貞操逆転世界で教師を辞めようとしたら、生徒たちがデモを起こして、辞められなくなった。今までは普通に接してくれた生徒も急に牙をむくのはなんで? 作:主義
俺は後悔しながらも教師として働き続ける。だってそう続けるしか、俺に選択はないんだ。夜逃げすればどうにかあの子たちから逃げられるかもしれないが、そうなると彼女たちが何をしでかすのか分かったものじゃない。
あそこまで俺に執着している人間が俺を失うとどんな行動に出るのか。只でさえ、高校生というまだ未熟な時期だ。心も体もこれから成長していく時期に変なことをしたくない。自らの意思で命を絶ってしまう可能性もかなり高い。
そんなことを教師として見過ごすわけにはいかない。生徒が死ぬところを何度も見たくはない。
――――――――
放課後の教室で俺はある女子生徒と二人きりで過ごしていた。
「私は先生のこと大好きだよ」
松平《まつひら》花衣《はなえ》。彼女は俺が担当しているクラスの一人だ。クラスでは持ち前の明るさでクラスメートから大きな信頼を得ている。黒髪ボブで尚且つ、顔立ちも可愛い。この世界ではなく、前世で俺が同級生だったら絶対に告白をしていただろうと思うぐらいに可愛い子だ。
教師という立場になった以上は女として見ることはないが。
「なんで、俺のことなんか好きなんだ?」
「そんなの先生だからだよ。それ以上の理由はないよ」
「…意味が分からないな」
「先生は先生自身のことをあんまりよく分かっていないんじゃない。私は先生以上に先生のことを知ってるよ」
話している時の松平は自信に満ち溢れている目をしていた。
「先生はとってもカッコよくて、男の人なのに私にも優しく接してくれる。もちろん最初から先生のことは好きだったけど、先生と接していく度にその想いがどんどん膨れ上がっていって、気付いた時にはもうどうしようもないぐらいに大きくなってたの」
そこまで自分って愛されているのか。言われるまで自分が松平から大事に想われていることを知らなかったし。
大したことをしていないのに、俺に対して好意を抱くということはやっぱりこの世界の女は惚れやすいのか。だって普通に考えればこのクラスには一人男がいる。それも同級生で、クラスメートとも良い関係が築けていると俺は思っている。俺みたいな年寄りよりもそっちの方が良いと思うがな。
俺なんかあと数年したら…おじさんの仲間入りだ。そんな人間のどこを好きになったのか。
「お前も物好きな人間だな。こんな俺を好きになるなんて」
「そうですかね。私はかなり人を見る目がある方だと自負している人間なんですが」
「じゃあ、お前の目も曇ったのかもな」
こんな奴に好意を抱くとは。
「私はそんなこと思っていませんよ。先生は自分で思っているよりも素敵な方だと私は知っています。さっき話したように私には先生の魅力を一番分かっているので」
「…松平はもっと頭の良い人間かと思っていたが」
「私は先生を好きになる人が頭の悪い人と言われるのであれば、それで別に構いません」
「そうか」
松平もかなりヤバいな。それに松平だけであればまだどうにかなるところを、これぐらいのレベルが他にもたくさんいるのだ。
高校生が教師にここまで執着するなんて、前世だったらこっちが捕まりかねない。女子高生に変なことをしたんじゃないかと言われ、世間から変な目で見られ、教職を辞めることになるだろう。
この世界では別にそこまで珍しい話ではないらしく、騒ぎにもなってしまう。そこだけは本当によかったと思ってる。
いや、今そんなことはどうでもいいか。直近で解決しないといけないことは松平のことだ。
「おい、松平」
「なんですか?」
「さっきから言おうと思っていたんだが、なんでお前は俺の膝にのっているんだ?」
「別におかしいことじゃありません」
「どう考えてもおかしいと思うがな。学生が教師の膝に座ることを『普通』というのであればこの世界はおかしい」
「ではこの世界がおかしいのではないですか。少なくても私が先生の膝に座ることは普通のことです」
こいつってこんなにおかしい奴だったか。どう考えてもこの世界でも教師の膝の上に座る行為はおかしいことだ。
「いいからどいてくれ」
「それはいくら先生の願いでも聞くことはできないです。私は先生の膝の上に座らないと死んでしまうので」
「そんな病気があるわけないだろ。大人しく教師の言うことを聞け」
「聞きません。絶対に」
なんでこんなに頑固なんだ。親御さんにしっかりとこいつの教育をしてくれと言っておかないと。
「どかないんだったら、俺は教師を辞めるぞ」
「辞められるわけないじゃないですか。私がそんなことを許すと?」
「なぜ、松平の了承が必要になる?」
「私はいつでも先生に首輪を付けて、実家の地下に閉じ込めることだってできるんです。いくら先生が抵抗したとしても絶対に逃げられませんよ。松平家のことは先生だって知っているでしょ?」
確かによく知っている。こいつの両親は政治家だ。確かよく噂では次に内閣総理大臣になって欲しい人という質問をすると、いつも上位にランクインするような人間だ。
そしてそんな松平家の一人娘。こいつの望み通りにある程度のことが出来てしまうのだ。この世界がいくら男の俺が優遇される世界だとしても、松平家の人間を敵に回すのは避けたい。
こいつの言う通り、連れ去られ、全てをもみ消され、俺は地下で暮らす生活を一生することになるかもしれない。
「辞める気はない。俺が居なくなったらお前らが変なことを起こすかもしれないからな」
「その選択は正しいと思いますよ。私も先生に手荒な真似はしたくありませんから」
それから下校時間になるまでずっと松平は膝の上からどかなかった。