人生周回中ネフェルピトーの軌道修正が間に合わないーー世界がボクを殺しに来る件ーー 作:周回中NFLPT
ーーこうして、ボク達キメラアント側は「ハンターの死者ゼロ、完全無力化」を達成したのである。
「ふぅ…終わりましたわピトー様」
返り血一つ浴びていないメルエットが、トコトコとボクのもとへ歩み寄ってくる。
さすが中身はメルエム様だニャ。
ボクが
これは王として、しっかり褒めてあげないとニャ。
「凄すぎるニャ、メルエット。 さすが護衛軍の最高戦力ニャ!」
「ふ、フン、これくらい護衛軍として当然よ。貴方がどうしてもって言うなら、お世継ぎの件も前向きに考えてあげなくもないんだからね」
「お黙りなさいメルエットォォォ! 王のご命令を完璧にこなしてピトー様を油断させた上での、こんな衆目ある中で、お世継ぎねだり、はしたなき事この上なしィィ!! 取ってつけた様な適当なツンデレなんてムカつくだけだと分からないのかしら色ボケ護衛軍がァァ!!」
「お前が言うな。だが俺もやる事やって、無事に帰って来たんだ。王様、宜しければ私にも、寵愛を頂けませんか?」
背後でプ子が怒り狂ってバイオリンを叩き折り、ユピ子が巨大な体を縮め、迫ってくる。
(…なんか、ボクを取り巻く環境がどんどん悪化してる気がするニャ…)
それでも、ハンターたちを犠牲ゼロで無力化し、
これで一件落着、そうボクが確信した時だった。
「ッ!? 全員、ボクの後ろに退避するニャァ!!」
ボクのNGL全土を覆うクソデカ円に、クソヤバい反応があった。
反応場所は上空数千メートル。
人間が蟻の無力化を確実にするために、アレを放ったのだ。
その名は…
【
ミニチュアローズをアホ程搭載したミサイルで、炸裂すれば周囲にばら撒き、薔薇の花を狂い咲きさせる兵器。
二周目の記憶がフラッシュバックする。
あの、全てを焼き尽くす最悪の爆炎。毒。絶望。ゴリエム。
「ピトー様!? 一体どうなされたのです!?」
「チッ、往生際の悪い人間どもめ!」
「どんな相手であろうと、妾が…」
プ子とユピ子、メルエットが即座に戦闘態勢をとるが、ボクはそれを手で制した。
「あれはダメニャ! 炸裂すれば巣どころかこの国ごと消滅する、人間の悪意の結晶…間違いないニャ!」
何度もボクの身を焼いた兵器だ。
もはや懐かしささえある。
「なんですって!?」
「馬鹿な…まだここには、人間のハンター共も居るんだぞ!!」
メルエットでさえもが顔色を変える。
ミサイル到達まで、あと3秒ほど。
迎撃したところで、爆発させれば結局全員が熱と毒で全滅する。
(こうなったら…ボクがやるしかないニャッ!!)
ボクは両足の全筋肉を限界突破で引き絞る。
更に背中の翼を、全開で広げる。
王となったボクの力、そして三周分の執念を、今ここに全て解き放つニャ!
ーードンッッッ!!!!
置き去りにされたバチクソ爆音の後、地面は直径数百メートルにわたって陥没した。
跳躍飛行などという生ぬるいものではない。
大気を割るほどの、音速超えのワープである。
ーー限界を超えて舞え、
一瞬にして上空でミサイルと相対したボクは、黒子舞想を発動。
身体能力を極限まで引き上げるや、ミサイルに殺到した。
ボクの爪が、ミサイルをガッチリとホールド。
そしてボク自身はミサイルの推進力をも上回り、天空目掛けどんどん加速してゆく。
「ンニャアアアアア!! キメラアント王をを…舐めるニャアァァーーー!!」
成層圏までかっ飛んだボクは、そこから体をひねり、ミサイルを更に上へと思いっきりぶん投げた。
無音。
無音。
投げ飛ばされたミサイルは大気圏を突き破り、宇宙空間へと飛び出した様だ。
数秒後、空の遥か彼方で、小さな光の薔薇が静かに狂い咲いた。
この距離だ。
爆炎も毒も宮殿には一切届かないだろう。
「…ハァ…ハァ…ふぅ、これで三度目の正直ニャ…」
すべてのパワーを使い果たしたボクは、重力に従って真っ逆さまに落ちていき、そのまま地面に突き刺さった。
こんな勢いで落ちても、ボクの身体はさほどダメージを負っていない。それでも、もう…
指一本動かない。完全にエネルギー切れ…力尽きたニャ。
シーン…と静まり返る蟻の居城。
ボロボロのハンターたちも、ネテロも、あまりの事態に開いた口が塞がらない様子だ。
空と落下したボクを交互に見つめている。
そんな中、静寂を破ったのは、護衛軍たちの凄まじい絶叫だった。
「ネ、ネフェルピトー様ァァッ!!!」
プ子がバイオリンを放り出し、涙とうるっさい悲鳴をバシャバシャ撒き散らしながらボクの元へ滑り込んできた。
「なんという…なんという御力! ヤバ過ぎる人間の悪意の塊を、まさかあの様な方法で…!! ああ、これぞ我が王! わたくしが命を捧げるに値する、唯一無二の絶対神ッ!! あああああああああああああお世継ぎ産みますぅぅぅ!!」
「プ子、どけェェ! 王様、生きてるか!?」
ユピ子がプ子を蹴り飛ばし、大粒の涙をポロポロと流しながらボクの体を優しく抱き起こした。
不器用な彼女の体は感動のあまり、弾けるオーラでバチクソ熱くなっている。
でも、アツいから離すニャ、と言える気力もない。
「やはり貴方様が俺たちの王だ…! 俺は一生貴方様についていく! だから世継ぎをバカスカ仕込んでくれ王ぉぉぉ!」
そして、トコトコと歩み寄ってくるメルエット。
彼女は抱き抱えられるボクの前に立つと、フイッとそっぽを向きながら、ボクの手をぎゅっと握りしめてきた。
「…ピトー様、我らをお救い下さり本当にありがとうございました…貴方が、弩級に頼もしい王なのだから、妾は…その…さっきのお世継ぎの話、今夜からでも全然構わないわ!」
ギリギリと万力みたいに締め付けないで!
クッソ痛いニャ!
メルエット、握力がめちゃくちゃ強いニャ。
そして、一難去ってまた一難、とでも言うべきか。
ボクの本当の戦いは、これから本番を迎えるのだ。
ーー人間らの襲撃から数週間経った。
キメラアント居城は、かつてないほどの平和が訪れていた。
人間側とは完全なる不可侵条約が結ばれ、ボクたちの巣を脅かす外敵は、文字通りこの世界から一匹もいなくなったのだ。
そう、外敵は、いなくなった。
外敵は!
「さぁ、ネフェルピトー様! 本日こそ、不肖シャウアプ子に御寵愛をををを!!」
「出しゃばるなプ子! 今日は俺が王に朝まで健全なマッサージを施す約束だ! ほら王様、遠慮せずに俺の胸に飛び込んできてください!!」
「ふん…二人ともピトー様の前でみっともないわね。妾はべつに興味は無いのだけど、貴方がどうしてもって言うなら、全力で身を委ねるわ」
シャウアプ子。
モントゥトゥユピ子。
メルエット。
ボクを取り囲むのは、前回、前々回の人生では考えられなかったほどの、この世の楽園そのもの達だ。
みんな優秀で、可愛くて、本当に最高に頼りになるボクの護衛軍…そして大切な仲間だニャ。
ボクは今、間違いなく人生で一番幸せなのだろう。
……だけどね。
(…多分、身体が保たないのニャ)
人間の悪意を宇宙までぶん投げた時でも、ボクの肉体はびくともしなかったというのに。
一度堰を切ってしまえば、濁流はボクを呑み込むだろう。
これから毎晩のように繰り返されるであろう行為は、ボクのあらゆるモノを削り取ることになる。
これは予感じゃない。純然たる事実。
「さぁ、ネフェルピトー様! 覚悟を決めなさいまし!」
「王様、いくぞ!」
「…いいわよ、ピトー様」
……
…………
何日か後、ボクは不思議な体験をした。
俯瞰したボクの干からびかけた身体から、光がしゅるしゅると抜け出ていくのが見えるのだ。
傍らには、頼りになる者達の、ツヤッツヤで綺麗な寝顔。
ああ、もしかしてボクは…
もしも、もしも、ボクに4周目があるのなら。
いっそどこかの、誰も知らない所でのんびりと過ごしたいかにゃあ…