第一章
[最初の町]
[町長からの依頼]
二人は教会のある町へやってきた、この町には悪魔祓いに関わる手がかりを探しに来た程度だったが、どうやら不可解な失踪事件が多発しているようだ。
「……なるほど。教会の司祭様に話を聞くのがよさそうですね」
町の女性から話を聞いたアイリスは、マリアとともに町の中心にある教会へ向かうことにした。
「ねえ、アイリス」
「なに?」
「失踪事件って、やっぱり悪魔の仕業なのかな?」
「まだ分からないよ。悪魔が関係している可能性はあるけど、決めつけるのはよくないと思う」
「そっか。じゃあ、行ってみよう!」
マリアは楽しそうに空中を漂いながら、アイリスの隣を進んでいった。
教会に到着すると、司祭は姉妹を快く迎え入れた。失踪事件について尋ねると、司祭は困り果てた様子で町の現状を語った。
ここ数週間で、町の住人が何人も行方不明になっているという。いずれも夜間に姿を消しており、家には争った形跡すら残っていなかった。
「町長も大変心配されています。もしよろしければ、一度お会いになってみてはいかがでしょう」
「分かりました。ぜひお願いします」
アイリスが答えると、マリアは教会の天井を見上げていた。
「ねえ、あの窓の模様、綺麗だね!」
「お姉ちゃん、今はお話を聞いてるところだよ」
「あはは、ごめんごめん!」
司祭はその様子を見て、少しだけ表情を和らげた。
[町長との面会]
町長の屋敷は、町の中心部にある時計塔の近くに建っていた。
応接室に通された二人を、町長は丁寧に迎え入れた。
しかし、町長の視線はアイリスよりも、その隣で浮遊しているマリアに向けられていた。
「……そちらの方は?」
「私の姉です。マリアといいます」
「お姉さん……?」
町長は困惑したように眉をひそめた。
当然だった。
黒い角に赤い瞳、そして人間にはない尻尾。どう見ても普通の人間ではない。
「失礼ですが、その方は……悪魔、なのですか?」
「はい。ですが、姉は私に危害を加えたりしません」
アイリスは落ち着いて答えた。
町長は少し言葉に詰まった。
「悪魔を連れている方に、町の事件を調べてもらうというのは……」
「ちょっと待ってよ!」
マリアが二人の間に割って入った。
「私、悪い悪魔じゃないよ?」
「お姉ちゃん、そういう問題じゃないよ……」
「あれ?」
マリアは不思議そうに首を傾げた。
アイリスは改めて町長に向き直る。
「私たちは悪魔祓いの修行をしています。事件の原因が悪魔なら、調査と対処に協力できます」
「……分かりました。どうか、この町の人々を助けてください」
町長は深く頭を下げた。
「報酬についても、可能な限り用意させていただきます」
「ありがとうございます。まずは失踪した方々について詳しく教えてください」
町長は机の上に町の地図を広げた。
失踪者は町の中心部から少し離れた住宅地に集中していた。いずれも夜に家を出たまま戻らず、目撃情報もほとんどない。
「衛兵たちも見回りを増やしていますが、何の手掛かりもありません。町の人々もすっかり怯えてしまって……」
「なるほど……」
アイリスは地図を見つめた。
「まずは現場を確認してみます」
「よろしくお願いします」
こうして姉妹は、町長から失踪事件の調査を正式に依頼された。
[子供たちとの出会い]
町長の屋敷を出た二人は、町の通りを歩いていた。
「アイリス、さっきの町長さん、ちょっと怖がってたね」
「そりゃそうだよ。お姉ちゃんの姿を見たら、普通は驚くと思う」
「えーっ、私ってそんなに怖い?」
「角もあるし、目も普通じゃないし、尻尾もあるし……」
「うーん。確かに!」
マリアは自分の角を指でつついた。
その時、近くの広場から子供たちの声が聞こえてきた。
数人の子供たちが、木の枝を剣に見立てて遊んでいる。
一人の少年が、マリアの姿に気づいた。
「ねえ、お姉ちゃん! その角、本物?」
「えっ? うん、本物だよ!」
「尻尾もある!」
子供たちは興味津々で近づいてきた。
アイリスは少し心配そうに姉を見た。
「お姉ちゃん、あんまり驚かせないでよ?」
「大丈夫だって!」
マリアは子供たちの前に降りてくると、にっこり笑った。
「触ってみる?」
「いいの!?」
少年が恐る恐る角に触れる。
「うわっ、本物だ!」
「すごーい!」
子供たちはすっかり夢中になっていた。
すると、一人の女の子がマリアの尻尾を見ながら尋ねた。
「ねえ、お姉ちゃんって空も飛べるの?」
「もちろん!」
マリアは得意げに胸を張った。
「見ててね!」
次の瞬間、マリアは広場にいた少年の身体をふわりと浮かせた。
「うわああっ!?」
少年の足が地面から離れる。
「すごい! 浮いてる!」
マリアは少年を落とさないようにゆっくりと浮かせ、そのまま広場の上を漂わせた。
「どう? 空を飛ぶのって楽しいでしょ?」
「すっげー!!」
他の子供たちも次々に手を挙げた。
「僕も!」
「私もやりたい!」
「はいはい、順番ね!」
マリアは子供たちを一人ずつ浮かせて、広場の上をゆっくりと飛ばしていった。
アイリスはその様子を少し離れた場所から眺めていた。
「……まったく」
口では呆れながらも、その表情は穏やかだった。
やがて広場の騒ぎを聞きつけた町の人々が集まってきた。
最初は警戒していた大人たちも、子供たちが笑いながらマリアと遊んでいるのを見て、次第に表情を和らげていく。
「なんだ、あの悪魔……子供たちと遊んでいるぞ」
「見た目は少し怖いけど、悪い奴には見えないな」
「うちの子まで笑ってるよ」
子供たちを地面に降ろしたマリアは、得意げにアイリスのもとへ戻ってきた。
「ねえねえ! みんな、すっごくいい子たちだったよ!」
「よかったね、お姉ちゃん」
「うん!」
その後、広場に集まった町の人々も、少しずつ姉妹に話しかけるようになった。
マリアが悪魔であることに変わりはない。
それでも、町の人々は彼女が必ずしも危険な存在ではないと理解し始めていた。