貞操逆転世界で教師を辞めようとしたら、生徒たちがデモを起こして、辞められなくなった。今までは普通に接してくれた生徒も急に牙をむくのはなんで? 作:主義
あくまで俺は教師だ。
だけど、俺は担当教科というものが存在しない。
その理由としては俺が司書教諭だからだ。
担任としての仕事以外はほとんど図書室にいるし、クラスの奴らにも何か用があればまず司書室を訪ねろと言っている。そこにいなければ職員室にいる可能性が高いと。
司書としての仕事はイメージしているよりも多い。本の発注や生徒が来やすい環境づくりやイベント、授業との連携など色々とある。
でも、その中の生徒が来やすい環境というのはこの高校に来てから一度も悩んだことがない。何故ならうちの図書室はいつも満員だから。普通の高校よりも図書館の利用率は高いし、本の貸出率も高い。これは司書としてはありがたいし、本に興味を抱いてくれるのは喜ばしいこと。
今になって思えばそれは俺という存在が大きかったんだろう。男の俺が司書として図書館にいるというのが。
自意識過剰のようになってしまうが、あのデモや運動を見ているとそう思わざる負えない。翌々考えてみれば彼女たちの視線はいつもこっちに向いていた気もするし。
カウンターの席に腰を下ろして今日も生徒たちを見守っていると、女子生徒がこっちに歩いてきた。
「あの先生」
「わ、わたしにオススメの本とかってあったりしますかね?」
「どんなジャンルの本が好きとかある?」
「…ミステリーが好きです」
「それなら…」
俺は席から立ち、オススメのミステリー小説を選んできた。ミステリーというジャンルの本はたくさんあるので、なるべく高校生の女性が好みそうなものを選んできたつもりだ。まぁ、あくまで俺の主観も入っているので、どこまで気に入ってもらえるかは分からないけど。
彼女に小説を渡すと、すぐに「この本を全部借ります!」と言ってきた。俺が持ってきたミステリー小説の数は10本だ。ミステリー好きでもさすがに10本同時に借りたりはしないけど。
そう思ったものの、本人の目には決意が宿っている感じがしたので止めることはせずに借りる手続きを進めた。
「あんまり無理はするな。中には合わない本もあると思うから、そういうのは無理して読まないでもいい」
ミステリー小説の中には最初はあまり興味を引かれず、クライマックスになるに連れて面白さが倍増する作品はあったりする。だけど、俺の感性がそのまま、彼女の感性ではない。彼女が俺が選んだからという強迫観念に囚われて読書をするようなことはしないで欲しい。
そういうことをしていたらいずれは読書のことを嫌いになってしまうかもしれないからな。
「この中で気に入った本があって読破したら感想会でもするか。まぁ、キミが良ければだけど」
「い、いいです!!私も司書さんと本について色々と語り合いです!」
「そうか。だったら読破した後に教えてくれ」
そして彼女に手続きが終えた本を渡すと、彼女は「絶対に全て読み切ります!」と言って去っていった。
その後も司書として貸出の手続きをしていると、またいつもの奴らがやってくる。松平花衣と双葉佳名恵だ。こいつは一体どこまで付いて来るんだろうか。
「なんでお前らが来るんだ?」
「私はただ本を借りに来ただけですよ。そしてあわよくば先生と一緒に読書ができたらいいなぁと考えているぐらいです」
「あたしもただ本を借りて、センセイと二人きりの放課後で一緒に読もうと思っているだけだよ」
まぁどんな理由であっても本を借りに来てくれる生徒を蔑ろにはできない。一応、俺も司書なので。
「そうか。じゃあ好きにしろ」
カウンターで貸出の手続きを進めていると松平と双葉がそれぞれ借りたい本を持って、カウンターのところまで来た。
だが、しばらく経っても本をこちらに差し出してくれる感じが全くしない。
「借りるのであれば本を渡してくれないと手続きができないぞ」
「本を渡す前に手を差し出してください」
「なぜ?」
「いいですから、手を差し出してください」
松平はそれを言うだけで、動こうとしない。彼女の後ろには借りようとしている子たちが列を作り始めていた。このまま押し問答を続けても無駄なので、松平に速やかに動いてもらう必要がある。
だとしたら、ここは松平に従うしかない。
「手を差し出せばいいんだな?」
「はい、お願いします」
俺は右手を松平に向かって差し出した。だが、俺はカウンターの席に座っていて、松平は立っているので本を渡せと言っているように見えるかもしれない。
「ありがとうございます」
すると松平は想像できない行動にで始めた。松平は顔を俺の右手に近付けて、優しく口づけをしてきた。俺もさすがに予想しない行動だったために何も動けなかった。
そして口づけを止めると、松平はいつもの笑顔で借りる本を渡してきた。
「はい、手続きをお願いします」
「…あ、ああ…」
俺は本を受け取ると手続きをした。なんで松平があんな行動をしたのかは分からないが、松平の行動が読めたことなどほとんどない。
本を返すと、笑顔で松平は「ありがとうございます、では失礼します」と言って去っていった。
誰もが松平の行動に何も言えなくなっている中で一人の生徒が声を発する。
「花衣、ずるい~」
視線をそちらに向けたら、双葉が頬を膨らませて松平の後ろ姿を見ていた。
「センセイ」
「な、なんだ?」
「左手をこっちに差し出して」
「…お前…」
「いいからお願い!花衣に先を越されるなんて絶対に嫌だもん!」
「いいから…って」
「お願い、早く!!」
俺は双葉に押される形で左手を差し出すと、双葉も松平と同じように左手に口づけをしてくる。前世だったら、生徒にこんなことされたら通報されてもおかしくない。この世界でそんなことが起こる事もないだろうが。
双葉は口づけを止めると、笑顔だった。
「センセイの手っていいね」
「……」
「はい、これ借りるから手続きお願いします~」
本当にこいつらは…と思いつつも、僕は仕事を全うするために本を受け取り、手続きをした。
手続きが終えると松平と同じように笑顔で去っていった。
後ろの生徒たちにもこの現場を見られたことに対する、気まずさと恥ずかしさがあるものの、司書としてしっかりと働かないといけない。
気が滅入る思いをしながらも、手続きを進めた。