人生周回中ネフェルピトーの軌道修正が間に合わないーー世界がボクを殺しに来る件ーー 作:周回中NFLPT
コルトは血を吐くような悲鳴をあげ、女王様の元へと駆け寄った。
王が無理やり生まれ出たことで、女王様の腹は引き裂かれ致命傷を負っていたのだ。
「女王様! 女王様ッ!!」
泣き叫びながら、必死に溢れ出る血を止めようとするコルト。
そんな彼らの姿を、王の後に続いて部屋を出ようとしていたカデシュブムが、振り返り言った。
「ウフフ…コルト、そんなに泣き喚いて、みっともないわねぇ」
ブムは妖艶に、そして冷徹に言い放った。
「王はもうお生まれになったわ。【役目を終えたアレは、もういらないでしょう?】」
――ドクン、とボクの心臓が大きく跳ねた。
(…あ、ああ…そうか…)
頭を殴られたような衝撃とともに、視界が急速にクリアになっていく。
一周目のボクも、全く同じことを言った。
言っていた。
王が生まれたのだから、女王なんてどうでもいい。
それは産まれた王のしもべたる、護衛軍としての正論であり、本能だった。
だけど、今のボクには、吐き気を催すほどの邪悪な言葉にしか聞こえなかった。
(
これまで尽くしてきたペギーたちを虫ケラのように殺し、生みの親をゴミのように切り捨てる。
そんなものが…至高の存在であってたまるか。
そしてボクの知らない護衛軍、カデシュブム。
彼女の吐いた言葉は、ボクがもう二度と『あちら側』に戻れないことを決定づける、トドメの一撃だった。
「…死なせるかニャ…!」
気づけば、ボクは女王様のお側に飛び込んでいた。
「ピ、ピトー…!? お前、何を――」
「黙ってボクに任せるニャ、コルト! 女王様を死なせちゃダメだ!」
溢れ出る涙を拭いもせず、ボクは自身の、全てのオーラを絞り出した。
すると…ボクの背後に、巨大な看護師念人形が姿を現した。
【
護衛軍ネフェルピトーの最大の特徴と言っても良い、対象を治療する念能力だったもの。
(くっ…ああッ! やっぱりこの身体だと、しん、どいにゃあ!)
ドクターブライスから伸びた無数の触腕と医療器具が、女王様の裂けた肉体を、精緻に縫合していく。
ボクの全オーラが女王様の生命を繋ぎ止めるために、注ぎ込まれているのだ。
ーー「あら?」
部屋を出ようとしていたブムが、足を止めた。
背後から感じた、師団長クラスの枠を逸脱した異質な念オーラ。
ゆっくりと彼女が振り返る。
その先の光景に、トパーズ色の瞳を妖しく細めた。
(フフ、なるほど…やっぱりピトー、貴女の念なのね…なんて、素敵…)
格下の猫耳師団長が、まさかこれほどの能力を隠し持っていたとは。
「フフ…ウフフフフ…!」
ブムの口の端が、不気味に、そして酷く愉悦に満ちた形で釣り上がる。
その表情は、面白いオモチャを見つけた子供のようでもあり、獲物を品定めする肉食獣のようでもあった。
ブムのねっとりゲロキモニチャニチャ視線がピトーの背中に突き刺さる中、彼女はただひたすらに、女王様の治療に専念し続けていた。
ーー王はやがてプフとユピー、そしてブムを従え旅立って行った。
行き先は多分、東ゴルトーだろう。
王の軍勢が去った後の巣は、魔法が解けたかのように急速に冷え切っていった。
ボクのドクターブライスの治療により、女王様の命を何とか繋ぎ止めることができた。
けれど、今のボクは師団長クラス。
オーラも出力も決定的に足りず、女王様はいつ意識を取り戻すかも分からない昏睡状態となってしまった。
それを境に、師団長らは責務を放棄、蜘蛛の子を散らすように巣を去っていった。
ほぼ誰もいなくなった巣の片隅で、ボクはぐったりと倒れ込んでいた。
隣には、女王様に付き添うコルト。
「…ねえ、コルト」
ボクは滝のような汗を拭うこともなく、静かに声を絞り出した。
「…何だ?」
「ボクたちって、一体何なのかニャ…?」
その問いに、答えられる筈もないよね。
女王様のために必死に人間を狩り、巣を大きくしてきた。
一時的にとはいえ、それが正しいことだと信じていた。
なのに産まれてきた王は、仲間を平気で惨殺し、女王様さえ捨てていった。
「…分からない」
コルトが、辛うじて吐き出した。
「ただ…彼らが、虫けらの様に殺されていい訳がない」
これにはただただ同感だった。
コルトは、眠り続ける女王様の手を握りしめ、静かに、けれど固い決意を口にした。
「ピトー、俺は人間を頼る。人間の力を借りてでも、お前が繋いでくれた女王様の命を救う。そのためなら、俺はどんな汚名だって背負うつもりだ」
コルトは自分の心に従い、次の道を見つけようとしている。
ボクは、自分の胸に手を当てた。
内側でこれまでの長い、長い記憶が複雑に渦巻いている。
正直に言えば、こんな想いを抱いた今でも、ボクはメルエム様の為に生きたいと思っている。
プフやユピーに対する、護衛軍としての仲間意識や愛着だって、完全に捨て去ることなんてできやしない。
彼らはただ、キメラアントとしての本能に従い生きているだけなのだから。
だけど…
(カデシュブム…あいつだけは、絶対に許さないニャ)
脳裏に、ゲロキモ色ボケニチャリ熊の顔が浮かぶ。
「分かったニャ、コルト」
ボクは何とか立ち上がると、鋭く研ぎ澄まされたオーラを全身から立ち昇らせた。
以前と比べてもあまりに小さな、今にも消えてしまいそうな、ちっぽけなオーラだけど。
「…キミなら、きっと女王様を助けられる」
「お前はどうするんだ?」
「ボクはボクのやり方で、あいつらを追うよ。護衛軍、カデシュブム。あいつの首はボクの手で、絶対にへし折ってやるニャ!」
「…ふっ、相変わらず不敬だな。だがお前らしくていい。死ぬなよ?」
「うん。勿論だニャ! コルトも頑張って」
かつての王直属護衛軍ネフェルピトーとしてのプライド。そして、四週目でコルトたちと過ごして手に入れた、師団長としての意地。
二つの想いを胸に、ピトーは不敵な笑みを浮かべ、荒野へと力強く歩み出すのだった。
一周目(原作)のピトーのセリフ
「王が生まれちゃったらさ、彼女は護衛軍に関係ないんだ。だから女王はもう…要らない」