扱わない特殊な術式が組み込まれていた。
このまじないの目的は、単に刀身を尻尾に固定することではない。
マリアの身体そのものに、刀身を自分の一部として認識させることだった。
つまり、尻尾の先に異物を取り付けるのではなく、最初からそこに存在していたかのように馴染ませるのである。
職人が術式を起動させる。
刀身に刻まれた紋様が淡く輝き、金色の刃に光が走った。
それに呼応するように、マリアの尻尾もわずかに動く。
「……よし。これで完成だ」
その言葉を聞いて、アイリスはようやく息を吐いた。
一方のマリアは、しばらく俯いたままだった。
「お姉ちゃん……?」
アイリスがそっと肩に触れる。
「……うん」
ようやく返事があった。
声はかすれていて、まだ普段の調子には戻っていない。
ロザンナが完成した尻尾を眺める。
黒い尻尾の先端には、鋭い金色の刀身が取り付けられていた。まるで最初からその形だったかのように、自然に繋がっている。
「見事な仕上がりですわね」
職人も満足げに頷いた。
「まじないが馴染めば、尻尾と刀身は一体として動かせるようになるはずだ。長さを変えることも、これまで通りできるだろう」
マリアはゆっくりと顔を上げた。
涙の跡が残る顔で、自分の尻尾を見つめる。
そして、ほんの少しだけ動かしてみた。
金色の刃が、彼女の意思に合わせて揺れる。
「……動いた」
「ええ。もうあなたの身体の一部として認識され始めていますわね」
ロザンナが答える。
マリアはまだ疲れ切っていたが、その目には少しずつ喜びが戻ってきた。
「そっか……。これが、私の新しい武器なんだ」
アイリスは姉の手を握った。
「よく頑張ったね、お姉ちゃん」
「……うん。ありがとう、アイリス」
その日は、マリアがいつもの調子を取り戻すまで、少し時間が必要だった。
それでも彼女の尻尾には、新たな刃が宿っていた。
自分自身の身体と一体になった、世界にただ一本の武器である。