アゼルバイジャン共和国、首都バクー。
カスピ海から吹き込む風が、乾いた大地を撫でていく。
街の向こうには石油関連施設が広がり、そのさらに遠方では、新ソ連軍が国境付近に兵力を集結させていた。
目的は明白だった。
アゼルバイジャンの石油資源。
世界各地で紛争が激化する中、資源の確保は国家にとって死活問題となっている。
新ソ連軍による侵攻は、もはや時間の問題だった。
そんな緊迫した情勢の中、一人の少女が携帯端末を手にしていた。
ココ・ヘクマティアル。
世界各地を飛び回り、武器を売り歩いてきた若き武器商人。
彼女の周囲には、長年行動を共にしてきた私兵たちが揃っていた。
レーム、バルメ、ルツ、マオ、ワイリ、トージョ、ウゴ。
そして、二年の歳月を経て戻ってきた少年、ヨナ。
かつてヨナは、ココの計画を知って彼女のもとを離れた。
しかし今、再びその隣に立っている。
ココは端末へ視線を落とした。
長い年月をかけて準備してきた計画。
すべては、この瞬間のためだった。
ヨルムンガンド。
HCLIの衛星網と量子コンピュータによって、世界の情報と物流を掌握する巨大なシステム。
人間と軍事を切り離し、戦争という行為そのものを変えるための仕組み。
ココは迷うことなく、最後の操作を行った。
そして――。
世界の空が、閉ざされた。
◇
高度一万一千メートル。
大西洋上空を飛行する大型旅客機。
客室では乗客たちが思い思いの時間を過ごしていた。
映画を観る者。
本を読む者。
眠りにつく者。
隣の席の家族と談笑する者。
誰もが数時間後には目的地へ到着すると信じていた。
操縦席でも異常は報告されていない。
「巡航状態、異常なし」
「ああ。予定より少し早く着けそうだな」
機長と副操縦士が短い会話を交わす。
その直後だった。
電子音が鳴った。
「……ん?」
副操縦士が計器を確認する。
航法表示に異常が生じていた。
「機長、航法システムがおかしいです」
「何?」
「現在位置が……いや、これは……」
表示された数値が不規則に変化する。
機長が管制へ確認を取ろうとした瞬間、別の警報が鳴り響いた。
機体が突然、右へ傾いた。
「おい、何だ!?」
「操縦入力を受け付けません!」
「自動操縦を切れ!」
「やっています!」
副操縦士が解除操作を行う。
しかし、機体は反応しない。
機長も操縦桿を握りしめるが、姿勢は戻らなかった。
まるで誰かが、別の場所から機体を操っているかのようだった。
「馬鹿な……!」
高度が急速に低下する。
警報音が重なり、客室から悲鳴が上がった。
『メーデー! メーデー! こちら――』
通信は最後まで続かなかった。
機体は雲の中へ消え、そのまま海面へと墜落した。
だが、それは一機だけの異常ではなかった。
◇
北米、ヨーロッパ、中東、アジア、アフリカ、南米。
世界各地で航空機が次々と制御を失っていた。
旅客機も、貨物機も、軍用機も例外ではない。
操縦士たちは必死に機体を立て直そうとした。
しかし、操縦系統は外部から掌握され、正常な操作を受け付けない。
航空管制センターには、緊急通信が殺到する。
『こちら管制、応答してください!』
『操縦不能! 繰り返す、操縦不能!』
『高度を維持できません!』
『メーデー! メーデー!』
管制官たちは必死に呼びかけた。
しかし、レーダーから航空機を示す光点が次々と消えていく。
ある空港では、着陸を控えた旅客機が突然進路を外れた。
別の空港では、遠方に墜落する機体を職員たちが目撃した。
海上では救難信号が相次いで途絶し、世界各地で墜落事故が同時多発的に発生していた。
それらを引き起こしているものは、単なるシステム障害ではない。
ヨルムンガンド。
世界の情報網に介入するその力は、飛行中の航空機から操縦の自由を奪っていた。
発動時、空中にいた人間はおよそ七十万人。
その命が、一斉に奪われた。
国籍も、年齢も、職業も関係ない。
兵士も、民間人も。
戦争をしていた人間も、戦争とは無縁だった人間も。
すべてが等しく、空から消えた。
そして地上に残された人々は、何が起きたのかさえ理解できずにいた。
◇
バクー。
ココは携帯端末を下ろした。
画面には、ヨルムンガンドの稼働を示す情報が表示されている。
「ふふっ……ついにやったぞ」
レームが煙草を咥えたまま、ココを見る。
「本当にやっちまったな、ココ」
「ああ。やっとだよ、レーム」
「世界中が大騒ぎだぜ」
「あははっ! そりゃそうでしょ!」
ココは笑った。
その横で、ルツが空を見上げる。
「……なあ、お嬢。今飛んでる連中は、本当に全滅するのか?」
「そうだよ。予定通りならね」
「……マジかよ」
「今さら何言ってんの、ルツ。二年前に説明したでしょ?」
「そりゃ聞いたけどよ……」
ルツは言葉を濁した。
数字として聞くのと、それが現実に起きるのとでは違う。
長年戦場で生きてきた彼らでさえ、今回の出来事が持つ意味を簡単には受け止められなかった。
「……話では聞いていたけど、実際に起きると違うものだな」
ワイリが静かに口を開いた。
普段と変わらない穏やかな声だったが、その表情に笑みはない。
「まあ、そういうことだ」
レームが短く答えた。
バルメはココの傍らで、周囲への警戒を続けている。
世界が変わったとしても、彼女の最優先事項は変わらない。
ココを守ること。
それだけだった。
「ココ」
ヨナが口を開いた。
「ん?」
「……始まったんだな」
「うん。始まったよ」
ヨナはココの手にある端末を見つめた。
たった一度の操作。
それだけで、世界中の空が閉ざされた。
そして、その瞬間に何が起きるのか、ヨナは知っていた。
二年前。
彼はヨルムンガンド計画の全貌を聞いた。
世界から戦争をなくす。
そのために人間と軍事を切り離す。
だが、計画を実行すれば、空にいるおよそ七十万人が犠牲になる。
ヨナは、その考えを受け入れられなかった。
だからココに銃を向け、彼女のもとを去った。
それから二年。
戦争は終わるどころか、さらに激しさを増していた。
ヨナは考え続けた。
戦争を憎み、武器を憎み、それでも銃を持たなければ生きられなかった自分自身のことを。
そして、ココのことを。
答えが見つかったわけではない。
七十万人の犠牲を正しいと認めたわけでもない。
それでも彼は、ココと共に新しい世界を見ることを選んだ。
「……本当に死んだんだな」
ヨナが呟く。
ココは彼を見た。
「そうだね」
短い返事だった。
言い訳も、慰めもない。
ココ自身、この結果を知らなかったわけではない。
それでも計画を実行したのだ。
「ヨナ」
「……何だ?」
「後悔してる?」
ヨナはすぐには答えなかった。
遠くに広がる空を見上げる。
「……分からない」
「そっか」
「でも、ここにいるって決めた」
ココは小さく微笑んだ。
「うん。それでいいよ」
そして、彼女も空を見上げた。
そこには何も変わらない青空が広がっている。
だが、その空を自由に飛ぶことは、もう誰にもできなかった。
◇
新ソ連軍、前線司令部。
「航空部隊との連絡はどうなっている!」
司令官の怒声が響いた。
司令部では複数の将校が、通信機と端末を相手に悪戦苦闘していた。
「依然として混乱しています! 複数の航空機が消息を絶ちました!」
「残存機は!?」
「離陸を停止しています!」
「何だと!?」
司令官は机を叩いた。
予定では、航空戦力による支援のもと、地上部隊がアゼルバイジャン方面へ進出するはずだった。
だが、その計画が突然崩れた。
航空部隊は機能を失い、衛星測位情報にも異常が発生している。
複数の情報システムが信用できなくなり、部隊間の連絡にも混乱が広がっていた。
「敵の電子攻撃か?」
「不明です!」
「不明だと!?」
「我が軍だけではありません! 世界各地で同様の異常が発生しているとの情報があります!」
司令官は言葉を失った。
「……世界中?」
「はい!」
そこへ、新たな報告が届く。
「上級司令部より緊急命令! 航空作戦の全面停止、および地上部隊の進撃一時中止です!」
「進撃中止!?」
「状況が判明するまで、全部隊は現位置を維持せよとのことです!」
司令官は唇を噛みしめた。
兵力は揃っている。
戦車も、装甲車も、砲兵も健在だ。
地上部隊による進撃自体は不可能ではない。
だが、航空支援を失い、広域の情報網まで信用できなくなった状況で、当初の作戦を続けることは危険すぎた。
しかも、何が起きているのかすら分からない。
「……全部隊、停止」
司令官は絞り出すように命じた。
「状況が判明するまで動くな」
命令が伝達される。
国境付近に集結していた戦車部隊が、次々と進撃準備を中断していった。
砲兵隊も射撃命令を待つ。
兵士たちは困惑しながら空を見上げた。
青い空。
何の変哲もない空。
だが、そこには一機の航空機も見当たらなかった。
新ソ連軍の侵攻作戦は、敵軍との本格的な交戦を迎える前に停止した。
誰がそれを実現したのか。
その答えを知る者は、司令部には一人もいなかった。
◇
アメリカ合衆国。
中央情報局――CIA。
ジョージ・ブラックは、立て続けに届く報告書を眺めていた。
通称、ブックマン。
オペレーション・アンダーシャフトを主導してきた男である。
その計画は、ココ・ヘクマティアルという武器商人を取り込み、彼女の持つ情報網や物流網を利用することを目的としていた。
だが、状況は大きく変わっていた。
ナイト・ナインの一件。
そして、その後に目撃した常識外れの情報操作能力。
ブックマンはすでに、ココが通常の武器商人ではないことを理解していた。
それでも、実際に世界の空が閉ざされる光景は、想像を超えていた。
「……まったく」
ブックマンは報告書を机に置いた。
世界各地で発生した航空機墜落。
各国軍の航空作戦停止。
航空管制システムの異常。
そして、原因不明の情報網への介入。
個々の報告はばらばらだった。
しかし、ブックマンの頭の中では、それらが一つの答えへとつながっていた。
ココ・ヘクマティアル。
あの女が動いたのだ。
そのとき、通信端末に着信が入った。
「……何だ?」
『ブックマン! 今、時間あるか!?』
「スケアクロウか」
『ああ! まったく、とんでもねえことになりやがった!』
「そうだな」
『そうだな、じゃねえだろ! 世界中で飛行機が落ちてるんだぞ!』
「知っている」
『……チッ。相変わらず落ち着いてやがる』
スケアクロウは苛立ったように舌打ちした。
『で、ちょっと気になることがあってな』
「何だ?」
『ココ・ヘクマティアルだ』
ブックマンは黙った。
『覚えてるよな? ナイト・ナインの件』
「忘れるはずがない」
『あのときも妙なことが起きた。戦術情報が書き換えられてるのに、侵入の痕跡が見つからねえ』
「……」
『今回も、同じことが起きてるんじゃねえのか?』
「規模が違いすぎるぞ」
『分かってる! だが、他に説明がつくか!?』
ブックマンは答えなかった。
『量子コンピュータ……』
スケアクロウが低く呟いた。
『以前から気になってたんだが、あの女が関わってるとしたら、いろいろ辻褄が合うんじゃねえか?』
「証拠は?」
『ねえよ!』
即答だった。
『だから調べてんだろうが!』
「なら、軽率な結論は出すな」
『……へえ』
スケアクロウの声色が変わった。
『ずいぶん慎重じゃねえか』
「当然だろう」
『あんた、何か知ってんじゃねえのか?』
「何の話だ?」
『とぼけんなよ。ココの情報が上から降りてこなくなった件だって、まだ納得してねえんだ』
ブックマンは口を閉じた。
スケアクロウは続ける。
『俺はあの女を追うぜ。何を隠してやがるのか、必ず突き止めてやる』
「好きにするといい」
『言われなくてもそうするさ』
そこで通信は切れた。
ブックマンは椅子の背にもたれた。
スケアクロウも、ココの関与を疑っている。
それ自体は驚くことではない。
彼は以前からココの資金や事業を追い、ナイト・ナインの一件にも関心を持っていた。
むしろ、今回の事件で疑わない方が不自然だった。
問題は、その先である。
仮に真相を突き止めたとして、何ができる。
ココを拘束するのか。
ヨルムンガンドを停止させるのか。
そもそも、現在のアメリカにそれが可能なのか。
ブックマンには、簡単に答えを出せなかった。
かつて彼女を取り込むために始めたアンダーシャフト。
その対象は、すでに自分たちの手が届く範囲を超えていた。
「……ココ・ヘクマティアル」
ブックマンは小さく呟いた。
「君は、これからどうするつもりだ?」
窓の外には、いつもと変わらない空が広がっていた。
◇
バクー郊外。
ココ部隊を乗せた車両が、街を離れて走っていた。
運転席ではウゴがハンドルを握り、助手席のレームが周囲の状況を確認している。
車内ではルツが携帯端末を眺めていた。
「……おいおい、ニュースがとんでもないことになってるぞ」
「そりゃそうだろうね」
トージョが答えた。
「世界中で航空機が墜落してるんだから」
「分かってるよ。でも、こうして実際に見ると……」
ルツは言葉を止めた。
画面には墜落現場の映像が映し出されている。
消防車。
救助隊。
泣き崩れる人々。
そして、行方不明となった乗客の情報。
犠牲者数は、まだ確定していない。
世界中の航空機が一斉に墜落したのだ。
被害の全容を把握するだけでも、相当な時間が必要になるだろう。
「……七十万人か」
ルツが呟いた。
「最初から分かっていたことだ」
レームが前を向いたまま答える。
「だが、実際に見ると違うもんだろ」
「……ああ」
車内が静かになった。
その沈黙を破ったのは、ココだった。
「みんな、そんな顔しないでよ」
普段と変わらない、明るい声だった。
「……ココ」
ヨナが彼女を見る。
「何?」
「これから、どうするんだ?」
「どうするって?」
「戦争は、まだ終わってない」
「うん。そうだね」
ココはあっさり頷いた。
「空を封鎖しただけで、全部の戦争が終わるなんて思ってないよ」
「じゃあ……」
「でもね、ヨナ」
ココは窓の外へ視線を向けた。
「昨日までと同じようには、もう戦えない」
その言葉に、ヨナは黙った。
「戦闘機も爆撃機も、自由には飛べない。ミサイルも、軍隊を支える情報網も、今まで通りには使えない」
ココは微笑む。
「戦争をするために積み上げてきたものが、一日で役に立たなくなっちゃったんだよ?」
「……それでも、銃は残ってる」
「そう。戦車も大砲もね」
ココは頷いた。
「だから、戦いたければ戦えばいい」
あまりにも軽い言い方だった。
ヨナが眉を寄せる。
「……止めないのか?」
「止めないよ」
「どうして?」
「私が一人残らず止めて回るわけにもいかないでしょ?」
ココは肩をすくめた。
「それに、人間がどうするかは、人間が決めることだからね」
ヨナは考え込んだ。
戦うための道具を奪われた人間。
それでも武器を握り続ける人間。
彼らが、これから何を選ぶのか。
「……ココは、戦争が終わると思ってるのか?」
「さあね!」
ココは楽しそうに笑った。
「未来のことなんて、私にも分からないよ」
「……無責任だな」
「あははっ! そうかもね!」
レームが小さく笑った。
ココは構わず続ける。
「でも、人間って恥をかくのが嫌いじゃない?」
「……恥?」
「うん」
ココは窓の外に広がる空を指差した。
「戦争ばっかりしてたら、とうとう空まで使えなくなっちゃった」
その声は明るかった。
「それでもまだ、戦争を続ける?」
ヨナは答えなかった。
「私はね、ヨナ」
ココは微笑んだ。
「人間が、そこまで馬鹿じゃないって信じてみたいんだよ」
ヨナは彼女を見つめた。
二年前と同じだった。
ココは自分の考えを曲げない。
他人から理解されることも求めない。
笑顔のまま、とてつもなく冷酷な決断を下す。
それでも、自分が望む未来を本気で信じている。
「……そうか」
ヨナは短く答えた。
そして、再び窓の外を見る。
青い空。
そこには、もう飛行機の姿はない。
世界中で何十万人もの人々が命を落とした。
その事実は消えない。
けれど、これから先、戦争で命を落とす人間が減るかもしれない。
それが正しかったのかどうか。
答えを出すには、まだ早すぎた。
◇
同じ頃。
世界各地の軍司令部では、航空作戦の中止が相次いでいた。
空軍基地では離陸命令が撤回され、海軍艦艇でも航空運用が停止されている。
地上部隊も、補給や情報網の混乱によって進撃を見合わせ始めていた。
だが、すべての戦闘が終わったわけではない。
ある国境では、依然として砲撃が続いていた。
航空支援を失っても、戦車は走る。
銃は撃てる。
兵士たちの手には、まだ武器が残っていた。
「攻撃を続行する!」
前線司令官が命じた。
「空が使えないなら、地上で勝てばいい!」
命令を受けた兵士たちが前進を始める。
だが、その中の一人が空を見上げた。
航空機の姿はない。
戦闘機も、爆撃機も。
ただ、青い空が広がっている。
少し前まで、その空には世界中の人々がいた。
仕事へ向かう者。
家族のもとへ帰る者。
旅行を楽しむ者。
そして、戦場へ向かう者。
今、そのすべてが消えた。
「……なあ」
兵士が隣の仲間へ声をかける。
「何だ?」
「俺たち、いつまで戦うんだ?」
「……さあな」
仲間は短く答えた。
「命令がある限りだろ」
「……そうか」
兵士は再び前を向いた。
遠くでは砲撃の音が響いている。
戦争は、まだ終わっていない。
だが、昨日まで当然だと思っていたことに、初めて疑問を抱いた人間がいた。
◇
その日の夜。
世界各地の報道機関は、前例のない航空機墜落を一斉に報じていた。
事故原因は不明。
各国の航空当局は緊急調査を開始。
政府は航空機の運航停止を発表し、軍も大規模な作戦の見直しを余儀なくされていた。
インターネットには無数の情報が流れている。
未知の電子兵器。
大規模なサイバー攻撃。
国家間の秘密作戦。
あるいは、世界規模の技術的な障害。
さまざまな憶測が飛び交っていた。
しかし、真相を知る者はほとんどいない。
世界中の航空機を墜落させたのが、たった一人の武器商人による計画だったなどと、誰が想像できるだろうか。
そして、人類はまだ知らない。
今回の出来事が、単なる航空機墜落事件では終わらないことを。
ヨルムンガンドによる空の封鎖は、これからも続く。
軍用航空機は空を飛べず、各国の軍隊は従来のように戦争を遂行することが困難になっていく。
地上には、まだ無数の武器が残っている。
人間の憎しみも、欲望も消えていない。
それでも、世界は昨日までとは違っていた。
そして、その変化を引き起こした少女は、仲間たちと共に次の目的地へ向かっている。
ココ・ヘクマティアル。
世界中へ武器を売り歩いてきた少女。
彼女は今、その武器が使われる世界そのものを変えてしまった。
およそ七十万人の命と引き換えに。
その行為が、いつか人類を救ったと評価されるのか。
あるいは、史上最悪の虐殺として断罪されるのか。
答えを知る者はいない。
ただ一つ、確かなことがある。
人類は、もう昨日までと同じようには空を飛べない。
そして、これから戦争を続ける人間たちは、その事実と向き合わなければならなかった。
世界蛇は、ついに空を呑み込んだ。
新しい時代が始まろうとしていた。