日の出と旅のアイリス   作:ゼネラル・ラピ

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[喰らわれた魂]

[喰らわれた魂]

 

夜の林に、激しい光が走った。

 

アイリスの《聖壁》はソウルレスの突進を受け止めていたが、少しずつ亀裂が広がっていた。

 

「くっ……!」

 

「アイリス、下がって!」

 

マリアが手を掲げる。

 

ソウルレスの身体が強制的に浮き上がり、アイリスから引き離された。だが、怪物は空中でもがき、まるで何かに抵抗するように激しく暴れ続ける。

 

「……変だね」

 

マリアが怪物を見つめた。

 

「普通のソウルレスより、ずっと力が強いよ」

 

アイリスも違和感を覚えていた。

 

叔父から聞いた話では、ソウルレスは通常の悪魔ほど強くない。寿命も短く、無計画に人間を襲う危険な存在ではあるものの、熟練した悪魔祓いなら対処できるはずだった。

 

しかし、目の前の個体は違う。

 

マリアの浮遊による拘束を振りほどこうとするほどの力を持っていた。

 

「まさか……」

 

アイリスは怪物の身体を注意深く観察した。

 

その身体の内側で、何かが蠢いている。

 

一つではない。

 

いくつもの淡い光が、ソウルレスの身体の奥に閉じ込められていた。

 

「お姉ちゃん! あの身体の中を見て!」

 

「ん?」

 

「光がある! たくさん……!」

 

マリアは目を細めた。

 

「ああ……本当だ」

 

その光は、人間の魂だった。

 

ソウルレスはこれまでに失踪した人々の魂を喰らい、自らの身体に取り込んでいたのだ。

 

「……だから、こんなに強いんだ」

 

アイリスの表情が険しくなる。

 

その時、彼女はもう一つの重大な問題に気づいた。

 

「待って……!」

 

アイリスは本をめくる手を止めた。

 

「このまま封印しちゃ駄目……!」

 

「えっ?」

 

「ソウルレスを封印したら、中に取り込まれた魂まで閉じ込められてしまう!」

 

彼女はソウルレスの身体を見つめた。

 

「それだけじゃない。魂を喰われた人たちは、まだ完全に死んだわけじゃないかもしれない……!」

 

町で失踪した人々。

 

そして、今もソウルレスの身体の中で光を放っている魂。

 

彼らを救い出せる可能性が残されている。

 

「先に魂を取り戻さないと!」

 

マリアは少し驚いた顔をした。

 

「なるほどね。じゃあ、あの子を封印する前に、中身を助けなきゃいけないんだ」

 

「うん。でも、どうやって……」

 

アイリスは本を確認した。

 

魂を分離させるための術は存在する。しかし、複数の魂を一度に取り込んだソウルレスから、無事に救い出せるかは分からなかった。

 

ましてや、これほど強大な個体を相手にするのは初めてだった。

[ソウルレスの正体]

「アイリス! 危ない!」

 

マリアの声と同時に、ソウルレスが拘束を振りほどいた。

 

怪物は地面に落ちると、四肢を使って林の中を駆け始めた。

 

その動きは人間のものとは思えないほど不規則だった。

 

「うわっ!」

 

近くにいた男が転倒する。

 

ソウルレスはそちらへ向かって突進した。

 

「させないよ!」

 

マリアが男の身体を浮かせ、後方へ移動させる。

 

直後、怪物の腕が地面を叩いた。

 

土が跳ね上がり、周囲の草木が揺れる。

 

「みんな、離れて!」

 

アイリスが叫ぶ。

 

町の男たちは松明を持ったまま後退した。

 

「なんなんだ、あの化け物は……!」

 

「銃が効かないぞ!」

 

「こいつがエミリアを……!」

 

その時、男たちの一人が声を上げた。

 

「待て! あいつの胸の辺りに何か見えないか!?」

 

ソウルレスの胸部には、複数の淡い光が浮かんでいた。

 

まるで星のように、怪物の身体の内側で明滅している。

 

「……あれが魂です」

 

アイリスは答えた。

 

「この怪物は、人間の魂を喰らっているんです」

 

「魂を……?」

 

「はい。おそらく、これまで失踪した人たちも……」

 

男たちの間に動揺が広がる。

 

「じゃあ、あの中にエミリアもいるのか!?」

 

「まだ分かりません。でも、助けられる可能性はあります!」

 

アイリスはそう言い切った。

 

町の人々の表情が変わる。

 

彼らは恐怖を抱きながらも、怪物の中にいる人々を救いたいという思いを強くした。

 

 

[魂の救出]

 

アイリスは本を開き直した。

 

必要なのは、ソウルレスの動きを抑えながら、その身体から魂を引き離すこと。

 

しかし、通常の封印術では魂まで一緒に閉じ込めてしまう。

 

彼女はページをめくり、古い術式を探した。

 

「……あった」

 

そこには、悪魔に取り込まれた魂を分離させるための詠唱が記されていた。

 

ただし、術を発動するには対象を一定時間拘束しなければならない。

 

「お姉ちゃん!」

 

「なに?」

 

「少しの間でいいから、あいつを動けなくして!」

 

「分かった!」

 

マリアは両手を前へ向けた。

 

ソウルレスの身体が再び宙へ浮かび上がる。

 

「今度は逃がさないよ!」

 

怪物は激しく暴れた。

 

その身体から黒い魔力が噴き出し、マリアの拘束を押し返そうとする。

 

「うわっ……!」

 

マリアの表情から笑みが消えた。

 

「この子、思ったより力があるね……!」

 

「お姉ちゃん、お願い!」

 

「任せて!」

 

マリアはさらに力を込めた。

 

ソウルレスの四肢が大きく広げられ、動きが止まる。

 

「今だよ!」

 

アイリスは十字架を掲げた。

 

「天に在りし聖なる光よ、迷える魂に道を示したまえ」

 

足元に大きな魔法陣が展開される。

 

「その身に囚われし者たちを、闇の鎖より解き放て!」

 

魔法陣から無数の光が伸び、ソウルレスの身体を包み込んだ。

 

「《魂の解放》!」

 

一瞬、林全体が昼間のように明るくなった。

 

そして――

 

ソウルレスの身体から、淡い光が一つ、また一つと浮かび上がってきた。

 

「……成功した?」

 

アイリスが息を呑む。

 

光はゆっくりと空中へ昇り、林の中を漂っていた。

 

それぞれの光には、確かな人間の魂が宿っている。

 

だが、まだすべてではなかった。

 

ソウルレスの身体の奥には、さらに多くの魂が残されていた。

 

「アイリス! まだ終わってないよ!」

 

「分かってる!」

 

ソウルレスが激しく暴れ始める。

 

マリアの腕にも力が入る。

 

「早くして! これ、結構きついんだから!」

 

「もう少し……!」

 

アイリスは詠唱を続けた。

 

一つでも多くの魂を救うために。

 

そして、林の奥に残された最後の光が、ゆっくりとソウルレスの身体から抜け出そうとしていた。

 

その光は、町の看板娘エミリアの魂なのだろうか。

 

アイリスは祈るように十字架を握りしめた。

 

「お願い……みんな、帰ってきて……!」

 

ソウルレスの身体が大きく震える。

 

魂の救出は、まだ終わっていなかった。

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